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謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー [読書・ミステリ]


謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

本書の刊行は2017年9月。
調べてみたら “新本格ブーム” を巻き起こした
綾辻行人の「十角館の殺人」の出版が1987年9月。
たしかに副題通り「新本格30周年記念」なんだね。

大学入学あたりから次第に読書の嗜好が変わって
SF・ファンタジー、そしてサスペンスばかり読むようになってた私を
再び本格ミステリの世界へ引き戻したのが「十角館の殺人」だった。

以来30年。今でも、私の読書の半分はミステリだからね。
つくづく、綾辻行人は偉大である。


「陽奇館(仮)の密室」東川篤哉
奇術界の大御所・花巻天界が殺された。
場所は山奥にあって建設途中だった「陽奇館」。
たまたまやってきた探偵・四畳半一馬(よじょうはん・かずま)と
その助手間広大(はざま・こうだい)。
4人の容疑者を前に、密室殺人の謎解きを始める四畳半探偵だが・・・
いやあこのトリックは面白い。
殺人と○○○○を同時にやってしまうという発想がスゴい。
普通のミステリでこれをやったらきっと噴飯ものなんだろうけど
作者お得意のユーモアたっぷりの世界なら「あり」かなって思わせる。

「銀とクスノキ~青髭館殺人事件~」一肇
女子高生・楠乃季(くすのき・のき)は、
同級生・七雲恋(ななくも・れん)を殺してしまう。
場所は通称 "青髭館" と呼ばれる廃屋。
大正12年に43人もの人間が忽然と消えたと伝えられる曰く付きの建物だ。
翌日、死体処理のために青髭館を訪れた楠だが、なぜか死体は消えていて、さらに罪善葦告(ざいぜん・よしつぐ)と名乗る謎の少年が現れて・・・
この作者の作品を初めて読んだ。
ミステリというよりはホラー、心理サスペンスに近いか。
まあ分類はどうでもいいんだけど、
ただこのオチは今ひとつ好きにはなれないかなあ。

「文化会館の殺人-Dのディスパリシオン」古野まほろ
井の頭文化会館で行われた東京都高校アンサンブルコンテスト。
吉祥寺南女子高校のホルン四重奏曲の冒頭、
第一奏者の御殿山絵未(ごてんやま・えみ)が
致命的なミスをしてしまう。そのショックからか
演奏終了直後に絵未は会場から失踪し、やがて
女子高の校舎から転落したと思われる絵未の死体が発見される・・・
臨床真実士・唯花さんが登場する一編。
短編だけど、恐ろしく手が込んだ文章になっていることが
ラスト1ページでわかる。いやあたいしたもの。

「噤ヶ森(つぐみがもり)のガラス屋敷」青崎有吾
噤ヶ森と呼ばれる深い樹海の奥に建てられたガラス製の館。
外壁・内装・屋根・天井・階段、そして家具までも。
宿泊用の客室の外壁以外は透明度抜群の屋敷へやってきたのは
女実業家・佐竹を中心とした5人組。
しかし到着早々、佐竹は客室で銃殺されてしまう。
現場の窓は内側から施錠され、
ドアから出入りした人物も一人もいない密室状態だった・・・
犯人がガラス屋敷を犯行現場に選んだ理由が、
ラスト1行で明かされるんだが・・・
このオチはバカミスと紙一重だよねぇ。

「煙突館の実験的殺人」周木律
”煙突館” と呼ばれる、50mもの高さの円筒空間を持つ建物の中で
目覚めた8人の男女。そこに突如響きわたる女声のアナウンス。
これは異端分子の選別を目的とした行動実験プログラムで
これから起こる "事件" の犯人を見つけださない限り、
外へは出られないという。
そしてその翌朝、メンバーのうちの一人が
煙突上部の空間に死体となってつり下げられていた。
どこにも足がかりがない場所で、50mもの高さにまで
どうやって死体を持ち上げたのか。そしてさらに殺人は続いて・・・
本書の中では一番スケールの大きなトリックかなあ。
ラストでの主人公の扱いがちょっとかわいそうだけど。

「わたしのミステリーパレス」澤村伊智
会社の同僚・匡(ただし)とデートの約束をした美紀。
しかし約束の時間に現れたのは匡ではなく、
彼の友人と称する三原という男だった。
三原によると匡は交通事故にあって入院したという・・・
そして、ウェブライターの殿田は、連載ものの取材のために
近所にある "謎の建物" へと赴く。
その洋館はいかにもつくりものっぽく、
玄関の上には「MYSTERY PALACE」と書かれてあった・・・
二つの物語が交互に描かれ、最終的に一つに結びつくんだが
「WHAT(何が起こっているのか)」そして「WHY(なぜ)」がメインの謎。
いやはや一人の人間の情念というか執念というのは凄まじい。
これも館ものミステリではあるのだろうなぁ。
終わってみれば、怪奇趣味を抜いた江戸川乱歩みたいな話、
って書いてもわからない人は多そう(笑)。

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ラプラスの魔女 [読書・ミステリ]


ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

いまや大御所となった感のある東野圭吾氏。

初期の作品はけっこう読んでたし、
加賀恭一郎シリーズも途中までは読んでた。
でも今では、必ず読むのは
「ガリレオ」シリーズだけになってしまったなあ。

そんな私が本書を読もうと思ったのは、なんといっても
桜井翔と広瀬すずという2大アイドルスターの共演という話題性。

桜井くん演じるのが地球化学の研究者という役回り、
っていうのもポイントが高かった。

 要するに「ガリレオ」みたいなのを内心では期待していたんだね。

しかしながら、今日に至るも映画は未見(おいおい)。
実は本書を読み終わったのは5月初め。
映画封切りの直前だったのだが・・・


物語は、10歳の羽原円華(うはら・まどか)とその母・美奈が
北海道をドライブしているシーンから始まる。
しかし二人は、突如として発生した竜巻に巻き込まれ、
美奈は亡くなってしまう。

そして数年後。
円華は父親の勤務先である開明大学の敷地内で、
なぜか軟禁状態で暮らしている。
外出する際には常にボディガード兼監視役の
武尾(たけお)が同行することになっていた。

武尾は元警官だったが、円華の護衛役を務めるうちに、
不思議なことに気づいていく。
風に飛ばされた帽子が落下する場所を事前に察知していたり、
彼女が折った紙飛行機は見事な旋回を描いて飛翔し、
そして彼女のもとへ帰ってきたり、
雨の降りやむ時刻を正確に言い当てたり・・・

そしてある日、彼女はその “予想能力” を駆使して
武尾を振り切り、脱走してしまう。

一方、ある温泉地で映像プロデューサー・水城(みずき)が死亡する。
死因は硫化水素による中毒死と思われたが、
同行していた水城の妻・千佐都(ちさと)は
二回り以上も年下であったことから、殺人の疑いも捨てきれない。

泰鵬大学教授で地球化学の研究者・青江修介は
地元の警察の依頼を受け、現場の調査に赴く。
そこで修介は若い女性(円華)を目撃する。
どうやら、彼女は一人の青年の行方を追っているらしい。
彼は事件のあった前日に現場近くに宿泊していたのだ。

そして2か月後、別の温泉地でも同様の死亡事件が起こった。
調査に訪れた青江は、ふたたび円華の姿を目撃する。

二つの中毒死にはつながりがあるのか?
円華が探す青年は事件とどんなかかわりを持っているのか・・・?


読んでいて感じたのは何ともすっきりしない思い。

映画版ではおそらく主役となるであろう青江だが、
小説版ではややキャラが弱いんじゃないかなあ。

快刀乱麻に謎を解くわけでもなく、
どちらかというと円華嬢に振り回される役どころ。
地球化学の知識も事件解決にさほど役立つわけでもない。
年齢も40代で既婚、中学生の息子がいて、
颯爽とした桜井翔を期待して読むと当てが外れるだろう。

物語の展開も、犯人も、ある意味予想の範囲内で進行していく。
それでも先へ向けて読ませるのはさすがのわざだとは思うが。

そして、いちばん気になったのは、円華嬢の特殊能力である。


以下はネタバレに属する内容なので
これから本書を読む、あるいは映画を見る、という人は
目を通さないことを推奨する。


円華嬢の予知能力は、実は外科手術による
一種の脳改造によるものであることが明らかになる。
これにより、彼女はスパコン並みの演算能力を身に着けることになった。

 珠算の達人による暗算の様子なんかをたまにTVで見ることがあるが、
 あれを数億倍(?)にしたくらいの計算を
 瞬時にこなすようになったわけだ。

しかしこの手術、彼女自身が脳改造を自ら望み、
彼女の実の父・羽原全太郎(脳神経細胞再生研究の第一人者でもある)も
それに応じてしまうところはいささかひっかかる。
その背景には母親(全太郎にとっては妻)の死があるとはいえ
娘を人体実験に使うのではマッドサイエンティストだろう・・・

「それがなかったら話が始まらないだろう?」
って意見もあるのはわかるが。

 昭和のヒーローものみたいに、
 その手術をしなければ彼女の命が失われるとかの
 切羽詰まった状況でもあればねぇ。
 そういえば「仮面ライダーV3」(昭和48~49年)が、
 やはり主人公が瀕死の重傷を負い、
 彼の命を救うために改造人間にした、って展開だったなあ。

 ちなみに本作で謎の青年を演じているのは福士蒼汰。
 『仮面ライダーフォーゼ』の主役だったのは偶然だろうが。


しかし、以上の点は私にとってはあまり大きな問題ではない。

「脳がスパコン並みの演算能力を得ればなんでも未来がわかる」
ってことこそ、私がいちばんひっかかったところ。


これ以降の文章は、難癖というか重箱の隅をつつくというか
本作が好きな人にとっては不愉快な文章になってると思います。
ネットでは書く自由もありますが読まない自由もあるので
ぜひその権利を行使していただきたい。


どんなスパコンだって、データがなければ計算そのものが成立しない。

たとえば、冒頭にある飛ばされた帽子のエピソード。
彼女がその様子を見て、落下地点を当てることを考えてみよう。

飛ばされた帽子の質量、速度、角度、回転、そして空気抵抗、
そのときの大気の圧力やら密度やら
関わる要素はそれこそ無限にありそうだし、これを瞬時に、
しかも目で見ただけで数値化するのははたして可能なのか?


天気の変化を予知するのだって、
将来、気象庁にあるスパコンが今の数十倍に性能アップすれば
狭い地域のリアルタイムな天候変化を
瞬時に計算できるようになるかもしれない。
しかしそれは、無数の観測機械から送られてくる
データあってのことじゃないのか?

彼女が空を見上げて入手できる情報だけで
その場所における数時間後の天候の変化を計算できるものなのか?
どう考えても上空の温度とか風速とか湿度とか
最低でも周囲数十キロくらいの気圧配置とか雲の分布とかも
わからないと、まず不可能なのではないかい?


表題の「ラプラスの魔女」は、
「ラプラスの悪魔」から来ているのだろう。

Wikipediaからの引用なので恐縮だが・・・

フランスの数学者ラプラスによって提唱された概念で、
彼は自著において以下のような主張をした。

「もしもある瞬間における全ての物質の
 力学的状態と力を知ることができ、
 かつもしも
 それらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、
 この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、
 その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。」
                 — 『確率の解析的理論』1812年

このような “超知性” を「ラプラスの悪魔」と呼んでいるのだが
円華嬢は「かつもしも」以降の部分の能力は獲得していても
以前の部分の能力は有していないんじゃないのかなあ。

 実はもう一つ書きたいことがあったんだけど
 もういい加減書いてきたので割愛。


「フィクションなんだからそんなに固いこと言うんじゃないよ、
 野暮だなあ・・・」
って意見があるのは百も承知なのだが
なまじ理論的に説明しようとして
かえってリアリティを失っているような気がしてならない。

「大多数の人はそんなとこまで気にしないよ」
たぶんそうなのだろう。でも私は気になってしまうんだよなあ。

いっそのこと超常現象と割り切って
「予知能力なんです」って言いきってくれたほうが
なんぼかすっきりするように思うし、
私もこんなに長々と “難癖” を唱えることもなかったろうに・・・

 いやホントに、こんなに長く書くつもりなんて全くなかったんだけど
 書き始めたら止まらなくなってしまった。

これもまた “東野マジック” なのでしょうかねぇ・・・

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生者の行進 [読書・ミステリ]


生者の行進 (ハヤカワ文庫JA)

生者の行進 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 石野 晶
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/06/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★

島田隼人と藤原冬子(とうこ)は1歳違いの従兄妹同士。
家も近所で、幼いころから兄妹のように暮らしてきた。

しかし物心ついたころから、冬子は隼人に対して
強烈(!)な愛情を抱くようになり、
隼人は彼女の振る舞いに悩まされることになる。

隼人の周囲にいる女子はもちろん、男友達まで排除にかかるのだ。
自他ともに認める美少女である冬子は隼人の友人に恋を装って近づき、
相手が本気になったところを手ひどく振って捨て去る。
なんともはや、男心を弄ぶ、とんでもない悪女である。
隼人は何人の男友達、女友達を失ったことか・・・

 美人の従妹にこんなに慕われても、隼人にとって
 冬子は恋愛対象にはならない。
 まあ冬子嬢の過激すぎる性格もあるのだろうが(笑)、
 実はこの二人、隼人の家庭にまつわる、
 ある “秘密” を共有しているのだ。
 そのあたりはおいおい明らかになっていく。

隼人が高校2年生、冬子が1年生になったある日、
病院へかつての友人の見舞いに訪れた隼人。

 その友人は冬子に振られたショックで高校進学を断念、
 さらには交通事故で足を骨折と、なんとも悲惨な人生を送っている。

その病院で隼人は、階段で突如意識を失って
転落しかけた少女・細山美鳥(みどり)を助ける。

彼女は冬子の同級生で、はじめての親友といってもいい存在だった。
意識を取り戻した美鳥は言う。「ドッペルゲンガーを見た」と。

隼人と美鳥を見ていた冬子は、やがて隼人が
美鳥を愛するようになるのではないか、との予感におののくのだった。

やがて隼人と冬子の前に、美鳥にそっくりな人物・スオウが現れる。
そして二人が共有する “秘密” に、
美鳥とスオウも意外な形で関わっていたことも・・・


物語はほぼこの4人のみで進行する。
ちなみに表紙のイラストにある4人がそうだ。
左から美鳥、隼人、スオウ、そして冬子(で、間違いないだろう)。


なんといってもこの物語の推進役は、強烈な個性を放つ冬子さんだろう。
隼人に対するストーカー紛いの執着を除けば
意外にも(失礼!)、料理もうまいし家事もそつなくこなす、
いたって家庭的なお嬢さんだったりする。

 まったく、あの性格を除けば(笑)いい奥さんになれそうで
 隼人の父親など、冬子が息子の嫁になることを
 内心期待しているふしもある(笑)。

隼人も人間的には決して悪くはないんだが、冬子には甘いかなあ。
そこには秘密の共有者という引け目があるのかもしれないが。

何も起こらなければ、このままずるずるといってしまいそうな
二人の前に、突如現れた美鳥とスオウ。

この二人もまた複雑な家庭の事情を抱えていることが
後半明らかになってくる・・・


本書は、この若者4人が過去の軛(主に家族からの)から逃れ、
新たな道へ踏み出すまでが描かれる。
もちろんミステリであるから、そこにはある “犯罪” が
絡んでいるのだが・・・

ラブストーリーとしては、落ち着くところに落ち着く結末かな。
登場人物の描写も、少女漫画的というかライトノベル的というか。
このあたりは好みが分かれるかも知れない。

ミステリとしてはちょっと中途半端かもしれないが、読後感は悪くない。

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闇の喇叭 [読書・ミステリ]


闇の喇叭 (講談社文庫)

闇の喇叭 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

我々の世界とは異なる歴史を辿ったもう一つの日本。
そんなパラレルワールドを舞台とした連作長編ミステリのシリーズ。

冒頭、20ページほどをかけて第二次大戦終盤からの歴史が語られる。
我々の世界との “ずれ” も最初はわずかなものだったのだが、
それがだんだん拡大していく。

作品世界での日本は、第二次大戦末期に北海道がソ連の侵攻を受ける。
召和(しょうわ)20年9月の終戦後もそのままソ連の占領が続き、
北海道は<日ノ本(ひのもと)共和国>として独立することとなり
日本は分断国家として戦後の歴史を歩むことになる。

召和(しょうわ)24年、日本を舞台に
米ソの代理戦争となる<日本動乱>が勃発、
やがて休戦に至るも、二つの日本は「戦争中」のまま対峙を続けていく。

 要するに朝鮮半島の運命をそっくり日本に置き換えたような歴史が
 進行しているのだ。
 ちなみに朝鮮半島は<大韓共和国>として単一国家のまま存在してる。

そして作品世界の “現在” は、平世(へいせい)21年と呼ばれる時代。
準戦時体制を続ける日本は、
<日ノ本共和国>からのスパイ潜入などもあり、
“北” へ対抗姿勢を強め、国民の “統制” に注力するようになる。
同時に反米気運も高まり、方言の禁止と標準語使用の推奨、
そして外来語(英語)使用の自粛が進められていく。

探偵という存在もまた体制への反逆分子と見做されていた。
犯罪捜査は警察(国家権力)にのみ許された行為であり
民間人による捜査(私的探偵行為)は違法となっていたのだ。

シリーズの主人公は、東北の町・奥多岐野で父と二人暮らしの
高校2年生、空閑純(そらしず・じゅん)。

父は勇、母は朱鷺子(ときこ)。
純は名探偵と呼ばれた二人の間に生まれたが
彼女が14歳の時、母はある事件を調査中に消息を絶った。

勇と純は二人で母の故郷・奥多岐野に移り住み、
父は翻訳を生業に、娘は学生として生活しながら
母の実家で朱鷺子からの連絡を待っている。

ある日、奥多岐野の山道近くで男の全裸死体が、
さらに崖下からは別の転落死体も発見される。
殺人の嫌疑をかけられたのは純の友人の母親だった・・・


探偵行為が禁止されたパラレルワールドの日本にあって、
“名探偵の子” として生まれた宿命を背負った純の成長を描く、
おそらく大河シリーズになりそうな作品。

 もちろん、本作だけでもミステリとして成立しているし
 巻末の後書きによると、本来シリーズ化は予定しておらず
 単発の長編だったらしい。
 しかしその後、作者は続編の執筆を決意するのだが
 いざ書き始めるといろいろあって・・・というのは
 本書の内容には全く関わりのないことなので省略(笑)。


本書の終盤、純は “禁じられた私的捜査行為”、
すなわち探偵として事件に関わり、
最終的に父・勇の助力もあって真相解明に至るが
その “推理” の過程を警察に察知されてしまう。

そのため勇は、警察類似行為(=私的探偵行為)を行ったということで
警察に逮捕されてしまう。

一人残された純は、母を探し出すために高校を退学し、
叔父夫婦の住む大阪へ向かうことを決意するところで本書は終わる。

 実は今、その第2巻「真夜中の探偵」を読んでいるところ。
 叔父夫婦の世話にならず、大阪で一人暮らしを始めた純が
 ある殺人事件に巻き込まれていく様子が描かれている。


本格ミステリではあるのだけど、
パラレルワールドSFの雰囲気もけっこう濃厚。

 異世界の日本社会を取り巻く圧迫感・閉塞感が
 シリーズ全体のトーンを暗く、息苦しいものにしている。
 その世界ならではの約束事による事件やトリックを可能にするための
 SFミステリ的設定ともとれるし、我々の世界への風刺ともとれる。
 案外、そっちが主目的かも知れない。

探偵志願の少女が事件に巻き込まれる冒険小説の趣もあるけれど
純の人間的成長を描く青春小説としての要素が一番大きそうだ。


なにより、純が不憫でならない。
両親が探偵だったのは彼女のせいではないんだが
それによって彼女は過酷な運命を歩むことになる。
しかし純は挫けず、強い意志を持って生きていく。
とっても健気なその姿勢に、全力で応援したくなってくる。

いつの日か、彼女が心から笑える日は来るのだろうか。

第3作「論理爆弾」も手元にあるので近々読む予定。

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丑三つ時から夜明けまで [読書・ミステリ]


丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

警視庁の特別研究チームが、ある現象の観察に成功する。
死んだ直後の人間からある種の電気エネルギーが分離することを。

分離したエネルギーは、あたかも “意思” を持つように移動し
生きた人間に対し心臓発作を起こさせるなどの物理的影響力を持つ。

エネルギーの正体は、我々が従来 “幽霊” と呼んできたものに近く、
元々の肉体が持っていた人格に極めてよく似た “精神” を持っていた。

やがて、この “幽霊” に関して驚くべきことが判明していく。

消滅するまでの “寿命” が約1年であること、そして
肉体の死が衝撃的であればあるほど、生じる “幽霊” の力も強いこと。

つまり、突発的な事故や殺人事件の被害者などは、
きわめて強い霊力をもつ “幽霊” を生み出すのだ。

“幽霊” はエネルギー体であるのでどんな場所でも入り込むことができる。
厳重に警備された密閉空間であろうとも。
“幽霊” は、どんな不可能犯罪でも起こすことができるのだ。

“幽霊” による犯罪を取り締まる必要に迫られた警視庁は、
静岡県警に幽霊犯罪専門の特殊部隊を設立、試験運用を始めた。
それが静岡県警捜査五課である・・・


という設定のもと、展開される連作ミステリ。
“幽霊” というホラーな存在を “実在するもの” とし、
その特性もきっちり細部まで規定することで
ミステリの一要素として組み込んでいる。

収録作は5編。
「丑三つ時から夜明けまで」「復讐」「闇夜」「幻の夏山」「最後の事件」

この5つの事件に静岡県警捜査五課が挑むわけだが
当然ながら “幽霊” なんてものを相手にするのだから
メンバーもみな普通の刑事の枠から大きくはみ出している。

表紙のイラストに描かれているのが五課の刑事たちなのだが
とてもそうとはおもえないだろう。

全身黒ずくめで髪を後ろで束ね、丸いサングラスをかけた男。
攻殻機動隊のバトーみたいなのが五課の課長・七種(しちぐさ)。
そして白装束の怒木(いするぎ)、袴姿の車(のり)など
みんなおよそ刑事とは思えない出で立ち。
極めつけは入戸野(にっとの)。なんと人形を抱えた少女だ。

彼らが追うのは生身の人間ではなく、容疑者としての “幽霊”。
事件の関係者で、一年以内に死んだ者が対象だ。

現場にこんな異様な連中が乗り込んでくるんだから、
生身の人間相手の捜査一課の刑事たちが面白いはずがない。
当然ながら一課長・米田と五課長・七種は犬猿の仲。

物語は米田の部下である一課の刑事、“私” の視点を通して語られる。
一課の刑事でありながら霊感体質をもつ “私” は、
毎回、五課に協力する羽目になって事件に関わっていくわけだ。


ユニークな要素を取り込んだ、一種のSFミステリともいえるだろう。
でも、本書の星の数が今ひとつなのは、
この要素がうまく機能しているような感じがしないから。

“幽霊” ならではのストーリー、展開、トリックなどを盛り込んだ
面白いミステリが読めるかと思ったのだけど
あまりうまく活かしているように思えないんだよなあ。

一風変わったキャラクターを集めた五課の面々も
それぞれの特性や、五課に加わった生い立ちなんか掘り下げると
面白くなりそうな気もするんだけど、
キャラごとのユニークな特性が発揮される場面も少なく
なんだか人数あわせに揃えられただけみたいな印象もする。

まあこれは分量の問題もあるかな。
短編5編、トータルで一冊分の量では
そこまで描くのは無理だったのだろう。

ならば続編はどうかというと、掉尾の「最後の事件」を読むと
とりあえずこの設定での捜査五課の物語は本書で打ち切りっぽい。

舞台を改めて、試験運用ではなく
各都道府県で本格運用が始まった時代の物語がいつの日か語られるのなら、
彼らの活躍も再びそこで描かれるのかも知れない。

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二重螺旋の誘拐 [読書・ミステリ]


二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/10/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

本書のタイトルを見て、昔『二重螺旋の悪魔』っていう
ド派手な長編アクションSFがあったのを思い出した。

内容はとっても面白かったんだけど、作者は
「SFってレッテルを貼られると売れるものも売れなくなる。
 この作品をSFって呼ばないでほしいし、私もSF作家ではない」
とかのたまわっていたなあ・・・

まあ当時は “SF冬の時代” とか言われてたから、
仕方なかったのかも知れない。
今なら堂々とSFって名乗ってもいいんじゃないかって思うんだけど。

ちなみに『-の悪魔』の方の “二重螺旋” はDNAの構造を指している。

本書『-の誘拐』の方の “二重螺旋” はどうかというと
薬学部が舞台になっているもののDNAはほとんど関係ない。
いや、まったく関係ないわけでもないんだが・・・

閑話休題。


香坂啓介は、大学の薬学部に助手として勤務している。
彼には15年前に交通事故で命を落とした茉奈(まな)という妹がいた。

妹の死のトラウマにとらわれたままの啓介は
やがて学生時代の先輩・佐倉雅幸の一人娘・真奈佳(まなか)に
妹の面影を重ねて可愛がるようになった。

その真奈佳が行方不明になり、やがて雅幸とその妻・貴子のもとへ
誘拐を告げる電話がかかってくる。

雅幸は海外で薬学を学ぶための留学資金を貯めようと
アルバイト生活の傍ら語学の勉強に励み、
妻・貴子も和菓子屋で働きつつ内職もこなしている。
経済的に決して楽ではない二人に、
身代金として課せられた額はあまりにも大きかった・・・

物語は啓介のパートと雅幸のパートがほぼ交互に描かれていく。

ミステリであるから、メインである誘拐事件も
当然ながら単純なものではなく、裏がある。

一方、啓介のパートにも、彼が誘拐事件に関わっている描写がある。

本書の裏表紙にある惹句には
「啓介の物語と雅幸の物語が二重螺旋のように絡み合う」
って書いてあるんだが、結末まで読み終わり、
改めて全体のストーリーを俯瞰してみると
この “二重螺旋” というのがまさに絶妙、
本書にぴったりなタイトルであるのがわかる。


作者はミステリ作家ではあるけれど、デビュー作以来、
どちらかというとラブコメ絡みのユーモア・ミステリを発表してきた。
しかし本作はいささか毛色が異なる。

幼女が交通事故死したり誘拐されたり、
両親が必死になって探したり金策に走り回ったりと
家族の苦悩が描かれるシーンが続き、
いつものライトな感覚はかなり控えめ。

そして、今までの作品ではラブコメ要素やSF・ファンタジー要素の
占める割合が大きく、ミステリ度としては “やや薄め” に
感じられるものが多かったのだが・・・

ネタバレになりそうなのであまり詳しく書けないけど
ミステリ度は今まで読んだ中ではいちばん高いと思う。

今までの作風から、ライトノベル的な軽いテイストで
楽しく読めるものを書く人だと思ってたんだけど
いつのまにかミステリ作家としても成長していたんですねえ。

 はじめから技量があったけどあえて隠してたのかも知れないが。

新境地を開いた、と言うと月並みな表現だけど
作者の持っている引き出しは予想以上に多そうです。

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セーラー服とシャーロキエンヌ 穴井戸栄子の華麗なる事件簿 [読書・ミステリ]


セーラー服とシャーロキエンヌ 穴井戸栄子の華麗なる事件簿 (角川文庫)

セーラー服とシャーロキエンヌ 穴井戸栄子の華麗なる事件簿 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

作者のデビュー作であり、代表作の一つでもある「天帝」シリーズ。
本書はそのスピンオフともいえる作品。
時系列的には第1作「天帝のはしたなき果実」より前と思われる。

愛知県立勁草館高校の2年生、吹奏楽部員の穴井戸栄子のもつ
もう一つの顔、それが “名探偵” だ。
とはいっても、この作品世界での探偵は “探偵士” という資格がないと
名乗れず、その探偵士になるには大学で単位を取って
国家試験に合格しなければならないので、
もちろん栄子さんはまだ “探偵” ではない。
そこのところはうまく切り抜けてる(ごまかしてる?)のだけど、
そのへんは割愛。

シャーロキエンヌ(ホームズかぶれ)の栄子さんに振り回される
助手(というか下僕か奴隷)を務めるのが、
同級生にして栄子さんと同じ吹奏楽部員の古野まほろくん。

そんな二人が出会う怪事件を綴った連作短編集。


「獅子座連盟 THE LEO'S LEAGUE」
栄子の同級生・稀音(きねや)いずみが始めたアルバイト。
平日の午後7時から9時までの2時間、ひたすら文字を書くこと。
それも毛筆で、半紙1枚に漢字1文字ずつ。そして週給が24,000円!
この破格の待遇の裏に潜むものは何か。

「赤いルピア THE ADVENTURE OF THE RED RUPIAH」
栄子の “探偵事務所” のある姫山市を暴風雨が襲った夜。
パトロール中だった姫山警察署の鉄途隷人(てつと・れいと)警部は
不思議な人身事故に遭遇する。
二台の自転車が衝突し、一方は逃走。残った方に乗っていた女性は
「あたし、権現様のスイカを壊してしまったァ!」と叫んで
こちらも風雨の中に消えてしまったのだ・・・

「だんだらの紐 THE ADVENTURE OF THE DANDARAD BAND」
栄子の同級生・琴柱(ことじ)エリナの母が再婚した相手は
水野艪色人(ろいろと)子爵。華族ではあるが財産はなきに等しく
琴柱家の資産目当ての結婚であった。
そして母が他界した今、水野子爵はエリナとその姉、
二人を亡き者にせんとの野望を発動させつつあった・・・

「六つの家康公 THE ADVENTURE OF THE SIX IEYASUS」
関ヶ原390年を記念して、蹴田(けるた)商会が神君家康公の彫像を
500体、限定生産した。うち6体には特別に絵付け(彩色)して。
しかし、店頭に置いたそのうちの1体が
バラバラに破壊されるという事件が起こる。
どうやら犯人は、6体すべての破壊を狙っているらしい・・・


タイトルや内容紹介を見てもらえば、
有名なホームズ譚のパロディであることは一目瞭然。
だから元ネタどおりのオチのはずがない・・・と思ったりするが
そのへんが一筋縄でいかないのが本書。
“名探偵” 栄子嬢の “名推理”(迷推理) が楽しめる。

作者の作品は、大半が第二次大戦以降の歴史が異なる
パラレルワールドの “日本帝国” を舞台に展開しているが、
本書に登場する愛知県もまた我々の世界とは異なる時空になっている。

なにせ家康公を侮辱すると犯罪になるくらい
徳川家康が文字通り神格化されていたり、
家康の旧領5カ国を日本帝国から分離独立させることを掲げる
IRA(Ieyasu Restoration Association:家康公再興結社)なる
テロ組織まで暗躍しているとか。
そんなエキセントリックな舞台設定の中で
我らが栄子さんが大暴れするわけだ。

まあ、基本ラインがユーモア・ミステリなので
細かいことは気にしないで笑っていればいいんだけど。


そして、各編の冒頭と末尾には “銛矢挺(もりやてい)教授” なる
人物がらみの短いカットが挿入されていて、それぞれの事件の裏で
“教授” が糸を引いているらしきことが仄めかされている。

“銛矢挺教授” というのは「セーラー服と黙示録」シリーズの方に
登場している名前。時系列的には本書の少し後の話になると思われる
「-黙示録」シリーズは、作品の舞台も近いし
何よりまほろくんの妹・みづき嬢がレギュラーとして登場している。

今後、まほろくんが主役を務めている「天帝」シリーズの方にも
“教授” が登場してくるっていう伏線なのかしら?

あと、「穴井戸」って変わった名字だなあと思ってたんだが
どうやらDianaという女性名を逆読みしたものらしい。なるほど。

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処刑までの十章 [読書・ミステリ]


処刑までの十章 (光文社文庫)

処刑までの十章 (光文社文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/10/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

連城三紀彦という作家は “超絶技巧な短編” に定評があって
今まで読んだ長編に対しては正直なところ、
そんなに “スゴい” という印象がなかったのだけど
(もちろん、水準作以上のレベルは備えているけれども)
本書は文句なくスゴい作品だと思う。

作者は2013年10月に逝去されたのだが
本書の親本(単行本)はその1年後の2014年10月の刊行。

作者には未刊行の長編がまだ何作かあるらしいのだけど
本作は “遺作長編” という位置づけらしいので
時系列的には最後に書かれた長編なのだろう。


まず章のタイトルからして奇抜だ。
「第一章 午前五時五十九分」、
そして「第二章 午前五時六十分」、
続いて「第三章 午前五時六十一分」・・・このまま続いて
最終章が「第十章 午前五時六十八分」となる。

この不可解な時刻表記だが、作中にたびたび登場してくる。
その意味するところもまた本書の謎の一つだ。


国分寺市に住む平凡なサラリーマン・西村靖彦。
妻の純子とは結婚して11年を数える。
しかしある朝、靖彦は出勤のため家を出てそのまま失踪してしまう。

目撃者の情報から、靖彦は国分寺駅で多摩湖線に乗ったことがわかった。
そのまま湖畔の旅館に向かい、そこで女と密会したらしい。

靖彦は蝶の蒐集を趣味としており、それを通じて
四国の土佐清水市在住の女性と知り合っていた。
密会相手はその女性と思われた。

一方、靖彦が失踪した日の早朝、
その土佐清水市では放火事件が起こっていた。
しかも前日には消防署宛に犯行予告ともとれる葉書が届いていた。
「明日午前五時七十一分、この町で燃え上がる火に気をつけてください」

火災現場からは男の焼死体が発見され、
発火直後に現場を立ち去った若い女性がいたことも判明する。


靖彦の弟・直行は、都内の楽器店勤務の傍ら
音楽教室でヴァイオリンを教えている。
彼は密かに義姉の純子への愛情を募らせていた。

直行は純子とともに靖彦の行方を追い始めることになるが
本書は主に直行の視点から語られる。

二度の流産を経て、靖彦との間の子に恵まれなかった純子。
そのせいもあってか、趣味に没頭するようになった夫。
10年を超える結婚生活にも微妙な陰りを見せ始めた夫婦仲。

純子を愛しながらも、その一方で実は彼女こそ
“裏ですべての糸を引いている” のではないかとの疑いを拭えない直行。
そんな二人の “危うい関係” をも描きながら物語は進行する。

やがて靖彦が会社の金を横領していたらしいこと、
直行が調査に訪れた高知では、
放火事件に関わる意外な事実が明らかになったり、
後半になるとバラバラにされた男の死体が四国各地で発見されるなど
次々に新しい展開が繰り出されていく。

一人の男の失踪と放火という、一見シンプルな事件なのに
この二つが組み合わさり、そこに複数の男女の愛憎が絡んでくると
とたんに複雑怪奇な物語へと変貌していく。


ミステリ的には “多重解決もの” と捉えることもできるだろう。
なにしろ長大な物語なので、途中で様々な “推理” が示される。
しかし上述のように新しい展開があったり新事実の判明によって
その都度、それがご破算となって再び新しい解釈が求められる。

そしてミステリ的な興味と同じくらい、
あるいはそれ以上にページをめくらせる原動力となるのは
作者の十八番ともいえる登場人物たちの恋愛情念描写。
特に純子と直行の、時に惹かれ合い時に反撥し合う “禁断の愛” の姿だ。


長さの割に登場人物は多くないが
序盤で脇役やモブキャラ的に登場した人物が
中盤以降、重要キャラとして再登場したりするので油断できない。
同様に、些細なこととして描かれていたものに
深い意味があったりするのでこれも見逃せない。
まあ、そのへんはミステリとしては当たり前かもしれないが
そういう意味では全編これ伏線。無駄がない作品とはいえるだろう。

そして二転三転する物語のラストで示される、真相の意外さは特筆もの。
ミステリを読み慣れた人でもこれは驚くだろう。
まさに “連城マジック” が炸裂する。

文庫で600ページ近い大作だけど、読み通すのに全く苦はなかったよ。
あの “連城マジック” を長編で堪能できた、至福の時間でした。

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暗い越流 [読書・ミステリ]


暗い越流 (光文社文庫)

暗い越流 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/10/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ミステリ短編集。5編を収録。

「蠅男」
本宮波瑠は6年前に自殺した心霊研究家・左修二郎の孫娘。
私立探偵・葉村晶(はむら・あきら)が波瑠から受けた依頼は
群馬県の僻地にある祖父の家から、母親の遺骨を持ち帰ること。しかし
無人の家を訪れた葉村は謎の男と遭遇、さらには死体を発見する・・・
葉村は毎回のように踏んだり蹴ったりの目に遭うんだが
今回も病院送りになるような悲惨な展開(笑)に。
でもそんな中でもしっかりアタマは回転していて真相を見抜く。

「暗い越流」
大量殺人で死刑が確定した磯崎保。
その磯崎にファンレターを出した人物がいる。
出版社の嘱託社員である “私” は、
「山本優子」なる差出人の素性を探ることになるが・・・
導入部からは予想できない意外な結末に驚くが、
さらにもう一段、不気味なオチが待ち構えている。

「幸せの家」
零細出版社の敏腕編集長・美浦節子が失踪した。
美浦は何者かを恐喝していた形跡があり、
中途採用社員の “わたし” は、美浦の残した資料を元に
失踪の鍵を握るかもしれない “被害者” を探し始めるが・・・
美浦節子の事件をきっかけに、登場人物たちの
“幸せ” の裏に潜むものが暴かれていくのだが
ラストはまたまた不気味なオチに。若竹さんはこのパターンが好きなのか。

「狂酔」
刈谷学(かりや・まなぶ)という青年の独白形式で綴られる。
どうやら、教会の中で行われている集会での発言らしい。
自らの生い立ちから始まり、かつて自分が巻き込まれた “事件” と
この教会との関わりについて語り続けていくのだが・・・
ラストはまたまた不気味なオチに。もうここまでくるとホラーかな。

「道楽者の金庫」
探偵仕事が開店休業状態の葉村晶は
古本屋のアルバイト店員として働き始める。
遺品整理人の真島とともに訪れた後宇多(ごうだ)家で
故人の蔵書を整理していた葉村だが、
そこに故人の娘・時実(ときみ)が現れる。
こけし収集が趣味だった故人の残したダイヤル式の金庫。
その解錠番号を記した “黄金のこけし” を探すことになった葉村だが。
今回は大量のこけしに “生き埋め” になるという
得がたい体験(笑)のおまけつき。


今回は最初と最後を葉村晶もので挟んで締めてるんだが
ミステリとしても真っ当(笑)で、彼女が主役の話は楽しい。
やっぱり後味は悪いよりは良い方が好みです。

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探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに [読書・ミステリ]


探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに (実業之日本社文庫)

探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東川篤哉
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

鯉ヶ窪学園探偵部副部長の霧ヶ峰涼と、
探偵部の仲間が出くわす事件を描いた連作ユーモア・ミステリ第二弾。


「霧ヶ峰涼と渡り廊下の怪人」
校舎と校舎をつなぐ渡り廊下の中央に倒れていたのは陸上部の足立。
どうやら頭を何かで殴られたらしいのだが、現場に凶器はない。
雨で湿った地面には犯人の足跡もない。
この不可解な状況に出くわした涼だが・・・
いかにも学校だからこそ起こりそうなオチ。

「霧ヶ峰涼と瓢箪池の怪事件」
鯉ヶ窪学園の文化祭当日。探偵部の出し物はなぜか「お好み焼き」。
上級生で部長の多摩川と八橋(やつはし)は調理に余念がないが
そのさなか、モテ男で有名な3年生の大島が学園内にある瓢箪池の前で
何者かに切りつけられるという事件が起こる。
犯人は凶器を放り出し、素手で逃走したが
なぜか現場から凶器が見つからない・・・
なかなか脱力感あふれる謎解き(笑)。

「霧ヶ峰涼への挑戦」
学園祭のミスコン会場へやってきた涼。しかしそこにいたのは謎の美少女。
彼女こそ、探偵部のライバル・ミステリ研究会に所属する大金うるる。
ちなみに彼女の姓は「おおかね」。「ダイキン」ではない(笑)。
エアコン対決ではなく(笑)、ミステリ対決をすることになった涼は
彼女の仕掛ける「架空の密室事件」の謎解きをすることに・・・
うーん、やっぱりこのトリックは反則だと私も思います。

「霧ヶ峰涼と十二月のUFO」
涼の通学路の近くに建つ鯉ヶ窪教会。
その敷地で神父が倒れているのが発見される。
しかし彼の周囲には彼以外の足跡はない。
発見者は鯉ヶ窪学園の地学教師・池上冬子。
UFOマニアの彼女は、「これは宇宙人の仕業だ」と騒ぎ出すが・・・
これもまた脱力ものの真相。

「霧ヶ峰涼と映画部の密室」
映画部の撮影に参加することになった涼。
しかし撮影を終えて学校に帰ってきたら、
映画部の部室に置いてあったはずの40インチの大画面TVが消えていた。
そしてそのTVは、破壊された状態で校内の焼却炉近くで見つかる。
しかし目撃者の証言から、部室と焼却炉の周辺で
大画面TVを抱えた不審人物はいなかったという・・・
いやあでもこのトリックは、ちと無理そうな気がするんだけどねぇ。

「霧ヶ峰涼への二度目の挑戦」
探偵部の集会場所に指定された家へやってきた涼。
しかしそれは、ミステリ研究会の大金うるるが仕組んだ罠だった。
睡眠薬で眠らされた涼が目覚めたとき、
目の前には死体(のふりをした同級生)があった。
しかも家の周囲には雪が積もっており、犯人の足跡がない。
“雪の密室” の謎解きをすることになった涼だが・・・
このトリックは斬新だけど奇抜すぎて、
シリアスな作品でこれをやられたら怒り出す人がいそうだが、
このシリーズなら許されるだろう。

「霧ヶ峰涼とお礼参りの謎」
卒業直前の3月1日。鯉ヶ窪学園では、毎年この日は
卒業する生徒が “お世話” になった先生に “お礼参り” をする
恒例の日となっていた。
生徒をビシビシ指導してきた体育教師・柴田は、
瓢箪池の端でマスク姿の学生に襲われる。
犯人は逃走したが、今回もまた凶器が煙のように消えてしまう・・・
このオチはついにバカミスの領域に入りましたねぇ。


探偵部の3年生である多摩川と八橋は最終話で卒業となるので
シリーズもここで一段落らしい。
でも巻末の解説によると、探偵部ではないけれど
鯉ヶ窪学園を舞台にした連作が雑誌連載されているらしいので、
ひょっとするとまた霧ヶ峰涼や大金うるるに会えるのかもしれない。

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