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バチカン奇跡調査官 ゾンビ殺人事件 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 ゾンビ殺人事件 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 ゾンビ殺人事件 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する天才科学者の平賀と、
その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。
「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第15弾。
短編集としては3冊目になる。


「チャイナタウン・ラプソディ」
昇進という名目で閑職に追いやられているFBI捜査官ビル・サスキンス。
たった一人の部下は台湾系アメリカ人で通称ミシェル、
本名は周弥貝(ジョウ・ミーベイ)という。
その彼の婚約者が何者かに誘拐された。ビルとミシェルは、
彼女を捜してワシントンのチャイナタウンに向かうが・・・
「中華風ゴーストバスターズ」とでも呼びたくなる
コメディタッチな伝奇アクションが展開する。

「マギー・ウォーカーは眠らない」
ライジング・ベル研究所の主任であるマギー・ウォーカー博士は
カリフォルニア州サンノゼを訪れていた。
車を運転していた彼女は黒服の男たちが女性を殺す現場に遭遇し、
マギーは残された幼い少年・ダニエルを保護する。
女性の背後の事情も気になるが、それ以上に気になるのは
人間嫌いで友人も恋人も作らないマギーが、
成り行きとはいえ子供と暮らす羽目になったこと。
いったい彼女はダニエルをどう扱うか?
実験動物みたいに飼う? それとも少しは "母性" を刺激される?
で、その結果は・・・ある意味予想通りではあったね(笑)。

「絵画の描き方」
バチカン美術館の修復士見習い・ジジが、平賀のもとを訪れた。
中世の画家リューベンの油絵の修復について相談をするためだ。
ロベルトも巻き込んで、描かれた当時の絵の具の再現に成功する三人。
他にもリューベンの絵を捜すジジだが・・・
ロベルトが語る中世の顔料の蘊蓄は面白いが、
真実を知ることが必ずしも幸福ではない、という言葉を思いだす。
ラストは意外な成り行きにちょっとほっこりする。
ちなみに本作はミステリでもホラーでもない。敢えて言えばラブコメ?

「ゾンビ殺人事件(独房の探偵2)」
イタリアの森で、土の中から現れたゾンビが人を襲う事件が起こる。
捜査に当たったカラビニエリ(国家治安警察隊)のアメデオは、
獄中にある天才少年にして凶悪犯罪者ローレンを訪ねる。
彼の指示のもと、アメデオは
プロファイラーのフィオナとともに現場へ向かうが
そこでさらに二体の腐乱死体を発見する・・・
今回もローレンの安楽椅子探偵ぶりが拝めるのだが
怪奇な現象を科学的に見事に解き明かす(こじつける?)ところは
毎度のことはいえ、たいしたものだ。

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自薦 THE どんでん返し2 [読書・ミステリ]


自薦 THE どんでん返し2 (双葉文庫)

自薦 THE どんでん返し2 (双葉文庫)

  • 作者: 乾 くるみ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

同趣旨のアンソロジー集の第2弾。前回も思ったけど、
「どんでん返しがある」って前提で読まれることって
作家さんにとってはとんでもないハンデの様な気がするんだよね。
そんなふうに銘打ってしまったら、読者の側の抱く期待を
超えたものを示さないといけなくなってしまうわけだから。

とはいうものの「自薦」っていうくらいだから
それなりに作者としては自信のある作品を収めてるのだろう。
それがその通りかどうかは読者が判断することなのだけども。


「同級生」乾くるみ
ミリオンセラー作家となった高校時代の同級生。
彼のマンションに集まったのは主人公の夏海(なつみ)を含む同窓生5人。
酒を酌み交わしながら彼女は高校時代を回想するが・・・
うーん、意外なオチではあるがミステリではないなあ。

「絵本の神様」大崎梢
出版社の新人営業・智紀は、前任者からの引き継ぎで
東北にあるユキムラ書店を訪れるが、1ヶ月前に廃業してしまっていた。
しかし近所の住人から、智紀の訪れる1日前に
店のシャッターの前に一人の男が佇んでいたことを聴く。
そして駅前の書店に営業に向かった智紀は、そこで
ユキムラ書店の看板の絵とそっくりに描かれたイラストを目にする。
短編集で既読。日常の謎系ミステリなんだけど、
ミステリと言うよりは本にまつわるちょっといい話という趣。
街角の零細書店は何処も厳しいみたいで、どんどん店数が減っている。
寂しいことだけどこれも時代なのかなあ。

「掌の中の小鳥」加納朋子
雑踏の中で、大学時代の先輩・佐々木に出会った "僕"。
実は "僕" はこの1ヶ月の間、佐々木の妻・容子から
三回、留守番電話に伝言を残されていた。
佐々木と語りながら、大学時代の
ある不思議な出来事を思い出す "僕" だが・・・
この作品は二部構成になっていて、後半はまた別の物語が綴られていく。
形式的には二つの短編が並べられた造りになっているのだけど
前半と後半では登場人物にも重複はないし、
全くといっていいほど別の話である。
それぞれ独立していても、良く出来た話だと思うんだけどね。

「降霊会」近藤史恵
家庭の事情で学園祭前の一週間、高校を欠席していた南田。
学園祭当日に登校した南田は、幼なじみの砂美(すなみ)が
"死んでしまったペットの降霊会" なるものを開くことを知る。
それに参加した南田は、降霊会に不審なものを感じるが・・・
本書の "どんでん返し" の趣旨にいちばん合っている作品かな。
降霊会の "謎解き" が終わったあと、さらにもうひとひねり。

「勝負」坂木司
乗り合いバスに乗ったことのある人なら身に覚えがあるだろう。
次のバス停で降りるとき、
「降車ボタン」を押すべきか、押さなくてもいいものか。
自分が押さなくても、誰か押すだろう、
いやいやもし次のバス停で降りるのが自分しかいなかったら
押さないと降り損ねてしまうぞ・・・
そんな葛藤を感じたことはないか?
作家さんというのは、ほんとにいろんなところから
ネタを拾ってくるんだなあと思うよ。
そこからこんなショートストーリー(文庫でわずか12ページ)を
ひねり出すんだから、作家さんというのはたいしたもの。
ちなみに本作はSFでもミステリでもホラーでもない。

「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」若竹七海
主人公は長野県警から警視庁へ出向中の刑事・御子柴(みこしば)。
調布市内で一人の男が保護される。
頭に殴打傷があって記憶を失っていたが、所持していたキーホルダーが
長野県駒ヶ根市の特産品<信州味噌ピッツァ>であったことから
地元のペンション経営者・藤田肇であることが判明する。
しかし入院中の藤田の元へ現れた女は、
この男は自分の夫・亀田勝だと言い出す。
どうやら藤田/亀田は、長野と新宿で
二人の妻を持つ二重生活をしていたらしいが
彼にはさらなる裏の顔もあったらしいことがわかり・・・
話が進むにつれて、記憶喪失の男の正体が
どんどん分からなくなっていくというコメディタッチな作品。
これはどんでん返しというよりは
意外性のインフレーションとでも言ったらいいか・・・
本書の中ではいちばんミステリっぽいつくり。


「どんでん返し」というほどインパクトがあるかというと
ちょっと疑問だが、意外な真相とか意外な結末、
という点では収録作はみなクリアしてるかな。

でも、思う。
つくづく第1集冒頭の「再生」(綾辻行人)は凄かったなあと。
アレを超える作品というのは、なかなか難しいかも。

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偽恋愛小説家 [読書・ミステリ]


偽恋愛小説家 (朝日文庫)

偽恋愛小説家 (朝日文庫)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/07/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

晴雲(せいうん)出版社主催の<第一回晴雲ラブンガク大賞>を受賞して
デビューした恋愛小説家・夢宮宇多(ゆめみや・うた)。
新人編集者・井上月子は彼の担当となるが
受賞作に続く第2作の執筆がなかなか進まず、焦る日々。

そして数ヶ月後、夢宮の受賞作『彼女』に盗作の疑いが持ち上がる。
月子は夢宮への疑惑を胸に秘めながら彼に原稿の督促を続ける。
そんな二人が出くわす事件を描いた連作ミステリ。
探偵役は夢宮、月子はワトソン役である。

「第一話 シンデレラの残り香」
TVの企画で、"現代のシンデレラ"と呼ばれる人物に
インタビューすることになった夢宮。
相手はインドネシアで石油事業に成功して億万長者となった
一色慶介氏の妻・笙子である。
慶介はインドネシアのパーティーで笙子に一目惚れし、
帰国してから彼女のつけていた香水だけを頼りに
数百人の女性の中から彼女を見つけ出したという。
しかしインタビューを終えた夜、事件が起こる。
本書の中で、夢宮はシンデレラの物語に異論を唱えるのだが、
言われてみればなるほどと思える疑問点だったりする。

「第二話 眠り姫の目覚め」
<浜本恋愛文学新人賞>を受賞したのは
22歳の女性・仮谷紡花(かりや・つむはな)。
高校卒業後は引きこもり生活を続けていたが、受賞を機に
俳優・沖笛謙と知り合って意気投合、婚約までしてしまった。
世間は彼女のことを "眠れる森の美女" と呼んだ。
その授賞式パーティーに招かれた夢宮と月子。
月子は会場となったホテルに入る紡花を目撃するが
なぜかパーティーに現れない。
そして授賞式の終了後、ホテルで服毒死体が発見される・・・
ここでも夢宮は "眠れる森の美女" の物語についての
かなりショッキングな解釈を開陳するのだが、
どこまでが通説でどこからが作者の創作なのかはよく分からない。
そして夢宮が解き明かす事件の真相も意外だが
最後にもうひとひねり。

「第三話 人魚姫の泡沫(うたかた)」
本作の冒頭、夢宮くん恒例の "童話蘊蓄" が始まるのだが
今回は "人魚姫" について身もフタもない話が始まる。
しかしまあこれは後々の展開に絡んでくるからね。
その夢宮くんは新作執筆を迫る月子の前から姿をくらましてしまう。
月子は、『彼女』のヒロインの出身地である伊豆高原へ向かうが
そこで再会したのは、高校時代の片思いの相手・美船。
そして、美船の婚約者は、月子のかつての親友・喜代だった。
穏やかではない心を抱えて、二人と同じ宿に泊まる月子だが・・・
知らなければどうでもよかったことでも、
知ってしまったが故に苦しむこともある。
月子さんの今回の境遇には同情を禁じ得ない。
でもまあ、彼女を救う人はちゃんと現れます。

「第四話 美女は野獣の名を呼ばない」
ついに週刊誌に夢宮の盗作疑惑の記事が掲載されてしまう。
夢宮の無実を信じる月子は、彼から聞いた
恋愛小説『彼女』のモデルとなった女性・涙子(るいこ)に
会いにいくが、そこで驚くべきことを知る。
小説の中でも、現実世界でも、涙子の夫は服毒自殺しているのだが、
死因が服毒であったことは誰も知らないはずだという・・・
夢宮は盗作のみならず、殺人者でもあったのか?
夢宮と『彼女』にまつわる謎が一挙に解き明かされる。

そして、「エピローグ」でさらなるダメ押し。

うーん、"答えははじめから目の前にあった" ってのは
ミステリの解決編ではよく言われることだけど、
久しぶりにその言葉を実感したよ。

これで完結かと思ったのだけど
続編が出ているらしい。文庫化を待ちます。

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躯体上の翼 [読書・SF]


躯体上の翼 (創元SF文庫)

躯体上の翼 (創元SF文庫)

  • 作者: 結城 充考
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

久しぶりに直球ど真ん中のSFを読んだ。

舞台は、文明が崩壊しつつある遠未来。
大都市は、とうに機能を失った炭素繊維構造体の塊と化し
人類はその隙間に細々と生き残っている。
タイトルにある「躯体」とは、この都市群のことだ。

一握りの特権階級の者たちは、軍隊・大企業とともに
最大勢力の<共和国>を構成し、他国の文化を滅ぼすために
"緑化政策" という名の細菌兵器による攻撃を繰り返していた。

主人公は、その攻撃飛行船団を防衛するために
遺伝子操作で作り出された人型の生物兵器・員(エン)。
超常の戦闘能力を持ち、数百年という時を
孤独の中で戦いに明け暮れて生きてきた彼女は
ある日、互聯網(ネット)の中で cy と名乗る人物に呼びかけられる。

やがて二人はわずかな文字数で意思を伝え合うようになる。
その量、わずか文字コード7個分である。
(作中では全角7文字分で表現されている)
長文を書き込むと、監視者によって削除されてしまうからだ。

豊かな知識をもつ彼との対話に喜びを見いだしていく員だったが
<共和国>による次の攻撃目標が cy のいる地であることを
知るにいたり、彼女はある決断をする。
すなわち、<共和国>に叛旗を翻し、
空中戦艦を含む211隻の大船団へ戦いを挑むことを・・・


とにかく、異形の未来世界の描写が圧倒的。
炭素繊維構造体の上空を飛翔する飛行船群。
生体兵器である員たちは、他の生物の遺伝子を取り込むことで
自らの身体を "変異" させて戦う。

そんな中にあって最たるものは、後半になって員の前に立ちはだかり
最大の敵となる "道仕(どうし)" だろう。
国家元首直属の軍師であり、船団が危機に陥ったときに
下載(ダウンロード)される。そのために、
船団には "記録用媒体" となる遺体まで積載されているという、
トンデモナイ設定だ。
その道仕の姿たるや、腐臭を放つ肉体を強化外骨格で覆うという
おどろおどろしい姿で、読者に強烈な印象を残す。

これに限らず、世界全体から感じるのは
メカニカルな硬質さではなく生物的な不気味さ。
ずっと昔に観たデヴィッド・リンチ監督の
映画「デューン/砂の惑星」をちょっと思いだしたよ。

何人かのサブキャラのエピソードも挿入されるが
本書の読みどころはもちろん、
圧倒的な物量の敵に挑む彼女の孤独で壮絶な戦いだろう。
文庫で280ページほどの本書の7割近くがそれで占められている。


身もフタもない言い方をすれば
"文通相手の男の子に、万難を排して会いに行く女の子の物語" である。
もっと言うなら
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んじまえ」というが
"誰も蹴ってくれないのならアタシが蹴りに行く" っていう女の子の話だ。

 本書のファンからは怒られてしまいそうな文章だなぁ・・・
 石を投げないでください m(_ _)m。

こう書いてしまうと分かりやすい話のようにも思うが
こういうモチーフがベースにあるが故に、
想像力の極限に挑むかのような異形の未来世界を舞台にした物語に
感情移入が可能になって読み続けられたのだろうとも思う。

 この絶望的な世界設定の中で、主人公の行動の動機付けまで
 理解できなかったら、たぶん私は途中で投げ出してしまっただろう。

そしてそういう物語を、こういう形のSFに仕立て上げてしまう作者も
たいしたものだ。ライトノベルの新人賞でデビューし、
ミステリ界での評価が高い人のようだが、こんな作品も書けるんだね。

とは言っても、その割に星の数が少ないのは、
この未来世界の描写が異質すぎて
いささかついて行くのがたいへんに感じたせい。
もしこの作品を、頭が柔らかかった20代の頃に読んでたら、
もっと高評価になったんじゃないかなぁとも感じた。

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魔導の系譜 / 魔導の福音 / 魔導の矜持 [読書・ファンタジー]


魔導の系譜 (創元推理文庫)

魔導の系譜 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/21
  • メディア: 文庫
魔導の福音 (創元推理文庫)

魔導の福音 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: 文庫
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

第一回創元ファンタジイ新人賞で優秀賞を受賞した
『魔導の系譜』から始まった「真理の織り手」と呼ばれる
シリーズの第1巻から第3巻までである。

舞台となるのは、中世の西洋を思わせる異世界。
タイトルにある "魔導" とは、いわゆる魔法のことで
火・水・風などを操る超常の能力を指し、
その力を持つものは「魔導士」と呼ばれる。

"魔導" の力を持つかどうかは先天的に定まっており、
その力を備えたものは "普通人" の間に一定の割合で生まれてくる。
しかし、その能力者に対する扱いは国によってかなり異なる。


第1巻『魔導の系譜』の舞台となる国・ラバルタでは
魔導士は蔑みの対象となっている。たとえ高貴な家に生まれようとも、
僧院に送られてそこで一生を終えることを定められてしまう。

しかし魔導士を "武力の一つ" として評価している国王は
最高機関<鉄(くろがね)の砦>を設け、
そこに国内最高レベルの魔導士を集めて組織化していた。
腕に覚えのある魔導士たちは、人並みの扱いを手に入れるためにも
<鉄の砦>に選ばれることを目指していた。

田舎で魔導の私塾を開いている三流魔導士レオンは、
ある日<鉄の砦>からゼクスという10歳の少年を預けられる。
桁違いに優れた潜在能力を持ちながら、頑なに心を閉ざし、
魔導を学ぶことを拒否するゼクスだったが
辛抱強いレオンの指導のもと、やがてその才能を開花させていく。

7年後、ふたたび<鉄の砦>へ迎えられたゼクスだったが
そこで出会った貴族出身の魔導士・アスターとの出会いが
ゼクスの運命を大きく変えていくことになる。

さらに3年の後、ラバルタ北方のカデンツァ地方で反乱が勃発。
ゼクスとアスターを含む魔導士部隊も鎮圧のために出兵するが・・・


第2巻『魔導の福音』では、『-系譜』でのラストシーンから
6年ほど時間軸を巻き戻し、舞台もラバルタの隣国エルミーヌに移る。
この国では、生まれた子供が "魔導" の持ち主と判明すると、
速やかに "神のもとに返す"、つまり命を奪うことが習わしになっていた。

主人公となるのは地方貴族の嫡男・カレンス。
16歳になった秋、彼は王都にある王立学院への
入学生として推薦されることになった。
しかし時を同じくして妹リーンベルが "魔導" の持ち主と判明する。
妹がその命を散らすことに対して何も出来なかったカレンスは
逃げるように故郷を後にして王都へ向かう。

王立学院での生活はカレンスに充実した日々をもたらす。
親友となったアニエスは、学院始まって以来の
文武にわたる最高成績を叩き出した生徒で、実は女性であった。
本来女子の入学を想定していなかった学院だったが
その優秀さゆえ、特例によって入学を認められていたのだ。

しかし楽しい日々も永久には続かない。
21歳になったときに故郷から届いた報せは
父の危篤を知らせるものだった。
そして死を目前にした父が、帰郷したカレンスに打ち明けた "秘密"。
それは封印してきたはずの過去と向き合うことを彼に強いるのだった。

エルミーヌの国王もまた、魔導士の "戦力" としての価値を認め、
ラバルタ国内の反乱勢力への支援と引き換えに
彼らから "魔導技術" を導入することを目論むことになる。

後半になると前作のメインキャラ二人も本書の中に登場して
カレンスの運命に大きく関わっていく。


第3巻『魔導の矜持』は、カレンスの帰郷から5年後に始まる。
作中に年号が記載されているのでメインキャラの年齢を計算してみると、
ゼクスは28歳、カレンスは26歳になっている。
ちなみにレオンは42歳、なんと厄年だ(笑)。

舞台はふたたびラバルタに戻る。内乱は停戦となったものの、
国内の魔導士への迫害はいっそう厳しさを増し
各地で魔導士が襲われる事件が続発していた。

ヒロインとなるデュナンは16歳。魔導士の能力を持って生まれ、
私塾に入って技を磨いていたが、どうにも力が伸びず落ちこぼれ気味。
その私塾もまた村人に襲われ師や兄弟子たちは殺害されてしまう。
生き残った弟妹弟子3人を連れて逃亡するデュナン。

彼女ら4人を救ったのは、地方領主の庶子ノエと元騎士のガンド。
デュナンは自分たちが魔導士であることを隠し、
ノエたちと共に追っ手を逃れて旅を続けていくのだが・・・

冒頭から第1作・第2作のキャラも多数登場し、
後半では協力してデュナンたちを救うべく行動を始めることになる。


異世界ファンタジーではあるけれど、内包したテーマは意外と重い。

第一には "多数派によって虐げられる少数派" の物語だろう。

超常の力を持つが故に、その力を持たない
多数の "普通人" によって迫害される魔導士たち。

このあたりはファンタジーよりもむしろ
アメリカSFの黄金時代や、日本SFの黎明期の
超能力者(いわゆるエスパー)ものの雰囲気を感じた。

私の知る限り、「スラン」(A・E・ヴァン・ヴォークト)が嚆矢かなぁ。
その後、平井和正をはじめとして、
多くの日本人作家も超能力SFを発表してきた。
1977年には、超能力者たちが起こした反乱を描いた
「地球(テラ)へ・・・」(竹宮恵子)いう堂々の超大作まで登場した。

ちなみに、『-系譜』で起こるカデンツァ地方の反乱も、
やがて魔導士たちが安住の地を求める戦いへと変化していく。

さらに、本シリーズ中の少数派は魔導士にとどまらない。
この世界で、男性に比べて権利が制限されている女性が
自らの力を発揮する場を求めての戦いも描かれるし
特筆すべきは、本作中で重要キャラの一人が
自らを "性的少数派" だとカミングアウトすることだ。
この手の作品に(単なる賑やかしのためでなく)
LGBTが登場することは珍しいことだと思うし、
現代に書かれた作品ならではのことと言えるだろう。


第二には、自分の道を捜す者たちの物語であること。
たとえばカレンスの中には、妹を見殺しにした後悔と贖罪の意識が、
ノエの中には父の期待に応えられない自分へのコンプレックスがあり、
それが物語の中で彼らを動かす原動力となっている。

自分は何のために存在するのか? 何をするべきなのか?
この世界の中で、自分に与えられた "役割" を見つけようと
必死にあがく姿が描かれていく。

そしてそれは若者だけにとどまらない。
三流魔導士のレオンの中には、他の魔導士への嫉妬があり
元騎士のガンドは、怪我が原因で戦う気力を失ってしまっている。
しかし物語が進むうちに、自分にしか出来ないことを見つけたり
守るべきもののために再び剣をとる覚悟を固めたりしていくのだ。
挫折した大人が再び自らの矜持を取り戻す物語とも言えるだろう。

レオンとガンドには作者も愛着があるらしく
『-矜持』のあとがきで二人
に対する思い入れを語っている。


さて、シリーズを重ねるにつれて登場人物も多岐にわたり
その数も半端ではない。それなりに出番のあるキャラに限っても
両手両足の指では足りないだろう。
しかしたいしたものだと思うのは、みなキャラ立ちがはっきりしていて
その書き分けがきっちり出来ていること。

後続の巻になればなるほど、物語に絡んでくる人物も増えていくのだが
前巻までに既出のキャラのうち、必要な者を必要に応じて
過不足無く再登場させる、その交通整理ぶりも見事だ。

既刊の3巻、すべて文庫で400ページ超えというボリュームながら
上記のように筆力は申し分なく、ページを繰る手を止めさせない。
いやはやたいした新人さんである。


最初のうちは異世界の年代記か、主要キャラの半生記みたいなもので
これからかなり長く続くシリーズになるんだろうと
勝手に思っていたんだが、東京創元社のホームページによると
どうやら次巻『魔導の黎明』で完結となるらしい。

おそらく本シリーズは、魔導士が蔑まれ迫害されてきた世界が、
新しい価値観へと変化していく "歴史の転換点" を
描くものになるのだろう。

さらには、ラバルタから流出した魔導技術が
他国へと "拡散" していくことは
この世界の軍事バランスを崩すことにもつながりそうだ。
それによって新たな戦いが始まる可能性もある。

メインキャラたちの辿る運命ももちろんだが
この世界が迎える未来もまた気になる。
完結編を期待して待ちたいと思う。

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