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魔導の系譜 / 魔導の福音 / 魔導の矜持 [読書・ファンタジー]


魔導の系譜 (創元推理文庫)

魔導の系譜 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/07/21
  • メディア: 文庫
魔導の福音 (創元推理文庫)

魔導の福音 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/03/11
  • メディア: 文庫
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

第一回創元ファンタジイ新人賞で優秀賞を受賞した
『魔導の系譜』から始まった「真理の織り手」と呼ばれる
シリーズの第1巻から第3巻までである。

舞台となるのは、中世の西洋を思わせる異世界。
タイトルにある "魔導" とは、いわゆる魔法のことで
火・水・風などを操る超常の能力を指し、
その力を持つものは「魔導士」と呼ばれる。

"魔導" の力を持つかどうかは先天的に定まっており、
その力を備えたものは "普通人" の間に一定の割合で生まれてくる。
しかし、その能力者に対する扱いは国によってかなり異なる。


第1巻『魔導の系譜』の舞台となる国・ラバルタでは
魔導士は蔑みの対象となっている。たとえ高貴な家に生まれようとも、
僧院に送られてそこで一生を終えることを定められてしまう。

しかし魔導士を "武力の一つ" として評価している国王は
最高機関<鉄(くろがね)の砦>を設け、
そこに国内最高レベルの魔導士を集めて組織化していた。
腕に覚えのある魔導士たちは、人並みの扱いを手に入れるためにも
<鉄の砦>に選ばれることを目指していた。

田舎で魔導の私塾を開いている三流魔導士レオンは、
ある日<鉄の砦>からゼクスという10歳の少年を預けられる。
桁違いに優れた潜在能力を持ちながら、頑なに心を閉ざし、
魔導を学ぶことを拒否するゼクスだったが
辛抱強いレオンの指導のもと、やがてその才能を開花させていく。

7年後、ふたたび<鉄の砦>へ迎えられたゼクスだったが
そこで出会った貴族出身の魔導士・アスターとの出会いが
ゼクスの運命を大きく変えていくことになる。

さらに3年の後、ラバルタ北方のカデンツァ地方で反乱が勃発。
ゼクスとアスターを含む魔導士部隊も鎮圧のために出兵するが・・・


第2巻『魔導の福音』では、『-系譜』でのラストシーンから
6年ほど時間軸を巻き戻し、舞台もラバルタの隣国エルミーヌに移る。
この国では、生まれた子供が "魔導" の持ち主と判明すると、
速やかに "神のもとに返す"、つまり命を奪うことが習わしになっていた。

主人公となるのは地方貴族の嫡男・カレンス。
16歳になった秋、彼は王都にある王立学院への
入学生として推薦されることになった。
しかし時を同じくして妹リーンベルが "魔導" の持ち主と判明する。
妹がその命を散らすことに対して何も出来なかったカレンスは
逃げるように故郷を後にして王都へ向かう。

王立学院での生活はカレンスに充実した日々をもたらす。
親友となったアニエスは、学院始まって以来の
文武にわたる最高成績を叩き出した生徒で、実は女性であった。
本来女子の入学を想定していなかった学院だったが
その優秀さゆえ、特例によって入学を認められていたのだ。

しかし楽しい日々も永久には続かない。
21歳になったときに故郷から届いた報せは
父の危篤を知らせるものだった。
そして死を目前にした父が、帰郷したカレンスに打ち明けた "秘密"。
それは封印してきたはずの過去と向き合うことを彼に強いるのだった。

エルミーヌの国王もまた、魔導士の "戦力" としての価値を認め、
ラバルタ国内の反乱勢力への支援と引き換えに
彼らから "魔導技術" を導入することを目論むことになる。

後半になると前作のメインキャラ二人も本書の中に登場して
カレンスの運命に大きく関わっていく。


第3巻『魔導の矜持』は、カレンスの帰郷から5年後に始まる。
作中に年号が記載されているのでメインキャラの年齢を計算してみると、
ゼクスは28歳、カレンスは26歳になっている。
ちなみにレオンは42歳、なんと厄年だ(笑)。

舞台はふたたびラバルタに戻る。内乱は停戦となったものの、
国内の魔導士への迫害はいっそう厳しさを増し
各地で魔導士が襲われる事件が続発していた。

ヒロインとなるデュナンは16歳。魔導士の能力を持って生まれ、
私塾に入って技を磨いていたが、どうにも力が伸びず落ちこぼれ気味。
その私塾もまた村人に襲われ師や兄弟子たちは殺害されてしまう。
生き残った弟妹弟子3人を連れて逃亡するデュナン。

彼女ら4人を救ったのは、地方領主の庶子ノエと元騎士のガンド。
デュナンは自分たちが魔導士であることを隠し、
ノエたちと共に追っ手を逃れて旅を続けていくのだが・・・

冒頭から第1作・第2作のキャラも多数登場し、
後半では協力してデュナンたちを救うべく行動を始めることになる。


異世界ファンタジーではあるけれど、内包したテーマは意外と重い。

第一には "多数派によって虐げられる少数派" の物語だろう。

超常の力を持つが故に、その力を持たない
多数の "普通人" によって迫害される魔導士たち。

このあたりはファンタジーよりもむしろ
アメリカSFの黄金時代や、日本SFの黎明期の
超能力者(いわゆるエスパー)ものの雰囲気を感じた。

私の知る限り、「スラン」(A・E・ヴァン・ヴォークト)が嚆矢かなぁ。
その後、平井和正をはじめとして、
多くの日本人作家も超能力SFを発表してきた。
1977年には、超能力者たちが起こした反乱を描いた
「地球(テラ)へ・・・」(竹宮恵子)いう堂々の超大作まで登場した。

ちなみに、『-系譜』で起こるカデンツァ地方の反乱も、
やがて魔導士たちが安住の地を求める戦いへと変化していく。

さらに、本シリーズ中の少数派は魔導士にとどまらない。
この世界で、男性に比べて権利が制限されている女性が
自らの力を発揮する場を求めての戦いも描かれるし
特筆すべきは、本作中で重要キャラの一人が
自らを "性的少数派" だとカミングアウトすることだ。
この手の作品に(単なる賑やかしのためでなく)
LGBTが登場することは珍しいことだと思うし、
現代に書かれた作品ならではのことと言えるだろう。


第二には、自分の道を捜す者たちの物語であること。
たとえばカレンスの中には、妹を見殺しにした後悔と贖罪の意識が、
ノエの中には父の期待に応えられない自分へのコンプレックスがあり、
それが物語の中で彼らを動かす原動力となっている。

自分は何のために存在するのか? 何をするべきなのか?
この世界の中で、自分に与えられた "役割" を見つけようと
必死にあがく姿が描かれていく。

そしてそれは若者だけにとどまらない。
三流魔導士のレオンの中には、他の魔導士への嫉妬があり
元騎士のガンドは、怪我が原因で戦う気力を失ってしまっている。
しかし物語が進むうちに、自分にしか出来ないことを見つけたり
守るべきもののために再び剣をとる覚悟を固めたりしていくのだ。
挫折した大人が再び自らの矜持を取り戻す物語とも言えるだろう。

レオンとガンドには作者も愛着があるらしく
『-矜持』のあとがきで二人
に対する思い入れを語っている。


さて、シリーズを重ねるにつれて登場人物も多岐にわたり
その数も半端ではない。それなりに出番のあるキャラに限っても
両手両足の指では足りないだろう。
しかしたいしたものだと思うのは、みなキャラ立ちがはっきりしていて
その書き分けがきっちり出来ていること。

後続の巻になればなるほど、物語に絡んでくる人物も増えていくのだが
前巻までに既出のキャラのうち、必要な者を必要に応じて
過不足無く再登場させる、その交通整理ぶりも見事だ。

既刊の3巻、すべて文庫で400ページ超えというボリュームながら
上記のように筆力は申し分なく、ページを繰る手を止めさせない。
いやはやたいした新人さんである。


最初のうちは異世界の年代記か、主要キャラの半生記みたいなもので
これからかなり長く続くシリーズになるんだろうと
勝手に思っていたんだが、東京創元社のホームページによると
どうやら次巻『魔導の黎明』で完結となるらしい。

おそらく本シリーズは、魔導士が蔑まれ迫害されてきた世界が、
新しい価値観へと変化していく "歴史の転換点" を
描くものになるのだろう。

さらには、ラバルタから流出した魔導技術が
他国へと "拡散" していくことは
この世界の軍事バランスを崩すことにもつながりそうだ。
それによって新たな戦いが始まる可能性もある。

メインキャラたちの辿る運命ももちろんだが
この世界が迎える未来もまた気になる。
完結編を期待して待ちたいと思う。

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オーリエラントの魔道師たち [読書・ファンタジー]


オーリエラントの魔道師たち (創元推理文庫)

オーリエラントの魔道師たち (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

作者は2011年にファンタジー作家としてデビュー、
"オーリエラント" と呼ばれる異世界を舞台にして
作品を発表し続けている。
そのほとんどが長編だったのだけど、初の短編集となるのが本書。

「陶工魔道師」
陶工師ヴィクトゥルスは、魔法を込めた焼き物を作る。
望みを叶えることも、人をおとしめることも・・・
彼のもとを訪れた貴族タモルスは、
立身出世を実現する焼き物を所望するが
まずは "焼き物による魔法" を証明してみせよ、と命じる。
因果応報、って言葉を感じるラスト。

「闇を抱く」
酒に溺れて家族を顧みない父に代わり、働くことを決意したオルシア。
フェデルの町へやってきた彼女は、名家の奥方・ロタヤから紹介され
機織工房を営むリアンカのもとで働き始める。
父親が連れ戻しにくることを心配するオルシアに
リアンカは紐を使った不思議な "お呪(まじな)い" を教えるのだった。
日用品と人体の一部を用いた魔法 "アルアンテス" も面白いが
男に虐げられた女たちの巡らす "裏のネットワーク" も興味深い。
"秘密結社" というほどのものではないが、
女性たちが密かに手を組んでいるというのは
男からするとなかなか脅威ではあるかな(笑)。
ちょっと「デューン」(F・ハーバート)を思いだしたりして。

「黒蓮華(こくれんか)」
コンスル帝国の兵士に村を焼き払われ、家族を失った少年は
長じて人や動物の死体を用いた魔法 "プアダン" を身につけた。
ベイルスの町の役人・アブリウス。
ある日、彼は自分の机の引き出しの中に
ネズミの目玉が放り込まれていることに気づく。
それはプアダン魔道師となった "彼" による復讐の始まりだった。
後半はちょっとミステリタッチかな。
復讐の物語なんだが、読後感は悪くない。

「魔道写本師」
本と文字を用いて行う "ギデスティン魔法" を身につけた
写本師・イスルイールは、港町ナーナで
二十数年ぶりに弟・ヨウデウスと再会する。
しかしその夜、イスルイールの家は
水の魔道師・ハインによって襲撃を受けてしまう。
後半には二人の魔道師の戦いや幻想的なシーンも織り込まれ
これぞファンタジー、という物語が展開する。


陶器、日用品、死体、書物など
作者の描く魔法には様々なバリエーションがあって
1作ごとに新しい "技" を見せてくれる。
杖1本で実現する魔法もそれはそれで楽しいが
こういうものもなかなか面白い。

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玉妖綺譚 / 玉妖綺譚2 異界の庭 [読書・ファンタジー]


玉妖綺譚 (創元推理文庫)

玉妖綺譚 (創元推理文庫)

  • 作者: 真園 めぐみ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/05/21
  • メディア: 文庫
玉妖綺譚2 (異界の庭) (創元推理文庫)

玉妖綺譚2 (異界の庭) (創元推理文庫)

  • 作者: 真園 めぐみ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★

第1回創元ファンタジイ新人賞で優秀賞を受賞した作品とその続編。

舞台となるのは、パラレルワールドの日本と思しき世界。
我々の世界と異なっているのは"皇国大和"と称する国名だけでなく、
人の目に見えない "妖(あやかし)" が跋扈していること。

ちなみに皇国の首都は櫂都といい、
西にあった前首都から遷都されて24年めという設定。
技術レベルは、街中を馬車が走っていることから
明治時代くらいかなあと思われる。

この世界では異界と現実世界との間に
"竜卵石" と呼ばれる石が産出される。
この石は、持ち主の"気"を受けて、その中に"精霊"を宿す。
これがタイトルにある「玉妖」である。

石ごとに色やかたちが異なるように、玉妖も様々な性格の者がいる。
しかし総じて、類い希な容姿をもつ。要するに美男美女ばかりなんだね。

その玉妖と主従の契約を交わせば、
彼らを "使役" することもできるのだが
彼ら自身にも意思があり、時として主の命令に従わないこともある。
また、人間の気によって "育つ" ものでもあるため、
その性格や外見にも持ち主の影響を受けることになる。

また、竜卵石にも "格" というものが存在するようで
最高の竜卵石群は、コレクターである
難波俊之・さゆき夫妻が所持していた7個。
しかしさゆきが亡くなり、俊之が謎の失踪を遂げて
「難波コレクション」は散逸してしまう。

本書のヒロイン・高崎綾音とその姉・百合乃の姉妹は
俊之が失踪する直前に7個のうちの2個、
"くろがね" と "ほむら" を贈られていた。

しかし百合乃は玉妖であるほむらに恋してしまい(美男だからね)
現実世界に背を向けて玉妖の "郷" に閉じこもってしまう。

姉を救うために、綾音はくろがねと主従の契約を交わし
「驅妖師(くようし)」の修行を始める。
驅妖師とは、玉妖を含めて妖がらみのトラブル全般を解決する仕事だ。

長編ではあるが、実質的には
綾音とくろがねが出会う事件を描いた連作短編集だ。

俊之の甥で探偵事務所を経営する難波彬良は
コレクションの再収集を目指しており、
その共同経営者かつ驅妖師の伊上亮輔は、
やがて綾音と深く関わるようになる。

第1巻は、登場人物の紹介を兼ねながら、
"玉妖" に魅入られた人々の哀感を綴り、
綾音が百合乃を救出するまでが描かれる。

続巻では、前巻の終わりで "眠り" についてしまった
くろがねを目覚めさせるため、
綾音がその方法を探していく途中で
敵役となる驅妖師・佳奈屋、"妖" 一切に理解がない警官・皆川、
その同僚で謎めいた行動をとる女性・野田麻緒などが登場し、
俊之の失踪の理由、異界と現実世界の関係にも
何やら秘密がありそうなことが示唆され
物語はさらに続いていくことになる。


とまあ、いろいろ書いてきたんだが
今ひとつ私の好みではないかなあ。

何処がどう悪いということはないんだが
例えば美男の玉妖に恋してしまう人間の娘とか
亡くなった恋人を玉妖の姿で "再現" させようとする男とか
(玉妖は持ち主の "気" で育つから、そういうことも可能になる)
玉妖を巡る人間の姿が醜いとまではいかないけれど、
読んでいて辛いのは確か。

もちろん作者はそういう存在は否定しているし、
玉妖を "悪用" しようとする動きは
ヒロインたちによって阻止されていく。

でもねぇ、なんだろう。
つまらないわけではないんだけど心が躍らないというか。
私が求めるファンタジーの楽しさとは
ちょっと異なるテイストなんだろうなあ。

まあ、好みの問題だと思います。

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猫色ケミストリー [読書・ファンタジー]


猫色ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

猫色ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

計算科学を専攻する大学院生・菊池明斗(あきと)。
人付き合いが不得手だが、彼自身はそれでかまわない様子。
半年前、彼は学内で衰弱した猫を見つけ、
農学部棟裏の倉庫でこっそり飼いはじめた。

今ではすっかり元気になり、明斗と戯れるようになった。
そこへ通りかかったのは同級生の辻森スバル。
猫をきっかけに彼女と会話を始めた明斗だが、
コミュニケーション能力に難がある明斗は言葉選びに四苦八苦。

そこへ予期せぬゴロゴロという音が響き、そして突然の落雷が。

やがて意識を取り戻した2人の身には、驚きべき現象が。
明斗の意識はスバルの身体の中で目覚め、
ズバルの意識はなんと猫の中にあった。
どうやら "魂" が "移動" してしまったらしい・・・

では猫の "魂" は明斗の中? かと思ったが
明斗の肉体は意識を失って昏睡状態になってしまっていた。

 男女の意識が入れ替わる、なんてのはよくあるパターンではある。
 去年の「君の名は。」なんてまさにそうだったが
 本作は2012年の発表である。

男の意識が女の身体に入ってしまったわけで、
そのあたりでのお約束のドタバタシーンはしっかりとあります(笑)。
ちなみに人間の明斗と猫のスバルの間には
テレパシーがはたらくようで、意思の疎通は問題ない。

意識を失った明斗の身体は病院に収容され、
明斗はとりあえずスバルとして生活することに。
もちろん、スバルの "入った" 猫もいっしょに。

何とかもとの状態に戻す方法を探す2人だが、
スバルには差し迫った問題があった。
修士論文の締め切りが1ヶ月後に迫っており、
結果が出せなければ卒業させない、と担当教授から厳命されていたのだ。

彼女の専攻は有機化学。もちろん猫では実験は無理なので、
明斗がスバルとして研究室に入り、横にいる猫(スバル)から
指示を受けながら実験をすることに。

幸い、研究室のメンバーは猫を持ち込むことを快諾してくれた。
それはよかったものの、
実験室でキャットフードを食べたスバルの具合がおかしくなる。

そのことがきっかけで、2人はある疑いを持つ。
何者かが実験室で違法薬物の合成をしているのではないか?

そして、それを食べたスバルの症状から、
その薬物は2人の "入れ替わり" を解消できる可能性ももっていそうだ。

餌に薬物を混入したのは誰か? そしてその目的は?

おりしも入院中の明斗の身体は、バイタルサインが下降を始めており、
このままでは遠からず死亡することが明らかに。
それまでに、2人は犯人を見つけ出し、
そして元に戻ることはできるのか?


デビュー作「ラブ・ケミストリー」に続く第二作。
舞台は前作と同じ東大(たぶん)だが、
ストーリー的には全く関連はないので、本作から読んでも問題ない。

ミステリ要素は前作よりさらに薄いが、
ファンタジー仕立てのラブコメとしてはとてもおもしろい。

いままで全くといっていいほど接触のなかった2人が、
"魂" の入れ替わりをきっかけに
濃密な日々を過ごさざるを得なくなる。
想定外の事態に翻弄されっぱなしで、悩むばかりの明斗に対し、
スバルさんの明るさと思い切りの良さがストーリーを引っ張っていく。

ラストはコメディらしく、明るい未来を予感させるエンディング。
払った値段に見合うだけの、楽しい読書の時間を過ごせるだろう。

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ラブ・ケミストリー [読書・ファンタジー]


ラブ・ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ラブ・ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/03/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆


主人公は東大農学部で有機化学を専攻する大学院生・藤村桂一郎。

 本文中には「東大」って出てこないんだけど、
 いろんな描写からしてまちがいなくここ。

修士課程2年生の彼には、ある特殊能力があった。
それは、どんな化合物であっても、その構造式を見ただけで、
それをつくりだすための合成方法が頭に浮かぶ、というもの。

作中のたとえで言えば、どんな料理であっても
その写真を見ればレシピが頭の中に閃いてしまう、ということだ。

彼はその能力を駆使して様々な化合物の合成法を開発し、
大学院生としては桁外れに優れた論文を多数発表していて、
早くも将来のノーベル賞候補とも噂されている。

そんな彼の現在の研究テーマは「プランクスタリンの全合成」。
海洋生物から発見されたアルカロイドの一種で、
世界中の研究者が合成を試みているが
未だ誰も成功していないという難物だ。

しかし、その彼をスランプが襲う。
彼が師事する神崎教授の下に新規採用された秘書の真下美綾ちゃん。
いままで女性に全く縁がなかった桂一郎くんは彼女に一目惚れ。
初めての恋に悶々となったのが原因か、
すっかり特殊能力を失ってしまったのだ。

研究成果の発表日が迫る中、焦りまくる桂一郎くんの前に現れたのは
自らを "死神" だと語る謎の女性・カロン。
彼の前で物理法則を越えた超常能力を示してみせ、
さらには人の心に介入して記憶の改竄まで可能だという。
その彼女が、なぜか桂一郎くんの初恋に力を貸そうと言い出す。

かくして、死神に後押しされた桂一郎くんは
美綾ちゃんに告白するために、涙ぐましい努力を始めるのだが・・・


第9回『このミステリーがすごい!大賞』優秀賞を受賞した作品。
たしかにミステリ要素もあるけど、それよりは
ファンタジー仕立てのラブコメと言った方が近い。

「彼女いない歴=年齢」という、
女性に対する免疫ゼロの主人公・桂一郎くんが
恋の成就のために右往左往するドタバタぶりも微笑ましいが
特殊能力を失った桂一郎くんを心配し、支えようとする親友・東間、
桂一郎くんの恋愛指南を買って出る学部4年生の岩館愛子、
"二次元の恋人" とフィギュアにはまるオタク後輩の百瀬、
桂一郎の特殊能力に心酔し、彼を "師匠" と慕う有機合成バカ・上杉など
研究室の仲間や後輩たちもキャラが立ってる。

後半に入ると恋のライバルも現れるし
さらには美綾ちゃんの意外な秘密が明かされ、
桂一郎くんはとんでもない選択を迫られることになる。

そして、終盤ではストーリーも二転三転、
桂一郎くんの "初恋" は予想外なところへ向かっていく。

エンディングはいささか都合が良すぎる展開かなあとも思うが
コメディなんだからハッピーエンドで終わらなきゃね。


とにかくこの作者、発行点数が新人にしては半端なく多いので
なんでそんなに人気があるの? と思っていたんだが
読んでみれば、評判になったのも納得。

作者は東大の薬学部を出て、大手製薬会社で研究員をしてるとのこと。
研究室や実験の描写がリアルで板についているのも納得だ。
ものすごく優秀な人なんだろうけど、文章は平易でとても読みやすい。

文庫に限ってもけっこうな数の作品が出ているので
もう何作か読んでみようと思う。

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おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ [読書・ファンタジー]


おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ (メディアワークス文庫)

おんみょう紅茶屋らぷさん ~陰陽師のいるお店で、あなただけの一杯を~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公かつ語り手は名古屋大学文学部4年生、佐々木英子さん。

彼女の弟・翔太は東大法学部へ現役で合格、
財務省ノンキャリアだった父の期待を一身に背負っていたが
交通事故で急死してしまう。

弟の意志を継ぐべく、英子は公務員へ志望変更したものの
上京して訪問した官公庁からは悉く振られてしまう。

失意のあまり、宿泊していた新宿のホテルへ帰る途中、
うっかりと電車を乗越して吉祥寺で降りてしまう。
彼女がそのホームで見たものは、風呂敷包みを背負って歩く、
一見すると "ゆるキャラ" の着ぐるみのような "牛"。

目が合ったとたん "牛" は逃げ出し、思わず後を追う英子。
駅前の商店街に逃げ込み、路地や横町を駆け抜ける "牛"。
気がつけば街は深い霧に覆われ、彼女の前には一軒のカフェ。
看板には「L'ABSENT 紅茶屋 らぷさん」の文字が。
そこで "牛" から当身を食らった英子は気を失う。

カフェの店内で意識を取り戻した彼女の前に現れたのは
平安貴族の直衣(のうし)を着た青年・本多正朝(まさとも)。
そしてそこには "牛" だけでななく "寅(トラ)" までいる。
実は正朝は代々続く陰陽師の家系で
彼の周囲にいる不思議動物たちは "式神" なのだという。

そして、正朝は語る。この店に来る人はみな
「人生を狂わせるほど病んでいる」のだと。そして彼は
そんな人たちのために美味しい紅茶を淹れ、癒しを与えるのだと。
もちろんお茶を出すだけで事態が解決するはずもないので
正朝と式神たちのさまざまな "活躍" がつづられていく。

「第1章 生き残ったダージリン」では英子と父親との確執を解き、
彼女は正朝の "姉" のとりなしで
カフェで「らぷさん」でアルバイトを始めることになる。

続く「第2章 吹き抜けるウヴァ」では
幼馴染の女子高生・ルミの謎の行動に煩悶する文雄くんを救い、
「第3章 祝福のキームン」では
占いにはまって結婚式の延期を言い出した婚約者・正樹の行動に
納得できないOL・小百合さんが来店し、
英子は正朝とともに正樹の抱える "秘密" の解明に乗り出していく。

日常の謎と伝奇風味をミックスしたミステリ、とも読めるが
どちらかというとファンタジー寄りな雰囲気のほうが濃いかな。
謎解きよりも式神の活躍のほうがメインなような気もするし。

優秀な兄弟を持つと何かと比較されて大変だろうと思う。
英子さん自身も一浪とはいえ名古屋大に入ってるんだから
十分大したものだと思うんだけど、親父さんはそう思ってくれないらしい。

その父親と和解した英子さんは、弟の身代わりとしてではなく
自分自身の望む新たな目標を定めて生活を始める。
正朝がカフェを構えているのにも何か目的があるらしいし、
彼の "姉" と称する女性も、井の頭大学の院生という以外は正体不明だ。

本書はシリーズ化されているので、
そちらもおいおい語られていくのだろう。

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荒神 [読書・ファンタジー]


荒神 (新潮文庫)

荒神 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「ソロモンの偽証」以来、久々の宮部みゆき。

本書は "怪獣が出てくるスゴい時代小説" だという噂を聞いたので
怪獣好きの私としても放っとけない。
というわけで読んでみた次第。
ちなみにタイトルは「こうじん」と読むそうです。


時は元禄。東北の二つの小藩が舞台となる。

香山(こうやま)藩と永津野藩は、関ヶ原の昔からいがみ合う仲であった。
もともとは永津野藩の家老の一人、瓜生氏が独立したのが香山藩だが
それを認めない永津野藩主・竜崎氏は香山藩の併合を狙っていた。

その永津野藩に曽谷弾正という男が現れる。
彼は藩主・竜崎高持に気に入られ、
藩政改革で成功を収めて、たちまち藩主側近筆頭まで上り詰める。

やがて故郷から妹・朱音(あかね)を呼び寄せたが、
彼女は城下の屋敷住まいを嫌がり、
香山藩との境界近くの集落に居を構えた。

そんなある日、朱音は瀕死の状態の少年・蓑吉を保護する。
意識を取り戻した蓑吉が語ったのは、恐るべき変事だった・・・


この物語における "人間側の主役" は朱音だろう。
人間のドラマも、"怪獣" を巡るストーリーも、
最終的には朱音に集約されていく。


"謎の巨大生物" が現れ、破壊の限りを尽くすのが
メインストーリーとなれば、もうこれは怪獣ものの王道パターン。
それも『ゴジラ』がモチーフとなっている。

主要登場人物の一人である曽谷弾正が、
隻眼で眼帯をつけているところなど
『ゴジラ』に登場した科学者・芹沢博士への
オマージュ以外の何物でもないだろう。

もっとも、その役回りは芹沢とはかなり異なる。
"怪獣" を "葬る" のに大きく関わるのは同じなのだが・・・

その "怪獣" だが、通常の生物ではないことがだんだん分かってくる。
どちらかというと "妖怪" に近い存在かと思う。
終盤でその出自が明らかになるのだが、読者はちょっと驚くだろう。

"怪獣" の出現の背後には凄まじい "人間の業" があり、
そういう意味では『大魔神』にも通じる雰囲気もある。


メインとなる怪獣譚とともに、サイドストーリーも同時並行して語られる。

香山藩側のメインキャラとなるのは、藩主の小姓・小日向直弥。
長い病気療養から復帰した直弥は、
永津野藩との境で起きた "変事" の真相を探るべく現地へ向かう。

その香山藩では、藩主の世継ぎが病に伏すが、
そこには何者かによる陰謀の存在が疑われる。

 このあたりはミステリ的な "絵解き" も最後に示される。
 さすがは宮部みゆきと言うべきか。
 これだけでも短編が一本書けそうなネタが投入されている。

永津野藩では、弾正が壮大な野心を内に秘めて画策を続ける。


複数のストーリーラインに伴い、多彩なキャラが登場する。
朱音を支える浪人・榊田宗栄(さかきだ・そうえい)、
相模藩の絵師にして諸国放浪中の菊地圓秀(きくち・えんしゅう)、
直弥の親友・志野達之助、その父・兵庫之介、
志野家に仕える従者・やじは、何やら事情を秘めた様子。

冒頭に登場人物の一覧表があるのだけど、
けっこう登場シーンが多くて台詞もあるキャラが載ってなかったりする。

特に、物語上重要と思われるキャラが2名ほど載っていない。
これは入れ忘れたのではなく、故意に載せていないのだろう。
(だからここにも書かない。)

どんなキャラが出てくるのかは読んでのお楽しみだ。


"怪獣" の猛威の前に、人間たちはあまりにも無力だ。
そんな人間たちの愛憎のドラマをも呑み込んで、
"怪獣" は人間たちの営みを蹂躙していく。

そして "怪獣" の出自が明らかになったとき、
同時にそれを "葬る" 策もまた、もたらされる。
その方法とは・・・

しかし、このエンディングはなあ・・・
ちょっと××い結末なので、本体なら星4つなんだけど
星半分減点してしまいました。

いや、「素晴らしいラストだ」って思う人の方が多いと思うよ。
それは分かってるんだ。
でも、私の好みとは微妙に異なるんだなぁ。


この小説は、NHKでドラマ化されて
来年1~2月頃にBSで単発ドラマとして放送されるとのこと。
ちなみに放送時間は100分。うーん、ちょっと短いかな。
枝葉のエピソードがばっさりとカットされそう。

NHKのホームページで、現在までに判明している配役は以下の通り。

朱音:内田有紀
曽谷弾正:平岳大
榊田宗栄:平岡祐太
菊地圓秀:柳沢慎吾

この4人に関しては、けっこうイメージはあってるように思う。

特に平岳大さんは、最近ますますお父さんの平幹二朗に似てきて、
(本人は嫌がるかも知れないけど)いい雰囲気。

"人間の業" の化身のような、
野心たっぷりの弾正を見せてくれそうだ。

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鹿の王 全4巻 [読書・ファンタジー]


広大な平原地帯にあったアカファ王国は、
東の大国・東乎琉(ツオル)の侵攻を受けた。

東乎琉の強大さを知るアカファ王は
あっさりと降伏し、恭順の意を表したが
最後まで抵抗を続ける者もいた。

"独角"(どっかく)と呼ばれる戦士団の長にして
"欠け角のヴァン" の二つ名で知られる男もまた
最後の一人になるまで戦い続けたが、衆寡敵せず
捕らえられて奴隷となり、アカファの岩塩坑の奥底に囚われていた。

妻も子も故郷も仲間も失い、絶望に沈んでいたヴァンだが、
ある夜を境に運命が変転していく。

不気味な犬の群れが岩塩坑を襲い、
それに噛まれた者たちの間に謎の病が発生したのだ。

看守・囚人を問わず、発病した者がことごとく死に絶える中、
ヴァンと、奴隷女の生んだ女児の二人のみが生き延びる。
彼はその幼子をユナと名づけ、ともに岩塩坑を脱走する。

かつて平原地帯に栄えたオタワル王国は、
伝染病によって多数の人民を失い、国勢の衰えを悟ると
アカファ人に王国の統治権を譲り、
その中枢だった貴人たちは険しい山々に囲まれた盆地に
"オタワル聖領" を築いて移り住んだ。
そしてそこで古より伝わる医学・工学などの技術を磨き、
深めることに専念することにしたのだ。

 読んでいて、このへんはアシモフの
 「ファウンデーション」を連想したよ。

そのレベルの高さに東乎琉帝国も利用価値を認め、
"聖領" はその存続を容認されていた。

その "オタワル聖領" でも「天才的な医術師」と目されるホッサル。
彼は謎の病で全滅した岩塩坑を調査し、遺体の状況から
250年前に故国を滅亡へ導いた伝説の病 "黒狼熱"(ミッツァル)が
再び現れたことに気づく。

さらに彼は、病から生き残った者がいたことを知り、
その後を追い始める。
その男の体を調べれば、病に対抗する方法が見つかるのではないか。
そう考えたからだ。

物語は、ユナと二人で安住の地を探すヴァンと、
彼らを追うオタワル医師ホッサル、
それぞれのパートを交互に描きながら進行する。

オタワルの最新医術を受け入れようとしない旧弊な東乎琉の祭司医たち、
それに苦慮するオタワル医師たち。
その中心になるのはホッサルの祖父にして高名な医術師リムエッル。

平原の北辺にあるオキ地方に暮らし、
そこでヴァンたちを受け入れる青年トマとその家族たち、
烏に魂を乗せて飛ぶことができる古老にして
<谺主>(こだまぬし)と呼ばれるスオッルなど
多彩なキャラクターが登場する。

東乎琉に忠誠を誓い、その後は
世捨て人のように暮らしているアカファ王だが、
その実けっこうしたたかに生きてるところとか、キャラの深みも充分。

そして、命令によってヴァンを追跡するうちに
次第に彼に思いを寄せるようになる<後追い狩人>のサエ、
ホッサルの助手にして実質的な妻であるミラルなど女性陣も魅力的。

やがて、"黒狼熱復活" は単なる自然現象ではなく、
その陰には、様々な勢力の陰謀・思惑・怨嗟などが
複雑に絡み合っていることが明らかになり
それに巻き込まれたヴァンとユナは、
長い長い苦難の道を歩んでいくことになる。

ファンタジーではあるけれど、医学的な描写はかなり現実に即している。
"黒狼熱復活" に至るくだりもそうだし、
いわゆる "免疫" とか "抗体" という概念に
ホッサルたちが到達していく過程も描かれる。
ちょっと進歩が早すぎる気もしなくもないが(笑)

タイトルにある「鹿の王」という言葉は
物語の途中でも何回か出てくるのだけど、
その本当の意味は最終巻の最終章で明らかになる。
そこでヴァンは、愛する者たちが平穏に暮らせる世界を取り戻すため、
ある決断を下すことになる。

それについて詳しく書くとネタバレになるのでここでは触れないけど
そのシーンを読んでいたら、涙があふれ出てきて、
文字が追えなくなってしまったことを告白しておこう。

とは言っても、決して悲しい話ではない。

これは、一度はあらゆるものすべてを失ってしまった男が
再び故郷を、仲間を、
そして家族を取り戻すまでを描いた物語なのだから。

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空棺の烏 [読書・ファンタジー]


「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
そして「黄金(きん)の烏」と続く、
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の第4巻。
ちなみに「空棺」は「くうかん」と読むのだそうな。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

そして前作「黄金の烏」では、
その「八咫烏」を喰らい尽くそうとする凶悪な "大猿" が登場した。
"大猿" たちがどこから、何を目的にやってくるのかも不明だったが
どうやら「八咫烏」たちの世界の "外" から侵入してきたらしい。

作者によると、この「八咫烏シリーズ」は、もともと
烏たちと大猿たちの戦いがメインとなる予定だったらしいので、
いよいよこれからが本番なのだろう。

では、本巻はどんな位置づけなのだろう。
読み終わって思ったのは、「戦いの準備」の章だったということだ。

金烏代宗家の近衛兵にして、最精鋭部隊である「山内衆」。
その養成機関である全寮制の学校「勁草院」が舞台となる。

第二作からメインキャラを勤めている少年・雪哉が本作も主役を張る。
若宮の側近という地位を離れ、「勁草院」へ入学した雪哉だが、
学内には日嗣の御子を奉ずる若宮派と、兄宮である長束(なつか)の
巻き返しを期待する兄宮派があり、その派閥間抗争に巻き込まれていく。

学園ものだから、同級生や先輩としていろいろなキャラが登場する。

田舎育ちで庶民階級出身、おおらかな性格の茂丸、
大貴族である西家の御曹司で坊ちゃん育ちの明留(あける)、
あらゆる武術で天才的な冴えを見せるが、暗い陰をもつ千早。

お約束の "意地の悪い先輩" として登場する公近(きみちか)、その逆で
雪哉に引きずり回されるうちにすっかり後輩の面倒見役になってしまう
先輩・市柳(いちりゅう)はコメディリリーフ的な立ち位置。

そして教官たちも一筋縄ではいかない人が多い。
特に戦術理論を担当する翠寛(すいかん)は当代最高の用兵家と謳われ、
「盤上訓練」という授業を受け持っている。
これは「軍人将棋」とボードシミュレーションを組み合わせた
ウォー・ゲームみたいなもので、対戦する二人で
兵(を模した駒)を盤上に展開して軍を進め、勝敗を競うものだ。

その「盤上訓練」で、初っぱなからなぜか翠寛は
対戦相手として雪哉を指名する。
その初戦で雪哉は完敗を喫するのだが、
そのまま引っ込んでいるようでは主役は張れない。
後半には華麗なる逆襲も描かれるのだが、そのへんは読んでのお楽しみだ。
彼が「戦略家」として意外な(失礼!)才能を示すのも本書の読みどころ。

 全然関係ないけど、ここのシーンで何故か
 『スター・トレック』のコバヤシマル・テストを
 想定外の方法で突破したカークを想い出したよ。

そんな学び舎での日々を過ごしている彼らに、意外な知らせが舞い込む。
当代の金烏代である今上陛下が退位し、若宮に譲位しようとしたところ、
神官の長から「待った」がかかったのだ。
つまり、「若宮は果たして本当の "金烏" なのか」という
根本的な問題が発生していたのだ・・・

学園ものと言えば、同じ釜の飯を食っているうちに新たな友情を育んだり
人間的な成長を遂げたりというのがおきまりのパターンで、
本書もそういう要素は充分に持ち合わせているのだが
そこに雪哉はどうもあてはまらない。
だいたい「雪哉ってこんな性格だったっけ?」
「こんなに性格悪かったっけ?」って思うシーンがちらほら。

第1作はミステリとしてもよくできていた。
本作もそれに劣らず、あちこちに撒かれていた伏線が
きれいに回収され、「そうだったのか!」というラストを迎える。
雪哉に関する違和感というか疑問もここで氷解する、という仕掛けだ。

ラストシーンは、「卒業式」。学園ものなら当たり前でしょう。
見事、数々の難関を突破して「山内衆」に迎えられる卒業生たち。
「大猿を迎撃する準備」が順調に整いつつあることを示唆して「つづく」。

単行本では既に「第一部(全6巻)」が完結しているらしい。
あと2巻、「玉依姫」と「弥栄の烏」が文庫化されるのを待ってます。

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図書館の魔女 烏の伝言 上下 [読書・ファンタジー]


長編ファンタジー『図書館の魔女』の続編だ。

多島海に面する王国「一の谷」。
前作の主人公である<図書館の魔女>ことマツリカと、
その側近くに使える少年・キリヒトの属する国でもある。
海を挟んだ西側には「アルデシュ」、北に位置する帝国「ニザマ」。

「ニザマ」帝国の宰相・ミツクビの暗躍により、
「アルデシュ」は「一の谷」領への侵攻を企てる。
さらにミツクビは「一の谷」内部の有力者たちにも切り崩しをかけ、
野望達成の障害となるマツリカを抹殺するための刺客まで放ってきた。

ミツクビの陰謀に対抗し、「一の谷」を守るべく奮闘する
マツリカたちを描いたのが前作だった。

本書の物語は、前作の終了からさほど間がない頃に始まる。

前作のラストに於いて、国を二分する混乱に陥った「ニザマ」帝国。
非主流派に転落した者たちは、続々と国外への脱出を始めていた。

高級官僚の姫君・ユシャッパも、そんな者たちの一人。
少人数の近衛隊に守られ、雇った剛力(ごうりき)たちと共に
尾根道を越えて港町・クヴァングヮンにたどり着いた。
ここから海路で国外へ脱出するはずだった。

密かに逃亡を支援している郭(くるわ)にたどり着いた一行だが、
そこはすでに裏切り者の巣と化していた。
近衛隊の多くは命を落とし、ユシャッパは囚われの身となってしまう。

港町・クヴァングヮンには無数の運河が張り巡らされ、
干満の差によって生じる暗渠はさながら迷路のよう。
そこを根城にして暮らすのは、戦火で親を失った孤児集団「鼠」。

辛うじて生き残った近衛兵たちは、「鼠」の力を借り、
剛力たちとともに姫の奪還を目指すが・・・


近衛兵、そして剛力たちをメインにストーリーが進む。
前作同様、多くの人物が登場するが
みんなしっかり書き分けられてキャラが立ってるのはたいしたもの。

この手の「囚われのお姫様救出もの」は、
そのお姫様に魅力がないと盛り上がらないのだけど
ユシャッパは堂々の合格点だろう。

年齢は明記されないのだけど、たぶんマツリカとあまり変わらない
10代後半くらいかと思われる。
心優しいけれど気丈で、教養にあふれ、聡明で機転が利く。
下賤のものとも分け隔てなく接するなど、好感度も抜群。

例えば剛力の一人・エゴンは、まともに言葉を発することができない。
そのため仲間と離れ、もっぱら烏とともに過ごしているのだが
ユシャッパはそんなエゴンにも興味を抱き、親愛の情を示す。
そしてそれが、後半になると重要な "伏線" となって生きてくるのだ。

物語自体も堅牢な作り。
郭を牛耳る "裏切り者" たちの行動に

不審な部分もあったりと、実はあちこちに
様々な "伏線" が仕込んであり、
下巻に入るとそれらが綺麗に "回収" される。
つまり、よくできたミステリ並みに "構成" が綿密に行われていて、
ストーリーが実によく計算されている。もう脱帽です。


『図書館の魔女』の続編のはずなのに、
いつまで経ってもマツリカもキリヒトも登場しないので
フラストレーションが溜まる人もいるだろう。私もそうだった(笑)。

もっとも、「あれ?このキャラはあの人じゃないの?」ってのが
一人だけ出てくるんだけどね、それもけっこう早い時期に。

マツリカさんの登場には、下巻まで待たなければならない。
前作の記事にも書いたけど、
「博覧強記だけど傲岸不遜で偏屈者のマツリカさん」は今作でも健在だ。
彼女の毒舌を聞いているとだんだん嬉しくなってくる(えーっ)www。
すっかりマツリカさんのファンになってたんだねえ、私。

前作では「一の谷」から始まり、舞台は「ニザマ」へ移り、
さらには西大陸の奥深くまで移動していくなど
空間的なスケールが大きかったんだけど
本作では、物語はほぼ港町・クヴァングヮン内でのみ進行する。
そして全体からすればマツリカさんの登場する割合はわずかなど
「本編の続き」というよりは「外伝」的意味あいが強いかな。

でも、次作では(たぶん)マツリカとキリヒトの話を
がっつり描くのだろうし、その背景となる
「ニザマ」の混乱の様子を描いておくという意味もあったのだろう。

そして本作での新登場キャラのうち、
何人かは次作以降にも出演するのではないかな。
個人的には、ユシャッパさんにはぜひ出ていただきたい(笑)。

そういう意味では、やっぱり読み逃してはいけない作品なのだろう。

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