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影王の都 [読書・ファンタジー]


しばらくぶりに読書録を書くにあたって
記録を確認したら、何とこの本を読み終わったのは
もう2ヶ月も前だったよ。
うーん、けっこう内容を忘れてそうだなぁ・・・

影王の都 (創元推理文庫)

影王の都 (創元推理文庫)

  • 作者: 羽角 曜
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/03/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

第一回創元ファンタジイ新人賞選考委員特別賞受賞作。

かつて砂漠の王国に君臨した若き王は、
富に権勢、美貌さえも手にしていたが、
それにあきたらず不老不死までをも求めた。

しかしその傲慢さは神の怒りを買い、
王は現し身と正気を失って砂漠の都にただ一人幽閉され、
<影王>と呼ばれるようになった。

そして100年に一度ほど、現世から人を呼び寄せる。
呼ばれた者はそれに逆らうことはできず、
そして<影王の都>に入った者で戻ってきた者はいない・・・

ヒロインのリアノは16歳。
両親を失い、兄も家を出て天涯孤独の身の上。
ある夜、村の外れに一人で住む彼女の家を訪ねてきたのは
"口をきく髑髏" だった。

"髑髏" はリアノに告げる。
「広い世界に出るべきだ。おまえは旅立たなければならない」
「どこへ?」と問い返す彼女に "髑髏" は答える。
「行きたいところが決まっていないならば、
 私を黄金に輝く砂の大地に連れていってほしい」

しかし、"髑髏" とともに旅に出たリアノの前に
ファンミリオと名乗る若者が現れる。
彼は魔法を使って、リアノを遙かなる砂漠へと連れ去ってしまう・・・


リアノとファンミリオの本筋と並行して
<影王>に呼ばれた娘イーラと青年ヴィワン、
港町で暮らしているリアノの兄・ガレルーンの生活と
時も場所も異なる3つのストーリーが語られていく。

読んでいくうちに、多くのエピソード群を頭の中で時系列に沿って
並べ替えて整理しようとしても、これがなかなか難題なんだな。

最終的にこれらは融合して大きな物語を形成するのだけど
何がどう繋がるのか、それぞれが全体の中でどんなピースに相当するのか、
そして物語の着地点がどこにあるのかは容易に見えてこない。

そして、どちらかというと狂言回し的に思えた "髑髏" の意外な正体。
物語のあちこちで姿を見せ、この世界の鍵を握る "幻魔法師"・シド。

最終的にこれらのつながりはきれいに説明されることになる。
よくできたミステリのようでもあり、
よくできた○○○○○○○とも言えるだろう。


登場人物たちの多くは、物語の中で愛し合ったり憎み合ったりなど、
辛く苦しく切ない思いを強いられるのだけど
ラストに至るとこれらもまた見事に "解放" され、
読後感も悪くない。
エンターテインメントとしてもなかなかの出来。

新人賞受賞でデビューを飾った人だけど、
たしかにそれだけの実力はあると思う。
今後の活躍が楽しみな作家さんだ。

黄金の烏 [読書・ファンタジー]

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」に続く、
大河ファンタジー「八咫烏シリーズ」の第3巻。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第一作「単」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びが、
そして第二作「主」では、
后選びの裏で並行して起こっていた、
若宮の腹違いの兄宮・長束(なつか)を奉じる一派との暗闘が描かれた。

そしてどうやら、前2作は舞台説明と登場人物紹介を兼ねた
プロローグだったらしい。おお、なんて壮大な(笑)。
もっとも、独立した長編としても十分面白かったし、
そうでなければ続巻の刊行もなかっただろう。

前作「主」では、郷士の次男坊で
若宮の側仕えとして山内に上がった少年・雪哉(ゆきや)を中心に
物語が綴られていったが、
第3作の本書でも引き続き雪哉がメインキャラを務めている。


故郷である垂氷郷へ帰っていた雪哉の前に一羽の八咫烏が現れるが、
正気を失っている彼は仲間を、そして子供を襲い始める。
そこへ現れた若宮から、「仙人蓋」という薬物が密かに広まりつつあり、
狂った八咫烏もそれに犯されていたことが判明する。

雪哉は若宮とともに「仙人蓋」の流れを追い始める。
そして辺境の村・栖合(すごう)へやってきた二人は、
住民たちを食らい尽くす "大猿" を目撃する。

村のただ一人の生存者は小梅という少女。
父親に眠り薬を盛られ、長櫃の中でぐっすり寝込んでいて
難を免れたという。
しかし彼女の父親は行方をくらませており、
"大猿" について何か鍵を握っているものと思われた。
そして彼女自身も、何かの事情を隠し持っている様子が・・・

雪哉と若宮は、「仙人蓋」と "大猿"、二つの謎を追って
"地下街"(宮廷権力の及ばない裏社会)の支配者、
"鵄"(とび)に接触しようとするが・・・


シリーズも進んできて、根幹に関わる設定もいくつか明らかになってくる。

八咫烏の頂点を占める「金烏」とはどのような存在なのか、とか。

「山内」という世界は、全くの別世界ではなく、
実は我々の暮らしている世界の "隣" というか
思ったより "近い" 場所に存在しているらしい、とか。

本書に登場する "大猿" は、今後のシリーズを通して
八咫烏の敵となる存在らしいが、本書ではまだ
どこから来たのかも、どれくらいの勢力なのかも、
そして彼らの目的も、すべてが謎である。
こちらも、おいおい明かされていくのだろう。


そして何と言っても、本シリーズは登場するキャラが魅力的。
挙げたいキャラは多いのだけど、
今回何と言っても嬉しかったのは浜木綿の再登場。
人生の浮沈を経験し、酸いも甘いもかみ分けていて、
しかも姉御肌で "漢前" なんだけど、
若宮のことを一番理解し、愛し、支えている。
つくづくいい女だなあ、と思う。

小梅ちゃんも、本作のみで終わらせるにはもったいない。
ぜひ今後も登場してもらって、
雪哉と派手に喧嘩していただきたい(笑)。


第1作では后の座を巡る女の戦い&本格ミステリ、
第2作では宮廷内の陰謀劇、
そして本作では謎の侵略者との戦いと、
見事にカラーの違う作品を読ませてくれる。

そして第4作『空棺の烏』ではなんと
「ハリー・ポッター」ばりの "学園もの" になるらしい。

 実は既に文庫版が手元にあるので、近いうちに読もうと思ってる。

作者の引き出しの多さには感心するばかりだ。
本作を書いてる時点でまだ23歳とか、もう凄すぎる。
今後、どこまで伸びるのか楽しみな作家さんだ。

英国空中学園譚 ソフロニア嬢、倫敦で恋に陥落する [読書・ファンタジー]

ソフロニア嬢、倫敦で恋に陥落する (英国空中学園譚)

ソフロニア嬢、倫敦で恋に陥落する (英国空中学園譚)

  • 作者: ゲイル キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

人類と、吸血鬼や人狼などの "異界族" が共存する
19世紀のパラレルワールド英国を舞台にした
スチームパンクなファンタジー、最終巻。

お転婆の度が過ぎて、「花嫁学校」(フィニシング・スクール)へ
入れられてしまったソフロニア・テミニック嬢。
しかし「花嫁学校」とは世を忍ぶ仮の姿、
その実態は礼儀作法のみならず
あらゆる諜報技術を仕込まれるスパイ養成学校だった・・・

前作から1年後、ソフロニアたちは最上級生となった。
本作では、シリーズ最後にして最大の戦いが描かれる。


クリスマスが近づき、兄弟校である男子校で開かれる舞踏会に
参加することになったソフロニアたち。

生徒たちが浮き立つ中、ソフロニアは
学園に空賊が潜入するのを目撃する。

賊は撃退したものの、その背後にいるのは秘密結社・"ピクルマン"。
彼らの目的は異界族の排除から、
新型水晶バルブを用いて英国中のメカを支配することへ移り、
そして今回はさらにスケールアップしているらしい。

後半では、巨大飛行船でもある学園がピクルマンと空賊に占拠され、
陰謀成就のためにロンドンを目指して移動を開始する。

ソフロニア嬢はそれを阻止すべく、単身で学園に潜入する。
しかし何と言っても多勢に無勢。
いつしか満身創痍になりながらも、学園奪回のために戦い続ける。

 突然『ダイ・ハード』が始まるんでビックリしてしまったよ。
 そんな中でも、顔についた傷跡を気にするあたり、
 やっぱり年頃の女の子だねえ。

まさに『英国空中学園譚・激闘篇』といった趣き。

そんな彼女にも、援軍が。
てっきりお飾りの学長かと思われていた
マドモアゼル・ジェラルディンの意外な活躍。
ちょっと頭のネジがゆるんでしまった吸血鬼、
ブレイスウォーブ教授も "本来の姿" で(笑)空賊たちに襲いかかる。

そして何と言っても、
今回いちばん美味しいところを持っていくのは
ソフロニアたちにとってはかつての意地悪上級生だったモニク。

今では学園を去ってウエストミンスター吸血鬼群に仕えているが
スパイとしての力量も確かで、本作終盤ではソフロニアと共に
"ピクルマン" の陰謀阻止のために共闘する。

 『ルパン三世・カリオストロの城』の峰不二子を連想したよ。

ラストでは、"ピクルマン" の組織は壊滅、
ソフロニアと同級生たちは目出度く "フィニッシュ"(卒業)を迎える。

ソープとの関係も決着し、いよいよソフロニア嬢は
プロのスパイとしての一歩を踏み出していく。

最終巻にふさわしく、画に描いたような「大団円」だ。


シリーズはこれで完結となるが、
作者は同一世界を舞台にした作品を書き続けているので
いつか、他のシリーズにソフロニアたちが顔を出すこともあるだろう。

 解説によると、既に「アレクシア女史」シリーズで
 ソフロニアらしき人物への言及があるらしいんだけど・・・

このシリーズ、読み始めたのが2月だから
わずか3ヶ月ほどのつきあいなんだけど、
彼女たちと別れるのは意外なほど淋しく感じる。

ソフロニア嬢たちの "その後" が、いつか読めることを期待してます。

英国空中学園譚 ソフロニア嬢、仮面舞踏会を密偵する [読書・ファンタジー]

ソフロニア嬢、仮面舞踏会を密偵する (英国空中学園譚)

ソフロニア嬢、仮面舞踏会を密偵する (英国空中学園譚)

  • 作者: ゲイル キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★


人類と、吸血鬼や人狼などの "異界族" が共存する
19世紀のパラレルワールド英国を舞台にした
スチームパンクなファンタジー、第3弾。


お転婆の度が過ぎて、「花嫁学校」(フィニシング・スクール)へ
入れられてしまったお嬢さん、ソフロニア・テミニックが主役。
「花嫁学校」とは世を忍ぶ仮の姿、その実態は礼儀作法のみならず
あらゆる諜報技術を仕込まれるスパイ養成学校だった。
その中を開校以来というぶっちぎりの成績で突っ走るソフロニア嬢。
前回は入学から半年後が舞台だったが、今回はそのさらに1年後のお話。


充実した学生生活を送るソフロニアたちだが、
友人の一人・シドヒーグに "伝書バト" のメッセージが届く。


彼女の正式名はレディ・キングエア。
<英国パラソル奇譚>シリーズに登場するマコン卿の子孫で
キングエア人狼団に育てられた少女だった。


その人狼団に何か大事件が起こったらしい。
シドヒーグはそれが何かを探るために学園から姿を消してしまう。


一方、旧友の失踪に心を痛めるソフロニアにも知らせが届く。
彼女の長兄が婚約することになり、それを祝う仮面舞踏会が開かれる。
ソフロニアもそれに出席することになったのだ。


親友のディミティとともにテミニック家へ向かうソフロニア。
エスコート役は、公爵家の御曹司・フェリックス。
今回もまた、ことあるごとにソフロニアに言い寄ってくる(笑)。


そして始まった舞踏会のさなか、シドヒーグと二人の人狼が現れる。
人狼団の動揺を抑えるために、彼女はスコットランドへ向かうという。


そのとき屋敷中のメカが突然、一斉に異常を来して停止してしまう。
その騒ぎに紛れて屋敷を脱出したソフロニアたちだが・・・


一路北へ向かうソフロニアたちは、
メカの異常停止が広範囲で起こっていたこと、
そして騒ぎを引き起こしたのは何者かの陰謀であったことを知る。


人狼、吸血鬼、空賊、そして異界族排除を狙う "ピクルマン"。
彼女たちは様々な勢力の思惑がからみあう陰謀に巻き込まれていく。
飛行船、馬車、そして蒸気機関車まで駆って陸に空に大活躍。
良家の令嬢にして優秀なスパイでもあるソフロニアの冒険が始まる。


物語としては、次第に "ピクルマン" の存在が大きくなってきた。
終盤では、"ピクルマン" の幹部(たぶん)にして
フェリックスの父親でもあるゴルボーン公爵も顔を見せる。
その冷酷非情ぶりは、まさに真打ち登場という感じである。


ソフロニアを巡る二人の男性、ソープとフェリックスの鞘当ても
今回はいっそう激しさを増してくるが、どちらにも一長一短あって
さすがのソフロニア嬢でも簡単には決められないようだ。


・・・なあんて思っていたら、終盤ではまさかの展開が待っていて、
この三角関係は大きく変化を遂げそうだ。


ソフロニアの周囲でも、人生の岐路を迎えて学園を去る者が現れるし、
なにより彼女自身が、本書のラストにおいて
自らの将来をかけた "ある選択" をすることになる。
その決断は彼女に何をもたらすのか。


次巻、完結。

英国空中学園譚 ソフロニア嬢、発明の礼儀作法を学ぶ [読書・ファンタジー]

ソフロニア嬢、発明の礼儀作法を学ぶ (英国空中学園譚)

ソフロニア嬢、発明の礼儀作法を学ぶ (英国空中学園譚)

  • 作者: ゲイル キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/12/06
  • メディア: 文庫



評価:★★★

人類と、吸血鬼や人狼などの "異界族" が共存する
19世紀のパラレルワールド英国を舞台にした
スチームパンクなファンタジー、第2弾。

主人公ソフロニアは14歳。お転婆の度が過ぎて、
「花嫁学校」(フィニシング・スクール)へ入れられてしまう。
しかしそこは礼儀作法とともに、あらゆる諜報技術を仕込まれる
スパイ養成学校だった・・・というのが前作の発端。

入学から半年後、ソフロニアはある試験において
開校以来となる最高得点を叩き出す。
しかし同級生たちの嫉妬を買い、孤立してしまう。

そんなおり、クラスメイトのディミティを誘拐しようと
飛行船に乗った謎の一団が現れる。
ソフロニアの活躍により事なきを得るが、
ディミティとの仲は修復されず、謎の一味の目的もわからない。

そして巨大気球でできた空中学園は、
ふだん滞留しているダートムアを離れてロンドンへ移動を開始する。

さらに、その移動には姉妹校(兄弟校?)である
男子校の生徒たちも加わることになる。
前作でソフロニアに意味深な視線を投げてきた少年もその中に。
彼の名はフェリックス。なんとゴルボーン公爵家の御曹司だった。

ことあるごとにソフロニアに言い寄ってくるフェリックスだが
ソフロニアの心は、学園の最下層で
動力源となる "釜焚き" に従事する "煤っ子"・ソープへと傾いていく。


前作でキーアイテムだった "謎の試作品" は、
実は途方もない "発明品" だったことが分かり、
本作ではこれを巡って複数の集団がしのぎを削る。
ソフロニアと空中学園もそれに巻き込まれる形で大騒動が展開する。

前作から登場していた謎の組織 "ピクルマン" は、
どうやら "異界族" との共存を否定する人々の集まりらしい。
もちろん、それに対抗する者たちもいて、
本作では〈英国パラソル綺譚〉(アレクシア女史シリーズ)でも
登場していた吸血鬼の一族が暗躍するし、
同シリーズでのレギュラーだった「あの人」も顔出しをする。

異界族を巡る対立に端を発する発明品争奪戦、
大貴族と下層民という身分違いの少年二人の間で揺れる
アレクシアの恋と冒険が綴られていく。

クラスメイトや教師たちといった脇役たちもキャラ立ち充分で
度胸と実行力抜群のヒロインの大活躍は読んでいてとても楽しい。

全4巻のシリーズなので、本作終了時点で折り返し。
現時点での読書計画(笑)では
4月中には全巻読破のはずなんだが、さて。


英国空中学園譚 ソフロニア嬢、空賊の秘宝を探る [読書・ファンタジー]

ソフロニア嬢、空賊の秘宝を探る (英国空中学園譚)

ソフロニア嬢、空賊の秘宝を探る (英国空中学園譚)

  • 作者: ゲイル キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/02/08
  • メディア: 文庫



評価:★★★

吸血鬼や人狼が人間たちと共存する、
パラレルワールドなヴィクトリア朝英国を舞台に、
アレクシア女史の活躍を描いた〈英国パラソル奇譚〉シリーズ。

本書はその〈英国パラソル奇譚〉の時代を
25年ほど遡った1851年に始まる。


主人公のソフロニア・テミニック嬢はお転婆盛りの14歳。
今日も屋敷の中を走り回るソフロニアは、
勢い余って来客の頭へトライフル(デザートの一種)を
盛大にぶちまけてしまい、堪忍袋の緒を切った母親によって
「花嫁学校」(フィニシング・スクール)へ入れられてしまう。

 ちなみに finishing school の意味を調べてみたんだが
 「裕福な家庭の娘が社交界へ出るための作法や教養を学ぶ私学」
 とある。

驚くべきことに、その日のうちに
学長のマドモアゼル・ジェラルディンと名乗る女性が現れ、
彼女とともに学園へ向かって出発する羽目になるソフロニア嬢。

学園へ着くまでにも、ひと波乱もふた波乱もあって、
読者を飽きさせずに畳みかけるようにイベントが発生する。

そして着いてみてまたびっくり。
タイトルにもあるけれど、この学園は
巨大な飛行船が連なってできており、空中をふわふわと漂っているのだ。

さらに、入学してみてもっとびっくり。
なんとこの学園の授業内容は礼儀作法にとどまらず、
情報の集め方、毒薬の扱い、吸血鬼への対処法、
陽動作戦術、最新武器学・・・要するに、スパイ養成学校だったのだ。
しかしソフロニアは案の定、すっかりこの学園が気に入ってしまう。

 なぜ彼女がここに放り込まれてしまったのかは
 本書の最後で明かされる。

タイトルの "空賊" とは、飛行船に乗って
ソフロニアを、そして学園を何度も襲撃してくる謎の一団のこと。
どうやら彼らは上級生のモニクがどこかに隠した
謎の "試作品" なるものを狙っているらしい。

時代こそ19世紀だが、日常生活の中に
メカ執事やメカアニマルなどの機械類が闊歩するなど
スチームパンクな科学技術が支配する世界で、
ソフロニア嬢の冒険が綴られていく。


主人公を取り巻くクラスメートも、
「学園ものならこんなキャラいるよね~」的に
ひととおり揃っていて(笑)
意地悪な上級生も、変人の教師陣もお約束(笑)。

本書は第一巻なので、学園の設定紹介、キャラの紹介、
次巻以降へ向けての伏線張りにも多くの描写が割かれている。

たとえば学園の最下層には、動力源を維持するための
"かま焚き" に従事する男の子たちがいて(なんと燃料は石炭だ!)、
その中の一人とソフロニア嬢は仲良くなる。

後半になると、学園の姉妹校(兄弟校?)である
男子校の生徒たちも登場し、その中の一人は
ソフロニアに意味深な視線を投げてくる。

今後の展開ではソフロニア嬢のラブロマンスも期待できそうだ。


〈英国パラソル奇譚〉と同一世界なので、
本書にも三人ほど共通で登場する人物がいる。
当然ながら25年前なので、若き日の姿が拝めるわけだ。
次巻以降にも、おなじみのキャラクターが登場するらしい。

〈英国パラソル奇譚〉と、直接のストーリーのつながりはないので
本書を読むに当たって〈奇譚〉シリーズを未読でも差し支えないが、
世界設定や共通するキャラの背景とかを知っていた方が
より楽しめるのは間違いないので
できたら〈奇譚〉シリーズを読んでからとりかかることをオススメする。


はるひのの、はる [読書・ファンタジー]

はるひのの、はる (幻冬舎文庫)

はるひのの、はる (幻冬舎文庫)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

映画化もされた「ささや」シリーズの最終巻。

「ささや さら」のヒロイン・さやの息子、ユウスケが主人公。

小学生になったユウスケの前に、
ある日「はるひ」と名乗る少女が現れる。
初対面のはずなのに、なせかはるひは
ユウスケのことをよく知っているよう。

はるひはその後も、たびたびユウスケの前に姿を見せては
その都度、無理難題を押しつけるのだった。

やがて小学生から中学生となり、そして高校生になったユウスケは
入学式の直前、はるひにそっくりな少女・華(はな)に出会う・・・


読んでいると読者は最初のうち混乱するかも知れない。
詳しく書くとネタバレになるのだが
本書に描かれる世界は微妙にゆらいでいる。
過去にあったことがないことになっていたり、
死んだはずの人が生きていたり。

どうやら、SFで言うところのパラレルワールド的な
二つの世界のことが語られているらしいと見当がついてくる。

その二つの世界の関係が終盤になって明かされるのだが
その真相、そしてそれを現出させた "ある人" の想いに触れて
涙腺がゆるむ人もいるのでないかな(私がそうだった)。

 何といったらいいか。
 梶尾真治の一連の作品群に通じるものを感じる、って書いたら
 分かる人は分かるだろう。

本書をどのように読むか。
ミステリ要素もあるしファンタジー要素もあるし
もちろんSFとして解釈することも可能だ。
しかもその3つの要素がお互いに邪魔しあうことなく、
渾然一体となって、独特の雰囲気を醸し出している。

エピローグでは成人となったユウスケが描かれるが
彼をはじめ、登場人物みんなに幸福な未来が訪れる。
たまにはこんな温かい物語に身を委ねるのもいい。


カンパニュラの銀翼 [読書・ファンタジー]

カンパニュラの銀翼 (ハヤカワ文庫JA)

カンパニュラの銀翼 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 中里友香
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/09/17
  • メディア: 文庫



評価:★★

第2回アガサ・クリスティー賞受賞作。

星の数でも分かるように、私はこの作品には辛い点をつけた。
その理由は後に述べるとして、まずは内容の紹介から。


本書は大きく I~IV の4部構成になっている。

「I」の舞台は1920年代のイギリス。
主人公はエリオットという青年。
彼は資産家の息子・アンドリューの替え玉として名門大学に通い、
アンドリューの妹で目の不自由なクリスティンに
時たま "兄" を装って会いに行く日々を送っている。
エリオットは学業の傍ら、心理学者オーグストの助手になるが、
ある日シグモンド・ヴェルティゴという謎の男が現れる・・・

「II」では時間を巻き戻し、
オーグストとシグモンドの過去の因縁が語られる。
そしてこの「II」の終盤から物語は「ミステリ」の枠を逸脱し、
予想の斜め上どころではない方向へ進み始める。
ここまで読んで一瞬考え込んでしまった。これは何だろう、って。
強いてジャンル分けすればファンタジーかな。それもホラー寄りの。

「III」では再び「I」の時間線に戻り、
ここでオーグストの "正体" というか "宿命" が明らかにされる。
それは彼と関わった者に死をもたらすという恐ろしいもの。

そして物語は、その "宿命" から逃れるべく、あることを決行する
エリオットとシグモンドを描く「IV」へと続いていく。
タイトルの意味もここに至ってようやく判明する。


とにかく、物語全体の見通しが(私にとっては)よくないこと、
キャラの行動が今一つ納得できないこと、
そのへんが評価が低い原因かな。とくにエリオット君の行動が。

いい人過ぎるというかヘタレというか。
クリスティンに対する態度が私には理解できないよ。


アガサ・クリスティーといえばミステリ、それも本格ものの大御所、
たぶん世界で5本の指に入るミステリ作家と言っても
否定する人は少ないだろう。

その名を冠する賞を受賞したのだから、
当然これはミステリだと思って読み始めたのだが・・・

まあ、ミステリの定義にもいろいろあって、
目一杯広義に捉えれば、エンターテインメント小説の
かなりの部分が含まれてしまうのは分かっている。

それでも、本書はミステリではないでしょう。
私の持っている "ミステリの枠" が狭いことも
承知しているが、それを差し引いても。
もちろん、ミステリかどうかと小説の面白さは
別次元の問題だと承知はしているが。

そもそもこの作品は、作者が何を書きたいのか何を言いたいのかが
なかなか伝わってこない。それも点が辛い理由の一つ。
それが分かるのは半ばをすぎ、終幕が近づいてからだ。
勘のいい人にはわかるのだろうか?

私はアタマが悪いので、ムズカシい話や持って回った話や
雰囲気だけで進んでいく話が苦手だったのだなあ、ってのを
本書を読んで改めて感じた。

実は深~い話で、それを理解できない私が
物語の表層しかなぞっていないのかも知れない。
その可能性は否定しない。
でも私には分からないんだから仕方がないじゃないか。
(開き直ってどうするwww)


いろいろ文句ばかり書いてるけど、独特の物語世界を展開していて
雰囲気もまたそれにふさわしいものを醸し出しているのは間違いない。

波長が合う人にとってはたまらなく快い作品なのだろうとは思う。
ただ、残念ながら私とは合わないということで。


聖刻群龍伝 龍晴の刻 全4巻 [読書・ファンタジー]

聖刻群龍伝 - 龍睛の刻1 (C・NOVELSファンタジア)

聖刻群龍伝 - 龍睛の刻1 (C・NOVELSファンタジア)

  • 作者: 千葉 暁
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/06/24
  • メディア: 新書




聖刻群龍伝 - 龍睛の刻2 (C・NOVELSファンタジア)

聖刻群龍伝 - 龍睛の刻2 (C・NOVELSファンタジア)

  • 作者: 千葉 暁
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: 新書




聖刻群龍伝 - 龍睛の刻3 (C・NOVELSファンタジア)

聖刻群龍伝 - 龍睛の刻3 (C・NOVELSファンタジア)

  • 作者: 千葉 暁
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/01/23
  • メディア: 新書




聖刻群龍伝 - 龍睛の刻4 (C・NOVELSファンタジア)

聖刻群龍伝 - 龍睛の刻4 (C・NOVELSファンタジア)

  • 作者: 千葉 暁
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/08/18
  • メディア: 新書



評価:★★★★☆

第1巻の発売が1996年7月で、第28巻(最終巻)の発売が2016年8月。
完結までほぼ20年かかったということになる。

中断(続巻が出ない時期)が結構あったような気がするんだけど
単純計算すると8~9ヶ月に1冊出ていたことになる。

もちろんその間、『聖刻1092』等の他の作品も
並行して書いてたわけだから、
決してさぼっていたわけじゃないのは分かるんだけども。
でも20年は長かったなぁ。

物語開始時には少年の面影を残していたデュマシオンも
成長して所帯を持ち、最終章では思春期の子供を持つまでになる。
彼と同年代のキャラたちも同様だ。

大人として登場したキャラたちは
そろそろ引退を考える年齢になるなど
(おお、私と同年代じゃないか)
物語の中でも同じくらい着実に時は流れている。

 それもまた読む方にとっては楽しいんだが。

『グイン・サーガ』(栗本薫)は途中で放り出してしまったから
現在のところ、私が読んだファンタジーでは最長だろう。

とにもかくにも、全28巻での完結、おめでとうございます。

さてこの『龍晴の刻』はこの大長編の最終章である。
ざっと今までのストーリーを振り返ってみよう。

2000年前、大陸西方域に「龍の帝国」を一代で築いた「龍の王」は、
死に際して転生の秘術を施し、遙かな未来での復活をもくろんだ。

王の魂は復活に際して8つに分かれ、
それぞれ8人の人間("龍の器")に宿った。
その一人、小国イシュカークに第二公子として生まれた
デュマシオンが本編の主人公だ。

デュマシオンは国内での権力争いに生き残るため、
自分の力となってくれる人材を求めて諸国を放浪していた。
その中で、龍の王の遺産ともいうべき
"シュルティ古操兵" を手に入れたことにより、
「龍の王の後継者争い」の大本命として
歴史の表舞台に躍り出ることになる。

数多くの戦乱・陰謀・裏切り・恩讐を乗り越え、最終的には
最大のライバルであるレクミラー率いる帝国と
大陸西方域を二分して対峙するまでになる。

ここまでの戦いで、"龍の器" のうち6人までを
打ち破り、あるいは従え、残る最後の一人がレクミラー。
彼との戦いこそが "決勝戦" となるはずだったが・・・

これ以上の戦乱を望まないデュマシオンは、
愛娘スクナーをレクミラーの皇太子クロムリーに嫁がせ、宥和を図る。
レクミラーもまた病に伏して、両国の間に平穏な時が流れ始めたが・・・

というのが前章「龍虎の刻」までのあらすじ。


最終章では、当然ながらレクミラーとの決戦が描かれるかと思いきや
彼との決着は早々についてしまう。

代わって、デュマシオンの "最後の敵" となるのは、
彼の息子であるアーカディアであった。

 このあたりはアーサー王伝説がモチーフかなとも思った。
 アーサー王は謀反を起こした息子・モルドレッドと戦い、
 これを討ち取るも自らも致命傷を負い、
 アヴァロンの地で息を引き取るという悲劇的な結末を迎える。

 デュマシオンもまた悲劇的な最後を迎えるような気がして
 心配しながら読んだよ。

デュマシオンは、残忍で冷酷な暴君であった "龍の王" が復活し、
自分の体を乗っ取られることを恐れ、
強固な意志の力で "彼" を押さえ込んでいた。

自分の版図を連邦制にして自らは皇帝の座につかなかったのも、
農業・商業・工業の振興に尽くし、善政を敷いたのも、
すべては "龍の王" の二の舞にならないためであった。

しかし "龍の王" は、アーカディアを新たな "龍の器" とし、
彼の身体を乗っ取ることで "転生" を果たそうとする。

"竜の王" に支配されたアーカディアは、
新たな古操兵軍団を復活させ、
デュマシオンの正妃・サクヤーをも巻き込んで父に叛旗を翻す。

この最終章では、妻と息子を取り戻すべく "龍の王" へ挑む、
デュマシオンの最後の戦いが描かれる。

さぞかし激しい戦いになるのかな・・・と思いきや、
デュマシオンの矛先はいささか鈍りがちかなぁ。
目的は "倒す" ことではなく、"取り戻す" こと。
ある意味、もっとも困難な闘いではある。

"最後の決戦" というよりは "締め括り" の章、という感じ。
"寿命" の尽きかけた "古操兵たち" の最後の見せ場でもある。
20年にもわたって親しんできた綺羅星のようなキャラたち、
その最後の活躍もまた描かれていく。

 もっとも、「あとがき」にもあるように、
 なにぶん膨大なキャラと詳細な設定の集積であるから、
 人、モノ、すべてについて決着をつけることはそもそも無理。

作者の描いたこの物語の結末は、読んでいただくしかないが、
まずは完結まで書いていただいたこと、
読者に最後まで語りきってくれたことを感謝したい。


エピローグでは最後の戦いから十数年後が描かれる。

生き残ったキャラたちのその後、
そして、その子どもたちのことまで。
このあたりはちょっと感慨深いものがある。

もちろん、これだけではまだまだ掬い切れていないキャラや、
描ききれなかったエピソードもたくさんあるだろう。

そういうこぼれた部分も知りたいし、
デュマシオンが作り上げたこの世界の行く末を
もっと知りたいとも思う。

短編集でもいいので、ぜひ「外伝」を書いてほしいなぁ。
よろしくお願いします。


まずは20年間、お疲れ様でした。


図書館の魔女 全四巻 [読書・ファンタジー]


図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

気がつけばもう11月。
そろそろ読書感想録も再開しようと思って
読書記録を見たらびっくり。
今回の『図書館の魔女』を読んだのは8月だったよ。
3ヶ月も前のことなのでかなり忘れてる。
がんばって思い出しながら書いてみよう。


現実の世界では、「言葉は無力」な場面をしばしば見かける。
敵対勢力同士の「話し合い」が決裂あるいは中断して
武力紛争になだれ込むなんて、何度見たことか。

そしてそれはフィクションの世界でも同様。
"敵" に対しての「話し合い」や「説得」はものの役に立たず
(なかにはそれすら行われることなしに)
相手の武力侵攻を阻止するために、主人公もまた武力を手にする。

 ただ現実と異なるところは、最終的に
 "敵" とわかり合える結末を迎えることもあることか。
 (わかり合えないまま終わることも多いが)

しかし本書では、そういうネガティブに扱われがちだった「言葉の力」を
メインのテーマに取り上げていて、
当然ながら、その手のことを本業とする者を主人公に据えるという、
ファンタジーとしては珍しいというか目新しい物語をつくりだした。

「逆転の発想」であり「発想の勝利」とも言えるだろう。

 最終巻末の解説で作者の本業は言語学者とわかって、
 なるほどと思ったし納得もした。


さて、主人公がまたユニークだ。
外交交渉のための根回しに腐心し、会議においては主導権を握り、
自他の利益の最大化を目指して落とし所を探る。
なんだか老獪な政治家みたいだが、これをやってのけるのが
図書館の司書、それも年端もいかぬ美少女なのだ。
人呼んで『図書館の魔女』、彼女こそが本書のヒロインである。

 まあ、いささかライトノベル的ではあるが、
 ファンタジーならばある程度は許されるお約束だろう。
 リアリティ云々を言う人はそもそもこういう物語を読まないだろうし。

そして、従来のファンタジーとは異なり、
派手な合戦シーンなどはほぼ皆無である。
少人数での立ち回りや小規模な戦闘シーンはあるが、
全体の割合からしたらこれもわずかだろう。

その代わり、会議のシーンがやたら多い。
複数の人物が一つの部屋に集まりって
じっくりと語り合うシーンも含めたら、
文庫で1800ページを越える本書のうちのかなりの部分が
それで占められているといっていいだろう。

なら退屈なのか、というとそうではないんだなぁ。
そういうシーンが実に読み応えがある。
「ページを繰る手が止まらない」ほどスピーディな展開ではないが、
登場人物たちの丁々発止なやりとり、台詞の応酬が実に面白い。
「じっくり味わって読みたい」という気にさせる。

ちょっと前置きが長くなりすぎた。内容の紹介に入ろう。

本書には3つの国家が登場する。

多島海に面する王国「一の谷」。主人公たちの属する国でもある。
海を挟んだ西側には「アルデシュ」、北に位置する帝国「ニザマ」。

物語は、山奥の鍛冶の里に生まれ育った少年・キリヒトが
王宮の命によって故郷を離れるところから始まる。
「一ノ谷」王都にある史上最古の図書館で彼が出会ったのは、
自分とほぼ同年代の少女・マツリカ。
祖父である先代の引退に伴い、司書となった彼女は
古今東西の書物に接し、森羅万象に精通する、
さらに数多の言語を操ることすらできる天才少女だった。

彼女の役目は一介の司書にとどまらない。
水面下での各国との外交交渉を取り仕切っていて
王宮や有力政治家も彼女の言動に一目置いており
「一の谷」の政治への大きな影響力を持っていたのだ。

さらにキリヒトは知る。
"図書館の魔女"は、自らの声を持たない
(口をきくことができない)身であることを。

 戒律とかで「言葉を発するのが禁じられている」のではなく、
 身体能力としての「発声そのものができない」ようだ。
 そのあたりの事情は詳らかにされていないのだが、
 続編などで明かされるのかな?

幼い頃から手話を仕込まれてきたキリヒトは、
マツリカの手話通訳として図書館で働き始める。

折しも、アルデシュが「一の谷」領への侵攻を企てているとの
知らせがもたらされる。
裏で操るのはニザマ帝国の宰相・ミツクビ。
彼は「一の谷」の元老院議員にも切り崩しをかけ、
さらには暗殺者まで放ってきていた。

それを阻止すべくミツクビと対峙するマツリカ。
彼女の側近として仕えるキリヒトもまた、
否応なく国際謀略の世界へ引き込まれていく。


一巻から二巻にかけては比較的ゆったりとした進行だ。
(というか本書全体が割とゆったりとしてるんだけど)
国際社会での謀略と並行して、
キリヒトとマツリカを中心とした日常も描かれていく。

王宮の地下迷宮を二人で探検するシーンは
いささか冗長かなあとも思ったんだけど
ちゃんと後半の伏線にもなってるし、
回を重ねるうちに二人の "お決まりのデートコース" みたいに
なってくるのもまた面白い。

二巻の終盤、ニザマの刺客がついにマツリカの前に現れ、
絶体絶命の危機を迎えるが、ここである事実が明かされる。

そうだよねえ。ファンタジーはこうでなくっちゃ。
このあたりから俄然、読む方もピッチが上がってきた。

アルデシュ侵攻の原因は、麦の凶作にあった。
マツリカは穀倉回復の手段を提供することで戦争の回避をもくろむ。

言葉を持たぬ少女が持つ一本の筆が紡ぎ出す言葉を載せて
無数の手紙が世界の各地へ向かう。
言葉を持たぬ少女が "言葉" のみを武器に世界と渡り合う。

しかしミツクビはそれを座視することはない。

三巻では、ニザマが送り込んださらなる刺客が
彼女の "言葉" を封じようとする。
しかしマツリカはそれに屈することなく、
キリヒトとともにニザマとの交渉の場へと向かう・・・


田舎育ちで純朴なキリヒト。
博覧強記だけど傲岸不遜で偏屈者のマツリカ。
出自も性格もおよそ正反対の二人で、
最初の頃は前途多難を思わせるカップルなんだが
物語が進むにつれてしだいに心を通わせていく。

このあたりは典型的なボーイ・ミーツ・ガールな
ラブ・ストーリーにもなっている。
巻を追うに従い、次第にキリヒトに対しての
マツリカ嬢のツンデレ度が増していくのが実に微笑ましい。
本当は「純愛」って言葉もつけてあげたいんだが
マツリカ嬢が本気で嫌がりそうなのでやめておこう(笑)。

天才であり、他に代わる者のない重い使命を背負うが故に
孤独であったマツリカが、初めて得た同世代の仲間であるキリヒト。
しかも彼女に対して絶対的な忠誠を誓ってくれる。
そりゃあ "大切な人" になるでしょう。

 ここまで書いてきて、ふと『ベルばら』のオスカルとアンドレが
 頭の中をよぎってしまう私はやっぱりオジサンなんだろうなあ。

最終巻に至り、クライマックスにおける二人の "ふるまい" は、
もはや長年連れ添った熟年夫婦もかくやと思わせるほど息もピッタリ。

 文庫4冊1800ページをこえてついにここまで来たか、
 としばし感慨に耽ってしまうシーンだった。

マツリカに仕える二人の司書であるハルカゼとキリンをはじめ
魅力的なキャラも多いのだけど、もういい加減長く書いてきたので割愛。

「言語」に関する蘊蓄も計り知れないほど詰め込まれているんだけど
(しかもそれを面白く読ませるのはたいしたもの)
これも私ごときでは紹介しようにも手に余る。
このへんは「読んでみて下さい」としか言えない。


ラストでは、さらなる物語が始まることを予感させていて
実際、続編も刊行されているようだ。
さらに続巻も予定されているらしいので、
また楽しみなシリーズがひとつ増えました。


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