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自薦 THE どんでん返し [読書・ミステリ]

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/05/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★

いやはや凄いタイトルだ。
「どんでん返し」ですよ。「自薦」ですよ。
いったいどうなっちゃうんですかねえ奥さん(誰?)。

ミステリというのは多かれ少なかれ結末に意外性を伴うもので
「やられた!」とか「いやあ一本取られたなあ」とか
思わせるものが傑作なんだろうと思う(私基準ですが)。

「どんでん返し」なんてのはその最たるもので
その箇所にさしかかったら「えぇ~!」とか「まさかそんな!」とか
"叫ぶ" まではいかなくても、それに近い思いを
読み手に味わわせなければいけないだろう(これも私基準)。

そして、どんでん返しがある作品は、
結末に「どんでん返し」があると知らずに読んだほうが
驚きが大きいと思うんだけど、
最近は、帯や裏表紙などの惹句に「最後のどんでん返しがスゴイ」とか
堂々と書いてあるものを時たま見かけるんだよねぇ。

 あれ、どうなんだろう。
 わざわざ作品の価値を下落させてると私なんか思うんだけど
 それよりも、出版社はすこしでも部数を稼ぎたいのかなぁ。

閑話休題。

本書は、「結末に "どんでん返し" があります」って宣言してる作品集。
しかも短編なので、短いストーリーの中で
読者を驚かさなければならない。
いやあ、どこまでハードルを上げてるんですかねえ双葉社さん。

でも、そんな "自分で自分の首を絞めてる" ような作品集に
自作を提供した作家さん。スゴイです。頭が下がります。
作家名を見ると、そうそうたるビッグネームばかり。流石です。


「再生」綾辻行人
 17歳も年下の教え子と結婚した大学助教授。
 しかし、妻には恐るべき "秘密" があった。
 トップバッターに立つだけのことはある傑作。
 最終ページでの驚愕は、"どんでん返し" があるって
 予告されていてもなお、強烈なインパクトがある。
 個人的には、本書ではベスト作品。

「書く機械(ライティング・マシン)」有栖川有栖
 才能はあるのに、いまひとつブレイクできない作家・益子。
 彼の潜在能力を極限まで引き出すべく、
 伝説的な "名伯楽" と謳われた編集者が
 益子を連れていった場所は・・・
 ミステリと言うよりは、不条理SFに近いかな。
 1970年代あたりの小松左京か筒井康隆、
 あるいは藤子不二雄あたりが描きそうな雰囲気を感じる。

「アリバイ・ジ・アンビバレンス」西澤保彦
 両親のケンカから逃れて家を出た主人公が見たものは、
 同級生の淳子が中年の男性と逢い引きしているところ。
 しかしその時間、淳子の家では殺人事件が起こっていた。
 そしてなぜか、アリバイがあるはずなのに
 淳子は「自分が殺した」と供述しているらしい・・・。
 終盤、淳子の供述に込められた深~い意図が明かされると、
 ほんとに良くできてると感心する。
 "どんでん返し" とは思わないが、細部まで計算が行き届いた作品。
 とくに "サブ(?)ヒロイン" の琴美ちゃんがいい味出してる。
 西澤保彦って、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 何となく「私には合わないなあ」って思って
 途中から読まなくなったんだよねえ・・・

「蝶番の問題」貫井徳郎
 大学時代の先輩であった作家のもとへ主人公の刑事が持ち込んだのは、
 当事者5人が全員死亡していたという事件。
 被害者が残した手記から、真相を突き止めようするが・・・
 この部分は良くできたミステリになってるけど
 ラストのこれは "どんでん返し" かなあ・・・
 気の利いた "オチ" ではあるけどね。
 最近、ドラマ化や映画化が相次いでいる貫井徳郎さん。
 この人も、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 ここ数年は読んでないんだよねえ・・・

「カニバリズム小論」法月綸太郎
 元医学生の大久保は、同棲していた女を殺した。
 さらに、その女の死体を "食べて" いたのだ。
 なぜ、彼は死体を食べ続けていたのか。
 法月綸太郎が導き出したのは驚くべき "理由" だった・・・
 いやあ、この "理由" がちょっとインパクトありすぎて
 その後に用意されていた "もうひとひねり" が
 ちょっと霞んでしまった感が。

「藤枝邸の完全なる密室」東川篤哉
 烏賊川市で有数の資産家、藤枝喜一郎。
 しかし、その甥の修作は、叔父が遺言状を書き換えて
 彼の取り分を減らそうとしているのを知り、喜一郎を殺害する。
 修作の工作により、現場は完全な密室になったが
 そこへ探偵・鵜飼が現れて・・・
 鵜飼の意外に(?)鋭い洞察力でどんどん追い詰められていく修作。
 しかし、本作のキモはそこではなく、ラスト一行にある。
 でも、これを "どんでん返し" と呼んでいいのだろうか?・・・(笑)


こういう敷居の高い作品集に参加しただけあって
いずれも高レベルの作品ではある。

でも、タイトルで大上段に「どんでん返し」って掲げないで
普通に読んだほうが素直に驚けたかもなぁ・・・
って思わないでもないが(笑)。

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人魚は空に還る [読書・ミステリ]

人魚は空に還る (創元推理文庫)

人魚は空に還る (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

時代は、日露戦争の記憶も新しい明治40年代。

主人公・里見高広は、両親を失って遠縁の家の養子となった。
養父は高広を実子と分け隔てなく育ててくれたが、
ある "いざこざ" がもとになって
高広は養家を飛び出し、現在は雑誌記者となっている。

もう一人の主役は、天才とも評される超人気絵師・有村礼(れい)。
彼が表紙を描いた雑誌は売れ行きが数倍に伸びるという。
礼本人も、彼が描く美麗な婦人画に負けず劣らすの超絶美形。

こう書いてくると礼が探偵役かと思われそうだが
実はその逆で、礼は高広に事件解決を "強要" (笑)するという
"押しかけワトソン役" だったりする。

この二人が、帝都・東京で出会う事件を解決していく
《帝都探偵絵図》シリーズの第1巻。


「第一話 点灯人」
 10歳の少女・森桜が高広の勤務先である至楽社を訪れる。
 兄・恵(さとし)が失踪したので尋ね人の広告を出したいという。
 恵は中学生ながら広告図案募集で入賞、一等賞金100円を手にしていた。
 残された写生帳に描かれた風景画を手がかりに、捜索をはじめる高広。
 その途上、ライバル記者の佐野から入手した情報を追ううちに
 清文館という倒産した印刷所にたどり着くが・・・
 この第一作で、シリーズのレギュラーメンバーがほぼ全員、
 顔を出すのもよくできているけれど、
 謎を解いた先に浮かび上がる森兄妹の哀しみも切ない。
 高広が彼らに寄り添えるのも、彼自身の生い立ちがあるからだろう。

「第二話 真珠生成」
 芸者屋が買い込んだ新品の金魚鉢。
 しかし、その底に敷き詰められた白石の中に一粒の真珠が。
 それは、銀座通りに店を構える美紀真珠から盗まれた
 3粒のうちの1つだった。しかも、真珠が盗まれた当日に
 店を訪れていたのは高広のかつての養父と義姉。
 結婚が決まった娘のために、真珠の購入に来ていたのだ。
 高広は義姉のために真相究明に乗り出し、
 美紀真珠で働く従業員・珠子に会いに行くが
 彼女自身にも、資産家の御曹司との縁談が進んでいた・・・
 作中で言及されるのは、ホームズ譚の一つ「六つのナポレオン」。
 もちろん本作の真相はそれとは異なるのだけど
 すべてが丸く納まる結末は、やっぱりいいものだ。

「第三話 人魚は空に還る」
 浅草六区の見世物小屋で興行を打つ「蝋燭座」。
 その目玉は、人間なら10歳ほどかと思えるような "人魚"。
 その美しくも悲しい歌声に魅せられて連日満員の大盛況。
 新進作家・小川健作に連れられて見物にきた高広と礼。
 そこで出会ったのは大富豪夫人・花遊鞠子(かゆう・まりこ)。
 なんと人魚は彼女のもとへ売られていくことが決まったという。
 引き渡しの日、「観覧車に乗りたい」という
 人魚の最後の願いを聞き入れた座長。
 しかし人魚は、乗っていたゴンドラから
 シャボンの泡となって消えてしまう・・・
 密室状態からの "人魚消失" 事件。
 脱出のからくりも気になるが、本作のキモはそこではない。
 最後の謎解きで明らかになる、人々の情の厚さが心にしみる。

「第四話 怪盗ロータス」
 帝都に出没する怪盗ロータス。高価な美術品のみを狙い、
 盗んだ富は貧しい者に分け与えるという噂から
 庶民の人気を集めていた。
 そんな中、呉服橋の袂で起こった交通事故。
 高広の目前で事故を起こしたのは、米相場で大儲けをした大黒重治。
 はねた少年に対して横柄な態度をとる中、
 そのに居あわせた青年が大黒の鼻を明かしてみせるのだった。
 その大黒のもとに、怪盗ロータスからの "予告状" が届く。
 収集している洋画のコレクションを頂く、という内容だ。
 警戒をする大黒邸だが、ロータスは意表を突く方法で
 易々と侵入に成功し、目的を果たしてしまう。
 ロータスを追う高広の前に、再び "あの青年" が現れるが・・・
 今回はアルセーヌ・ルパンを気取る怪盗が登場する。
 ロータスは今後も不定期に登場する準レギュラーキャラらしい。
 大黒が心に秘めた意外な "真意" にも驚かされる。

「第五話 何故、何故」
 隅田川の川沿いにある質屋に入った強盗は、
 現金1000円を盗んだが、船で逃走しようとした際に
 警察に発見され、現金と共に船に火を放って遁走した。
 高広は、礼とともに礼の大伯父の浮世絵師・歌川秀芳を訪ねる。
 家の真ん前に水練場を建てられ、
 しかもその持ち主から嫌がらせを受けているという秀芳の話から
 高広は強盗事件との関連を見つけるのだった・・・
 文庫化の際に書き下ろされたボーナストラックだ。


高広は一を聞いて十を知るような天才型ではなく、
関係者への取材や話を聞いているうちに真相にたどり着く。
事件に関わる人々の感情の機微にも鋭敏で、
被害者や弱い者の側に立って
解決を目指していこうとする "優しい" 探偵だ。
それはやはり両親を早くに失うなど
苦労の多い半生を過ごしてきたからだろう。

このシリーズは現在のところ3巻まで出ているが、
続巻も手元にあるので、近々読む予定。

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天帝のみぎわなる鳳翔 [読書・ミステリ]

天帝のみぎわなる鳳翔 (幻冬舎文庫)

天帝のみぎわなる鳳翔 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/12/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

勁草館高校吹奏楽部員・古野まほろを主人公とした
ミステリ・シリーズ第4弾。

前作『天帝の愛でたまう孤島』で
凄惨な連続殺人事件に遭遇し、
そのあまりにも過酷な "真相" に心が折れ、
(と言うか、彼は事件のたびに「失意のどん底」に落ちるんだがwww)
最終章で勁草館高校のある姫山市から
いずこかへ旅立った(拉致された?)まほろくん。


その彼が姿を現したのは、なんと
大日本帝国海軍・第二艦隊旗艦にして
戦後の日本にとって、ようやく所有することが叶った
正規空母・『駿河』の艦上だった。

 本シリーズが舞台にしているのはパラレルワールドの日本。
 太平洋戦争には敗れたものの、日本は未だに「帝国」で陸海軍も健在。

 ちなみに『鳳翔』とは、1922年に竣工した
 日本海軍最初の正規空母の名称である。

 そして、これも健在な「満州帝国」は
 前々作『天帝のつかわせる御矢』以来、
 東西に別れて内戦の真っ只中という状況。
 しかし本作の時点で「西満州」こと「満州社会主義人民共和国」が
 圧倒的優勢になりつつあった。

全長290mに及ぶ巨大空母『駿河』、最新鋭イージス艦『金剛』、
そして随伴する駆逐艦群を含む第二艦隊は、
「満州帝国」海軍最後の生き残りであるイージス艦『済遠』とともに
台湾への "親善訪問" 航海の途上にある。

18歳の高校生であるはずのまほろくんは、
"儀典参謀・古野まほろ軍楽少佐(25歳)" という偽りの身分で
第二艦隊司令部に潜入していたのだ。

彼を送り込んだのは『-御矢』事件で知遇を得た皇族・華頂宮博利王。
海軍少将にして軍令部次長でもある彼は、
第二艦隊内部に不穏な動きがあることを察知していた。

すなわち、「満州は日本の生命線である」との主張から
『駿河』内で反乱を敢行、第二艦隊の指揮権を奪い、
そして東シナ海を北上したのちは
満州帝国の内戦に介入し、「西満州」へ痛撃を加える。

内務省所属の紙谷警部とともに
『駿河』に乗り込んだまほろくんに与えられた使命は、
陰謀の首魁をつきとめ、反乱を未然に防ぐこと。

 「一介の高校生にそんなことできるんかい?」
 って疑問も湧いてくるが、読んでいけば
 そのへんは "それなり" にフォローされてる(笑)。

ミリタリー・サスペンス風な出だしだけど、
本作は基本的にはミステリなので、しっかり事件も起こる。

第二艦隊司令長官、参謀長、『駿河』艦長、同副長。
国内からの来賓として軍需産業の社長令息、製薬会社の会長令嬢。
海外からは、"鉄の女" こと前大英帝国首相、
米国大使館筆頭駐在武官、仏海軍軍令部作戦課長、
そして事実上日本の庇護下にある『済遠』の艦長。

彼らが一堂に会した昼餐会で毒殺事件が発生するのだ。

やっぱりミステリだったな~と安心した(?)のも束の間、
中盤から物語は想像を絶する展開を見せる。


突如『済遠』が "満州解放人民戦線" を名乗るテロ集団に占拠され、
その攻撃によって『金剛』のイージス機能が無力化されてしまう。
続けて、密かに艦隊を監視・尾行していた潜水艦『春潮』が撃沈される。

そして、"神の盾(イージス)" を失った第二艦隊へむけて
対艦ミサイル「ハープーン」が降り注ぐ。
そしてその弾頭には、あの "禁断の兵器" が・・・

 もう『亡国のイージス』なんてレベルではない。
 もはや架空戦記モードである。

 文庫の裏表紙の惹句に
 「本格ミステリ史上初の3000人殺し」とあるが
 これが誇張でも何でもないのだから恐れ入る。
 (だって第二艦隊は総員で2940人いるのだ。)

しかもなおかつ、ミステリも中断しないのだから驚き。

壊滅的打撃を受け、航行能力を失った『駿河』、
そのCIC(戦闘指揮所)で生き残った一握りの者たちの間で、さらに事件が続く。
密室状態の中で艦隊司令の死体が発見されるのだ。

終盤では、『駿河』の軍事機密を狙う中国人民海軍が迫ってくる中、
シリーズキャラクターの意外な登場もあって
物語はさらにモードチェンジし、「伝奇SF」へと変貌していく。


いやはや、このシリーズはとにかく長いんだけど
本作は今のところ最長で、文庫で800ページ近い。

それもそのはず、上に述べたように内容が盛りだくさんで
特に中盤以後はたたみかけるような怒濤の展開。

「ミステリ+架空戦記+伝奇SF」という
日本の本格ミステリ史上で類例の無い作品であることは間違いないし
大長編にも関わらず、途中でダレることなく最後まで読ませる。

 物語の着地点が全く見えないものだから、
 読んでいる間中、ハラハラしっぱなしである。
 まあシリーズものだから、少なくとも
 まほろくんは生き残るんだろうなぁ・・・とは思うんだけどね(笑)。

ミステリとしては、このシリーズお馴染みの多重解決シーンも健在。
複数の "探偵たち" の推理合戦も読みどころ。

そして、登場する兵器の描写も、壮絶な戦闘シーンも、
このジャンルがメインの作家さんかと思わせるほど。
架空戦記としても、堂々たる書きっぷりを見せる。

 冗談抜きで福井晴敏とタメが張れるんではないかな。

伝奇SF要素は、本シリーズの当初から
作品世界の根底にあるものなので、これも堂に入ったもの。


3つの要素を取り込み、しかもそれらがバラバラではなく
有機的に絡み合ってしっかり一つの物語を構成している。
そしてどれも中途半端になっていないのは
やはり800ページという "物量" がものを言っているのだろう(笑)。

このシリーズ、いままで「無駄に長い」と
思わないわけでもなかったんだけど(笑)、
本作に限っては、この長さは納得でした。

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ユダの窓 [読書・ミステリ]

ユダの窓 (創元推理文庫)

ユダの窓 (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

創元推理文庫の改版新訳シリーズの一編。

密室、そして不可能犯罪の巨匠、ジョン・ディクスン・カーが
別名義、カーター・ディクスンで発表した
名探偵ヘンリー・メリヴェール卿が活躍する長編第7作。


ジェームズは、結婚の許しを得るために
恋人メアリの父親・エイヴォリーのもとを訪れる。

書斎に通され、勧められた酒を口にしたジュームズは
間もなく意識を失ってしまう。

そして、目覚めたジェームズが見たものは
胸に矢を突き立てられて絶命しているエイヴォリーの姿だった。

書斎は密室状態にあり、酒瓶もコップも姿を消し、
エイヴォリーに刺さった矢にはジェームスの指紋が。

逮捕、そして起訴されたジェームズの公判が開かれる。
圧倒的なまでに不利な状況に置かれた被告人だが
その弁護を買って出たのは、H・Mことヘンリ・メリヴェール卿だった。

敗色濃厚な中、なぜかH・Mは被告の無罪を確信しているようだが・・・


「ユダの窓」という作品は密室ものの古典的名作だが
得てしてその密室トリックばかり有名になっているところがある。
実際、私も本作を初読したとき、既にトリックは知っていた。

しかし本書はトリックのみの作品ではもちろんない。
だってトリック知ってて読んでてても、犯人分からないし(笑)。

今回じっくりと読んで思ったのは、やっぱりカーの
ストーリー・テラーとしての非凡さ。

序章と終章を除いて、ほぼ全編法廷場面が続く。
さまざまな人物が証人として出廷し、証言していく。
それを巡り、法務長官(検察側)とH・Mの丁々発止のやりとり。
そして登場人物たちの意外な "真実" が暴かれていく。

被害者エイヴォリーが生前に見せていた謎の行動。
エイヴォリーの弟・スペンサーは公判中に失踪してしまう。
そして被告人の恋人・メアリが抱えていた秘密が明らかになり、
極めつけはジェームズの従兄弟であるレジナルドの
見事なまでの外道っぷり。こいつは助演男優賞ものだ(笑)。

人物の動きの少ない法廷シーンが続くが、新展開が続々と起こり、
全くダレずに読者の興味をつなぎ、ページをどんどんめくらせる。

終盤に至り、ジェームズを陥れるべく張り巡らされた奸計を
ことごとく突き崩していくH・Mの弁論は痛快だ。

さらには密室トリックまで暴かれるが、ここではまだ犯人は分からず、
それが明らかになるのは法廷シーンの最終ページ。
ほんとに良くできた構成だ。

終章で語られるH・Mの謎解きを読んでいると
意外なまでにシンプルな推理で犯人に到達できるのだけど
読んでいる間は全く気づかないんだよねぇ。
まあ、そこがプロなんだろうけど。


本書は密室ものとして有名だけど
法廷ミステリとしても出色の出来だ。
そして、何と言っても物語として面白い。
最近読んでる改版新訳シリーズの中でもトップクラスだと思う。

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ニャン氏の事件簿 [読書・ミステリ]

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公は、ある理由から大学を休学し、
家電配送のアルバイトに精を出す佐多くん。

しかし彼のゆくところ事件が起こり、
なぜかそこには一匹の猫と一人の男が居あわせる。
猫の名はアロイシャス・ニャン。なんと実業家で、
男はその秘書兼運転士の丸山さん。

しかしこのニャン氏、探偵としても確かな眼力を備え、
さまざまな事件の真相を見抜いてしまうのだった・・・

とは言っても、ニャン氏が「にゃあにゃあ」鳴くのを
横で丸山さんが "通訳" するわけなんだが(笑)。


「ニャン氏登場」
 佐多くんがバイト仲間の岡崎くんと訪れた柳瀬家。
 キュートなメイド・来栖さんに心惹かれつつも仕事に励む二人。
 佐多くんは、主の柳瀬夫人が叔父からこの家を相続したことを知る。
 叔父の死に不審な点があり、夫人が疑われたこともあったという。
 そこに現れたニャン氏は、夫人が語る事件の様子から、
 意外な真相を引き出してみせる。

「猫目の猫目院家」
 佐多くんたちがパソコンの宅配に訪れたのは猫目院修造氏の家。
 しかし彼らの到着と同時に、修造氏の双子の弟・養造が
 下取り用のパソコンを持って姿を消してしまう。
 修造氏と共に弟の帰りを待つ佐多くんたちの前にニャン氏が現れ、
 養造の行動に隠された真実を説き明かす。
 ちなみにこのタイトルは、
 "The Red Redmaynes"  (邦題:「赤毛のレドメイン家」)
 のもじりなんだろうなあ。

「山荘の魔術師」
 夏の終わり、高原リゾートの喫茶店でアルバイトをする佐多くん。
 客の菅井老人が語る60年前の思い出話。
 絵の修行で訪れたアメリカで、ある女優に誘われて
 山荘で行われるパーティに参加した。
 しかし、女優は衆人環視の中、山荘から姿を消してしまう・・・
 喫茶店に居あわせたニャン氏が、
 密室からの人間消失の謎を解き明かす。
 海外の某有名短編に似たネタがあったような気もするが
 本書中、いちばんミステリ度が高い作品だろう。

「ネコと和解せよ」
 コマーシャルの撮影現場に大道具を届けることになった佐多くん。
 場所は財前家という個人所有の大邸宅だった。
 しかし、人気モデルを起用しての撮影の最中、
 財前家の土蔵の中から高価な掛軸がなくなってしまう。
 そこに現れたニャン氏は、掛軸の行方はもちろん、
 犯人の動機、さらには意外な正体まで見通してしまう。

「海からの贈り物」
 かつての彼女、実佳とばったり出くわした佐多くん。
 既に結婚も決まっているはずなのに浮かない顔の実佳は、
 合宿旅行で起こった不思議な出来事を語り出す。
 彼女の話から、佐多くんは独力で真相を突き止めることに成功するが
 その場に居あわせたニャン氏は彼に意外な申し出をする。

「真鱈の日」
 冒頭1ページ目で、タイトルの意味が分かるんだが・・・脱力(笑)。
 さて、佐多くんが配送に訪れた池上家。
 玄関に現れたのはメイド姿の来栖さん。
 意外な再会に驚く佐多くんをさらなるサプライズが。
 中で待っていたのは佐多くんの祖父にして大企業の創業者、
 そして会長をも務める大道寺修氏だった。
 佐多くんを自らの会社に迎えようとする大道寺氏。
 過去の経緯から、素直にそれを受け入れられない佐多くん。
 そこへたいへんな報せがもたらされる。
 なんと、大道寺氏に殺人の容疑がかかっているという。
 佐多くんは警察がくる前に、祖父の容疑を晴らそうとするが・・・
 二転三転する事件の解釈、大道寺氏の思惑と佐多くんの葛藤、
 さらには来栖さんの将来をも巻き込み、もちろんニャン氏も登場する。
 わずか50ページほどだけど、密度の濃い物語が展開する。


サブキャラ筆頭の来栖さんが良い味を出してる。
メイドのバイトで生計を立ててる苦学生だったり、
最終話での佐多くんへの協力ぶりで明らかになる聡明さといい、
単なる萌えキャラではなく、健気に頑張ってる姿に好感が持てる。

本書のラストで、佐多くんは大学への復学を決め、
さらには自らの人生について大きな選択をする。

佐多くんを巡る物語はここでひと区切りがつくのだけれど、
彼と来栖さんの今後も気になる。

もし、ニャン氏の探偵譚が今後も続くのなら、おそらく
佐多くん以外の人物をメインに据えることになるのだろうけど、
ぜひ、あの二人も登場させてほしいなあ。

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Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★

「探偵・竹花と命の電話」藤田宜永
 主人公は61歳の私立探偵・竹花。
 引き受けていた家出人捜索が解決した夜、
 事務所に若い男から電話がかかってくる。
 仕事もなく友人もいない。両親も亡くなって天涯孤独。
 淡々と相手をする竹花だったが、青年は毎日のようにかけてくる。
 やがて会話の中で自殺を仄めかすようになるに至り、
 竹花は青年の居場所を探り始めるが・・・
 最後はミステリ的なオチがつくが、
 竹花の、人生の酸いも甘いもかみ分けた対応ぶりが実にいい。
 いぶし銀とはこのことか。

「青い絹の人形」岸田るり子
 謎めいたプロローグから始まり、本編に入ると舞台は一転する。
 主人公のゆかりは、大学准教授の父と
 その再婚相手・美咲との3人でパリへ旅行に来ていた。
 しかしバッグに入れておいたはずのパスポートが紛失する。
 そこへ日本大使館から連絡が入り、
 パスポートを拾って届けた者がいるという。
 その人物に会いに行ったゆかりは驚愕の事実を知る・・・
 そしてエピローグにいたり、すべてのピースがかっちりと決まって
 切れ味鋭い結末を迎える。
 サスペンス・ミステリのお手本みたいな作品だ。
 どこかのTV局で二時間ドラマにしないかなぁ。

「機巧のイヴ」乾緑郎
 江戸時代を思わせる世界を舞台にしたSFミステリ。
 昆虫や鳥を、機械仕掛けで複製する幕府精錬方手伝・久蔵。
 いわばロボット職人だ。その出来映えは、
 本物と全く見分けがつかないほど。
 江川仁左衛門は久蔵へ、ある依頼をする。
 遊女・羽鳥とうり二つの機巧人形を作って欲しい、と。
 書き下ろしSFアンソロジー「NOVA」で既読。
 SFミステリならではの "オチ" が
 その時はあまり好きになれなかった。
 でも今回、ミステリのアンソロジーの中で再読してみたら、
 けっこういけると思った。

「父の葬式」天弥涼
 短編集で既読。
 造り酒屋を営む父・米造が亡くなり、葬儀を行うことになったが
 息を引き取る直前、彼が「喪主」として指名したのは、
 父の元で杜氏として修行する長男・賢一郎ではなく、
 デザイナーになるために米造と大喧嘩し、
 家を飛び出した次男・雄二郎だった。
 突然の "無茶振り" に、戸惑うばかりの雄二郎だったが・・・
 私も去年、父の葬儀で喪主をしたので
 雄二郎くんの苦労はよく分かる(笑)。
 「遺言書の開封」なんてのにも立ち会ってしまったし。
 こんなのはミステリの世界にしかないと思ってて、
 まさか自分の人生で起こるとは全く予想もしていなかったよ。
 幸い、遺産を巡って相続人たちが殺し合うようなこともなく(笑)、
 至極ノーマルな内容で、それでいてちょっぴりアレンジが効いていて
 父が周囲の想像以上に家族のことを慮っていたのを知って驚き、
 少なからず感動してしまったものだ。
 閑話休題。
 この短編では、非常識と思われるような父の遺言で一悶着起こるけれど
 最後は丸く収まって、米造さんはしてやったり、だろうなあ。

「妄執」曽根圭介
 "僕" の友人、一馬は会社をクビになって以来、
 30歳の今日まで引きこもり生活を続けている。
 しかし一馬は、かつて自分がストーカー行為をしていた女性・文恵を
 未だに監視しており、彼女が婚約者とともに新しい店を出すことを知る。
 次第にエスカレートする一馬の行動と並行して、
 "僕" 自身にまつわる物語も綴られていって、
 ラストの "破局" へ向けて収斂していく。
 うーん、この手の話は好きではありません。

「宗像くんと万年筆事件」中田永一
 本作は日本推理作家協会賞短編部門で次点だったという。
 (受賞は若竹七海「暗い越流」。『Symphony 漆黒の交響曲』に収録)
 "私" が小学6年生の時、その事件は起こった。
 クラスメイトが持ってきた万年筆がなくなってしまったのだ。
 そしてその万年筆が "私" のランドセルから見つかった。
 犯人とされた "私" はクラスからいじめに遭い、
 担任が "私" を見る目も厳しくなった。
 しかしその中で一人、宗像くんだけは信じてくれた。
 クラスメイトを廻って情報を集め、担任に申し出る。
 「山本さん("私" のこと)は万年筆を盗ってません。
  僕はそのことを説明できます」
 クラス全員の前で、"私" の無罪を立証するべく
 奮闘する宗像くんだが・・・
 ラストで、高校生になった "私" が当時を振り返るシーンが切ない。
 実際のところ、いじめに対抗して戦ってくれる友人なんて
 そうそういるとは思えない。
 フィクションならではの展開なのだろうけど、この話は心温まる。
 いつの日か、宗像くんと "私" が再会する話も描いてくれないかなあ。
 ちなみに「中田永一」は、「乙一」氏のペンネームの一つだとのこと。

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バチカン奇跡調査官 ラプラスの悪魔 [読書・ミステリ]

バチカン奇跡調査官ラプラスの悪魔 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官ラプラスの悪魔 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第6作。


アメリカ合衆国次期大統領候補の呼び声も高い、マリニー上院議員。
彼が地元の教会で演説しようと登壇したとき、
突如として上空に黒雲が湧き、滝のような豪雨が降り始める。
そして次の瞬間、議員の身体は閃光に包まれた。

絶命して倒れ伏した彼の死因は落雷ではなく、
心臓の "破裂" によるものだった。
さらに、両方の掌に鉄杭らしきものの貫通痕が。

事態を重く見たアメリカ政府から連絡を受けたバチカンは、
平賀とロベルトを調査に向かわせた。
二人はFBI調査官のビル・サスキンスとともに真相を探り始める。

掌の傷跡は死亡する数日前のものと思われた。
その頃、議員はロッキー山中で行われていた
秘密の "降霊会" に参加していたという。

会場となった屋敷は、軍需企業・レイセオン社の創業者らが
わが身に降りかかる "呪い" や "悪霊" を
封じ込めるために建設した秘密の "ゴーストハウス"。

そこでは時おり、政財界の要人やハリウッド・セレブなどが
参加する降霊会が行われていた。

平賀たち3人は、そこで開かれる降霊会へ潜入するが、
そこでさらに "人体消失" などの驚愕の事態に遭遇する・・・


このシリーズは、壮大なホラ話だと思ってる。
それには、如何に大風呂敷を広げるかが勝負だ。
そして、それを如何にうまく畳むかも。

前作は、"吸血鬼" をテーマにさまざまな怪異や謎を提示し、
それを実に "それらしく" 理屈づけて説明してみせた。

基本はホラーで、本格ミステリではないのだから、
多少の強引さやこじつけがあってもOK。
整合性や実現可能性よりも、"らしさ" が優先される。
「まあ、そういういふうに考えられなくもないかな」
くらいで充分かと思う。

もちろん、読み手を満足させるハードルの高さは
人によって異なると思うのだけど、
私としては、通常のミステリ作品よりは
かなりおおらかに受け止めてるつもりだ。

しかし今作はどうか。

周囲に誰もいない状況で、被害者の心臓のみを破壊する。
衆人環視の中、みるみるうちに人間の姿が消えていく。

一見して超常現象のように思える事件も、
裏には人為的なからくりが潜んでいる。
そこまでは、いい。

ところが、その真相は・・・

衆人環視の中の人体消失の謎については
「いくらなんでもそれはないだろう」
心臓破壊による遠隔殺人に至っては、
作中に仄めかされている程度では、正直言ってさっぱりわからない。
そもそも説明しようという気が作者にはなさそうに思える。


ひょっとしたら、
私がこのシリーズに求めるものと、
作者がこのシリーズで描きたいものは、
根本的に異なっているのかも知れない。
今回、それを強く感じた。

 八百屋に行っても魚は買えない。
 「魚が置いてない」って怒る客がいたら
 それは客の方が悪いよねえ。

本来なら星2つかなあと思ったんだが
平賀とロベルトの主役二人が好きなので、星半分増量した。

でも、この傾向がこれからも続くようなら、
そのうち読むのを止めるかもなあ。

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天帝の愛でたまう孤島 [読書・ミステリ]

天帝の愛でたまう孤島 (幻冬舎文庫)

天帝の愛でたまう孤島 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫

評価:★★★

勁草館高校吹奏楽部員・古野まほろを主人公とした
ミステリ・シリーズ第3弾。

前作『天帝のつかわせる御矢』で、
戦果渦巻く満州帝国から脱出したものの
乗り込んだ列車内での連続殺人事件に見舞われたまほろ君。

それを解決して、命からがら日本へ帰り着いたが、
彼に安息の日々は訪れないのであった(笑)。

勁草館高校吹奏楽部と生徒会は、合同して文化祭で演劇を行うことに。
その通し稽古のための合宿地として選ばれたのは
勁草館高校が存在する愛知県姫山市の
はるか南方海上に位置する絶海の孤島・天愛島。

まほろ以下吹奏楽部員5名、生徒会役員4名、そして顧問教師1名。
総計10名が島で唯一の建物・天愛館に入ったときから
惨劇の幕が上がる。

上演予定のミステリ劇に登場する怪人・『死神仮面』が現れ、
メンバーを次々と惨殺していく。
しかもすべての犯行現場が密室だった。

孤島もののお約束(?)どおり、本土との通信手段は破壊され、
おりしも迫りくる台風による暴風雨で交通手段も途絶。
絶対的に孤立した舞台で、彼らは生き残るためにあがき続ける。
しかし、殺人鬼は彼らの中にいるのだ・・・


このシリーズは毎回とんでもなく長いのが特徴。
本書も文庫で700ページ近い厚さを誇る(?)。

なんでこんなに長いのかというと、その理由の一つは
登場人物たちの会話が多いこと。
とにかくこいつら、よく喋るんだ(笑)。

海外文学/古典からの引用あり、有名なアニメの台詞あり、
男女の痴話喧嘩あり、とぼけたギャグあり。
実際このあたりをバサッと切れば
厚さは半分くらいになるんじゃないか。

とは言っても、この膨大な台詞のやりとりがこの作品、
ひいてはこのシリーズ独特の雰囲気を形作っているのも事実。

そして何より、この雑多な言葉の羅列の中に、
さりげなく重要な手がかりや伏線が仕込まれているのだから油断できない。
まあミステリとしては当たり前なんだろうけど。
「木を隠すなら森の中」ならぬ
「言葉を隠すなら会話の中」というわけだ。

だからミステリとして読もうとするなら、
多少の面倒くささは我慢して、この長大な文章を
読み飛ばすわけにはいかないんだよねえ・・・

密室トリックに関しては、読者が見破ることはまず不可能。
実際、明かされてみると唖然としてしまう。

作者もその辺は自覚していて、
終盤近くに挟まれる "読者への挑戦" でも
トリックについては解決条件に含まれず、
「犯人は誰か」のみが問われる。

そして "解決篇" で明かされる推理では、
たった一つの手がかりから論理を展開させて、犯人の指摘へいたる。

 このあたりは、有栖川有栖の『孤島パズル』への
 オマージュなのかも知れない。

でも、これだけならこんな700ページも要らないよなあ・・・
って思っていたら、そのあとにもう一段の大仕掛けが用意してあった。


しかし、この "真相" はどうだろう。

ミステリとしてなら "あり" だとは思う。
むしろ、意外性に溢れて秀逸な "オチ" だろう。

ただ、"物語" としてはどうか。
これは人によって評価が分かれると思うが
私はあんまり好きになれないなあ・・・


このへんを深く突っ込むとネタバレになるので
もうこれ以上触れないけど、ミステリに対して、
何よりも "魅力的な謎と驚きにあふれた解決" を求める人なら、
本書は充分に満足できると思う。


ということは、私はミステリに対して何を求めてるのかなあ。
きっと "謎解きと驚き" に加えて、"物語" としての収まりの良さ、
みたいなものを欲しがってるのだろうなあ。

でもそれって、たぶんとっても欲張りなことなんだろうなあ・・・

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曲がった蝶番 [読書・ミステリ]

曲がった蝶番【新訳版】 (創元推理文庫)

曲がった蝶番【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/12/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

創元推理文庫の改訳新装版シリーズ。
名探偵ギディオン・フェル博士が活躍する長編としては9作目。


ジョン・ファーンリーは英国貴族の次男坊だったが、
放蕩が過ぎて15歳の時にアメリカへと追い払われてしまった。

しかし25年後、兄の死に伴い爵位と領地を継ぐべく
ケント州マリンフォード村へ帰ってきた。

ジョンは幼なじみのモリーと結婚し、すべては順風満帆かと思われたが
その1年後、「我こそは本物のジョン・ファーンリーだ」
と名乗る人物が現れた。

その男、パトリック・ゴアは語る。
25年前の渡米の際に乗り込んだタイタニック号(!)で出会った二人は、
その場でお互いの身分を入れ替えたのだと言う。
かの船が沈没したその夜に・・・

15歳の頃のジョンをよく知るかつての家庭教師を呼び寄せ、
真偽を判別する決定的な証拠が明らかにされようとした時、
ジョンが不可解な死を遂げる。
複数の目撃者のもと、周囲に誰もいない状況で
喉を切り裂かれていたのだ・・・


創元推理文庫の新装版の表紙はちょっと不気味なんだが
これは "自動人形" だ。
からくり仕掛けで楽器を弾いたりチェスを指したりと
驚くべき "性能" を示したもので、
先代(ジョンの父)が大枚はたいて買い込み、
ファーンリー家の屋敷の屋根裏部屋に安置してあったもの。
中盤でこれが登場したあたりから、ぐっと事件の怪奇性が増してくる。
"真相" にも少なからず関わってくるアイテムだ。

あと、意味深なタイトルなんだけど、
これは物語が2/3ほど進行したあたりで出てくる言葉。
この「曲がった蝶番」が、どこの何を表してるのかは
最終章までお預けだ(笑)。

本作はカーお得意の "不可能犯罪もの"。
明かされる真相は実に大胆で驚くべきものなんだけど
実際、どれくらいバレないものなのかはちょっと疑問。

 発表当時はともかく、現代で同じネタを使ったら
 (いろんな意味で)けっこう物議を醸すような気もする。

それを補って余りあるのは、カーのストーリーテリングの巧みさ。
ジョンが本物か否か、自殺なのか他殺なのか、
二転三転するストーリーは読者を飽きさせない。

終盤近くになっても、「これで決まり」かと思わせておいて
さらにひっくり返して見せたりと、もう作者に翻弄されっぱなし。

そして最終章では、真犯人の独白が綴られるんだけど
雰囲気も文体も一転して、"物語" としての本書の面白さが堪能できる。


密室と不可能犯罪の巨匠と言われているけど、それだけに留まらない。
犯人の意外性も充分だし、なにより物語として面白い。
ガーはやっぱり大好きな作家だ。


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雨の日のきみに恋して [読書・ミステリ]

雨の日のきみに恋をして (双葉文庫)

雨の日のきみに恋をして (双葉文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/10/13
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

主人公の沼田渉(わたる)は30歳の独身サラリーマン。
キャリアウーマンの叔母がロサンゼルスへ赴任することになり、
その間、空室となった彼女のマンションで暮らすことになる。

引っ越しが済んでひと月ほど経った、9月の末の雨が降る夜、
渉は部屋の中で女性の声を聴く。

その声は自らを小田切千波と名乗り、
3年前にこのマンションで死んで幽霊となったのだという。


千波は語る。

このマンションの3年前の持ち主はデザイナーの守山薫。
妻のある身でありながら、多くの女性と浮名を流す男だった。

千波もまた彼に憧れる一人で、
守山がマンションを出て愛人と暮らしている間、
彼に求められるままに留守番役を引き受けていた。

そんな生活を続けて3ヶ月、
千波に "あること" が起こり、彼女は自殺を決意した。

しかし決行する直前、千波は思いとどまる。
ところが、そこに現れた何者かがその状況を利用して
千波を殺害したのだという。

彼女自身は "犯人" の顔を目撃しておらず、
"真相" が分からないゆえに自らの死を納得できないまま、
現世に留まっているらしい。

千波は、渉に自分の死の真相を探ってくれるように頼むのだが・・・


渉は "幽霊" の証言をもとに、真相を探り始める。
当時の千波の上司・望月や同僚だった女性・武井、
マンションの管理人だった渡辺、
"事件" の捜査をした刑事・曽我部、
守山の助手だった倉岡・・・

渉は千波と関わった多くの人と会い、話を聞いて
真相解明に努めるものの、一向に犯人の目星はつかない。
しかしその代わりに、守山とその妻の間の
"ある事情" が明らかになってくる・・・


ミステリとしてはけっこう良くできているとは思う。
少ない "容疑者" の中で、最終的に明らかになる "犯人" には
それなりの意外性もある。

それ以外にも、手紙に秘めた "暗号" とか、
"被害者フェチ"(笑)なオタク刑事とか、
面白く読ませる要素も盛り込んである。


でも、上に書いたように本書の評価はあまり高くない。
その理由をいくつか挙げてみる。、

まず、"ヒロイン" である千波さんが今ひとつ好きになれない。
幼い時に両親が亡くなり、親戚の家に身を寄せて苦労したりとか
同情すべき点は多々あるにしろ、
ろくでもない男にばかり引っかかっている。
"事件" のことも自業自得と言ってしまっては可哀想だが
多分に彼女の "脇の甘さ" が招いたことじゃないかなぁ。
そのあたりが、彼女に対して素直に感情移入しにくいところ。

 まあ、頭の固いオジサンの言うことですから。
 若い人や女性からしたら、また違って見えるのかも知れないけど。

あと、「事実」が明らかになって行くにつれて
千波の姿が少しずつ見えてくる(それも足から上に向かってとか)
って展開は、やや品がないと思うんだがどうだろう。

見えてくるのは良いとして、
下半身しか(もちろん服を着てるが)見えない女性の身体を前にして
心穏やかでない渉くんというのもねえ・・・
面白がる人もいると思うけど、私は好きになれないなあ・・・

裏表紙の惹句には「奇跡の恋を描いたラブストーリー」ってあるけど
そもそもこの二人の関係は "恋" なのか?
読んでいてそのあたりもちょっと疑問。

 まあそれを言ったら、人間と幽霊が
 恋仲になれるのかという話になってしまうし、
 たぶん "恋" の定義も人それぞれなんだろうけど。

「ラブストーリー」と銘打つ以上は、主役カップルに対して
読者がどれだけ感情移入できるかが評価を左右すると思うんだけど
本作についてはそこが今ひとつ弱い気がしてる。


というわけで、ミステリとしては星3つ、
ラブストーリーとしては星2つ。
総合して星2つ半、ってことで。


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