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放課後スプリング・トレイン [読書・ミステリ]

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)

  • 作者: 吉野 泉
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫

評価:★★★

主人公は福岡市内の学校に通う女子高生・泉。
彼女の周りで起こる不思議な事件をつづった、
"日常の謎" 系連作ミステリ。

「放課後スプリング・トレイン」
 2年生への進級に伴うクラス替えで、
 泉はモデル並の容姿とパワフルな行動力を併せ持つ
 朝名(あさな)と友人になる。
 ある日、泉は朝名から「彼氏を紹介するから一緒にきて」と誘われる。
 驚きながらも朝名に同行するが、その途中の鉄道の車内で
 二人はある女性の不思議な行動に出くわしてしまう。
 朝名の彼氏は小学校の新任教師・上原。そして一緒に現れたのは
 彼の友人で国立Q大学の院生・飛木(とびき)。
 飛木は泉たちの話から、女性の行動の意味を解き明かす。
 表題作兼登場人物の紹介篇、のわりには
 ミステリ的なネタがいまいちな感も。

「学祭ブロードウェイ」
 6月を迎え、泉たちの通う高校は文化祭。
 彼女のクラスは文化祭における「屋台権」(食品を販売する権利)
 のくじ引きに外れ、演劇を行うことになった。
 演目はクラスを二つに分け、
 「眠れる森の美女」と「シンデレラ」を上演することに。
 文化祭準備の熱気と混沌の中、演劇の練習は続く。
 そして文化祭の当日。
 楽屋として使用されていた部屋が荒らされ、
 シンデレラの衣装がなくなるという事件が起こる。
 しかし、泉たちから観客として招かれていた飛木は
 事件の裏に隠された事情を見抜いてしまう・・・
 明かされてみると、たしかに高校で起こりそうで、
 しかも高校でしか起こらないであろう事件だったりする。
 本書ではいちばんミステリ寄りな作品かな。

「折る紙募る紙」
 女子水球部というなかなかレアそうな部活に所属している泉さん。
 練習試合の紅白戦で負けてしまった彼女は、
 罰ゲームとしてボランティア部の募金活動へ応援参加することに。
 同じ水球部員の芽衣子とともに3日間の街頭募金に参加した泉。
 しかしボランンティア部の部長・徳永と芽衣子の行動に
 不審なものを感じ始めた泉は、飛木に相談するが・・・
 泉のクラスでの席替えで使用された "色紙" という
 二つの "謎" をうまく組み合わせて構成されてる。
 募金とかボランティア活動とかいうものについて
 いろいろ考えさせられる話にもなってる。

「カンタロープ」
 朝名と、その彼氏である上原先生の間がうまくいっていないらしい。
 心配になった泉は、飛木と一緒に上原の勤務する小学校へ向かうが・・・
 ミステリとしては、上原の抱えた悩みを飛木が解決するわけだが
 本書の最後におかれた本編で、今までの3編に "織り込まれて" いた
 ある "仕掛け" が明らかになる。


泉たちの通っている高校の描写がいい。
生徒たちのキャラも立ってるし、実に楽しそうに高校生活を送ってる。
授業風景とか試験の様子を読んでると、彼女らの通っている高校は
かなりハイレベルな進学校であることが伺われる。
このまま行けば泉は、難関であるQ大へ進学しそうだ。
(作中では明言されないけどQ大は明らかに九州大学のことだろう)
飛木は理学、それも生物学専攻の院生らしい。
泉さんも理系らしいので、理学部に入って彼の直系の後輩になりそう。

どうでもいいことなんだけど、読んでいて気になったのは、
ミステリ的な内容よりも、朝名の彼氏のこと(笑)。

上原先生は、朝名さんの元家庭教師だったという。
おいおい、ふつう女の子に男の家庭教師はつけないだろー、
ネコに鰹節じゃねえか・・・なぁんて
しばしイケナイ妄想に耽ってしまいそう(笑)。
 まあ、それだけ上原くんが朝名の親から信頼されてたってことか。
 家族ぐるみでお付き合いがあるのかも知れないしねぇ。
実際、作中での彼の描写は、画に描いたように真面目で誠実そのもの。
大学もたぶん国立Q大(おそらく飛木と同級生なんだろう)。
 まあ、親はくっつくならそれでもいいと思ってたのか。

それにしても、進学校に通っていてモデル並みに美人な
高校二年生を彼女に持つなんて、上原先生が羨ましすぎる(爆)。

 いけませんねぇ。還暦も近いというのに全く煩悩が抜けてない(笑)。

もし続編があるのなら、
大学生になった泉さんと院生の飛木くんという
"理系カップル" の活躍が描かれるのだろう。
それも読んでみたいと思う。

あ、朝名さんと上原先生の "その後" もぜひ(笑)。

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世界記憶コンクール [読書・ミステリ]

世界記憶コンクール (創元推理文庫)

世界記憶コンクール (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 文庫

評価:★★★

明治末の時代を舞台に
雑誌記者・里見高広と天才絵師・有村礼のコンビが
帝都・東京で起こる不思議な事件の謎を解く
<帝都探偵絵図>シリーズの第2作。

「第一話 世界記憶コンクール」
 ある日、高広のもとへ質屋「兎屋」(うさぎや)の
 若主人・兎川(とかわ)博一が「相談に乗ってほしい」とやってくる。
 新聞記事にあった「記憶に自信のある方求む」の広告。
 謝礼は一日につき一円と破格。
 文章を一目するだけで瞬時に記憶できる "特技" をもつ博一は
 父親の熱心な勧めもあって応募することになり、採用となった。
 責任者は空木(うつぎ)と名乗る大学教授で
 脳の活性化の研究のためだという。
 内容は簡単な文章を覚え、それを紙に書くだけ。
 しかし1ヶ月後、突然空木は姿を消してしまう。
 相談を受けた高広が真っ先に連想したのは「赤毛組合」。
 ホームズ譚の中でも有名な一編だ。
 高広と礼は真相を探り始めるが・・・
 「赤毛組合」そっくりの展開ながら、原典をうまくひと捻り。
 最後はこのシリーズお得意の "人情噺" へつなげていく。うまい。

「第二話 氷のような女」
 フランス留学で法律を修めたものの、帰朝後は定職にも就かずに
 政治家になる夢を追っている青年・里見基博。
 見かねた友人の中根秀真(ほづま)が仕事を持ってきた。
 「天然氷」と称して悪質な水を使った "悪水氷" が出回り、
 コレラ等の伝染病の感染源になっているという。
  "悪水氷" の探索を請け負った基博は資産家・相模清右衛門と
 その遠縁の娘・よし乃と知り合う。
 「天然氷」の出荷前検査を請け負っている医師・村上とともに
  "悪水氷" の出所を追い始める基博だが・・・
 高広の養父・基博の若き日のエピソード。
 よし乃に一目惚れしてしまった基博だが、
 村上もまたよし乃を妻にと望んでいることを知り、
 心が穏やかでない日々を過ごす。
 いやあ、大の男にこんな表現は失礼かもしれないが
 恋に悩む基博君がなんともかわいく、微笑ましい。

「第三話 黄金の日々」
 第1巻第1話『点灯人』で高広と出会った森兄妹の兄・恵は
 東京美術学校の予科生となっていた。
 恵の同級生・幸生は、英国人を父に持ち
 高名な陶工・唐澤清山の養子になっていたが
 他人の作品の稚拙ぶりを容赦なく論評するので
 クラスメイトたちからは敬遠されていた。
 ある日、恵は「久尻焼」のことを耳にする。
 200年前に製造が途絶えてしまったこの幻の陶磁器が
 フランスで高評価を受け、値段が急騰しているという。
 そして、失われたはずの製法を、
 唐澤清山ただ一人だけが知っていると。
 巨大な利益を生む「久尻焼」をめぐって
 事件に巻き込まれた幸生を救うのは、恵と高広と、そして・・・
 読み終わってみるとタイトルの意味が沁みてくる。

「第四話 生(いき)人形の涙」
 明治天皇へガーター勲章を贈呈すべく、
 日本を訪れた英国使節団。
 その首席随員をつとめるアーリントン卿は
 20代の頃、日本で英国公使館の書記官として
 幕末という激動の時代を過ごしていた。
 彼は取材で出会った高広に、かつて自分が日本で体験した
 不思議な出来事を語る。
 当時、公使館の近所に住む人形師・キヘイがつくった生人形が、
 攘夷を叫ぶ無法者たちが騒ぎ起こした晩に
 生きて動き出したという話だった。
 そして、英国使節団の歓迎会の会場で、
 勲章の一つが盗まれるという事件が起こる。
 犯人を追い詰めるために高広はある "策" を仕掛けるのだが
 実際これを実行するのはけっこう難しそう。
 ちなみに、この事件がきっかけで高広は礼と出会うことになる。

「第五話 月と竹の物語」
 銀座通りに店を構える小間物屋『なよ竹』。
 店名にちなみ、礼に美麗なかぐや姫の絵を描いてもらって
 飾り窓の中央に飾ったところ、
 日がな一日、店の前でかぐや姫の絵を眺めている男が現れた。
 開店と同時に現れ、閉店と同時に去っていく。
 しかしその数日後、飾り窓が割られて
 店内にあった金塊が盗まれるという事件が起こる。
 犯人は、絵を眺めていた男と思われたが・・・
 今回の高広は、現場を見ただけでほぼ真相を見抜くなど
 本書の中ではいちばん "名探偵" っぽい活躍を見せる。
 犯人はもちろん、絵を眺めていた男の意外な目的も含めて
 鮮やかに事件を解き明かしてみせる。


今回収録の作品のうち、
第二話と第四話は過去の番外編的作品、
第二話と第三話はサブキャラにスポットをあてた作品、
そしてそれらをシリーズの定番パターンの第一話と第五話で
挟むという、作品世界を広く楽しめるつくりになってる。

マンネリに陥らないように目先を変えて、
いろいろな題材に挑戦してるようにも見える。

手元にはシリーズ第3巻「人形遣いの影盗み」もある。
これも近々読む予定。

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命に三つの鐘が鳴る 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 [読書・ミステリ]

命に三つの鐘が鳴る: 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 (光文社文庫)

命に三つの鐘が鳴る: 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/06/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

同じ作者の『天帝』シリーズに
準レギュラー出演している警察官僚・二条実房。
本書は、若き日の彼を主役としたシリーズの第1作である。

東京帝国大学法学部在学中は学生運動に身を投じていた二条だが、
卒業後はキャリア警察官として真逆の道を歩み出す。

 帝国大学とはいっても戦前の話ではない。
 本書は『天帝』シリーズなど一連の古野まほろ作品に共通する
 パラレルワールドの日本を舞台にした物語。
 太平洋戦争には負けたものの日本は未だ "帝国" であり
 陸海軍も健在。ついでに "満州国" も健在だったりするが
 1970年代には学生運動が華やかだったりと
 我々の世界とほぼ同様の歴史を刻んでいるようだ。

大学を卒業後に警察講習所に入所、
3ヶ月の厳しい訓練を終えて警部補を拝命、
埼玉県警埼玉中央署に配属され、2ヶ月の交番勤務。

そして1975年9月1日、二条は外勤見習いが終わるとともに
7ヶ月間の内勤見習いへと異動。
辞令に記された肩書きは「埼玉中央警察署特別高等課第一係長」。

 いわゆる「特高警察」だが、この世界でのそれは
 我々の世界でいうところの「公安警察」に近いようだ。

 ちなみに本書に登場する「埼玉」という "市" は
 内容から察するに「大宮」と読み替えて差し支えなさそうだ。
 関東に住んでる人にしかわからないかもしれないけど(笑)。

特高課のメンバーは部長の丹澤、課長の城川警部、
若手刑事の澤谷、紅一点の佐藤未緒巡査。
そして二条の教育係となったのは真柴係長。
その指導はまさに "鬼軍曹" とも言うべきものだった。

 二条が過ごす新米警官の日常は、一般人の想像を超える。
 このあたりは "お仕事小説" としても楽しめる。
 ただし、「○○○の "破片" を素手で集める」なんて
 強烈なシーンがあったりして度肝を抜かれるが。

そんな過激な毎日を送る二条のもとへ、
大学時代の親友・我妻雄人が現れる。
彼はかつて二条とともに学生運動に明け暮れ、
いまでは過激派組織『革命的人民戦線』の幹部となっていた。

その我妻が、「たったいま人を殺してきた」と自首してきたのだ。
現場は京浜東北線の車内。被害者は我妻の恋人にして、
かつて二条が想いを寄せていた女性・佐々木和歌子であった。

そして彼女は、我妻の属する『革人戦』と
血で血を洗う抗争を繰り広げている
『革命的学労同盟』の幹部でもあったのだ。

対立する過激派同士の内ゲバなのか?
それとも単なる男女の愛情のもつれなのか?
そして、なぜ彼は逃走せずに自首してきたのか?

しかし我妻は犯行に至る事情も動機もいっさい語ろうとはしない。

特高警察の幹部たちは過激派の情報が一気に入手できると意気込むが
真柴が上層部の反対を押し切きって、
我妻の取調官として指名したのは新米刑事の二条だった。

ただし彼に与えられた時間は10日間。
期限内に我妻を "落とせ" なかった場合は、
彼の身柄は特高の上層部に移されてしまう。

かつての親友として。
学生運動の同志として。
そして同じ一人の女を愛した男として。
そして何よりも警察官として、
事件の真相をさぐるべく二条は我妻と取調室で対決する。

もちろん二条は一人ではない。
城川、澤谷、そして佐藤たち同僚刑事は
我妻の行動を追って地道な捜査を通して彼をバックアップする。

真柴は厳しい中にも的確なアドバイスを二条に与え続ける。

やがて、彼らがたどり着いたのは、
限りなく哀しみに満ちた真実だった・・・


『天帝』シリーズに登場する二条は、斜に構えていて
極めて有能ではあるけれど癖のある中年のオッサン、って感じなんだが
本書での二条はまだまだ大学を出たばかりの22歳か23歳。
"うぶ" とまでは言わないが、世間知らずで間が抜けている。
でも人の情に接すると素直に感動してしまうような
愛されキャラだったりする。

読んでいてなんだか既視感を覚えたのだけど、ふと気づいた。
『天帝』シリーズの主役、古野まほろくんに
よく似ているような気がするんだ。

『天帝』シリーズでは、なにかとまほろくんの世話をしている二条だが
あれは「かつての自分を見ているよう」な気がしているのかも。
だから、「危なっかしくて放っておけない」んだろうな。
つまり「他人事とは思えない」んだろう(笑)。

単純な殺人に思えたこの事件も、
実は氷山の一角で、隠されている部分の "巨大さ" に驚かされる。

序盤では、新米警官・二条のドジっぷりがユーモラスで
笑いさえ誘う雰囲気だったものが
終盤に近づくに従ってどんどんシリアスになり、
やがて悲しくダークな展開へと変貌、
そして、衝撃的なラストへとなだれ込んでいく。

よく「衝撃のラスト」なんて言葉は
映画やドラマの謳い文句でよく使われるけれど
本書のラストはまさに "衝撃" そのもの。

現在の所、「今年読んだ本ベストテン」の、暫定ながら第1位です。


『天帝』シリーズでは、シリアルキラーの捜査はもちろん、
大陸ではスパイの真似事をしたり、
果ては "人外" の相手までする羽目になって
彼の本業がなんだったか時たま忘れてしまうんだけど(笑)
『天帝』シリーズ以前、その十数年前にはちゃんと警察官をしていて
順調にキャリア官僚として出世街道を驀進していたことがよく分かる。

その彼が、『天帝』シリーズでまほろたちに絡んだばかりに
 "あんなふう" になってしまったわけで(笑)。


いま、手元にはこのシリーズの第2作
『パダム・パダム 京都府警平安署 新任署長・二条実房』
がある。ちなみに本書の5年後の話らしい。

これも近々読む予定。

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テニスコートの殺人 [読書・ミステリ]

テニスコートの殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

テニスコートの殺人【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/07/22
  • メディア: 文庫

評価:★★★

創元推理文庫の新版改訳シリーズの1冊。


ボブ・ホワイト、ジェリー・ノークス、ニコラス・ヤングの3人は
大学時代からの親友だった。

極貧のうちにボブは世を去るが、残された娘・ブレンダは
ニコラスが後見人となって養育されることになった。

そして、金融街で成功したものの子宝に恵まれなかったジェリーは、
甥のフランクを養子に迎える。

そしてニコラスとジェリーは
ブレンダとフランクが結婚することを条件に
全財産を二人に贈ることを決めた。

しかし、ジェリーに甘やかされて育ったフランクは
道楽の限りを尽くす放蕩者になっていた。

ブレンダに想いを寄せる弁護士ヒュー・ローランドには、
この結婚が彼女にとって幸福なものになるとはとうてい思えなかった。

ブレンダに結婚を思いとどまらせようと、
ヒューがニコラスのもとを訪れた日、
テニスコートでフランクの死体が発見される。

現場はまさに雨が上がったばかり。
その中央付近でフランクは絞殺されていた。
残された足跡は被害者のものと、
第一発見者であるブレンダが死体まで往復したものだけだった。

ブレンダの無実を信じるヒューは、彼女から容疑を逸らすために
現場に細工をするのだが・・・


"足跡のない殺人" というのも、ミステリのシチュエーションとしては
ポピュラーなものだが、不可能犯罪専門(笑)の
名探偵ギデオン・フェル博士は、どんな種明かしをひねり出すか?

と書いてはみたものの、『ユダの窓』を読んだ後で本書を読むと、
その出来の違いにちょっと驚く。

巻末の解説を読むと、本来は中編に収めるべき作品を
無理矢理書き伸ばして長編にしたもののようで、
作者自らその "出来の悪さ" を認めているとのこと。

確かにメインのトリックはちょっと首を傾げる。
あまりにも犯人の思惑通りに被害者が動きすぎる。
これ、絶対途中で被害者は気づくだろ~って思う。
短編ならまだしも、これで長編を支えるのはちょっと荷が重い。

後半に起こる第二の殺人もちょっと雑すぎる。
いくらなんでも、あの状況で犯人に気づかないなんて
現場にいた人はみんな眼科へ行ったほうがいい(笑)。

なんだか悪口ばかり書いてるが、
ストーリーテラーとしての才能はしっかりあるカーのこと。

ニコラス邸の近所に住む熟女とか
フランクの浮気相手のショップ店員とか
その恋人がサーカスの芸人だったりとか
登場人物それぞれのキャラも立っているし
背負ったドラマもちゃんと描写されてる。

そして何より、主役カップルが迎える危機の描き方がうまい。
小賢しくいろいろ工作をするのだけど、それが裏目裏目に出て
だんだんドツボにハマっていくところとか(笑)。

ラブコメと呼ぶにはちょっと暗い話だけど
物語としてはとても面白い。

ミステリとしてなら星二つだけど、
語り口の上手さで星一つ増量ってことで。

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自薦 THE どんでん返し [読書・ミステリ]

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/05/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★

いやはや凄いタイトルだ。
「どんでん返し」ですよ。「自薦」ですよ。
いったいどうなっちゃうんですかねえ奥さん(誰?)。

ミステリというのは多かれ少なかれ結末に意外性を伴うもので
「やられた!」とか「いやあ一本取られたなあ」とか
思わせるものが傑作なんだろうと思う(私基準ですが)。

「どんでん返し」なんてのはその最たるもので
その箇所にさしかかったら「えぇ~!」とか「まさかそんな!」とか
"叫ぶ" まではいかなくても、それに近い思いを
読み手に味わわせなければいけないだろう(これも私基準)。

そして、どんでん返しがある作品は、
結末に「どんでん返し」があると知らずに読んだほうが
驚きが大きいと思うんだけど、
最近は、帯や裏表紙などの惹句に「最後のどんでん返しがスゴイ」とか
堂々と書いてあるものを時たま見かけるんだよねぇ。

 あれ、どうなんだろう。
 わざわざ作品の価値を下落させてると私なんか思うんだけど
 それよりも、出版社はすこしでも部数を稼ぎたいのかなぁ。

閑話休題。

本書は、「結末に "どんでん返し" があります」って宣言してる作品集。
しかも短編なので、短いストーリーの中で
読者を驚かさなければならない。
いやあ、どこまでハードルを上げてるんですかねえ双葉社さん。

でも、そんな "自分で自分の首を絞めてる" ような作品集に
自作を提供した作家さん。スゴイです。頭が下がります。
作家名を見ると、そうそうたるビッグネームばかり。流石です。


「再生」綾辻行人
 17歳も年下の教え子と結婚した大学助教授。
 しかし、妻には恐るべき "秘密" があった。
 トップバッターに立つだけのことはある傑作。
 最終ページでの驚愕は、"どんでん返し" があるって
 予告されていてもなお、強烈なインパクトがある。
 個人的には、本書ではベスト作品。

「書く機械(ライティング・マシン)」有栖川有栖
 才能はあるのに、いまひとつブレイクできない作家・益子。
 彼の潜在能力を極限まで引き出すべく、
 伝説的な "名伯楽" と謳われた編集者が
 益子を連れていった場所は・・・
 ミステリと言うよりは、不条理SFに近いかな。
 1970年代あたりの小松左京か筒井康隆、
 あるいは藤子不二雄あたりが描きそうな雰囲気を感じる。

「アリバイ・ジ・アンビバレンス」西澤保彦
 両親のケンカから逃れて家を出た主人公が見たものは、
 同級生の淳子が中年の男性と逢い引きしているところ。
 しかしその時間、淳子の家では殺人事件が起こっていた。
 そしてなぜか、アリバイがあるはずなのに
 淳子は「自分が殺した」と供述しているらしい・・・。
 終盤、淳子の供述に込められた深~い意図が明かされると、
 ほんとに良くできてると感心する。
 "どんでん返し" とは思わないが、細部まで計算が行き届いた作品。
 とくに "サブ(?)ヒロイン" の琴美ちゃんがいい味出してる。
 西澤保彦って、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 何となく「私には合わないなあ」って思って
 途中から読まなくなったんだよねえ・・・

「蝶番の問題」貫井徳郎
 大学時代の先輩であった作家のもとへ主人公の刑事が持ち込んだのは、
 当事者5人が全員死亡していたという事件。
 被害者が残した手記から、真相を突き止めようするが・・・
 この部分は良くできたミステリになってるけど
 ラストのこれは "どんでん返し" かなあ・・・
 気の利いた "オチ" ではあるけどね。
 最近、ドラマ化や映画化が相次いでいる貫井徳郎さん。
 この人も、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 ここ数年は読んでないんだよねえ・・・

「カニバリズム小論」法月綸太郎
 元医学生の大久保は、同棲していた女を殺した。
 さらに、その女の死体を "食べて" いたのだ。
 なぜ、彼は死体を食べ続けていたのか。
 法月綸太郎が導き出したのは驚くべき "理由" だった・・・
 いやあ、この "理由" がちょっとインパクトありすぎて
 その後に用意されていた "もうひとひねり" が
 ちょっと霞んでしまった感が。

「藤枝邸の完全なる密室」東川篤哉
 烏賊川市で有数の資産家、藤枝喜一郎。
 しかし、その甥の修作は、叔父が遺言状を書き換えて
 彼の取り分を減らそうとしているのを知り、喜一郎を殺害する。
 修作の工作により、現場は完全な密室になったが
 そこへ探偵・鵜飼が現れて・・・
 鵜飼の意外に(?)鋭い洞察力でどんどん追い詰められていく修作。
 しかし、本作のキモはそこではなく、ラスト一行にある。
 でも、これを "どんでん返し" と呼んでいいのだろうか?・・・(笑)


こういう敷居の高い作品集に参加しただけあって
いずれも高レベルの作品ではある。

でも、タイトルで大上段に「どんでん返し」って掲げないで
普通に読んだほうが素直に驚けたかもなぁ・・・
って思わないでもないが(笑)。

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人魚は空に還る [読書・ミステリ]

人魚は空に還る (創元推理文庫)

人魚は空に還る (創元推理文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

時代は、日露戦争の記憶も新しい明治40年代。

主人公・里見高広は、両親を失って遠縁の家の養子となった。
養父は高広を実子と分け隔てなく育ててくれたが、
ある "いざこざ" がもとになって
高広は養家を飛び出し、現在は雑誌記者となっている。

もう一人の主役は、天才とも評される超人気絵師・有村礼(れい)。
彼が表紙を描いた雑誌は売れ行きが数倍に伸びるという。
礼本人も、彼が描く美麗な婦人画に負けず劣らすの超絶美形。

こう書いてくると礼が探偵役かと思われそうだが
実はその逆で、礼は高広に事件解決を "強要" (笑)するという
"押しかけワトソン役" だったりする。

この二人が、帝都・東京で出会う事件を解決していく
《帝都探偵絵図》シリーズの第1巻。


「第一話 点灯人」
 10歳の少女・森桜が高広の勤務先である至楽社を訪れる。
 兄・恵(さとし)が失踪したので尋ね人の広告を出したいという。
 恵は中学生ながら広告図案募集で入賞、一等賞金100円を手にしていた。
 残された写生帳に描かれた風景画を手がかりに、捜索をはじめる高広。
 その途上、ライバル記者の佐野から入手した情報を追ううちに
 清文館という倒産した印刷所にたどり着くが・・・
 この第一作で、シリーズのレギュラーメンバーがほぼ全員、
 顔を出すのもよくできているけれど、
 謎を解いた先に浮かび上がる森兄妹の哀しみも切ない。
 高広が彼らに寄り添えるのも、彼自身の生い立ちがあるからだろう。

「第二話 真珠生成」
 芸者屋が買い込んだ新品の金魚鉢。
 しかし、その底に敷き詰められた白石の中に一粒の真珠が。
 それは、銀座通りに店を構える美紀真珠から盗まれた
 3粒のうちの1つだった。しかも、真珠が盗まれた当日に
 店を訪れていたのは高広のかつての養父と義姉。
 結婚が決まった娘のために、真珠の購入に来ていたのだ。
 高広は義姉のために真相究明に乗り出し、
 美紀真珠で働く従業員・珠子に会いに行くが
 彼女自身にも、資産家の御曹司との縁談が進んでいた・・・
 作中で言及されるのは、ホームズ譚の一つ「六つのナポレオン」。
 もちろん本作の真相はそれとは異なるのだけど
 すべてが丸く納まる結末は、やっぱりいいものだ。

「第三話 人魚は空に還る」
 浅草六区の見世物小屋で興行を打つ「蝋燭座」。
 その目玉は、人間なら10歳ほどかと思えるような "人魚"。
 その美しくも悲しい歌声に魅せられて連日満員の大盛況。
 新進作家・小川健作に連れられて見物にきた高広と礼。
 そこで出会ったのは大富豪夫人・花遊鞠子(かゆう・まりこ)。
 なんと人魚は彼女のもとへ売られていくことが決まったという。
 引き渡しの日、「観覧車に乗りたい」という
 人魚の最後の願いを聞き入れた座長。
 しかし人魚は、乗っていたゴンドラから
 シャボンの泡となって消えてしまう・・・
 密室状態からの "人魚消失" 事件。
 脱出のからくりも気になるが、本作のキモはそこではない。
 最後の謎解きで明らかになる、人々の情の厚さが心にしみる。

「第四話 怪盗ロータス」
 帝都に出没する怪盗ロータス。高価な美術品のみを狙い、
 盗んだ富は貧しい者に分け与えるという噂から
 庶民の人気を集めていた。
 そんな中、呉服橋の袂で起こった交通事故。
 高広の目前で事故を起こしたのは、米相場で大儲けをした大黒重治。
 はねた少年に対して横柄な態度をとる中、
 そのに居あわせた青年が大黒の鼻を明かしてみせるのだった。
 その大黒のもとに、怪盗ロータスからの "予告状" が届く。
 収集している洋画のコレクションを頂く、という内容だ。
 警戒をする大黒邸だが、ロータスは意表を突く方法で
 易々と侵入に成功し、目的を果たしてしまう。
 ロータスを追う高広の前に、再び "あの青年" が現れるが・・・
 今回はアルセーヌ・ルパンを気取る怪盗が登場する。
 ロータスは今後も不定期に登場する準レギュラーキャラらしい。
 大黒が心に秘めた意外な "真意" にも驚かされる。

「第五話 何故、何故」
 隅田川の川沿いにある質屋に入った強盗は、
 現金1000円を盗んだが、船で逃走しようとした際に
 警察に発見され、現金と共に船に火を放って遁走した。
 高広は、礼とともに礼の大伯父の浮世絵師・歌川秀芳を訪ねる。
 家の真ん前に水練場を建てられ、
 しかもその持ち主から嫌がらせを受けているという秀芳の話から
 高広は強盗事件との関連を見つけるのだった・・・
 文庫化の際に書き下ろされたボーナストラックだ。


高広は一を聞いて十を知るような天才型ではなく、
関係者への取材や話を聞いているうちに真相にたどり着く。
事件に関わる人々の感情の機微にも鋭敏で、
被害者や弱い者の側に立って
解決を目指していこうとする "優しい" 探偵だ。
それはやはり両親を早くに失うなど
苦労の多い半生を過ごしてきたからだろう。

このシリーズは現在のところ3巻まで出ているが、
続巻も手元にあるので、近々読む予定。

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天帝のみぎわなる鳳翔 [読書・ミステリ]

天帝のみぎわなる鳳翔 (幻冬舎文庫)

天帝のみぎわなる鳳翔 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/12/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

勁草館高校吹奏楽部員・古野まほろを主人公とした
ミステリ・シリーズ第4弾。

前作『天帝の愛でたまう孤島』で
凄惨な連続殺人事件に遭遇し、
そのあまりにも過酷な "真相" に心が折れ、
(と言うか、彼は事件のたびに「失意のどん底」に落ちるんだがwww)
最終章で勁草館高校のある姫山市から
いずこかへ旅立った(拉致された?)まほろくん。


その彼が姿を現したのは、なんと
大日本帝国海軍・第二艦隊旗艦にして
戦後の日本にとって、ようやく所有することが叶った
正規空母・『駿河』の艦上だった。

 本シリーズが舞台にしているのはパラレルワールドの日本。
 太平洋戦争には敗れたものの、日本は未だに「帝国」で陸海軍も健在。

 ちなみに『鳳翔』とは、1922年に竣工した
 日本海軍最初の正規空母の名称である。

 そして、これも健在な「満州帝国」は
 前々作『天帝のつかわせる御矢』以来、
 東西に別れて内戦の真っ只中という状況。
 しかし本作の時点で「西満州」こと「満州社会主義人民共和国」が
 圧倒的優勢になりつつあった。

全長290mに及ぶ巨大空母『駿河』、最新鋭イージス艦『金剛』、
そして随伴する駆逐艦群を含む第二艦隊は、
「満州帝国」海軍最後の生き残りであるイージス艦『済遠』とともに
台湾への "親善訪問" 航海の途上にある。

18歳の高校生であるはずのまほろくんは、
"儀典参謀・古野まほろ軍楽少佐(25歳)" という偽りの身分で
第二艦隊司令部に潜入していたのだ。

彼を送り込んだのは『-御矢』事件で知遇を得た皇族・華頂宮博利王。
海軍少将にして軍令部次長でもある彼は、
第二艦隊内部に不穏な動きがあることを察知していた。

すなわち、「満州は日本の生命線である」との主張から
『駿河』内で反乱を敢行、第二艦隊の指揮権を奪い、
そして東シナ海を北上したのちは
満州帝国の内戦に介入し、「西満州」へ痛撃を加える。

内務省所属の紙谷警部とともに
『駿河』に乗り込んだまほろくんに与えられた使命は、
陰謀の首魁をつきとめ、反乱を未然に防ぐこと。

 「一介の高校生にそんなことできるんかい?」
 って疑問も湧いてくるが、読んでいけば
 そのへんは "それなり" にフォローされてる(笑)。

ミリタリー・サスペンス風な出だしだけど、
本作は基本的にはミステリなので、しっかり事件も起こる。

第二艦隊司令長官、参謀長、『駿河』艦長、同副長。
国内からの来賓として軍需産業の社長令息、製薬会社の会長令嬢。
海外からは、"鉄の女" こと前大英帝国首相、
米国大使館筆頭駐在武官、仏海軍軍令部作戦課長、
そして事実上日本の庇護下にある『済遠』の艦長。

彼らが一堂に会した昼餐会で毒殺事件が発生するのだ。

やっぱりミステリだったな~と安心した(?)のも束の間、
中盤から物語は想像を絶する展開を見せる。


突如『済遠』が "満州解放人民戦線" を名乗るテロ集団に占拠され、
その攻撃によって『金剛』のイージス機能が無力化されてしまう。
続けて、密かに艦隊を監視・尾行していた潜水艦『春潮』が撃沈される。

そして、"神の盾(イージス)" を失った第二艦隊へむけて
対艦ミサイル「ハープーン」が降り注ぐ。
そしてその弾頭には、あの "禁断の兵器" が・・・

 もう『亡国のイージス』なんてレベルではない。
 もはや架空戦記モードである。

 文庫の裏表紙の惹句に
 「本格ミステリ史上初の3000人殺し」とあるが
 これが誇張でも何でもないのだから恐れ入る。
 (だって第二艦隊は総員で2940人いるのだ。)

しかもなおかつ、ミステリも中断しないのだから驚き。

壊滅的打撃を受け、航行能力を失った『駿河』、
そのCIC(戦闘指揮所)で生き残った一握りの者たちの間で、さらに事件が続く。
密室状態の中で艦隊司令の死体が発見されるのだ。

終盤では、『駿河』の軍事機密を狙う中国人民海軍が迫ってくる中、
シリーズキャラクターの意外な登場もあって
物語はさらにモードチェンジし、「伝奇SF」へと変貌していく。


いやはや、このシリーズはとにかく長いんだけど
本作は今のところ最長で、文庫で800ページ近い。

それもそのはず、上に述べたように内容が盛りだくさんで
特に中盤以後はたたみかけるような怒濤の展開。

「ミステリ+架空戦記+伝奇SF」という
日本の本格ミステリ史上で類例の無い作品であることは間違いないし
大長編にも関わらず、途中でダレることなく最後まで読ませる。

 物語の着地点が全く見えないものだから、
 読んでいる間中、ハラハラしっぱなしである。
 まあシリーズものだから、少なくとも
 まほろくんは生き残るんだろうなぁ・・・とは思うんだけどね(笑)。

ミステリとしては、このシリーズお馴染みの多重解決シーンも健在。
複数の "探偵たち" の推理合戦も読みどころ。

そして、登場する兵器の描写も、壮絶な戦闘シーンも、
このジャンルがメインの作家さんかと思わせるほど。
架空戦記としても、堂々たる書きっぷりを見せる。

 冗談抜きで福井晴敏とタメが張れるんではないかな。

伝奇SF要素は、本シリーズの当初から
作品世界の根底にあるものなので、これも堂に入ったもの。


3つの要素を取り込み、しかもそれらがバラバラではなく
有機的に絡み合ってしっかり一つの物語を構成している。
そしてどれも中途半端になっていないのは
やはり800ページという "物量" がものを言っているのだろう(笑)。

このシリーズ、いままで「無駄に長い」と
思わないわけでもなかったんだけど(笑)、
本作に限っては、この長さは納得でした。

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ユダの窓 [読書・ミステリ]

ユダの窓 (創元推理文庫)

ユダの窓 (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

創元推理文庫の改版新訳シリーズの一編。

密室、そして不可能犯罪の巨匠、ジョン・ディクスン・カーが
別名義、カーター・ディクスンで発表した
名探偵ヘンリー・メリヴェール卿が活躍する長編第7作。


ジェームズは、結婚の許しを得るために
恋人メアリの父親・エイヴォリーのもとを訪れる。

書斎に通され、勧められた酒を口にしたジュームズは
間もなく意識を失ってしまう。

そして、目覚めたジェームズが見たものは
胸に矢を突き立てられて絶命しているエイヴォリーの姿だった。

書斎は密室状態にあり、酒瓶もコップも姿を消し、
エイヴォリーに刺さった矢にはジェームスの指紋が。

逮捕、そして起訴されたジェームズの公判が開かれる。
圧倒的なまでに不利な状況に置かれた被告人だが
その弁護を買って出たのは、H・Mことヘンリ・メリヴェール卿だった。

敗色濃厚な中、なぜかH・Mは被告の無罪を確信しているようだが・・・


「ユダの窓」という作品は密室ものの古典的名作だが
得てしてその密室トリックばかり有名になっているところがある。
実際、私も本作を初読したとき、既にトリックは知っていた。

しかし本書はトリックのみの作品ではもちろんない。
だってトリック知ってて読んでてても、犯人分からないし(笑)。

今回じっくりと読んで思ったのは、やっぱりカーの
ストーリー・テラーとしての非凡さ。

序章と終章を除いて、ほぼ全編法廷場面が続く。
さまざまな人物が証人として出廷し、証言していく。
それを巡り、法務長官(検察側)とH・Mの丁々発止のやりとり。
そして登場人物たちの意外な "真実" が暴かれていく。

被害者エイヴォリーが生前に見せていた謎の行動。
エイヴォリーの弟・スペンサーは公判中に失踪してしまう。
そして被告人の恋人・メアリが抱えていた秘密が明らかになり、
極めつけはジェームズの従兄弟であるレジナルドの
見事なまでの外道っぷり。こいつは助演男優賞ものだ(笑)。

人物の動きの少ない法廷シーンが続くが、新展開が続々と起こり、
全くダレずに読者の興味をつなぎ、ページをどんどんめくらせる。

終盤に至り、ジェームズを陥れるべく張り巡らされた奸計を
ことごとく突き崩していくH・Mの弁論は痛快だ。

さらには密室トリックまで暴かれるが、ここではまだ犯人は分からず、
それが明らかになるのは法廷シーンの最終ページ。
ほんとに良くできた構成だ。

終章で語られるH・Mの謎解きを読んでいると
意外なまでにシンプルな推理で犯人に到達できるのだけど
読んでいる間は全く気づかないんだよねぇ。
まあ、そこがプロなんだろうけど。


本書は密室ものとして有名だけど
法廷ミステリとしても出色の出来だ。
そして、何と言っても物語として面白い。
最近読んでる改版新訳シリーズの中でもトップクラスだと思う。

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ニャン氏の事件簿 [読書・ミステリ]

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/20
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公は、ある理由から大学を休学し、
家電配送のアルバイトに精を出す佐多くん。

しかし彼のゆくところ事件が起こり、
なぜかそこには一匹の猫と一人の男が居あわせる。
猫の名はアロイシャス・ニャン。なんと実業家で、
男はその秘書兼運転士の丸山さん。

しかしこのニャン氏、探偵としても確かな眼力を備え、
さまざまな事件の真相を見抜いてしまうのだった・・・

とは言っても、ニャン氏が「にゃあにゃあ」鳴くのを
横で丸山さんが "通訳" するわけなんだが(笑)。


「ニャン氏登場」
 佐多くんがバイト仲間の岡崎くんと訪れた柳瀬家。
 キュートなメイド・来栖さんに心惹かれつつも仕事に励む二人。
 佐多くんは、主の柳瀬夫人が叔父からこの家を相続したことを知る。
 叔父の死に不審な点があり、夫人が疑われたこともあったという。
 そこに現れたニャン氏は、夫人が語る事件の様子から、
 意外な真相を引き出してみせる。

「猫目の猫目院家」
 佐多くんたちがパソコンの宅配に訪れたのは猫目院修造氏の家。
 しかし彼らの到着と同時に、修造氏の双子の弟・養造が
 下取り用のパソコンを持って姿を消してしまう。
 修造氏と共に弟の帰りを待つ佐多くんたちの前にニャン氏が現れ、
 養造の行動に隠された真実を説き明かす。
 ちなみにこのタイトルは、
 "The Red Redmaynes"  (邦題:「赤毛のレドメイン家」)
 のもじりなんだろうなあ。

「山荘の魔術師」
 夏の終わり、高原リゾートの喫茶店でアルバイトをする佐多くん。
 客の菅井老人が語る60年前の思い出話。
 絵の修行で訪れたアメリカで、ある女優に誘われて
 山荘で行われるパーティに参加した。
 しかし、女優は衆人環視の中、山荘から姿を消してしまう・・・
 喫茶店に居あわせたニャン氏が、
 密室からの人間消失の謎を解き明かす。
 海外の某有名短編に似たネタがあったような気もするが
 本書中、いちばんミステリ度が高い作品だろう。

「ネコと和解せよ」
 コマーシャルの撮影現場に大道具を届けることになった佐多くん。
 場所は財前家という個人所有の大邸宅だった。
 しかし、人気モデルを起用しての撮影の最中、
 財前家の土蔵の中から高価な掛軸がなくなってしまう。
 そこに現れたニャン氏は、掛軸の行方はもちろん、
 犯人の動機、さらには意外な正体まで見通してしまう。

「海からの贈り物」
 かつての彼女、実佳とばったり出くわした佐多くん。
 既に結婚も決まっているはずなのに浮かない顔の実佳は、
 合宿旅行で起こった不思議な出来事を語り出す。
 彼女の話から、佐多くんは独力で真相を突き止めることに成功するが
 その場に居あわせたニャン氏は彼に意外な申し出をする。

「真鱈の日」
 冒頭1ページ目で、タイトルの意味が分かるんだが・・・脱力(笑)。
 さて、佐多くんが配送に訪れた池上家。
 玄関に現れたのはメイド姿の来栖さん。
 意外な再会に驚く佐多くんをさらなるサプライズが。
 中で待っていたのは佐多くんの祖父にして大企業の創業者、
 そして会長をも務める大道寺修氏だった。
 佐多くんを自らの会社に迎えようとする大道寺氏。
 過去の経緯から、素直にそれを受け入れられない佐多くん。
 そこへたいへんな報せがもたらされる。
 なんと、大道寺氏に殺人の容疑がかかっているという。
 佐多くんは警察がくる前に、祖父の容疑を晴らそうとするが・・・
 二転三転する事件の解釈、大道寺氏の思惑と佐多くんの葛藤、
 さらには来栖さんの将来をも巻き込み、もちろんニャン氏も登場する。
 わずか50ページほどだけど、密度の濃い物語が展開する。


サブキャラ筆頭の来栖さんが良い味を出してる。
メイドのバイトで生計を立ててる苦学生だったり、
最終話での佐多くんへの協力ぶりで明らかになる聡明さといい、
単なる萌えキャラではなく、健気に頑張ってる姿に好感が持てる。

本書のラストで、佐多くんは大学への復学を決め、
さらには自らの人生について大きな選択をする。

佐多くんを巡る物語はここでひと区切りがつくのだけれど、
彼と来栖さんの今後も気になる。

もし、ニャン氏の探偵譚が今後も続くのなら、おそらく
佐多くん以外の人物をメインに据えることになるのだろうけど、
ぜひ、あの二人も登場させてほしいなあ。

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Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Esprit 機知と企みの競演 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★

「探偵・竹花と命の電話」藤田宜永
 主人公は61歳の私立探偵・竹花。
 引き受けていた家出人捜索が解決した夜、
 事務所に若い男から電話がかかってくる。
 仕事もなく友人もいない。両親も亡くなって天涯孤独。
 淡々と相手をする竹花だったが、青年は毎日のようにかけてくる。
 やがて会話の中で自殺を仄めかすようになるに至り、
 竹花は青年の居場所を探り始めるが・・・
 最後はミステリ的なオチがつくが、
 竹花の、人生の酸いも甘いもかみ分けた対応ぶりが実にいい。
 いぶし銀とはこのことか。

「青い絹の人形」岸田るり子
 謎めいたプロローグから始まり、本編に入ると舞台は一転する。
 主人公のゆかりは、大学准教授の父と
 その再婚相手・美咲との3人でパリへ旅行に来ていた。
 しかしバッグに入れておいたはずのパスポートが紛失する。
 そこへ日本大使館から連絡が入り、
 パスポートを拾って届けた者がいるという。
 その人物に会いに行ったゆかりは驚愕の事実を知る・・・
 そしてエピローグにいたり、すべてのピースがかっちりと決まって
 切れ味鋭い結末を迎える。
 サスペンス・ミステリのお手本みたいな作品だ。
 どこかのTV局で二時間ドラマにしないかなぁ。

「機巧のイヴ」乾緑郎
 江戸時代を思わせる世界を舞台にしたSFミステリ。
 昆虫や鳥を、機械仕掛けで複製する幕府精錬方手伝・久蔵。
 いわばロボット職人だ。その出来映えは、
 本物と全く見分けがつかないほど。
 江川仁左衛門は久蔵へ、ある依頼をする。
 遊女・羽鳥とうり二つの機巧人形を作って欲しい、と。
 書き下ろしSFアンソロジー「NOVA」で既読。
 SFミステリならではの "オチ" が
 その時はあまり好きになれなかった。
 でも今回、ミステリのアンソロジーの中で再読してみたら、
 けっこういけると思った。

「父の葬式」天弥涼
 短編集で既読。
 造り酒屋を営む父・米造が亡くなり、葬儀を行うことになったが
 息を引き取る直前、彼が「喪主」として指名したのは、
 父の元で杜氏として修行する長男・賢一郎ではなく、
 デザイナーになるために米造と大喧嘩し、
 家を飛び出した次男・雄二郎だった。
 突然の "無茶振り" に、戸惑うばかりの雄二郎だったが・・・
 私も去年、父の葬儀で喪主をしたので
 雄二郎くんの苦労はよく分かる(笑)。
 「遺言書の開封」なんてのにも立ち会ってしまったし。
 こんなのはミステリの世界にしかないと思ってて、
 まさか自分の人生で起こるとは全く予想もしていなかったよ。
 幸い、遺産を巡って相続人たちが殺し合うようなこともなく(笑)、
 至極ノーマルな内容で、それでいてちょっぴりアレンジが効いていて
 父が周囲の想像以上に家族のことを慮っていたのを知って驚き、
 少なからず感動してしまったものだ。
 閑話休題。
 この短編では、非常識と思われるような父の遺言で一悶着起こるけれど
 最後は丸く収まって、米造さんはしてやったり、だろうなあ。

「妄執」曽根圭介
 "僕" の友人、一馬は会社をクビになって以来、
 30歳の今日まで引きこもり生活を続けている。
 しかし一馬は、かつて自分がストーカー行為をしていた女性・文恵を
 未だに監視しており、彼女が婚約者とともに新しい店を出すことを知る。
 次第にエスカレートする一馬の行動と並行して、
 "僕" 自身にまつわる物語も綴られていって、
 ラストの "破局" へ向けて収斂していく。
 うーん、この手の話は好きではありません。

「宗像くんと万年筆事件」中田永一
 本作は日本推理作家協会賞短編部門で次点だったという。
 (受賞は若竹七海「暗い越流」。『Symphony 漆黒の交響曲』に収録)
 "私" が小学6年生の時、その事件は起こった。
 クラスメイトが持ってきた万年筆がなくなってしまったのだ。
 そしてその万年筆が "私" のランドセルから見つかった。
 犯人とされた "私" はクラスからいじめに遭い、
 担任が "私" を見る目も厳しくなった。
 しかしその中で一人、宗像くんだけは信じてくれた。
 クラスメイトを廻って情報を集め、担任に申し出る。
 「山本さん("私" のこと)は万年筆を盗ってません。
  僕はそのことを説明できます」
 クラス全員の前で、"私" の無罪を立証するべく
 奮闘する宗像くんだが・・・
 ラストで、高校生になった "私" が当時を振り返るシーンが切ない。
 実際のところ、いじめに対抗して戦ってくれる友人なんて
 そうそういるとは思えない。
 フィクションならではの展開なのだろうけど、この話は心温まる。
 いつの日か、宗像くんと "私" が再会する話も描いてくれないかなあ。
 ちなみに「中田永一」は、「乙一」氏のペンネームの一つだとのこと。

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