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九月の恋と出会うまで [読書・ミステリ]

九月の恋と出会うまで (双葉文庫)

九月の恋と出会うまで (双葉文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

旅行代理店で働くOL・北村志穂は
2階建てで4部屋しかない小さなマンションへ引っ越した。

1階にはオーケストラ奏者の男性と女医さん、
2階には志穂、そしてさえないサラリーマン・平野。

ある夜、志穂はマンションの壁にあるエアコン用の穴から
男性の声が聞こえてくることに気づく。
穴はあってもエアコンは設置していないので、
外のベランダには何もないし当然ながら誰の姿もない。

"声" は "マンションの隣人の平野" であると名乗るが
現在の平野ではなく "1年後の世界を生きている平野" だという。

"平野" は今後1週間の新聞朝刊の見出しを挙げるが
それがことごとく的中し、志穂は "平野" が
未来の世界から語りかけてきたことを信じるようになる。

出だしはこのようにSF的なシチュエーションから始まる。
裏表紙の惹句には「時空を越えた奇跡のラブストーリー」とある。
昨今、時間を絡めたラブストーリーは流行っているみたいだが
本書は2007年に書かれたもの。

"1年後の平野" は志穂にある頼み事をする。
それは毎週水曜日(志穂の定休日)に、"現在の平野" の後を追い、
その1日の行動を記録すること。
そして "現在の平野" とはなるべく接触しないこと。

とりあえず引きうけた志穂だが、
外回りの営業職をしている平野の行動は平凡そのもの。
しかしときおり見せる不審な行動が気になるが・・・

志穂は "1年後の平野" に、尾行の目的を問うが
彼は言を左右にして理由を明かしてはくれない。

混乱を避けるために、1年後の平野を "シラノ" と
呼称することを決めた志穂だが
"シラノ" との会話を重ねるうちに、
次第に彼に惹かれるものを感じていく。

ここまで読んでくると、志穂とシラノとのラブ・ストーリーなんだな、
と思われるかもしれないが、なかなかそう単純ではないのだ。

平野の尾行を始めて三回目の水曜日。
志穂はその日に限って途中で彼を見失ってしまい、
がっかりしてマンションの自室へ帰るのだが・・・

ここから物語は様相を変え、意外な方向へ転がり出していく。


シラノが命じた尾行の理由とは?
尾行されてる最中の平野がときおり見せる謎の行動とは?

さらに、あることがきっかけで志穂は根本的な疑問を持つ。
シラノは本当に "1年後の平野" なのか? と。

そして、志穂の恋の行方は?

設定こそSFだし、ファンタジー要素もある。
後半に入ると、物語の着地点がなかなか見えずに
やきもきすることになるが、
ラストでは様々な謎が綺麗に解かれて納得の結末を迎える。

梶尾真治やロバート・F・ヤングを持ち出すまでもなく
時間ものとラブストーリーは相性が良い。
本書はそれにミステリ要素を加えて、最後まで読者を楽しませてくれる。


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群衆リドル Yの悲劇'93 [読書・ミステリ]

群衆リドル Yの悲劇’93 (光文社文庫)

群衆リドル Yの悲劇’93 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★

本書の語り手は、東京帝国大学を目指して浪人中の渡辺夕佳(ゆか)。

帝国大学といっても戦前の話ではない。
本書の舞台はパラレルワールドの日本。
太平洋戦争は負けたみたいだが日本は未だに「帝国」で、
陸海軍も健在。ついでに「満州国」まで生き残っている。

作者はいくつものシリーズを持っているが、基本的には
みなこの同一世界を舞台にしているらしい。
夕佳も、『天帝』シリーズでの主役・古野まほろの後輩として
勁草館高校吹奏楽部のメンバーに名を連ねている。


センター試験も近づいた年の暮れ、彼女のもとへ招待状が届く。
「外務省大臣官房儀典長」名義で、「新・迎賓館」へ招くという。
何かの間違いかと思った夕佳だが、招待状は本物。

しかし不安を覚える夕佳は、かねてから憧れていた
高校時代の先輩・八重洲家康(やえす・いえやす)に同行を求める。
孤高の天才ピアニストにして帝国大学2年生の彼は、
巻末の "古野ワールド相関図"(笑)によると、古野まほろとは親友らしい。
この家康くんが、本シリーズの探偵役である。

そんな二人が訪れたのは、長野と群馬の県境に近い山中に建つ
壮麗な西洋館、「夢路邸」だった。
二人を迎えたのは、7人の先客。
大学教授、助教授、金融機関の支店長、私立探偵、女子高生、
新聞社の論説委員、大臣官房儀典長。
しかも全員、招待主の異なる手紙を受け取っていた。

「何者かが意図的に呼び出した」8人+家康くん。
これが西洋館に集まったすべて。

そこに突然、鬼面の女が現れ、
彼ら彼女らが過去に犯した罪を告発する。
その直後、鬼女は死亡してしまうが
ここから次々と客たちに死が訪れる。

折しも降り出した豪雪に閉ざされた屋敷内で、
マザーグースの童謡『ロンドン橋』に見立てた
凄惨な殺人劇が繰り広げられていく。
銃殺、爆殺、刺殺、斬殺・・・

当然ながら犯行が進むごとに生存者は減っていく。
残った者の中に犯人はいるのか、それとも・・・


そして屋敷のサロンには、招待客を模した市松人形が
8体用意してあったが、客が一人死ぬたびに、一体ずつ減っていく。
まさに『そして誰もいなくなった』の再現。

集められたメンバーに共通する理由(ミッシングリンク)はあるのか?
殺人現場も密室あり不可能犯罪ありと
本格ミステリのガジェットがてんこ盛り。
「読者への挑戦状」まで挿入されてる(それも2カ所に)
という念の入りよう。


そして、作者による「真相に至る手がかりはすべて開示された」
との宣言のもと、解決編に突入するわけだが、
読み終わってみてどうにもすっきりしない思いが残る。

確かに犯人指摘のための手がかりはかなり初期の段階から
結構あからさまに仕込まれているのはたいしたもの。
(私も読んでいて「あれ?」と思ったところがあった。
 そこをもっと突き詰めていけば少なくとも犯人には気づけただろう)

問題は犯行手段だね。
密室トリックや不可能殺人の謎も当然ながら解明されるのだけど
これ、自力でわかった人っているのかな?
もしわかったとしたら、よほどのひねくれ者か
病的なまでのミステリマニアだと思うよ・・・

とにかく意外すぎる。
「その発想はなかった」とか「予想の斜め上」とかのレベルではない。
種明かしされてみても、「そうだったのか!」より
「えーっ、そんなのありぃ?」って
叫んでしまいそう(叫ばなかったけどwww)。
まあ、古典的作品の中に前例があると言えばあるのだけど。

 これ、人によっては怒り出す人が居るんじゃないかなあ・・・

まだミッシングリンクの解明の方が理解しやすいかな。
そしてこれが犯人の動機にも繋がるんだけど
これも被害者の側からすれば "理不尽" としか言い様がない。

難易度から言えば
  犯人 < ミッシングリンク(動機) < 犯行方法(トリック)
の順に難しくなる。


この人の作品を読むのはこれで3作目だけど、
いつも思うのは作者のアタマの切れ味が半端ないことと
それについていけない自分のアタマの鈍さ。

本書は、キャラ立ちばっちりの夕佳&家康の "痴話喧嘩" を
ライトノベル的に楽しみつつ、
迫るシリアルキラーから逃れられるかどうか
ハラハラしながら読むのが正しいのだろう。

間違っても密室トリックを見破ろうなんて思ってはいけない(笑)。


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帽子収集狂事件 [読書・ミステリ]

帽子収集狂事件【新訳版】 (創元推理文庫)

帽子収集狂事件【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/03/24
  • メディア: 文庫



評価:★★★

霧深いロンドンの町で続発する帽子盗難事件。
人々はこの怪盗を《いかれ帽子屋》と呼んでいた。

ポオの未発表原稿を盗まれた古書収集家、
サー・ウィリアム・ビットンもまた
《いかれ帽子屋》にシルクハットを盗まれた被害者だった。

ウィリアムがポオの原稿盗難について
名探偵フェル博士に相談を持ち込んでいたとき、
ウィリアムの甥でフリーランス記者のフィリップが
ロンドン塔の逆賊門で他殺体となって発見される。
その死体には、ウィリアムのもとから盗まれた
シルクハットが被せられていた・・・


本作で登場するのは、パリの予審判事バンコランに代わって
名探偵ギデオン・フェル博士。

悪魔的に性格が悪そうな(笑)バンコランと違い、
ずんぐりした巨漢で赤ら顔に山賊髭、
体型通りにビールが大好きなキャラクターはとても親しみやすい。
本書はフェル博士が活躍する長編第2作である。

ストーリーが進むにつれて、被害者の女性関係をはじめ
さまざまな秘密が明らかにされていくなど、
中盤をダレさせずに読者の興味をつないでいく。
そしてその展開の中に伏線をうま~く紛れ込ませてる。
このあたりはさすがに匠の技。

裏表紙の惹句には「驚天動地の大トリック」って書いてあるが
これはちょっと大げさかなぁ。
発表当時はともかく、本格ミステリが大量に発表されている
現代日本の目で見ると、さほど驚くほどでもない気がする。
(でも、見破れないんだよね・・・www)
しかし、これを補完・補強する小技がいくつか組み合わされていて
合わせ技で「一本! お見事!」って感じかな。

本作も密室や不可能犯罪ではない。
死体が発見された場所は開放空間なんだけど
(冒頭に現場付近の見取り図が載ってる)
深~いロンドンの霧がすべてを覆い隠してしまっていて
何がどう起こったのかは誰もわからない。
いかにも "本格ミステリ" な雰囲気あふれる作品だ。


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星籠の海 上下 [読書・ミステリ]

星籠の海(上) (講談社文庫)

星籠の海(上) (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/03/15
  • メディア: 文庫




星籠の海(下) (講談社文庫)

星籠の海(下) (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/03/15
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

年代は1993年の夏。御手洗が渡欧する直前で、
彼が日本で解決した最後の事件、ということらしい。

物語は、いくつかのストーリーラインで進んでいく。
主なものは3つかな。

その1。
横浜で暮らす御手洗と石岡のもとへ、ある相談が持ち込まれる。
四国は松山の沖、興居(ごご)島に次々と死体が漂着しているという。

現地へ飛んだ御手洗は、潮の干満によって
瀬戸内海に特有の流れが生じていると睨み、
死体が海に投棄された場所が
港町・鞆(広島県福山市)であることをつきとめる。

その2。
演劇を目指して恋人・田丸千早と共に上京した小坂井茂。
しかし夢破れた彼は故郷・鞆に帰るが、さらに千早まで失ってしまう。
失意の茂は新興宗教「日東第一教会」へとのめり込んでいく。
やがて看護学生・辰見洋子とつきあい始めるが
ある夜、洋子に呼び出された茂は、彼女の意味不明な行動に
無理矢理協力させられる・・・

その3。
福山市立大学の助教授・滝沢加奈子は、
地元出身の幕末期の老中・阿部正弘が
開国を迫る黒船を仮想敵として、対抗策を立案した古文書の中に、
「星籠(せいろ)」という謎の言葉を発見する。
対黒船の "切り札" となるらしい「星籠」の探索を始める加奈子。

この3つ以外にもサブストーリーがあるが
やがてそれらは交差したり一体化したりしながら
終盤へ向かっていくのだけれど・・・


冒頭にも記したように、私が本書に与えた評価は高いものではない。
その理由となる点をいくつか挙げてみよう。
以下の記述には、ネタバレになる点もあろうかと思うので、
未読の方はご注意を。


まず、冒頭の死者が次々と流れ着く謎も、御手洗が解くまでもなく、
だいたい海流の影響だろうって分かりそうなものだ。

そして死体の投棄場所が特定されると、
そこには新興宗教の総本山が存在していて、
その宗教がまた胡散臭さ充分。
「オウム事件」の記憶がある人なら、
そこで死体の発生理由も何となく見当がつくだろう。

 ちなみに「日東第一教会」のモデルはおそらく「統一教会」だろう。
 「オウム真理教」もちょっと入っていそうだが。

小坂井茂を巡るエピソードはちょっと長過ぎないか?
こんなに延々と引っ張る必要があるのかなぁ。

 この部分に限らず、文庫で上下巻あわせて
 1100ページを超える分量があるけど、ちょっと冗長に感じる。
 「アルカトラズ幻想」でも同じことを感じたけど、
 作者もトシを取ってきてクドくなってきたのかな?(笑)

辰見洋子が茂を巻き込んだ "謎の行動" についても、
普通にミステリを読んでる人なら容易に予想がつくだろうし。

表題にもなっていて、おそらく本書最大の謎になる(はずの)
「星籠」の正体についても、読んでいるうちに何となく
"あれ" じゃないかと目星がついてくる。


要するに「謎」が解決した時の「そうだったのか!」感に乏しいのだ。
ラストに大どんでん返しを用意していて、それを効果的にするために
意図的に分かりやすく書いてるのかとも思ったのだけど
最後まで読んでみても、そんな意図はなさそうだ。

今回の "犯人" が宗教団体なのも、ミステリ的興味を減じているかな。
もちろん、手を下しているのは "個人" なのだけど、
御手洗は「推理によって容疑者群の中から犯人を特定する」と言う
通常のミステリ的手順をすっ飛ばして
ピンポイントで "犯人はこいつだ" に持っていってしまう。
つまり、なぜこの "個人" に特定できるのか納得できる説明がないのだ。

まるで最初からすべて分かっているみたいで
"名探偵" というよりは "神様" ですね。
本作における御手洗は、全編を通じてこの調子。
勝手にどんどん突っ走って行ってしまって
しかもそれが常に "正しい" んだけど、
読者を置いてけぼりにしないように書いて欲しいなあ。

つまるところ、ミステリ的カタルシスがあまり感じられないのだ。
犯人確保のクライマックスはB級アクション映画みたいだし。

 アクション・シーンが悪いとは言わないけど、
 御手洗潔シリーズにそれを期待する人は少ないんじゃないかなぁ。

登場する女性陣も総じて好きになれないキャラばかり。
今作のヒロイン的立ち位置に一番近いのは滝沢加奈子さんなんだろうが
この人を含めて千早も洋子もみんな我が儘で自己中心的で
さっぱり感情移入ができないのも減点ポイントかなあ。


あともう一つ、私がかなり気になったことを書く。
作中時間こそ1993年だが、本書が発表されたのは2013年。
おそらく「3.11」後に執筆されていると思う。

本書の登場人物の一人に、福島の原発が原因の
被爆を思わせる描写があるのだ。
しかし、1993年時点で何事もなく平常運転していた原発がある地で
放射能漏れがあったことを疑わせる描写は如何なものか。

このテーマに立ち入ると話が難しくなりそうなので
これくらいにしておくけど、
この人物はストーリーに大きく関わることなく退場してしまうし、
被爆描写もこの人物の "不幸度" を上げるためだけに
持ち出されたようにも感じる。

誤解されないように書いておくが
島田氏が原発に対してどのような考えを持っていようと自由だ。
しかし、それを自作(それも創作)の中に採り上げるのであれば
充分な必要性がなければならないし、
その描写には配慮が必要なのではないかと思う。


そんなこんなで高い評価はつけられませんでした。


聞くところによると本書は映画化されたとのこと。
ちょっと公式サイトを覘いてみたんだけど
「日東第一教会」がなくなって、
代わりに大企業がその役回りになっているみたいだ。
やっぱり宗教がらみは難しいのかね。

サイトのあらすじからはよく分からないけど
おそらく福島の原発がらみの部分も
ごっそり削除されてるんではないかな。

個人的には、石岡君が出てこないらしいことが残念。
代わりにオリジナルの女性キャラが御手洗の相棒を務めるらしいが。

 まあたしかに本作の石岡君は、御手洗に振り回されてばかり。
 特に現地入りしてからは御手洗の後にくっついて
 ひたすら彼の言動を記録するだけで、
 ほんとに存在感がなかったから、致し方ないのかな(笑)。

もっと御手洗と石岡の "とんちんかん問答"(笑) が読みたかった私です。


私は「御手洗潔シリーズ」が好きだし、
現代のミステリ界の隆盛に島田氏が果たした功績も
十分に理解しているつもり。
だからこそ期待も大きくなる。

ここまで、なんだか文句ばかり書いてしまったが、
不満が多いのは「期待の大きさ」の裏返しだ。
作者からしたら、勝手にハードルを上げられて迷惑かも知れないが(笑)。

他の人はどうか知らないけど
私が "御手洗潔のシリーズに求めるもの" が本書からは
ほとんど得られなかった気がして、低い評価をつけてしまいました。
御手洗潔ファンの皆様、ごめんなさい。


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禁断の魔術 [読書・ミステリ]

禁断の魔術 (文春文庫)

禁断の魔術 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

高校生・古芝(こしば)伸吾が所属する物理研究会は
部員減少で廃部寸前だった。
彼は物理研OBの帝都大准教授・湯川の助力を得て
その危機を乗り切る。

湯川に憧れた伸吾は帝都大学を受験、みごと合格する。
しかし入学直後、親代わりとなってくれていた姉・秋穂(あきほ)が
不審な死を遂げ、伸吾は大学を中退して町工場で働き始める。

一方、フリーライター・長岡が殺される。
現場に残されたメモリーカードには、謎の動画が残っていた。

長岡が追っていた代議士の大賀は、
科学技術研究拠点・スーパーテクノポリスの開発推進者だった。
建設地の地元では反対運動も起こっており、
反対派に与する長岡は大賀のスキャンダルを探していた。

捜査を進める草薙と内海は、
大賀を担当していた新聞記者・古芝秋穂の死を知り
さらにその弟・伸吾が大学を中退していたことをつかむ。
しかしその直後、伸吾は失踪してしまう・・・


本書では、ミステリ要素はやや少なめ。
長岡を殺した犯人も、直接的な証拠で判明するし
伸吾が姉の復讐を企んでいることも中盤あたりには明らかとなり、
後半の興味は、いかに伸吾の凶行を阻止するかになってくる。

『真夏の方程式』でも開発と自然保護の問題が取り上げられていた。
それは引き続がれてはいるものの、
本書ではそれに加えて「科学技術に携わる者の良心」が
より大きなテーマとなっていて、それはタイトルにも現れている。

劇中で湯川は語る。
「悪用しようとするものにとっては、
 科学技術は "禁断の魔術" となる」と。
程度の差はあれ、科学を採り上げた作品では
避けて通れないテーマであり、古くて新しいテーマでもある。

高校時代に湯川から与えられた知識と技術に、さらに改良を施し、
復讐のための "武器" を作りあげていく伸吾。
それに対し、あくまでも彼の中の "良心" を信じる湯川。
二人の対決が本書のクライマックスになる。


どうでもいいことを二つほど。

本作は、最初は短編として発表されたものを加筆して長編化したらしい。
今回のテーマは、ある意味「ガリレオ」という
シリーズを通してのテーマでもあるから、
じっくりと書き込もうと思ったのかも知れない。
それと、本作で伸吾が完成させた "武器" なのだが
フィクションの世界ではけっこうポピュラーなもので
現実世界でも実現しつつある(らしい)もの。
ならば、作者はこれを短編のネタで終わらせるのは
もったいないなぁって思ったのかも知れない、

二つ目。
劇中に登場する女子高生・由里奈ちゃんが健気。
伸吾が働く町工場の社長の娘で、
彼に数学の勉強を教えてもらったことがきっかけで
想いを寄せるようになるという役どころ。
因数分解と加法定理を教えたら女子高生に惚れられてしまうなんて
伸吾くんが羨ましすぎるぞ(笑)。


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わたしのリミット [読書・ミステリ]

わたしのリミット (創元推理文庫)

わたしのリミット (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/09/30
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

高校2年生の坂崎莉実(りみ)は、
古い西洋館で父親と二人暮らしをしている。

5月のある日曜の朝、莉実が目を覚ましたとき
父の姿はなく、代わりに15歳ほどの見知らぬ少女がいた。

父の残した書き置きには
「彼女を "莉実" の名で病院に入院させてほしい」
とあった。
そして「1ヶ月後には帰る」とも。

氏素性はおろか、本名さえ名乗らない少女を
とりあえず "リミット" と呼ぶことにした莉実は
彼女を父親が手配していた病院へ入院させる。
院長の木暮もすべての事情を知っているようだが・・・

入院したリミットを見舞いながら、
身近に起こった不思議なことを話す莉実。
するとリミットは、話を聞いただけで
その謎を見事に解いてしまうのだった。

本書は、謎の少女リミットを探偵役とした
4つの "事件" を描く "日常の謎" 系連作ミステリだ。


以下の文章は、ネタバレではないけれど
勘のいい人なら真相に気づいてしまうと思うので
未読の方はご注意願いたい。


本書における最大の謎は、もちろんリミットの正体なのだが
作者は、それについてはあまり隠してない。

おそらくほとんどの読者は、
かなり早い段階で彼女の正体を "推定" できるだろう。

そして読み進めるうちに、次第にその推定は
"確信" へと変わっていく。

しかし、それによって読者は、
あらかじめ提示されていた "ある事実" を思い出すだろう。
そして、まだ未読のはずのエピローグが、
実に切ないものになるであろうことに気がつくのだ。

これはもちろん、作者がそうなるように書いてるってことだ。
実にうまく読者の気持ちを揺さぶってくる。

実際、私はエピローグを読むことにちょっぴり躊躇いを覚えたよ。
でも読んじゃったけど(笑)。
そして、たっぷりと切ない思いを味わった。

うーん、なかなか紹介に困る作品だね。


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探偵の殺される夜 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]

探偵の殺される夜 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

探偵の殺される夜 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/01/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

一年間を通して発表された短編本格ミステリの中から選ばれる
「本格短編ベスト・セレクション」シリーズの14冊目。

本書には2011年に発表された作品を収録している。


「オンブタイ」長岡弘樹
 短編集で既読。
 部下にパワハラを仕掛けている最中に
 交通事故を起こし、後遺症で視力を失った西条。
 彼のもとへ、ある日「タミ」と名乗るヘルパーが現れる。
 変わったタイトルだけど、読み終わると実に秀逸。

「白きを見れば」麻耶雄嵩
 "貴族探偵"シリーズの一編。
 駆け出しの探偵・高徳愛香(たかとく・あいか)は
 大学時代の友人に招かれて山奥の別荘へやってくる。
 しかし、別荘の地下にある古井戸のそばで
 滞在客の一人が死体となっていた。
 本格ミステリらしく理詰めの推理が展開される。
 しかし "貴族探偵" とはねえ。よく思いついたもんだ。

「払ってください」青井夏海
 カリスマ助産師・明楽先生を探偵役とするシリーズの一編。
 助産師助手の陽菜(ひな)が
 先輩助産師・聡子とともに訪れた家には
 やくざが押し掛けてきていた。
 父親が借金をしたまま行方不明になり、
 さらに勤め先の会社の金も持ち出しているらしい。
 明楽先生は、父親の事情や行方を見通してみせる。
 青井夏海って、デビューの頃は読んでたけど
 最近、ご無沙汰だったなあ。久しぶりだ。

「雀の森の異常な夜」東川篤哉
 短編集で既読。
 烏賊川市の名家・西園寺家の令嬢・絵理に
 真夜中に呼び出された探偵助手・流平。
 彼女からの相談を受けようとしたその時、
 二人の前を通り過ぎたのは一台の車椅子。
 乗っているのは絵理の祖父・庄三、そして車椅子を押す謎の男。
 行動は胡散臭いが推理力はそれなりにある(笑)探偵・鵜飼が
 活躍するシリーズの一編。
 ユーモアたっぷりの語り口ながら
 ミステリとしての構造はしっかりしてる。

「密室劇場」貴志祐介
 劇団「土性骨」の公演中、控室で俳優が殺される。
 現場には出口があったが出入りした者はおらず、
 唯一の脱出路は舞台に通じている。
 しかし、演劇公演中の舞台は観客の注目の中にあった。
 犯人の脱出トリックだけ見たらバカミスだけど
 単純なだけに案外成功しそう。
 あと、探偵役の防犯コンサルタント・榎本って
 こんなキャラだったかなあ。

「失楽園」柳広司
 短編集で既読。
 太平洋戦争直前の英領シンガポール。
 米国の駐在武官・キャンベルは現地の娘・ジュリアと恋に落ちる。
 そしてラッフルズ・ホテルの滞在客が死亡する事件が起こるが、
 ジュリアが殺人犯として逮捕されてしまう・・・
 日本のスパイ養成組織・"D機関" の
 "卒業生" たちが活躍するシリーズの一編。
 日本のスパイの真の目的が明らかになるラストの切れ味が抜群。

「不良品探偵」滝田務雄
 女子高生・浜ナナカは、恋愛のもつれから
 周到な計画のもと、かつての恋人・辰彦を殺す。
 探偵役となるのは藍須救武(あいす・きゅうぶ)という
 ふざけた名前の高校生なんだが、
 これがまた刑事コロンボなみに鋭い推理でナナカを追いつめていく。
 序盤の何気ない描写がラストに効いてくる。
 これ、シリーズ化されてるのかなあ?

「死刑囚はなぜ殺される」鳥飼否宇
 ジャリーミスタン終末監獄には、死刑囚のみが集められている。
 死刑の執行が決まった者は独房に移されるのだが、
 その独房内で二人の死刑囚が殺される。
 密室状態の独房内で、しかも放っておいても
 死刑が執行される囚人をなぜわざわざ殺すのか?
 舞台も登場人物もみな特殊だけど、
 この状況下でしか成立しないミステリではある。

「轢かれる」辻真先
 介護士の優芽(ゆめ)が働く老人ホーム『やすらぎの巣』。
 そこへ新たに入所してきた認知症の男・鷺沢は、
 優芽の母・毬絵のかつての夫にして実の父親であった。
 毬絵には、左手の手首から先がない。
 優芽が幼い頃に列車事故に遭ったためだ。
 鷺沢に出会ったことをきっかけに、
 両親の間に起こったことを探り始める優芽。
 やがて彼女は、母の事故に秘められた真実を知る・・・
 ちょっと連城三紀彦の"花葬"シリーズを思わせる。

「東西「覗き」比べ」巽昌章
 うーん、私はミステリの評論って苦手みたいです。


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天帝のつかわせる御矢 [読書・ミステリ]

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

天帝のつかわせる御矢 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

勁草館高校吹奏楽部員・古野まほろを主人公とした
ミステリ・シリーズ第2弾。

前作『天帝のはしたなき果実』事件を解決へ導いたまほろだが、
心身に多大なるダメージを負い、
これも事件のとばっちりで日本警察を退職し、中国大陸へ渡った
二条実房警視正とともに、満州帝国の地でほとぼりをさましていた。

 前作の記事でも書いたが、本シリーズの舞台となるのは
 パラレル・ワールドの世界。
 太平洋戦争には負けたみたいだが、日本は未だ「帝国」であり、
 満州帝国もまた生き残っているし、
 その他いろいろなところが "我々の世界" とは異なっている。

しかし、折しも満州帝国は東西に別れての内戦状態にあり、
まほろたちが暮らす首都・新京までも戦火が及んできていた。

まほろは二条と別れ、日本から迎えにきた吹奏楽部部長・柏木とともに
環大東亜特急『あじあ』の乗客となる。

 『あじあ』は、新京からウラジオストクを経由、
 その後沿海州帝国内を北上し、間宮海峡をトンネルで潜って樺太へ、
 さらに南下して北海道を縦断、本州へ乗り入れる。
 そして終点は帝都・東京、という長距離寝台列車である。

乗り合わせた乗客たちはバラエティに富み、
かつ濃いキャラの人ばかり。まあこれはお約束。

生物学者に医師に外交官に製薬会社の双子の令嬢、
停戦特使を務める日本帝国の国会議員、
満州帝国特殊部隊の指揮官、
沿海州帝国の貴族とその養女、
コテコテの関西弁を操る日本男子(なぜかフランス国籍)、
ジャーナリストは男装の麗人、
さらにはやんごとなき宮様ご夫妻まで。

みな一癖も二癖もあって、叩けば壮大にホコリが出そうな人ばかり。
これもまた定石通りだろう。

さらにはこの中には『使者』(メサジュ)と呼ばれる
謎の大物スパイまでいるらしく、
まほろと柏木は、日本にいる同級生・修野まりから
『使者』への接触を命じられる。

そんな中、乗客の一人が密室状態の客室の中で
バラバラ死体となって発見される。

しかし、列車内は鉄道会社に司法権があるらしく、
警察の介入も行われないまま列車は一路、東京へ向けて驀進するが、
やがて第二の殺人が起こる・・・


異様に饒舌な語り口は今作でも健在。
頻出する引用、あふれんばかりの洪水のようなルビ、
英独仏露の多言語が飛び交い、
さらにはけっこうどぎつい台詞まわし、などなど。

文庫で約630ページの大長編だけど、
第一の殺人が起こるのは中盤あたりまで待たなければならない。
それまではまほろと柏木の "車内探検" やら
乗客たちそれぞれが順番に登場しての "キャラ紹介" が
延々と続く。まあそれもまた楽しいのだが。 

そして終盤の130ページほどが "解決編" になるのだが
ここも前作と同じく、一堂に会した登場人物たちがお互いに
それぞれの推理を述べ、犯人を告発するシーンが連続する。

人物Aが滔々と推理を述べる。
→ 瑕疵(or反証)が明らかにされ崩壊する。
→ 人物Bがまた別の推理を語り出す。
以下繰り返し。この調子でみなことごとく討ち死にした後、
真打ち・まほろの登場となる。

乗客たちによって開陳され、結局ひっくり返されてしまう解釈も、
実に多彩にして巧妙。
中には「そのネタで長編一本書けるじゃん」ってのもある。
そういう意味では一冊の中に通常の何倍ものトリックを仕込んでいて
出し惜しみしてない。これはスゴい。

そしてこれらの "誤った推理" も無駄ではなく、
これらが積み重なっていくうちに
薄皮がはがれるように真相に近づいていく。

そしてそして、犯人が分かったあとでさらにもうひと捻り。
いやはやサービス精神旺盛なことこの上ない。

しかしまだまだ「物語」は終わらない。
謎解きを終えた後のラスト50ページ、
「物語」は想定外の超展開を迎える。

 うまい例えが見つからないが、あえて言うなら、
 前作のラストが『エイリアン』なら
 本書のラストは『エイリアン2』だね(笑)。

「ミステリ」としての謎解きだけに限定すれば
前作『果実』は未読でも差し支えないが、
「物語」として読むなら、『果実』を読んでおかないと
わけが分からないだろう(特にラスト50ページは)。

あと、できれば列車ミステリの傑作『オリエント急行の殺人』も
読んでおいた方がいいかな。
露骨なネタバレはないが、真相を示唆する描写はあるので。

 もし未読なら、この機会をとらえて読みましょう。
 クリスティーの全盛期に書かれた古典的名作ですから。
 (本書を読む人で『オリエント』未読の人は少ないだろうけど)


今回も評価に困る作品だ。
決してつまらないわけではなく、むしろ物語としてはとても面白い。
(だから★4つにしたし。)

でも、読んでいて疲れる作品(笑)なのは前作同様。

今回も、取りかかりから読了まで2週間かかったが
途中で4日ほど放置してたので実質は10日くらいかかったかな。

それでも前作よりは早く読めたのは、
この作者の文体に慣れたのか、理解することを諦めたのか(笑)。
あと、物語の舞台がほぼ列車内に限定されているので、
キャラの動きやストーリーの進行を追いやすいというのもあるだろう。

とは言っても、なにせ大部で情報量が多く、とても頭に入りきらない。
解決編でいろんな証拠やら手がかりやら根拠やらが示されるのだけど
「はて、そうだったっけ?」な状態。

 読みながら詳細にメモでも取っていかないと
 ついていけないんじゃないかなあ・・・

私はこの作品を "ミステリとして" 読むには
私自身の知力が足りないんじゃないかと思う(T_T)。

そして、もしそうならば、
私はこのシリーズのよい読者ではないのでしょう。
正しく評価できるとも思えないし。

でもまあ、錆びついた頭をなんとかフル回転させて、
ボケ防止のためにも(笑)もう少しつきあってみるつもり。

ところで、本書のラストに登場する "あの人" は、
今後もシリーズキャラとしてレギュラー化するのでしょうかね?


最後に、本書を読んでいて思い出した話を一つ。

大学生の頃、坂口安吾の『不連続殺人事件』を読み始めたとき、
わずか最初の数ページで、登場する人物のあまりの多さにたまげて
一覧表を作ったことを思い出した。
読み進めながら、手がかりと思える事項にぶつかったら
自分なりの解釈を加えてメモを書き込んでいった。
そしてラストの謎解きの前にそのメモを眺めていたら
犯人が誰だか閃いたのも懐かしい思い出だ。

  そのメモを母親に見つかって、
 思いっきり呆れられたのもいい思い出だ(笑)。

ミステリにおいて、論理的に考えて犯人が当たったのは
あれが最初にして最後だったような気がするなあ。


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虚像の道化師 [読書・ミステリ]

虚像の道化師 (文春文庫)

虚像の道化師 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

物理学者・湯川学の活躍するミステリシリーズ第7弾。
短編集としては4冊目。
いままでは5編ずつだったのだけど本書はなぜか7編収録。


「幻惑す(まどわす)」
 新興宗教『クアイの会』の取材に赴いた週刊誌記者・奈美。
 彼女の目の前で、教祖・連崎至光(れんざき・しこう)に
 問いつめられた教団幹部が5階の窓から身を投げる。
 自殺なのか、それとも何らかのトリックを用いた殺人なのか。
 物理の知識がある人なら、仕掛けの見当はつくかも知れないが
 それよりも教団内部の人間関係や奇跡を信じる人間の心理が
 深く描かれていて、なかなか興味深く読める。

「透視す(みとおす)」
 草薙が行きつけのバーを訪れた湯川。
 そこのホステス・アイは初見の客の名前や
 鞄の中身を "透視" して言い当てる "特技" を持っていた。
 そのアイが何者かに殺される。
 その原因は彼女の "透視" にあったのか?
 トリックもよくできてるけど、被害者とその継母との確執など、
 犯罪を取り巻く人間のドラマが胸を熱くさせる。

「心聴る(きこえる)」
 OLの睦美は、職場で謎の耳鳴りに悩まされていた。
 折しも、広告部の部長が自殺するが、
 不明な点が多く警察は捜査に乗り出していた。
 事件の解明と並行して描かれるのは、互いに同期生だった
 警視庁の草薙と所轄署の刑事・北原との出世を巡る確執。
 肝心のトリックについてはどうかなあ。
 現象は確認されてるけどまだ実用化はされてない技術らしい。
 でも、待ってたら誰かに先に使われてしまうかも知れないし。
 そのへんの見極めは難しそうだ。

「曲球る(まがる)」
 力が衰え、引退を迫られているプロ野球投手・柳沢。
 その妻・妙子が強盗に遭い殺されてしまう。
 最愛の人を奪われ、失意の柳沢だったが、
 殺害直前の妙子の不可解な行動が彼を悩ませる。
 ラストで湯川が解き明かした妙子の真意に、涙腺が崩壊した。
 他人の嫁さんの心が読めるんだったら、
 その気になれば結婚なんかすぐできそうなけどね、湯川クン。

「念波る(おくる)」
 会社を経営する磯谷のもとに電話がかかってくる。
 妻・若菜の双子の妹・春菜からのものだった。
 春菜は言う。「胸騒ぎがする」と。
 帰宅した磯谷が発見したのは、瀕死の重傷を負った妻の姿だった。
 双子の間にテレパシーは存在するのか・・・がテーマと思わせて
 さらにひと捻り。うーん、うまい。

「偽装う(よそおう)」
 大学時代の友人の結婚式に参加するために
 地方のリゾートホテルを訪れた湯川と草薙。
 しかし、ホテル近くの別荘地で作詞家夫婦が殺される。
 折しも豪雨によって土砂崩れが発生、
 警察が到着できない事態に陥る。
 捜査に協力する羽目になった草薙だが・・・
 現場の不自然さから真相を見抜く湯川だが
 これは凡人にはちょっとわからないんじゃないかなぁ。

「演技る(えんじる)」
 劇団主宰の駒井が殺害される。
 女優兼脚本家の敦子は、周到なアリバイ工作を巡らせるが・・・
 トリック自体はある意味単純なんだけど
 最後に明かされる事件の真相にビックリ、
 そして敦子の動機にもう一度ビックリ。
 いやはや東野圭吾はやっぱりすごい。


ガリレオ・シリーズって、トリックが "売り物" と思いきや、
読んでみると作品によってけっこう差がある。
一発芸みたいな大がかりなトリックを使った作品もあれば
ほとんどトリックらしいトリックが登場しない作品まで。
そして、読後に残る印象はトリック以外の要素の方が多い。

前回にも書いたと思うけど、
事件に関わる人々の愛憎や、常識に縛られた頑固な思考や、
疑似科学を信じてしまう心理の方に重点を置いて書かれている。
そこがこのシリーズが支持される理由なんだろうと思う。


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蝋人形館の殺人 [読書・ミステリ]

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★

ミステリ黄金期の巨匠、ディクスン・カーの
新訳再刊シリーズの一冊。
パリの予審判事バンコランが活躍する長編の4作目。


元閣僚の令嬢・オデットの他殺死体がセーヌ川に浮かぶ。
彼女の足取りを追ったバンコランは、
被害者が最後に目撃された場所である蝋人形館に向かう。

そして中の展示場で、半人半獣の怪物サテュロス像の
腕に抱かれた死体を発見する。
第二の死者はオデットの友人にして
これも名家の令嬢・クローディーヌだった。

やがて、蝋人形館に隣接する怪しい秘密クラブが
事件に深く関わっていることが判明する。


先月に記事に挙げた『髑髏城』と同じく、
本書もまた密室や不可能犯罪ものではない。
でも、カーの持ち味は充分に発揮されていると思う。
それはストーリー・テリングの才能だ。

秘密クラブの経営者ギャランの堂に入った悪役ぶり、
蝋人形館の館主の一人娘・マリーも
序盤からは想像できない終盤での顔をみせてキャラ立ちも充分。

さらに語り手のジェフ・マール君も後半になると、
手がかりをつかむために自らクラブに潜入し、
図らずも大立ち回りを演じてみせる。
いやあ、彼はそんなキャラとはまったく思ってなかったから
この展開にはビックリ。

ミステリというのは時として、
事件発生の発端と結末の謎解きの間、
手がかりの収拾や関係者への聴取などの中盤が
退屈になりがちなものだが、本作では次から次へと
いろんな展開を見せてくれて飽きさせない。

そして、肝心の謎解き部分なんだが、名探偵バンコランは
現場に残された "ある手がかり" を糸口にして、
いとも鮮やかにするするっと意外な真相を引き出してみせる。

やっぱりこの作者は伊達に巨匠と呼ばれてないね。
今回も "密室がなくても傑作が書ける" ことを証明したカーでした。


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