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バチカン奇跡調査官 楽園の十字架 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 楽園の十字架 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 楽園の十字架 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する天才科学者の平賀と、
その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。
「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第14弾。
長編としては12作目になる。


平賀とロベルトは、ハイチへの出張を命じられる。
2010年の大地震で倒壊した首都の大聖堂が再建されたことを祝して
開かれる祝賀会へ、ラングロワ枢機卿の代理として出席するためだ。
二人はハイチの首都・ポルトープランスへ向かう。

そしてそのついでに、式典終了後には彼らには一週間の休暇が
"強制的に" 与えられることになっていた。
普段から多忙を極めてい二人は、ろくに休んでいなかったからである。
うーん、勤勉だね。

現地での祝賀会のあと、二人はルッジェリという男と知り合う。
彼は業界で第3位のクルーズ会社の社長である。
二人はルッジェリから誘われ、豪華客船エクセルシオール号に
乗り込んで、ハイチからマイアミへ向かう
カリブ海クルーズへ出発することになった。

出航して2日目、エクセルシオール就航10周年を祝うパーティのさなか、
乗客たちは異様な光景を目撃する。

突如として海から激しい飛沫が上がり、
水面が割れてそこから高さ30mあまりにもなる
巨大な十字架が出現したのだ。

乗客たちが驚嘆して注視する中、
十字架は再びゆっくりと海中へ没していく。

折しも、客船は、過去数十年にわたって怪奇現象が続発していた
バミューダ・トライアングルにさしかかっていた。
直ちに二人は奇跡調査に乗り出すことになる。
ああ、たとえ休暇中でも、"奇跡" の方からやってくるんだねぇ(笑)。

乗客たちは奇跡の話題で持ちきりになるが、
そんな中、凶悪な事件が発生する。

客室のベッドの上で、腹部を始めとして体中を切り刻まれた
青年ジェラールの死体が発見されたのだ。
部屋の壁にはヴードゥの秘文字で死に神の印が描かれ、
枕元には髑髏が置かれていた。

その現場へ、カルロスと名乗る男が現れる。
彼はCIAの捜査員で、ポルトープランスに潜伏する
テロ集団『ペトロの掟』を追ってきたのだという。
平賀とロベルトは彼に協力し、犯人を捜し始める。

カルロスは、ジェラールの部屋の通話記録から
ジャック・ルーモンとその妻シンディが怪しいと睨む。
しかし、船内で開かれた仮面舞踏会でシンディは突然錯乱し、
バーベキューの焔の中に飛び込んで全身やけどを負い、死亡してしまう。


船内で起こる事件の裏には、ハイチとマイアミを行き交う
客船を利用した陰謀が潜んでいる。
平賀とロベルトの活躍がそれを暴いていくんだが
このあたりは、通常のミステリやサスペンスとあまり変わらない。

本書でいちばんの謎は、やっぱり "十字架の奇跡" だろう。
なぜ海が割れたのか、なぜ海面を割って浮上してきたのか、
そしてそもそも、あの十字架の正体は何だったのか・・・

毎回、いかにも奇跡っぽいものが実はそうではないことが
平賀くんの手によって明らかになるのだけど
それなら、何故あんなことが起こったのかが
説明できなければいけない。

毎度のことながら、彼がひねり出してくる理屈づけ(説明)は、
「そういう解釈もできるよね」
「そうなる可能性もゼロではないかもね」レベルなんだけどね。
でもその内容がいかにももっともらしい法螺で、しかもとても面白い。

というか、それを面白いと感じる人がこのシリーズを読んでるんだろう。

毎回思うけど作者は勉強してる。
今回も、海や海底についての最新の知見を盛り込んで
魅力的な "奇跡" を創造、演出してみせる。

でもネタがわかってみると、今回の "十字架の奇跡" は
ストーリーの本筋にはほとんど関係なかったりして(笑)
まあそのへんはご愛敬だね。

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池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 Ⅰ プチ・コン編 / Ⅱ グラン・コン編 [読書・ミステリ]


池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 I: プチ・コン編 (新潮文庫nex)

池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 I: プチ・コン編 (新潮文庫nex)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫
池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 II: グラン・コン編 (新潮文庫nex)

池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 II: グラン・コン編 (新潮文庫nex)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★

舞台となるのはパラレルワールドの日本。

池袋はカジノ特区となって日夜を問わず巨額の金が飛び交い、
その裏では様々な地下勢力が蠢く無法地帯となっていた。

その "闇の帝国" を支配するのは、
池袋警察署長・有我法然(あるが・ほうねん)。

一介の交番勤務の警官から身を起こし、
類い希なる有能さで異例の昇進を遂げ、
特区となった池袋署長になると同時に
カジノと犯罪組織の融合、周辺のリゾート群からも資金を吸収して
"闇のネットワーク" を確立し、警視庁さえも介入できない
"治外法権区域" を作り上げたのだ。


さて、この作品世界は同じ作者の『天帝』シリーズと同一のもの。
主人公となるのも同じく古野まほろくん。

しかし本書が『天帝』シリーズと異なるのは、
時間軸が10年後になっていること。
まほろくんも高校生から成長して28歳の堂々たる若者に。
もっとも、職業は売れない劇団員をしているのだが。

そのまほろくんが池袋のカジノで、
何と6億を超える額を一夜にして稼ぎだしてしまう。
しかし有頂天になったのも束の間、
カジノ側の罠にはまって警察に逮捕され、もちろん6億円もフイに。

しかしそんなまほろくんに強力な助っ人が現れる。
彼への仕打ちに憤る高校時代の同級生3人が集まったのだ。

6億円を取り返し、有我法然の鼻を明かしてやるべく、
彼ら4人がまず目を付けたのは
有我法然の道楽息子・光然(こうねん)だった・・・


まほろくんとともに立ち上がったのは
『天帝』シリーズでもレギュラーとして活躍していた3人。
みな10年の歳月を経て様々に成長している。

柏木照穂は警視庁のキャリア官僚となり、現在は警視にして外事課長。
峰葉実香は大手出版社の敏腕編集者、
そしてビックリしたのは修野茉莉。
なんとイタリアの侯爵(実はマフィアのボス)に嫁いだが
その夫が暗殺され、未亡人になっていた。
しかし組織はしっかり彼女が掌握し、
今でも手足のように使いこなしてる(えーっ)。

裏表紙の惹句には「コン・ゲーム」ってある。
たしかに、この4人が有我法然をペテンにかけて
金をかすめ取ろうとする話を描いている。

だけど、通常のコン・ゲーム小説なら、
成功するか失敗するか綱渡り、
のるかそるかのハラハラドキドキな展開がお約束のはず。

ところが、この4人が集まると強力すぎて(笑)、
そのへんの緊迫感をあまり感じない。
だって10年前の高校生の頃だって、
このメンバーは超高校級の超人ばかりだったからねえ。
ましてやそれ以来幾星霜、地位・権力・経験・財力その他もろもろを
身につけてきた彼ら彼女らは、もう半端ない破壊力を持つ集団になった。
特に後半に入ってからは修野茉莉嬢の設定がチート過ぎて
「もう全部あいつ一人でいいんじゃないか」(笑)な状態。
(もちろん他の3人とも役割をしっかり果たしているけれどもね)

こうなってくると、この4人に狙われた法然が
逆に可哀想に思えてくる(笑)くらいだ。
とは言っても、今まで散々悪事の限りを尽くしてきたわけだから
同情心は湧かないけどね(笑)。

コン・ゲーム小説というよりは、
成長した『天帝』シリーズのメンバーによるクライム・コメディ。
高校卒業10周年を迎えた古野まほろくんの
ほろ苦くてちょっと危険な同窓会がユーモアたっぷりに綴られる。

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墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]


墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

墓守刑事の昔語り 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/01/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2012年に発表された短編本格ミステリから、
本格ミステリ作家クラブによって選出されたベスト・アンソロジー。

「バレンタイン昔語り」麻耶雄嵩
"神様探偵" シリーズの一編。
語り手・桑町淳は小学6年生。そして同級生の鈴木は
過去、二回の殺人事件で犯人を言い当てた "神様" である。
淳の同級生・川合高夫は、2年前に
神社裏の池で溺死体となって発見された。
殺したのは誰か?  淳の問いかけに鈴木は
「犯人は依那古朝美だよ」と答えるが、それは淳が知らない名前だった。
しかしその一週間後、転校してきた生徒・依那古雄一の
母親の名が "朝美" だということが判明する・・・
登場人物がみんな小学6年生の割に、思考が大人すぎるのに
ちょっと違和感を感じるが、ミステリとしては切れ味鋭い。
そして何より、主役の淳のキャラがユニークで面白い。私は好きだ。

「宗像くんと万年筆事件」中田永一
他のアンソロジーで既読。
"私" が小学6年生の時、その事件は起こった。
クラスメイトが持ってきた万年筆がなくなってしまったのだ。
そしてその万年筆が "私" のランドセルから見つかった。
犯人とされた "私" はクラスからいじめに遭い、
担任が "私" を見る目も厳しくなった。
しかしその中で一人、宗像くんだけは "私" を信じ、
クラスメイトを廻って情報を集め、ついにはクラス全員の前で
"私" の無罪を立証するべく奮闘するのだが・・・
ミステリなのだけど、心温まる話だ。
初読の時、いつか宗像くんと "私" が再会する話も読みたいなあ、
って書いたのだが、どうやらシリーズ化されるらしい。これは朗報。
ちなみに「中田永一」は、「乙一」氏のペンネームの一つ。

「田舎の刑事の宝さがし」滝田務雄
田舎の警察署に勤務する、黒川と白石という
二人の刑事の活躍を描くユーモアミステリ・シリーズの一編。
地元に伝わる『垂助(たれすけ)の隠し金』伝説。
江戸時代の大泥棒 "花不見(はなみず)の垂助" が、
この地に巨額の財宝を隠したというもの。
垂助が隠れ住んでいたと言われる蒼花(あおはな)山は、
現在その子孫とされる蒼花垂太(たれた)の私有地となっていて
垂助の財宝の実在を信じて捜す研究グループ「垂助会」と
トラブルを起こしていた。そんなとき、
「垂助会」会長・田唐有蔵(たから・ゆうぞう)の死体が発見される。
死因は高所からの転落かと思われたが、蒼花山は小高い丘に過ぎず、
高い崖のようなものはどこにも存在しなかった・・・
ユーモアたっぷりの黒川と白石の掛け合いが楽しい。
このシリーズを読むのはこれで2作目。
どちらも黒川の奥さんってちょっとしか出てこないんだけど
存在感は抜群。どんな人なんだろう。とても興味が湧くなあ。

「絆のふたり」里見蘭
妻に死に別れ、男手ひとつでクリーニング店を切り盛りする英輔。
その父に、親子を超えた愛情を感じている娘・萠絵美。
その英輔が、早苗という女性を連れてきた。彼女と結婚したいという。
しかし早苗の様子に不審なものを感じる萠絵美は・・・
いやあ、このラストが予想できる人はいないんじゃないかなぁ。
恐れ入りました。でも、このエンディングは
本格ミステリというよりはホラーですよねぇ・・・。

「僕の夢」小島達矢
他人の夢に入り込み、その夢を自由自在にコントロールする。
そんな特殊能力を持った "僕" は、大学の講義にも出ずに
「夢占い」の看板を出して、訪れた客の夢の中に入る日々。
そんな "僕" の現在と過去を描いていく。
ミステリというよりは不条理SFみたいな感じ。
こういうのはあんまり好きじゃないなぁ。

「青い絹の人形」岸田るり子
他のアンソロジーで既読。
主人公のゆかりは、大学准教授の父とその再婚相手・美咲との
3人でパリへ旅行に来ていた。
そこでゆかりは自分のパスポートを紛失してしまうが
日本大使館から連絡が入り、パスポートを拾って届けた者がいるという。
受け取りに行ったゆかりは意外な人物に遭遇する・・・
プロローグで撒かれた伏線が、ラストでかっちりと回収されて
切れ味鋭い結末を迎える。
サスペンス・ミステリのお手本みたいな作品。

「墓守ラクマ・ギャルポの誉れ」鳥飼否宇
中東の某国にあるジャリーミスタン刑務所には
世界中から集められた死刑囚が6000人も収監されている。
そこで起こる謎の事件の数々を綴ったシリーズの一編。
囚人の一人、ラクマ・ギャルボは刑が執行された囚人の墓を堀るという
皆が厭がる仕事をすすんで引き受け、周囲からは変人と見なされていた。
そのギャルボについて奇怪な噂が広がる。
刑が執行された囚人の墓を暴き、死体を喰らっていたというのだ。
さらに、噂を確かめようと彼を見張っていた囚人の前で
再び墓を暴いたことにより、
ギャルボは死体損壊の罪で死刑の執行が決定する・・・
なぜギャルボは墓を暴いたのか。
探偵役となる老囚人シュルツによって、
この特殊な場所ゆえに生じる、特殊で意外な動機が明かされる。
鳥飼否宇って、初期の作品は読んでたんだけど、
いつからか離れてしまったんだよねぇ。
でも、このジャリーミスタン刑務所を舞台にした
連作短編集「死と砂時計」(この作品も収録されてる)は
久々に手に入れたので、そのうち読む予定。

「ラッキーセブン」乾くるみ
ある女子高校の生徒会室。そこに集まった7人の生徒。
その7人は、その中の一人が考案した "ゲーム" を
始めることになるが、それがお互いの命を取り合う
サバイバルゲームになるとは誰が予想したろうか・・・
とにかく、ゲームのルールが難しい。
単純そうなんだが考え出すとけっこう大変。
1対1の対戦型なんだが、相手の手の内の読み合い、
どのカードを切っていくべきかの駆け引きが理詰めで語られていく。
このあたりが "本格ミステリ" に通じる論理性なんだろうが
私にはホラーにしか感じられなくて、まったく楽しめない。
やっぱり、この人とは
デビュー作「Jの神話」以来、相性が悪いみたいだ。

「機巧のイヴ」乾緑郎
江戸時代を思わせる世界を舞台にしたSFミステリ。
昆虫や鳥を、機械仕掛けで複製する幕府精錬方手伝・久蔵。
いわばロボット職人だ。その出来映えは、
本物と全く見分けがつかないほど。
その久蔵へ、江川仁左衛門はある依頼をする。
遊女・羽鳥とうり二つの機巧人形を作って欲しい、と。
書き下ろしSFアンソロジー「NOVA」で既読。
SFならではの "オチ" がその時はあまり好きになれなかった。
でも今回、ミステリのアンソロジーの中で再読してみたら、
けっこういけると思ったよ。

「コンチェルト・コンチェルティーノ」七河迦南
冒頭で「佐藤」という姓の看護師が殺されたことが明らかにされ、
本編に入ると時間を戻して、ある病院での
一人の医師を巡る看護師たちの人間模様が綴られていく。
ところが、登場する看護師たちがみんな名前でしか描写されない。
つまり、"誰が殺されるのか" がテーマのミステリなのか・・・?
このあと例によって捻りのあるラストが明かされるのだけど
最後の最後でもう一撃。いやあ参った。

「『皇帝のかぎ煙草入れ』解析」戸川安宣
これは創元推理文庫で刊行された同題のミステリの
巻末に収録された解説文である。
この長編はカーの代表作の一つであるのだけど、
内容の紹介が難しい作品でもある。
だって、この作品の「どこがすごいのか」を未読の人に説明するのは
ほとんどネタばらしをするようなものだからだ。
この文章は「解説」であるから、
本編を読了した人に向けてネタバレを気にする必要なく、
本書の "スゴさ" を微に入り細を穿って "解説" してくれる。
だから、この文章を読みたいと思う人は、まず本編を読みましょう(笑)。

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絞首台の謎 [読書・ミステリ]


絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/29
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

パリの予審判事アンリ・バンコランとその友人ジェフ・マールは
演劇「銀の仮面」を観るために霧深い晩秋のロンドンへやってくる。

2人は高級会員制クラブである「プリムストーン・クラブ」に滞在する
元ロンドン警視庁副総監サー・ジョン・ランダーヴォーンに会う。
クラブのラウンジで、サー・ジョンは不気味な話を語り出す。

彼の友人ダリングズが酒場からの帰りに霧の中で迷っていたところ、
ある家の横手に縄をぶら下げた首吊り台のシルエットが浮かび上がり、
何者かの影がその絞首台の階段を上がっていったという。

その話の直後、ラウンジの椅子の上に奇妙なものが見つかる。
それは精巧に作られた絞首台の模型だった。
従業員によると、クラブの滞在客であるエジプト人エル・ムルク宛てに
小包で送られてきたものらしい。

そしてその晩、観劇を終えて街路に出た3人が見たものは
警官の制止を振り切って暴走する1台のリムジン。

すれ違いざまにジェフの目に飛び込んできたのは
耳から耳まで喉を切り裂かれて絶命している運転手の姿。

直ちにタクシーで後を追う3人。
リムジンは交通法規一切を無視して爆走し、
やがてプリムストーン・クラブの前で停車するが
追いついた3人が車内で見つけたのは男の死体のみだった。

リムジンの持ち主はエル・ムルク、
死んでいたのは彼のお抱え運転手だったが
エル・ムルク自身はその晩クラブから
リムジンに乗って出かけた後、戻ってきていなかった。

そしてその晩、警察署に匿名の電話がかかってくる。
「エル・ムルクがルイネーション(破滅)街で絞首台に吊されたぞ」

しかし、ロンドンの地図には
"ルイネーション街" という地区は存在しない・・・


全体から受ける印象は、推理小説というよりは探偵小説。
全編にわたって怪奇趣味が満載で、横溝正史の初期作品とか
江戸川乱歩の怪奇短編に通じる雰囲気がある。

舞台となるのは、見るものすべてが霧に沈む街・ロンドン。
「霧に浮かぶ絞首台の影」とか
「死人が運転するリムジンが濃霧の中を疾走する」とか。
その手のものが大好きな人にはたまらないだろう。

ただ、ミステリとしてみるといささか残念な気もする。

リムジンの謎も分かってみるとちょっとがっかりだし
終盤で明らかになる "仕掛け" も、
90年前ならともかく(本書の発表は1931年)
現代でこれをやったら噴飯物だろう。
「少年探偵団」シリーズあたりでよく見たような気がするネタだ(笑)。

そして一番の問題は、ミステリを読み慣れた人なら
かなり早めに犯人の見当がついてしまうことかな。
カーといえば、密室や不可能犯罪のみならず、
犯人の意外性もかなりのもののはずなのに。

事件やイベントをつなげて、最後まで面白く読ませる
ストーリーテリングは充分に発揮されてると思う。
むしろ、作者には犯人を隠すつもりが
(あまり)なかったようにも感じさせるのだけど、まさかね。

本書はカーのデビュー第2作。
前作「夜歩く」で登場し、ジェフといい仲になった
シャロン・グレイ嬢の再登場が個人的には嬉しいところ。
もっとも、ジェフとの恋人関係は終わってたみたいだけど(笑)。

雰囲気だけなら★3つ半。ミステリとしてなら★1つ半。
あわせて★2つ半というところで。

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ウィンディ・ガール/ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐Ⅰ/Ⅱ [読書・ミステリ]


ウィンディ・ガール~サキソフォンに棲む狐I~ (光文社文庫)

ウィンディ・ガール~サキソフォンに棲む狐I~ (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: Kindle版
ストーミー・ガール: サキソフォンに棲む狐II (光文社文庫)

ストーミー・ガール: サキソフォンに棲む狐II (光文社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/02/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・永見典子は須賀瀬高校の吹奏楽部に所属する1年生。
2年前、典子が中2の時に父の光太郎は新宿で変死し、
今は母の瑤子と二人暮らしである。

典子は中1の時にアルトサックスと出会い、その魅力に取り憑かれて
吹奏楽部を3年間続けた。高校でも入学と同時に
質屋で中古のアルトサックスを見つけ、格安で手に入れた。

しかしそんな典子に対し、なせか瑤子はいい顔をしない。
ことあるごとに吹奏楽をやめ、サックスを手放すように言い続ける。
理解のない母親との間に口論が絶えない毎日である。

本書についた変わったサブタイトルだが、
実は典子が持つサックスにはキツネが "住んでいる" のだ。

楽器の管に入るくらい小さくて、人の言葉を話し、
自らを "クダギツネのチコ" と名乗る。
もちろん典子以外の人間には見えない。
どうやら妖怪か妖精の一種のようで、"本人" 曰く
「永見家は代々のキツネ持ち」なのだそうだ。

とは言っても本書は伝奇小説の類いではなく、
チコも超常の力を示したりはしない。
もっぱら典子の漏らす愚痴の聞き役である。

高校の吹奏楽部でサックス演奏に打ち込むうちに、
典子は次第に吹奏楽からジャズへと興味が拡がり、
やがて学校外へ演奏の場を求めるようになる。

その間、いくつかの事件に遭遇していくのだが
その都度、チコは推理を巡らせて典子に真相を囁いてくれる。
本書はなんと "妖怪" が探偵なのだ。

そして物語が進むうちに、彼女は少しずつ父の死の真相に近づいていく。

典子の音楽的な、そして精神的な成長の物語を
ミステリがらみで綴られていく連作短編集である。


「ブラックバード Blackbird」
典子の通う高校の近くに、
全身黒ずくめの怪人 "カラス男" が出没するという。
単なる噂だと典子たちは思っていたが、
吹奏楽部の練習中、部員の美登里祥子が何者かに襲われる。
そして彼女の唇にはカラスの羽が刺さっていた。

「ミッドナイト Midnight」
典子は、深夜の学校で楽器を演奏する音が聞こえたという話を聞く。
そんなとき、学校に耐震補強工事が入ることになり
吹奏楽部は2日間の活動休止に。しかし県大会が迫っているため
各自が家で練習することになっていた。
しかし典子はマウスピースを学校に置き忘れてしまっていた。
深夜の学校に忍び込む羽目になった典子は、意外な光景に出会う。
棚にしまってあったはずの楽器類が引き出され、
音楽室の床じゅうに散乱していたのだ。

「フェイバリット Favorite」
須賀瀬高校吹奏楽部は県大会を突破、
西関東支部大会へ出場することになった。
しかしアルトサックス担当の上級生が骨折してしまっため、
急遽、ソロパートの演奏者を決めるために
部内でオーディションを行うことになり、典子も候補となる。
自分の音に満足できない典子は新しいマウスピースを手に入れるために
新宿の楽器店を訪れるが、そこでジャズのプロ奏者・坂木と出会う。
彼が主催するジャズセッションへの参加を勧められた典子だが・・・

物語はこのあと、さらに5編の短編が続く。

「オーニソロジー Ornithology」
(ここまでが「ウィンディ・ガール」収録)

「チェイス Chase」
「ウォーキン Walkin'」
「ジューク Juke」
「エピストロフィー Epistrophy」
(この4編が「ストーミー・ガール」収録)

西関東支部大会をきっかけに典子は吹奏楽部を辞め、
楽器店から紹介されたプロ奏者・長谷部に師事することになる。

レッスン代を稼ぐためにジャズ喫茶でアルバイトを始め、
メンバーを募集していた学生ジャズバンドに参加し、
新宿でさまざまなプロ・アマの演奏者に刺激を受けながら
自らの音を求めて練習にのめり込んでいく。

目指すは、楽器メーカーが主催するジャズコンペでの優勝だ。

一方、父の死に絡んで謎の男たちが彼女の周囲に現れ、
やがて典子の持つサックスの来歴、父親の意外な過去、
そしてチコの "正体" が明かされていく。

ジャズを巡る連作ミステリであり、
父の死の真相に迫っていくサスペンスでもあるけれど
いちばんの読みどころは、典子の成長だろう。

彼女の前には次から次へと(音楽的な)障害が現れ、
必死に乗り越えたと思ったら、次の壁が立ちふさがったり
乗り越えたつもりが全くできていなかったり。
雑草のような努力家である典子に対し、物語の後半で現れる
ライバル・水之江由加里はエリートタイプだったり。
このあたりは昭和のスポ根ものを彷彿とさせる。

最後に明かされる、彼女の両親を巡る秘密には
あまり意外性はないけれど、
青春小説としてみればそれは重要ではないだろう。


上巻である「ウィンディ・ガール」を読み終わった段階では、
正直言ってあまり評価は高くなかった。
ミステリとしてはともかく、典子と瑤子の激しい確執が随所に描かれ、
読んでいて、とっても暗ーい気持ちになってしまったので(笑)。
何度か読むのをやめようかとも思った(おいおい)。

しかも、典子は吹奏楽部を辞めてしまい、
学校からも離れて校外に演奏の場を求めていく。
このまま学校生活からもドロップアウトしてしまい、
母親との関係もいっこうに改善されないままなんじゃないか?
彼女は何処へ向かうのか、いささか心配になってしまったよ。

しかし下巻である「ストーミー・ガール」のラストで、
作者は広げた風呂敷をきれいに畳んで見せる。

吹奏楽部から始まった典子の物語は、
再び吹奏楽部を舞台にして大団円を迎える。
典子は部員たちとの関係や母親との関係を修復し、
そして自らの将来の目標まで見つけていく。

物語がぐるっと一周回って、始まりの場所で締めるという
この構成、私は好きだなあ。

楽器修理を生業にしている尾之上や吹奏楽部の顧問・高垣など
魅力的なサブキャラも多いのだけど、
もうけっこう書いてきたのでそろそろ終わりにしよう。


最後に余計なことを。

私はジャズについては全くの素人である。
だから、全編に渡って頻出するジャズ用語や高名な演奏家の名前とかは
(いちおう巻末に解説は載っているものの)正直さっぱり分からない。
じゃあどうしたかというと、
そういうところは適当に読み飛ばしてしまったんだけど(おいおい)、
本書を楽しむにはとくに支障は無かったように思う(笑)。

もちろん、ジャズの知識や演奏経験がある人なら、
いっそう楽しめると思います。

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神津恭介の復活 [読書・ミステリ]


神津恭介の復活 (光文社文庫)

神津恭介の復活 (光文社文庫)

  • 作者: 高木 彬光
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

平成の世に復活した名探偵・神津恭介。
その活躍を描いた "最終三部作" の第二弾。

前作から引き続き、ヒロイン兼ワトソン役を務めるのは
東洋新聞社会部の記者・清水香織嬢。

彼女は大学時代からの友人・鈴木裕美の結婚式に出席した。

新婦の裕美は24歳、新郎となる河島幸一は34歳。
彼は資産数百億を超える大財閥の御曹司である。
昨年、父の健一郎が脳梗塞で倒れて以来、
河島グループ全体を統括する地位にあった。

800人を超える招待客に囲まれ、華やかに披露宴は進行するが
その最中、ウエディングケーキを運んできたホテルマンの一人が
幸一を刺殺、そのまま逃走してしまう。

犯人は新郎の実弟・悟だった。
悟は以前、裕美と交際していたことがあり
そのため婚礼には招かれていなかったのだ。

そしてその悟が焼死体で発見される。
自動車の中で頭からガソリンを被り、火を着けたのだ。
しかし遺体は損傷が激しく、顔の判別も出来ない。
悟の死を信じられない香織はDNA鑑定の結果を待つ。

さらに第二の殺人が起こる。季節は8月、真夏の盛りにもかかわらず
裕美が自宅マンションの一室で "凍死体" となって発見されたのだ。

香織は大学時代の友人から裕美が過去に関係を持った男たちを聞き出し、
調査を始めるがことごとく容疑から外れていってしまう。
やがてDNA鑑定の結果から、焼死体が悟に間違いないと判明する。

行き詰まった香織は、おりしも大学のシンポジウムに出席するために
伊豆から上京してきた神津恭介に助けを求める。
彼は香織に
「犯人が見つからないのは、間違った視点から事件を捉えているから」
とアドバイスを与える。

その数日後には、容体が悪化して入院中だった河島健一郎が死去、
さらに第三の殺人が起こる・・・


本書の特異なところは、物語の中盤にして
容疑者たり得る人物がすべて退場してしまうということ。
病死したり、自殺したり、そして殺人の被害者となって。

今まで、ミステリをけっこう読んできたと思ってる私だが
さすがにこの展開は予想を越えていて
最後の容疑者が消えた時点でしばし唖然としてしまった。

この時ばかりは「この先どうなるんだろう」って
ちょっと不安になってしまったよ(笑)。

物語は後半になってさらに二転三転する。
公開された幸一の遺言状には謎の人物が記載されており、
そして殺人の連鎖も続く。

しかし、どんなに頭の回る奴でも神津恭介の敵ではない。
彼の推理は、意外なところに潜んでいた犯人と
その精緻な犯行計画を暴き出していく。

そのあたりはちょっと込み入っているので、
流し読みしてるとよく分からない。
私はところどころ読み直してしまったよ。
我ながらアタマの悪さがイヤになる。

もしこれから本書を読む人がいたなら
謎解き部分はあせらずじっくり読むことをオススメする(笑)。

前回も書いたけど、古希を過ぎても
こんなに凝った構成の作品を仕上げるなんてたいしたもの。
"凍死" のトリックに一部難が(というか勘違い?)
あるんじゃないかと思うんだが、
まあそのへんはご愛敬ということにして(笑)。

"老大家" とか "大ベテラン" とかいう言葉は
まさにこういう人のためにあるのだろうと思う。

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露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 [読書・ミステリ]


露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

露西亜の時間旅行者 クラーク巴里探偵録2 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は日露戦争が終結して間もない頃、
山中晴彦はヨーロッパを巡業中の曲芸師一座に転がり込んだ。
家事一切を引き受けることを条件に
一座の敏腕番頭・片桐孝介と同居をはじめることに。
そんな二人が、パリを舞台に起こる事件を解決するべく
奔走する姿を描く連作ミステリ。

前作のラストで、ある事情から
晴彦は孝介の元を離れて日本へ帰国したが、
3年半ののちフランスへ戻ってきた。
本書は、パリへ到着した列車から晴彦が降りる場面から始まる。

「第一章 光と影」
孝介に再会したのも束の間、晴彦は仕事に引き込まれる。
パリの大人気女性ダンサー、オンブルの依頼は
孝介たちの一座のパトロンの一人、マダム・モロワに近づくために
彼女の趣味・好みについて教えて欲しいということだった。
謎の修道女が現れたり、当時ヨーロッパで大人気だった
飛行家サントス・デュモンの名が出てきたりと
パリが舞台ならではの物語が展開する。
孝介と晴彦の掛け合いも相変わらずで、前作の雰囲気そのまま。
読者もすんなりと入り込めるだろう。
ちなみに、本文の記述によると本書の時代は1909~1910年頃になる。

「第二章 オスマンルビーの呪い」
人気ダンサー・オンブルの舞台衣装を手がけるリュシアン・ガレは
パリでも指折りの人気デザイナー。
ある日、ブーローニュの森で派手な宣伝イベントをぶち上げる。
最新流行のドレスを着たマヌカン(モデル)たちが
麦わらを満載した馬車に乗って現れ、
集まってきた観衆に対して無数のルビーをばらまいたのだ。
使用したのは売り物にならない屑石ばかりだったのだが
その日以来、パリでは藁を積んだ馬車に対する放火が頻発する。
孝介の推理によって、騒ぎの裏に隠された "ある計画" が暴かれていく。

「第三章 露西亜の時間旅行者」
巴里に現れたロシア人、セルゲイ・エピファーノフは
自らを「時間旅行者」と名乗った。
フランスでノーベル賞と並び称される賞であるペルーズ賞の
受賞者発表の前日、彼が提出した紙片には
全受賞者の氏名が記載されており、それがすべて的中していのだ。
しかも発表当日、セルゲイは新聞社の最上階の小部屋に籠もっていた。
本書の中でいちばんミステリっぽさが強いが
そのぶん、読み慣れた人ならある程度はトリックにも見当がつくだろう。
でも本作のポイントはそこではなく、なぜセルゲイが
そのようなパフォーマンスを行ったのか、というところ。
オンブルの意外な過去が明かされる一編でもある。

「第四章 遥かなる姫君」
パリで商売を展開する「白浜植木」の社員・川崎から持ち込まれた依頼は
「黄金の雲」と名付けられた美しい百合の自生地を記した地図の探索。
自生地の地図を入手したプラントハンターは事故死してしまい、
その地図は、彼が残した硝子製品のどれかに隠してあるのだという。
孝介の推理は、地図探索の裏に隠された
二人の男の "秘めた想い" も明らかにして
ミステリというよりはラブストーリーの佳品のような印象。

本書の4つの事件はいずれも、謎めいた美女オンブルが主要人物として、
あるいは関係者として登場する。陰の主役と言っていいだろう。

「第四章」で登場する川崎は、高齢である上に健康にも難があって
間もなく日本へ帰国する予定なのだが、その後任として
孝介は晴彦を推薦していたことが明らかになる。
つまり孝介は晴彦を「白浜植木」に就職させようと画策していたわけだが
なぜ晴彦を曲芸一座から遠ざけようとしたのか。
その真意、そして晴彦の選択は読んでのお楽しみかな。

もうちょっと川崎について書きたい。
仕事からの引退を控えた彼は、主役二人とオンブルを除けば、
本書の中で私がいちばん印象深く感じた人物。
多分私とほぼ同年代なのだろうけどそれだけが理由ではない。
男なら、そんな "女性" が一人くらいは心の中にいるものだろうから。

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貴婦人として死す [読書・ミステリ]


貴婦人として死す (創元推理文庫)

貴婦人として死す (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

名探偵ヘンリー・メリヴェール卿(通称H・M)の活躍する一編。

語り手は老医師ルーク・クロックスリー。
イギリスの海岸沿いの片田舎・リンクームで
同じく医師である息子とともに診療にあたっている。

数学の教授をしていたアレック・ウェインライトは
20歳以上も年下のリタと結婚し、リンクームで引退生活へ入った。

しかし平穏な日々は長くは続かなかった。
二人の住む村にバリー・サリヴァンという青年が現れ、
リタは彼に惹かれるようになってしまったのだ。

ある夜、ルークはアレックの家へカード遊びのために赴くが
彼ら二人の前からリタとバリーが姿を消してしまう。

アレックの家の裏庭から始まる小道はそのまま海まで続き、
そこには<恋人たちの身投げ岬>と呼ばれる崖があった。
そしてその小道に残されていたのは、崖っぷちまで続く二人の足跡のみ。

道ならぬ恋に思い余って身を投げたかと思われたが、
2日後に浜辺に打ち上げられた二人の死体は、
至近距離から心臓を銃で撃ち抜かれていた。

その凶器となった銃がアレックの家から半マイルも離れた
路傍で発見されるに至り、心中事件は殺人事件へと一転する。
しかし、犯人はどうやって二人を殺害したのか?

事件の詳細を手記にしたためていたルーク医師は
警察に協力して捜査に当たるH・Mと行動を共にするようになるが・・・


いわゆる "足跡のない殺人" で、
不可能犯罪の巨匠・カーの面目躍如たる長編である。

メイントリックのキレもいい。解決編に至ると
「ああ、なるほど!」って叫んでしまいそう(叫ばなかったけど)。

しかし本書はそれだけにとどまらない。
真相解明までのロジックもまた冴えている。
犯人の名が明かされると思わず「え?」となるのだけど
そこに至る推理の筋道を辿るとしっかり納得。
伏線もちゃんと張ってあるし「確かにそうだよなあ」と思わせる。

夫であるアレック以外にも、一癖ありそうな村の住人たちや
さらには意外な闖入者も現れて、登場人物(容疑者?)も多士済々。

毎回書いているけど、カーは語りがうまい。
個性的なキャラたちが、事件発生前から解決するまでに
さまざまなイベント(騒ぎ)を引き起こしてくれるので
読者は飽きることなく、最後まで楽しく読める。

例えば、今回のH・Mは足に怪我をしていて歩けない状態にあるんだけど
初登場は、なんと電動車椅子で田舎道を爆走するシーンから(笑)。
それも村の酒場に行きたい一心で。そんなにビールが飲みたいかぁ(爆)。

初期の作品には怪奇趣味が横溢しているんだけど
カーの本領はラブロマンス要素を絡めた
ドタバタ・コメディにあるんだろうと思う。

トリック良しロジック良しストーリー良し。三拍子揃った快作だ。

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怪盗ニック全仕事3 [読書・ミステリ]

 

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事(3) (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D・ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。
そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第3弾で、1977~82年にかけて発表された14編を収録。
話数で言うと第31話~第44話である。

ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。依頼料は二万ドルだが
それと引き換えに彼が盗むのは、貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。

本書でも、およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。
タイトルだけを挙げてみても、それがよく分かる。

第31話「つたない子供の絵を盗め」
第32話「家族のポートレイト写真を盗め」
第33話「駐日アメリカ大使の電話機を盗め」
第34話「きのうの新聞を盗め」
第35話「消防士のヘルメットを盗め」
第36話「競走馬の飲み水を盗め」
第37話「銀行家の灰皿を盗め」
第38話「スペードの4を盗め」
第39話「感謝祭の七面鳥を盗め」
第40話「ゴーストタウンの蜘蛛の巣を盗め」
第41話「赤い風船を盗め」
第42話「田舎町の絵はがきを盗め」
第43話「サパークラブの石鹸を盗め」
第44話「使用済みのティーバッグを盗め」

いずれも、取るに足りないものを盗みにいったニックが
意外な事件に巻き込まれ、謎を解いて事件の裏に潜む陰謀を暴くという
お決まりの流れだが、決まっているがゆえに安心して読めるとも言える。
これが毎回、文庫で30ページほどに綺麗に納まっていて
これを87回繰り返したのだから作者の技量もたいしたもの。
作者は他にもいくつもシリーズをもち、総計したら
生涯で900編の短編を書いてた、なんてまさに超人ですね。

毎回決まったパターンといえども、"サザエさん時空" ではない。
話数が進むにつれて時代は流れるしニックもトシを取る。

ニックと同棲している女性・グロリアは、当初は
ニックの仕事を知らずにいた(政府系の機関で働いてると思ってた)が
本書の中のある事件をきっかけに、ニックの "本職" を知ってしまう。

でも彼女は慌てず騒がずニックの仕事を受け入れ、さらにはこう言う。
「二万ドルは安い。最低でも二万五千ドルは要求するべきよ」
いやはやたいしたもの。さすがはニックのパートナーである。
実際、その3話あとからニックは
仕事料を二万五千ドルに値上げしてる(笑)。

もちろんそんな高額な金額を払ってまで盗みを依頼する人がいるわけで、
本当に価値がないはずがない。
「普通の人には無価値だけれど、特定の人には価値がある」わけだ。

その理由についてはいくつかパターンがある。たとえば
「そのもの自体は無価値だが、付随する要素に価値がある」とか
「そこにあっては依頼人の目的に支障を来すので、
 盗んでもらう(取り除いてもらう)」とか
「盗んできてもらったものを、依頼人が別の目的に使う」とかね。

このシリーズも三冊目なので、パターン別に分類・分析してみると
面白そうだなあと思うんだけど、誰かやらないかなぁ(笑)。

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監獄舎の殺人 ミステリーズ!新人賞受賞作品集 [読書・ミステリ]


監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

  • 作者: 美輪 和音
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

東京創元社発行のミステリー雑誌「ミステリーズ!」主催の
短編ミステリー大賞の新人賞を受賞した作品を集めた
アンソロジー、その第2弾。

「強欲な羊」美和和音(第7回受賞作)
資産家の真行寺家に生まれた姉妹。
姉の麻耶子は傲慢で強欲。妹の沙耶子は穏やかで慈悲深い性格。
そんな妹に麻耶子は異常なまでの対抗心を燃やし、
沙耶子が手に入れたものはどんな手を使っても
奪い取らなければ気が済まない。
そんな関係は二人が成人しても続き、ついに破局が訪れる。
純真そうに見える妹のほうが実は・・・なんて展開なら
誰でも思いつくだろうが、本作はそのさらに上を行く。
真行寺家の女中を語り手にしたストーリーは終盤において二転三転、
最後はぞっとするようなホラーなエンディングを迎える。
いわゆる、最近流行りの「イヤミス」というものですかね。
うーん、よくできてると思うけど、この手のものは正直言って苦手。

「かんがえるひとになりかけ」近田鳶迩(第9回受賞作)
主人公・ムサシは、ある日突然、妊娠中の女性の胎児として目覚める。
どうやら自分は何者かに殺されてしまったらしい。
胎内で、自分の半生を振り返り、さらに外部の会話を聞きながら
ムサシは自分を殺した犯人が誰なのかを考え始める。
たぶん胎児が探偵というのはミステリ史上初ではないかな。
犯人の意外性ももちろんだけど、
ラストではさらに驚きの真実が明かされる。
振り返ってみれば伏線の張り方も巧みだ。
ユニークな作品なのは間違いないけど、この受賞作の着想が突飛すぎて、
あとが続くのかなあって余計な心配をしてしまう。

「サーチライトと誘蛾灯」櫻田智也(第10回受賞作)
定年を迎えた吉森は、ボランティアで公園の夜間見回りをしている。
今日も無断で公園に入り込んだ昆虫マニア・魞沢(えりさわ)や
挙動不審な探偵・泊(とまり)と押し問答を繰り広げる。
しかし翌朝、その泊の死体が発見される。
ミステリ的な仕掛けには乏しいかと思うが、
ユーモアあふれる語り口で、キャラ同士の交わす軽妙な会話が楽しい。

「消えた脳病変」浅ノ宮遼(第11回受賞作)
脳外科の臨床講義を担当した医師・榊は、
開講早々、学生たちに一つの謎を投げかける。
海馬硬化症という病気で榊のもとへ通院していた女性が、
ある日待合室で意識を失った。
彼女の検査をした結果、脳内の病変部位が消失していたことがわかる。
自然治癒することはない病気であるにもかかわらず。
さて、この現象をどう説明する?
物語は榊と学生たちのディスカッション形式で進んでいく。
さまざまな仮説が学生から提示されるが
ことごとく榊によってひっくり返されてしまう・・・
謎の設定がいささか特殊すぎて、
かえって合理的な解が限られてしまうんじゃないかなぁ・・・
って思ってたんだが、作者もそのあたりはわかっているようで、
メインの謎解き以外に、ラストにもう一つ仕掛けを用意している。
さりげなく「医師とはどうあるべきか」なんて話も盛り込んでいて、
いかにも(いい意味で)医学が専門の人が書いたなあと思わせる作品。
ちなみに、本作でただ一人正解にたどり着く学生・西丸豊くんは
後に医師となり、かつシリーズ探偵となって
他の作品にも出ているとのことだ。

「監獄舎の殺人」伊吹亜門(第12回受賞作)
明治6年、京都の府立監獄舎。
収監されていた平針六五は、政府転覆を目論んだ死罪と決まり、
執行の日を迎えた。しかしその平針が毒殺される。
朝食として与えられた粥に砒素が混入されていたのだ。
捜査に当たるのは鹿野師光。東京の司法省から派遣された裁判官だ。
そして、なぜか司法卿である江藤新平その人までもが
直々に捜査に乗り出しくるという異様な展開。
夕刻に死刑執行される男を、なぜその日の朝に殺したのか。
ラストで意外な動機が明らかになるが、それだけに留まらず
この時代だからこそ成立する、ある "思惑" が語られる。
ひねりが効いていて見事な着地だ。


本書を読んでいて思ったのは
「ひねりのきいたオチ」っていうのはもう当たり前で
新人賞に入るには、プラスアルファが必要なんだなあと言うこと。

たとえば「オチ」が決まったかと思った次の瞬間にさらにもうひねり。
「二段オチ」あるいは「三段オチ」くらいのインパクトがないと
審査員の先生方のお眼鏡には適わないのかもなぁ・・・って思った。

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