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深紅の碑文 上下 [読書・SF]


深紅の碑文(上) (ハヤカワ文庫JA)

深紅の碑文(上) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/02/24
  • メディア: 文庫
深紅の碑文(下) (ハヤカワ文庫JA)

深紅の碑文(下) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

文庫上下巻で1100ページ近いSF大作。

作者自ら《オーシャン・クロニクル・シリーズ》と
呼んでいる作品群の中の一編で、
長編『華竜の宮』の続編的位置づけになる。


舞台となるのは25世紀。
地球は、急激な地殻変動によって内部のホットプルームが上昇、
それによって海洋底が隆起し、海水面が260mも上昇してしまっている。

人類はその生活基盤のほとんどを失い、
高地に住む陸上民と海に生存の場を求めた海上民とに分かれた。

陸上民は、残された陸地のみならず海上都市をも建設し、
その科学技術をもって高度なネットワーク社会を構築していた。
一方、海と共生することを選んだ海上民は自らの遺伝子を改変し、
海上生活に適応した生態システムを手に入れていた。

しかし、乏しい資源や価値観の違いを巡って
両者は世界中で衝突を繰り返していた。

そして、IERA〈国際環境研究連合〉が擁する
環境シミュレータ〈シャドウランズ〉が驚くべき予測をはじき出す。
遅くとも、今後50年のうちに再び大地殻変動が起こり
地球は人類の生存できない環境へと激変するという。

そんな中、陸上民と海上民が平和的に共存するために
日夜、さまざまな組織との折衝に奔走する
外交官・青澄誠司(アオズミ・セイジ)の活躍を描いたのが
『華竜の宮』で、その<大異変>まであと50年を残した時点で
物語の幕は閉じられた。


本書では、その直後の時点から、<大異変>までの40年あまりの
出来事が綴られていく。

物語は主に3つの視点から語られる。

まずは前作から引き続き登場する青澄誠司。
外交官を退職した彼は海上民の救援組織<パンディオン>を設立、
その理事長として前作以上に海上民のために尽くしている。

二人目は、海上民の武装組織<ラブカ>のリーダー、ザフィール。
もともとは医師だったが、乗っていた舟が海上民に襲われたことを
きっかけに陸上民との武力衝突に巻き込まれ、
いつしか海上民の抵抗勢力を率いるようになっていく。

そして三人目はDSRD(深宇宙研究開発協会)のメンバー・星川ユイ。
彼女(というかDSRD)の目標は、恒星間宇宙船を建造すること。
しかし、地殻変動によって一度は滅亡の危機に瀕した地球に
宇宙へ進出する余力などなく、
宇宙開発技術の進歩は何世紀にもわたって停滞していた。


誠司は迫りくる<大異変>に備え、
海上民の収容所となる海上都市群の建設を目指していた。

しかし陸上民の了解を取り付けるためには、どうしても
"2つの人類" の和解が必要だった。

誠司は和解交渉のためにザフィールとの接触を試みるが
積年の恨みつらみが重なる彼らにその選択肢はありえない。

一方、ユイが関わる恒星間宇宙船の建造には
膨大な資金と資源を必要する。
しかも完成したとしても人は乗せない、というか乗れない。
載せるのは人類のすべての記録、そして生命の "種"、
そしてそれらを管理する人工知性体のみ。

しかし、この宇宙に人類が存在した証しを残し、
いつか理想的な惑星に到着したときには
そこで人類の再生を目指そう、という理念にユイは共鳴する。
しかし宇宙船建造計画は世界中からの厳しい非難に晒されるのだった。


前作『華竜の宮』と比べて、個人の描写が深くなったと思う。
誠司、ザフィール、ユイの "半生記" といった趣がある。

とくに誠司は、前作直後の40代で登場し、終盤では70代まで描かれる。
仕事人間だった誠司は、前作では全くといっていいほど
女性の影は無かったが、本作ではちょっぴり
"ロマンス" めいた描写もあって、
彼が決して木石ではなかったことがわかる(笑)。

ザフィールは自ら望んでリーダーの地位に就いたわけではなく
成り行きというかなし崩しというか、
いつの間にか周囲からトップに祭り上げられてしまうのだが
一度引き受ければ最後まで仲間を先導し続ける。

自分の進む道の終点には "破滅" しかないのは分かっているのに
それでも進むのをやめることができない。
後半の彼に感じるのは限りない悲哀だ。

ユイは幼少期から成年期までが描かれるが
一貫して宇宙への憧れ、そして宇宙船建造の夢を手放さない。

三者三様ではあるが、
みな理想に殉じて生きていくところが共通しているのだろう。


細かいところでは、短編『リリエンタールの末裔』に
登場したキャラがでてくる。

グライダーで空を飛ぶことに賭けた若者を描いたこの短編、
これは単独でも面白いのだけど
シリーズの中においてどんな位置づけにあるのか
今ひとつわからなかったんだけど、その疑問が氷解した。
そうかあ、こうつながるのかぁ・・・


恒星間宇宙船の動力としては、核融合エンジンが予定されていたが
<大異変>を乗り切るための人類のエネルギー源としても
核融合発電が必要となっていた。

しかし、人類の間には "核エネルギー" に関して
抜きがたいアレルギーもまた存在している。

しかし、宇宙船のためにも、人類の生き残りのためにも
核融合の技術を手にしなければならない。
そしてそのためには "実験" が必要になってくる。

このあたり、どう折り合いをつけていくかも読みどころの1つだろう。


誠司のパートナーとなる人工知性体・マキ。
『華竜の宮』では男性設定で、男性のボディだったが
本作では女性ボディに変更され、設定も女性に書き換えられている。
"彼女" もなかなか魅力的で
とても健気に誠司に尽くすところが素晴らしい。
もう惚れてしまいそうである(笑)


前作の時も書いたが、
「滅亡が迫りました」→「回避できました」
という安易な話ではない。

本書の最後でも<大異変>はすぐそこまで迫っており、
人類がそれを生き延びられる可能性は限りなくゼロに近い。

しかし、それでもなお "運命" に対して
抗い続ける人類の姿を作者は描きたかったのだろうし、
本作でそれをきっちりと描ききったとも思う。

あとは「人事を尽くして天命を待つ」のみだ。

作者は、<大異変>の時代を迎えた人類を描く構想もあるらしいので
いつの日か、さらなる "続編" が読めるのかも知れない。

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機龍警察 自爆条項 [完全版] 上下 [読書・SF]


機龍警察 自爆条項〔完全版〕 上 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〔完全版〕 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: Kindle版
機龍警察 自爆条項〔完全版〕 下 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〔完全版〕 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

作者の出世作となった「機龍警察」シリーズ。
本書はその第2作に加筆・修正を施した[完全版]だ。

とは言っても、ストーリーの根幹は変更されていない。
個々のシーンの描写が厚くなったりしているらしいのだけど
実際、読んでいてどこがどう変わったのかは分からなかった(^^;)。
まあ、私の記憶力自体が当てならないからなあ・・・

ストーリー的には独立しているので、前作を読んでいなくても
楽しむことはできるけれども、前作の流れや一部の伏線を
引き継いでいる部分もあるので、
できたら第1作を読んでからの方が、より楽しめるだろう。

そしてもし、本書から読み始める(読み終わった)人がいるなら、
その後でいいからぜひ前作を読んでほしい。
前作におけるライザと緑の台詞や行動の意味が
より深く理解できるだろう。

以下の文章は、2年前に文庫で刊行された
旧版を読んだときに書いた記事に
若干の加筆・修正を施したものだ。


大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴って開発された人型近接戦闘兵器・機甲兵装が
市街地戦闘の主流となっていた。

 機甲兵装とは、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』におけるATみたいな、
 簡単に言えば "ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。

警視庁特捜部も、テロリスト対策のために最新鋭の機甲兵装「龍機兵」を
3機導入し、その搭乗要員(パイロット)として3人の傭兵と契約した。

日本国籍を持つ姿俊之、
アイルランド人で元テロリストのライザ、
元ロシア警察のユーリ・オズノフ。
この3人は "警部待遇" で捜査にも加わることになる。

英語名は Special Investigation Police Dragoon。
犯罪者たちは彼らを「機龍警察」と呼んだ。

閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は
"異物" であり、特捜部自体も他の部署との軋轢は避けられない。
しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。

「機龍警察」は、テロリストという外敵はもちろん、
"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。
そういう宿命を背負った部署なのである。

機甲兵装が大量に日本国内へ密輸された事件が発覚する。
それと時を同じくして、北アイルランドのテロ組織・IRFのメンバーが
大挙して入国したことも判明する。その中には、
最高幹部の一人である<詩人>と、凄腕のテロリストである
<猟師>・<墓守>・<踊子>の3人も含まれていた。

彼らの目的は2つ。

一つは、近く来日するイギリス政府高官サザートンの暗殺。

そしてもう一つは、「龍騎兵」の搭乗者・ライザの処刑。
彼女はかつてIRFに所属し、"ある事情" から組織を抜けていた。
IRFは彼女を "裏切者" として追っていたのだ。

しかし、IRFの潜伏先は容易につかめず、
サザートンの来日は目前に迫ってくる。

そしてなぜか、日本政府上層部から特捜部に対し、
不可解な捜査中止命令が下される。

そんなとき、日本国内に巣くう中国黒社会のメンバー・馮(フォン)が
特捜部に接触してくる・・・


本作では、ライザが実質的な主人公をつとめる。
物語は、IRFの足取りを追う特捜部と、
ライザの過去が章ごとに交互に描かれていく。

テロの嵐が吹き荒れる北アイルランドに育ち、
父親の死をきっかけとして<詩人>に導かれてIRFへ加入、
過酷な訓練を経て "殺人機械" へと成長していくライザ。

しかし、自ら手を下したテロによって、ある "報い" を受け、
組織からの脱走を決意する。

このあたりはけっこうな書き込みで、
初読の時は「ちょっと長いんじゃないか」って思ったんだが
今回は全然そんなことを感じさせなかった。
作者の語りのテクニックが上達したせいかもしれない。

この描写があることによって、ライザへの感情移入がより高まり、
クライマックスにおける<詩人>との対決が
いやが上にも盛り上がる伏線にもなっている。

IRFを抜けた彼女は生きる意味を見失い、
死に場所を求めるかのように戦いに中に身を投じる。
「龍騎兵」のパイロットとなったのもその流れに身を任せた果てだ。

他の二人のパイロットである姿とユーリをはじめ
登場人物がみな個性的で、キャラ立ちもバッチリなのだけど
特筆すべきは特捜部長の沖津だ。

沈着冷静にして頭脳明晰、つまはじきと圧力の総攻撃にさらされる
特捜部において、根回し・腹芸・駆け引きと、あらゆる手を用いて
外部や上層部と渡り合ううちに、いつのまにか
事態を自分の望む方向に導いていってしまう。

本作においては、IRFの<詩人>に対して、
さながらチェスの達人同士のように
相手の手の内を読みあう頭脳戦を繰り広げる。

そして、本作のもう一人のヒロインとも言うべきなのが
「龍騎兵」の技術主任(メカニック)担当の鈴石緑警部補。
彼女もIRFの引き起こしたテロ事件によって家族を失い、
天涯孤独の身となっていたことが本作で明かされる。

しかしそれはライザが直接手を下した事件ではなかった。
緑もそれは重々承知してはいるのだが
ライザに対して生じる憎しみを消すことはできない。

そして、「龍騎兵」の性能を究極まで引き出してくれるのも
またライザなのであった。

 本作を読んでから前作を読みかえすと、
 緑の示す言動にいちいち納得してしまう。

ライザと緑をつなぐのは「龍騎兵」という存在ただ一点。
決して相容れることのないはずの二人なのだが、
事件を通じてお互いの過去を知ったことにより
関係に変化が生じていく。

終盤における<詩人>との対決で、絶体絶命の危機に陥ったライザが、
無線を通じて緑と言葉を交わすシーンがある。
二人の心が一瞬ではあるが "重なる"、
ここまできたら、涙で文字が追えなくなってしまったよ・・・


前作と本作で、警察上層部や日本政府内には
犯罪組織とつながる巨大なネットワークが
存在することが示唆されている。

最終的に特捜部はこの<巨大な敵>と戦うことになるのだろう。
"ラスボス" との決戦がいつになるのかは分からないが
それまではこのシリーズを楽しませてもらおう。

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ふわふわの泉 [読書・SF]


ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)

ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 野尻 抱介
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/07/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

遙か昔に読んだパズル本『頭の体操』シリーズ。
当時、千葉大学教育学部助教授だった多湖輝先生が書いたものだけど
一時期、ハマってた時期があった。

その中にあった問題の1つにこんなのがあった。
なにぶん記憶が怪しいので細かい文言に間違いがあるかも知れないが
内容はあっていると思う。

問題:
風船にヘリウムガスを詰めたら、空気中をふわふわと上に昇っていった。
さて、この風船の中のヘリウムガスを全部抜いて真空にした。
中身が真空になっても、この風船は潰れないと仮定する。すると、
この "真空を詰めた" 風船を空気中で放したら、この風船はどうなるか?

分かる人には簡単な問題なのだろうけど、
当時の私は見事に引っかかってしまい、
てっきり「地面に向かって落ちる」って考えてしまった。

しかし答えはヘリウムガスの時と同じく「上に昇っていく」だった。
もっと言えば、へリウムガスの時よりも勢いよく昇っていくのだ。

ヘリウムガス入りの風船が上に昇るのは、
ヘリウムガスが空気よりも軽いからだ。

 ヘリウムガスにも重さがあるが、
 同じ体積の空気の重さよりも軽いのである。
 だいたいヘリウムは空気の1/7くらいの重さである。

そして、"真空" は何もない状態なので、重さはゼロだ。
すなわち、"真空" はヘリウムガスよりも軽いので
ヘリウムの時よりもさらに勢いよく空気中を昇っていくのである。

さらに言えば、"真空" よりも軽い状態は存在しない。当たり前だけど。


いささか前置きが長くなってしまったが、
本書を読み始めてすぐに、頭の中にこの問題の記憶が甦ってきた。

女子高生・浅倉泉は、浜松西高校化学部の部長をしていた。
文化祭を間近に控え、
化学部の後輩にしてただ一人の部員・保科昶(あきら)とともに
部の展示の一環としてフラーレンの合成を始めた。

フラーレンとは、炭素原子が
サッカーボールのように球状に結合した分子のことだ。

しかし折しも天候が急変し、彼女らが実験中の校舎を雷が直撃した。
衝撃から目覚めた二人の前にあったのは、"ふわふわ" の謎の物質。
その正体は「立方晶窒化炭素」。
原子数個分の超薄膜の状態でも
大気の圧力に耐える強度を持つ、驚異の新素材だった。

つまり、冒頭に掲げた「中身を真空にしてもつぶれない風船」を
この新素材なら作ることができるのだ。

ダイヤモンドよりも硬く、空気よりも軽いこの新素材を
超安価に製造する方法を確立した二人は、高校生のまま
会社を設立し、ビジネスの世界に打って出るのだが・・・


ストーリーは至ってシンプル。
彼女らの画期的な新発明が、
社会を、世界を、そして人間の思考をも変えていく。

しかし、"努力しないで生きていくこと" を人生の目標にしてきた泉は、
相棒の昶とともに、あくまでマイペースを貫いて、
二人が変えてきた(変えつつある)世界を生きていく。

昶くんは泉のよき相棒として行動する。
泉のアイデアを現実的なものに落とし込んで実現する。
二人は理想的な補完関係を築いていくのだが
それはあくまでビジネスパートナーに留まり、
人生のパートナーにはならないところも面白い。

もっとも、本書のラストで二人はまだ二十代なので、
このあとは分からないが(笑)。

ちょっと前に紹介した「南極点のピアピア動画」でもそうだったが
本書の終盤でも、 "ふわふわ" が
人類が宇宙へ進出するためのテクノロジーとして発展していく。

読んでいて感じたのは、ある種の懐かしさ。
SFの黎明期にあった、楽観的な未来像みたいなものが感じられる。

現実の世界を見ているとかなり悲観的になってしまうけど
せめてフィクションの中だけでも明るい未来が見たいじゃないか。

泉ちゃんは賢くてカワイイし、昶くんは健気で誠実だし、
そのほかに出てくるキャラたちもユニークで悪人はほぼゼロである。
SF好きな人なら、楽しい読書の時間を味わえるだろう。


ちなみに本書は2001年に発行されたものが
版元を変えて再刊されたものである。

「星雲賞」は、毎年行われる日本SF大会参加登録者の
投票(ファン投票)により選ばれた、
前年度に発表された優秀なSF作品に贈られる賞のことだが、
本書はその「星雲賞」の
第33回(対象は2001年発表の作品)日本部門を受賞している。
うん、納得の出来である。

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南極点のピアピア動画 [読書・SF]


タイトルにある「ピアピア動画」とは、
ネット上にある動画投稿サイトのこと。
もちろん「ニコニコ動画」がモデルだ。

表紙の女の子は、ボーカロイドの「小隅レイ」。
こちらは「初音ミク」がモデルなのはもう一目瞭然だね。

なんだかいかにも「パチモン」で胡散臭い。
そんなことを感じる人がいるかも知れないが、本作は
発達したネットによって、未来における宇宙開発が
どう変貌していくかを描いた連作短編集。
至って真面目で正統的なSFだ。

「南極点のピアピア動画」
彗星が月面に衝突し、大量の粉塵が舞い上がったために
月探査計画は "煙が晴れる" まで凍結されてしまう。
日本の探査計画に関わっていた大学院生・蓮見の夢もまた潰え、
恋人・奈美までも彼のもとを去ってしまう。
しかし、月面から放出された膨大なガスが地球へ降り注ぎ、そののち
両極から宇宙へと吹き出す "双極ジェット" を形成することが判明する。
これを利用すれば高度3000kmの宇宙空間へ到達できる。
蓮見は、「宇宙男プロジェクト」を立ち上げ、
二人乗りの宇宙機(もちろん奈美と乗るつもり)の製作を宣言、
「ピアピア動画」に決意表明の動画をアップする。
やがて彼のもとに、ネットを通じて
協力・支援を申し出てくれるメンバーが集まり始め、
プロジェクトは一気に動き始める・・・

「コンビニエンスなピアピア動画」
コンビニ・ハミングバード二本木店でバイトする美穂は、
ピアピア動画技術部の桑野と知り合う。
ある日、店頭の真空殺虫機を掃除していた美穂は
やたらと丈夫な糸を吐く蜘蛛を発見するが、
桑野はその蜘蛛の意外な利用法を発案する・・・
田舎のコンビニから始まった話が、
壮大な宇宙開発につながるという意外な展開に。
冒頭からこのラストは想像できないよ、ほんと。

「歌う潜水艦とピアピア動画」
音で "会話" する鯨に対して、こちらも音を発して反応を見る。
海洋生物の研究者・中野は、潜水艦を使っての
鯨の行動調査を発案するが、あえなく却下される。
しかし諦めきれない彼は、鯨に対して発声する部分を
ボーカロイド「小隅レイ」に歌わせ「ピアピア動画」に投稿したところ、
なんと自衛隊からオファーが来る。
退役してスクラップになるはずだった潜水艦かざしおの武装を外し、
国民的人気を誇る「小隅レイ」を "搭載" して鯨と "対話" させれば、
自衛隊のイメージアップになるという奇特な司令官が現れたのだ。
探査船となったかざしおは順調に鯨たちと"対話"を重ねていくが
やがて、とんでもないものと遭遇してしまう・・・

「星間文明とピアピア動画」
これは「歌う-」の直接の続編となっている。
かざしおが出会ったのは、数万年前に地球に飛来し、
海底に眠っていた地球外文明の "自動探査装置"、
要するにロボット探査機だった。しかもナノマシンを用いて
自らを作り替えることも、増殖することも可能だった。
"ファースト・コンタクト" によって
「小隅レイ」の外見をまとうことを決めた "探査機" は、
自らを「あーや」と名乗り、大量に複製を作りながら
地球人の中に入り込んでくるが・・・
表紙にあるような女の子が、街中をぞろぞろと
歩き回るような光景が出現するわけなんだが、
決して "萌え" ばかりではないので、誤解なきよう(笑)。
読んでいて、ジャック・ウィリアムスンの『ヒューマノイド』を
想い出したり、アシモフのロボットもの連作を想い出したり。
ネットや動画投稿サイトなど、でてくるガジェットは今風なんだけど
読んでるとなんだか昔SFを読み始めた頃のワクワク感が。
ラストで人類が宇宙へ進出する足場を得て終わるところは
古き良きSFの時代を彷彿とさせ、なんだか懐かしくて心温まる。

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アケルダマ [読書・SF]


アケルダマ (新潮文庫)

アケルダマ (新潮文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

タイトルの「アケルダマ」とは、新約聖書によると
キリストを裏切ったユダが死んだ土地がそう呼ばれたとのことだ。

2年前に両親が離婚し、父親に引き取られた転昆巴(ころび・ともえ)。
牧師である父がN県にあるド田舎・織部村へ赴任するのに伴い、
現地の高校へ転校した。しかしその直後に父は急死してしまう。

寮で一人暮らしをすることになった巴は、
早く学校に馴染もうと生徒会へ入るのだが、
入会の手続きからして秘密結社への加入みたいに怪しげな雰囲気で、
やたら高圧的な会長と彼に絶対服従の役員たち、と胡散臭さがぷんぷん。

どうにも学校に居場所を見いだせない巴だが、
そんなある日、登校途中で沢田瞬(さわだ・しゅん)と再会する。
巴が転校前にいた学校の同級生で、いわゆるオカルトマニアだった。
彼の入手した昭和初期の古い研究誌に、
「キリストの墓がN県織部村にある」と記してあったという。

巴はしばしば夢の中で誰かの "声" を聞いていた。
そして、その "声" に従って生徒会からの命令を破った時、
巨大蝙蝠などの "怪物" が襲いかかってきた。

そして巴は "声" の正体を知る。
"声" の主はなんと2000年前に死んだはずの「ユダ」だという。
つまり彼女は「ユダ」の魂だか霊だかを憑依させることができるのだ。

「ユダ」によると、彼以外の使徒達はみな "生きて" いて
日本に眠る「キリスト」の "復活" を画策している。
そして「キリスト」が甦ったとき、世界は地獄に変わるという・・・


そして巴は、"ユダ" そして瞬を協力者に得て、
使徒達の陰謀に立ち向かっていく、というお約束の展開。

その使徒達というのがまさに「これぞ秘密結社」という典型。
そしてキリストの「墓地」がある織部村、
その現地における下僕である生徒会役員たちは
ほとんどショッカー戦闘員みたいな扱いである(笑)。

多彩なキャラが登場するが、ピカイチは巴の母・エチだろう。
自由奔放で男好き、家庭を飛び出して東京でスナックを開く。
それでいて沖縄拳法の達人、という
なんだかよくわからないけど凄い人(笑)。

巴もその薫陶よろしく腕に覚えがある身なわけで、
守られるだけの凡百のヒロインとはひと味違う。
まあ田中啓文の作品にまともな主人公が登場するはずもないか(笑)。

沢田瞬の父も、エチに負けないくらい凄い人なんだけど
これは終盤の展開に関わるのでここには書かない。

ストーリーだけ見れば直球ど真ん中、堂々の伝奇小説なんだが
読んでてなぜか笑いが出てくるのも、この作者ならでは(褒めてます)。

巴と瞬が恋仲になりそうでならないのも、それはそれで楽しい(えーっ)。

文庫で700ページの大長編なんだが、途中でダレることもなく、
最後までサクサク読める。リーダビリティも抜群。
作者と波長が合う人なら、楽しい読書の時間が過ごせるだろう。

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機龍警察 [完全版] [読書・SF]


機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴い発達した人型近接戦闘兵器・機甲兵装。

警視庁特捜部は、最新鋭の機甲兵装<龍機兵>を3機導入、
そのパイロットとして3人の傭兵と契約する。

閉鎖的、保守的な警察組織はそんな<龍騎兵>に対して
強烈な拒否反応を示し、特捜部は孤立を強いられながらも
凶悪な事件に対峙していた。

ある日、3機の機甲兵装を使ったテロ事件が発生する。
犯人グループは多くの犠牲者を出しながら地下鉄千田駅構内に突入、
ホームに止まっていた電車の乗客を人質にとって立て籠もった。

特捜部の<龍騎兵>3機は、警視庁のSAT(特殊急襲部隊)とともに
現場へ向かうが、そこには恐るべき罠が仕掛けられていた・・・


旧来の思考に囚われた警察組織と、
時代の最先端の<軍用兵器>をもつ特捜部との確執。
機甲兵装を用いて引き起こされる、近未来における壮絶なテロ事件。
そして主役メカである<龍騎兵>の活躍。

読みどころがてんこ盛りの傑作エンターテインメントだ。


登場するキャラクターも多彩だ。
特捜部への協力を拒む旧弊な警察組織と渡り合いながらも、
捜査の手を緩めない特捜部長・沖津旬一郎。
<龍騎兵>パイロットとして契約した3人の傭兵たち。
日本人傭兵・姿俊之、ロシアの警察官出身のユーリ・オズノフ、
そして元テロリストのライザ・ラードナー。
そしてある理由からライザを憎む<龍騎兵>技術班主任・鈴石緑。

3人のパイロットたちも様々な過去を抱えている。
第1作である本書では姿俊之の過去の一端が語られるが
それが単なる思い出に留まらず、現在進行中の事件にも絡んでくる。


機甲兵装のイメージは往年のTVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」に
登場する人型機動兵器AT(Armored Trooper)に近いだろう。
そして主役メカたる<龍騎兵>には、
短時間だが超絶的な高機動を可能にする「DRAG-ON」モードが
搭載されているなど、ロボットアニメ的な外連味も充分。

 V-MAXを備えたスコープドッグみたいなもの、って書いても
 分からない人は多いだろうなあ・・・(笑)。

あるときは重厚に、あるときは電光石火の如く変幻自在に敵を翻弄する。
<龍騎兵>の戦闘シーンになると、ページを繰る手が止まらない。
"その手" のお話が大好きな人(私もだが)も充分に楽しめる。


本書は2010年に刊行されたシリーズ第1作『機龍警察』に
加筆・修正を施したもの。

実は当時、この作品を読んでいて記事に挙げてる。
内容はあんまり褒めてない(笑)。
でもこのシリーズは大ヒットし、作者のブレイクのきっかけとなった作品。

今回改めて読んでみたけど、細部の描写が変わっただけで
ストーリーの骨子は変わってないのに、驚くほど面白く感じられた。
いやあ不明の至りを反省します。


第2作『機龍警察 自爆条項』も[完全版]が出ていて
実はもう読了してる。
こちらではライザと緑の過去が明かされ、
二人の間の葛藤がストーリーの根幹となっている。
こちらも傑作だ。近々記事に書く予定。

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時をとめた少女 [読書・SF]


時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

SFラブストーリーの達人ヤング。
日本独自編集による4冊目の短編集とのことだ。

本国アメリカではさほど評価されていない人のようだけど
日本には根強いファンがいる。私もその一人。

「わが愛はひとつ」
主人公フィリップは、出版した論文が原因で
いわれなき罪に問われ、100年間の人工冬眠刑に処せられる。
刑期を終え、目覚めた彼は100年後の世界で自らの故郷に向かう。
そこは、かつて最愛の妻ミランダと共に暮らした思い出の地だった・・・
"時を超える愛" を描かせたら右に出る者はないヤングの本領発揮。
SFを読み慣れた人ならオチは見当がついてしまうだろうし、
そしてベタなラストだけど、私は好きだよ、この結末。
本書の中でいちばん "ヤングらしさ" が味わえる一編。
私のイチオシである。

「妖精の棲む樹」
創元SF文庫のアンソロジーで既読。
鯨座オミクロン星で、植民者のために
樹木の伐採に従事する青年・ストロング。
1000フィートを越える巨樹に登りはじめた彼は
枝の上で"樹の精"を見つける。それは女性の姿をしていた・・・
開発と自然保護の相剋を描いて、皮肉なエンディングを迎える。

「時をとめた少女」
6月の朝、ロジャーは公園で赤いドレスのベッキーに出会う。
たちまちロジャーは彼女の虜となってしまう。
そして翌朝、今度は青いドレスのアレインと出会う。
彼女は、なぜかロジャーにデートに誘ってほしいと訴えるが・・・
二人の女性から取り合いになってしまうロジャーだが、
後手に回ったアレインが繰り出す逆転の秘策がスゴイ。

「花崗岩の女神」
乙女座アルファ星第4惑星に残された巨大な彫刻。
横たわった女性をかたどり、乳房部分は標高5000mを越える。
主人公マーテンはこの"乙女"の山脈を伝って登攀を続ける。
自分の人生を振り返りながら、そして母のことを想い出しながら。
全長数十kmに及ぶ "女体山"(文字通り)という
途方もないイメージは素直に凄いと思うが
ストーリー的には淡々と進むので今ひとつ物足りないかなあ。

「真鍮の都」
これも創元SF文庫のアンソロジーで既読。
歴史上の人物をさらってきてコピーロボットを作り、
本人は元の時代に帰す仕事をしているマーカス。
今回の仕事はシェヘラザードをさらってくるはずだったのだが・・・
これは後に長編化され、『宰相の二番目の娘』として邦訳も出てる。
ヒロインのカワイさが倍増してるこの長編版のほうがオススメ。
ブログの記事にも書いたので探してみて下さい(笑)。

「赤い小さな学校」
管理化された社会を描いたいわゆるディストピア小説。
舞台が都会でなく田舎なのも珍しいかな。
光瀬龍や眉村卓が書くジュブナイル的な雰囲気もあるけど
最後まで読むと、「少年ドラマシリーズ」(←知ってる人いるかなぁ)
の原作にはなれないのがわかる。

「約束の惑星」
国ごとに惑星を割り当てられるという移民計画が行われた。
しかし主人公レストンが操縦するポーランド人の移民船は
目的地ではない星へ不時着してしまう。
ポーランド人たちはその星で生活をはじめるが
ただ一人、レストンだけが異邦人であった。
それ以来、文化や習慣の壁に阻まれて孤独に暮らしてきた彼だが
40年の歳月の後、自らの人生の意味を見いだそうとしていた・・・
レストンの置かれた環境はあまりにも過酷だ。
長い年月を経て、本人は自分の葛藤に決着をつけたようだが
私だったら耐えられないだろうなあ。
本人は満足かもしれんが、あまりにも切なすぎ、
そして救いがなさ過ぎないか、この結末。

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アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]


アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/06/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2015年に発表された短編SFから選ばれた19編(マンガ2編を含む)と、
第7回創元SF短編賞受賞作を合わせて全20編収録。

早いもので第9集になるそうな。
2007年の第1集から読んでるんだが、年を追うに従って
理解できない作品が増えてきてるような気がする。
アタマがついて行けないのかねぇ。トシのせいにはしたくないんだが。

収録作を評価ごとに3グループに分けてみた。


A:理解できたし、楽しめたもの

「ヴァンテアン」藤井太洋
野菜を入れたサラダ用ボトルの中で遺伝子改変した大腸菌を培養し、
バイオ・コンピュータをつくりだした遺伝子工学者・田奈橋杏。
彼女が開発した "サラダコンピュータ" は大ヒット商品となるが、
アメリカのバイオ企業が特許の無効を訴えてきた・・・
ストーリーはシンプルで、内容は分かりやすくかつ面白い。

「聖なる自動販売機の冒険」森見登美彦
主人公の働くオフィスの屋上に突如現れた自動販売機。
それは隣のビルの屋上に設置されていたものだった。
文庫で10ページちょっとしかないけど、
しっかり森見ワールドになってるのは流石。

「ラクーンドッグ・フリート」速水螺旋人
ラクーンドッグとはタヌキのこと。
異星人との戦争で劣勢に立った人類は、魔女や妖精、はては
狐狸の類の力まで借りて前線に投入していた・・・
という設定(たぶん)のスペースオペラ・コミック。
基本的にはギャグマンガなんだが、メインキャラの一人(一匹?)である
タヌキの "センバ丸" がラストで見せる一世一代の "化かし" が秀逸。
ちょっと感動してしまった。

「となりのヴィーナス」ユエミチタカ
進路決定の時期を迎えた中三男子・ソウジくんのクラスに
転校生・ミカがやってくる。彼女は自らを金星人と名乗り、
"自分探し" に来たのだという・・・。
謎の不思議少女に恋した、悩める少年を描いたSFマンガ。
絵もカワイイ。女性キャラが意味なく巨乳でないのもいい。
もっとこの人の作品を読んでみたいなあと思った。

「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」林譲治
2020年東京オリンピックの競技場建設のゴタゴタを
パロディ化したものと思いきや・・・
このオチは秀逸。思わず笑ってしまう。

「たゆたいライトニング」梶尾真治
生物の発生以来の記憶を持ち続けている少女エマノンを主役にした
シリーズの一編。というかこのシリーズ、まだ続いてたんだねえ。
懐かしく読ませてもらったけど、シリーズの他の短編と
内容が繋がってるらしくて、ところどころよく分からない部分が。
いつか、全作がまとまったら読み直してみたいな。
できれば時系列順に。

「言葉は要らない」菅浩江
人間としての幸福を顧みることもなく、医療補助ロボットの開発に
すべてを捧げてきた研究者・木村。
ある日、彼のもとに新たな部下として五十嵐という青年が現れる。
医療ロボット開発を巡る木村と五十風の葛藤を描く。
"人型ロボット" が主役かと思いきや、あくまで人間がメインの感動作。

「アステロイド・ツリーの彼方へ」上田早夕里
無人探査機に搭載する予定の〈人工知性〉・バニラ。
その開発・教育のために、主人公・杉野は
バニラの "猫型端末" と生活をはじめるが、
バニラの示す "知性" の裏に、"実在する人間" を感じはじめる・・・
これも一種のロボットものと言えるだろう。
しかしSFに登場するロボットはみんな健気だねえ。


B:内容はそこそこ分かるが、面白く思えなかったもの

「小ねずみと童貞と復活した女」高野史緖
早世したSF作家・伊藤計劃の『死者の帝国』と同一設定を利用した
シェアード・ワールドもの。読んでいくとわかるが
某有名SF作品と同一のテーマを扱っている。

「製造人間は頭が固い」上遠野浩平
作者は、謎の組織・統和機構が作りだした
"合成人間" を巡る〈ブギーポップ〉シリーズで有名。
(私は読んだことないけど)
本作は全20巻におよぶシリーズのスピンオフ短編。

「法則」宮内悠介
ミステリファンなら1ページ目を読めば、
ここでいう "法則" とは何のことか分かるだろう。
ヴァン・ダインのアレですね。

「無人の船で発見された手記」坂永雄一
読み始めてすぐに、ノアの方舟を扱った作品だと気づく。
面白いのだろうとは思うけど、私はホラーが苦手です。

「神々のビリヤード」高井信
はがき1枚に納まるくらいの長さのショートショート。
もともと私はショートショートってあまり好きじゃない。
だから星新一もあんまり読んでないんだよね。

「インタビュウ」野崎まど
作者がインタビューされて、その受け答えをそのまま綴っていくうちに
最後は小説になるという仕掛け。アイデアは認めるけど。

「なめらかな世界と、その敵」伴名練
さまざまな可能性に分岐した並行世界の間を自由に行き来して
自分の "居場所" を替えることができるようになった時代。
女子高生・はづきのクラスに、幼なじみが転校生としてやってくる。
これもアイデアは面白いけど、その展開についていけない。
私のアタマが固いのかなあ。

「ほぼ百字小説」北野勇作
作者がtwitterを利用して発信している小説シリーズから100本を収録。
とはいっても1作あたり140字という制限があるので
全部合わせても文庫で20ページちょっと。
でも、これ小説と言えるのかなあ。
長い作品の一部を切り取っただけにしか見えないんだが。


C:理解できなかったし、面白く思えなかったもの

「La Poésie sauvage」飛浩隆
既発表のシリーズ作と同一設定の作品なのだが
よくわかりません。これ、詩なのでしょうか。

「〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉」円城塔
もうこの人は無理。勘弁して。

「橡(つるばみ)」酉島伝法
やっぱりこの人と私は合わないみたい。


第7回創元SF短編賞受賞作

「吉田同名」石川宗生
自分にそっくりな奴が現れる、なんてのはよくあるパターンで
70年代あたりの小松左京や筒井康隆が書きそうなテーマ。
しかし、それをここまで徹底するとスゴイ。
ある日突然、平凡なサラリーマンだった吉田大輔さんが
一挙に20000人に増えてしまうという、もうこれは発想の勝利だ。
不条理ドラマになるかと思いきや、この異常事態に
政府や社会が右往左往させられる様子をじっくり書いていて
けっこう真面目なシミュレーションにも思える。
いちばん困ってるのは吉田さん "本人たち"(笑) なんだが
そのあたりの哀感も描かれていて、新人賞受賞も納得。

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華竜の宮 上下 [読書・SF]


華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 文庫
華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

文庫上下巻で800ページを越えるSF大作。

作者自ら《オーシャン・クロニクル・シリーズ》と
呼んでいるらしい作品群の中の一編で、舞台となるのは25世紀。

地球は、急激な地殻変動によって内部のホットプルームが上昇、
それによって海洋底が隆起し、海水面が260mも上昇してしまっている。

人類はその生活基盤のほとんどを失い、
高地に住む陸上民と海に生存の場を求めた海上民とに分かれた。

陸上民は、残された陸地のみならず海上都市をも建設し、
その科学技術をもって高度なネットワーク社会を構築していた。
一方、海と共生することを選んだ海上民は自らの遺伝子を改変し、
海上生活に適応した生態システムを手に入れていた。

しかし、乏しい資源や価値観の違いを巡って
両者は世界中で衝突を繰り返していた。

本書には多くのキャラクターが登場するけれど、
メインとなるのは日本政府の外交官・青澄誠司(アオズミ・セイジ)。

 もっともこの時代、日本列島は "日本群島" になっている(笑)。
 世界(陸上民)もいくつかの国家連合に再編されていて、
 日本はアメリカやオセアニアを母体とする
 国家連合〈ネジェス〉に属している。

彼は陸上民と海上民が平和的に共存するために
日夜、さまざまな組織との折衝に奔走していた。

しかし、国家連合の一つである〈汎アジア連合〉が
海上民の排除に動き出し、アジア海域での緊張が高まっていく。
青澄は対立を回避するために海上民の長・ツキソメとの接触を図る。

しかしその頃、IERA〈国際環境研究連合〉が擁する
環境シミュレータ〈シャドウランズ〉が驚くべき予測をはじき出す。
遅くとも、今後50年のうちに再び大地殻変動が起こり
地球は人類の生存できない環境へと激変するという。

IERAは人類生存のための "計画" を発案するが、
その実現のための手がかりともいうべきデータが、
ツキソメの遺伝子に潜んでいる可能性があることが判明する。

青澄は〈大異変〉の到来と "計画" の存在を知らされ、
ツキソメの身柄の保護に乗り出すが
"計画" を察知した〈国家連合〉群が
それぞれの思惑のもとに様々な陰謀を巡らせていた・・・


青澄に次いで出番と台詞が多いのは、彼の "相棒" である
〈アシスタント知性体〉のマキ。これがまたいい味を出している。

外観はAIを搭載した人間型ロボットというべきもので、
もちろんネットワークとも常時接続しているので通信も検索もOK。
ロボットではあるけれどイエスマンではなく
けっこう青澄に対して言いたいことを言う。
青澄の方も、人間ではない気安さのせいか本音をぶつけていて
"二人" の会話のシーンは楽しく読める。

そしてツキソメのパートでは、
遺伝子操作によって海に適応した人類の生活が描かれる。
その最たるものは "魚舟(さかなぶね)" と "獣舟(けものぶね)" なのだが
これを説明すると長くなるので割愛。

 手っ取り早く知りたい人は、『魚舟・獣舟』という
 そのものズバリの名前の短編を読むことをオススメする。
 同名の短編集も出ているし、各種SFアンソロジーにも
 収録されてるので、その気になれば入手は容易だろう。
 この駄文を読んですこしでも本書に興味をもって、
 でも文庫で800ページというぶ厚さに躊躇している人なら、
 まずこの短編を読んでみるといいと思う。
 この短編が楽しめれば、本書も大丈夫だろう。

それ以外にも、陸上民と海上民の間で商売をする
〈ダックウィード〉(海上商人)たち、
ツキソメたちを追撃する〈汎アジア連合〉の海上警備隊長・タイフォン、
その兄にして〈汎ア連合〉上級幹部のツェン・MM・リーなど
多彩な人物が登場する群像劇になっている。


ただまあ、読んでいて "心楽しい" という作品ではないのは確か。
何と言っても滅亡へのカウントダウンの中で進行するストーリーで
IERAが立案した、人類が生き延びるための計画も
成功率は絶望的に低いとあって悲観的な展開が続く。

普通の作品だったら「危機を乗り越えました」とか
「危機を乗り越える方策を見つけました」という方向に
物語を持っていくのだろうけど、作者はそのへんは徹底していて
安易な "希望" は一切与えてくれない。

 自分でもよく最後まで投げ出さずに読んだなあと思う(笑)。

作者が描きたかったのは、避けられない破局が迫っていても、
それでもなお、抗い続ける人類の姿だったのだろうし、
読んでいくうちに私もそれを見届けたいと思うようになった。

だから、もがく人類の典型である青澄くんの奮闘を
最後まで追いかけ続けることができたのだろう。

それでも、いささか物足りなく感じるのは
本編の最後に至っても〈大異変〉が起こらないこと。

 エピローグでは、一気に50年近く未来に飛んで、
 〈大異変〉の様子がちょっぴり描写されてるが。

しかしそこは作者もちゃんと分かっているようで、
本書に続く時代を描いた長編『深紅の碑文』が既に刊行されている。
そこでは、本書のラストから
〈大異変〉発生までの40年間が描かれている。

そして実は今、私はその『深紅-』を読んでいるところなのだ。

ちなみに、そちらにも青澄くんは引き続き登場している。
本書では30代だけど、私が今読んでるところでは、52歳になってる。
終盤では70代まで描かれるらしい。

『深紅-』も文庫上下巻で、総計1100ページ近いという、
本書を上回る大ボリューム。
これも、読み終わったら記事に書く予定なのだけど
まだ読書録を書いてない本が20冊以上溜まってるので
ブログに上がるのは10月頃かなあ・・・(^^;)。

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ガブリエルの猟犬 クラッシャージョウ13 [読書・SF]


ガブリエルの猟犬 (クラッシャージョウ13)

ガブリエルの猟犬 (クラッシャージョウ13)

  • 作者: 高千穂 遙
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

22世紀初頭に超光速(ワープ)航法を手にした人類は、
広く銀河に植民地を築き、版図を広げていった。
惑星改造などの任務を請け負ったのは、"クラッシャー" と呼ばれる
宇宙活動のスペシャリストたち。
非合法なこと以外は、どんな仕事でも引き受ける "何でも屋" だ。
数あるクラッシャーたちの中でもAAA級の評価を誇る、
クラッシャージョウとそのチームの活躍を描くスペースオペラ、
その最新作にして第13作。

前作『美神の饗宴』において、
銀河に巣くう犯罪組織やテロリストたちが
個人の技量においても、所有する兵器の性能においても
クラッシャーのそれを上回りつつあることを痛感したジョウは
1年間の "休職期間" を得て、
個人の交戦能力の向上と装備の更新に努めてきた。

 ジョウの世界もまた『サザエさん時空』(笑)の支配下にあると
 思ってたから、1年経っても大きな変化はないと思ってた。
 実際、彼らの外見や性格に変化があるわけではないし。
 でも、作中でのジョウの年齢が19歳から20歳になってたので
 時間はしっかり経ってることがわかった(笑)。ということは、
 彼は19歳の1年間で長編12冊分の仕事をしたということだね。

そして、"休職明け" の小手調べとして
カジノシップのハイジャック事件を解決したジョウのチームに、
新たな依頼が舞い込んできた。依頼者はカジノシップの親会社である
ゼラクト・ホールディングスのCEO、オルフェイス。

31年前、古代金貨を満載した貨物船が宇宙海賊に襲われた。
積み荷を強奪した海賊船は連合宇宙軍に追われ、
金貨とともに惑星フェアリーズガーデンへ不時着した。

しかしその惑星は、かつて地下資源を巡って
2つの惑星国家が戦争を起こした地だった。
双方ともに、AIを備えた無人兵器群を惑星に持ち込んだが
やがて兵器群は暴走を始め、自己進化を続けながら
お互いを殲滅するべく戦争を続けていて
人間が足を踏み入れることが出来ない危険な惑星となっていた。

無人兵器は "ガブリエルの猟犬"(悪霊と化した犬) と
呼ばれるようになり、何度か軍隊による掃討が試みられてきたが
全て失敗に終わっていた。

そんな "地獄の惑星" から古代金貨を完全回収するのが今回の依頼。
きわめて危険な任務だがジョウは受ける。
合法な仕事ならなんでも請け負う。それがクラッシャーだからだ。

しかしフェアリーズガーデンに着いた彼らを待っていたのは
前作にも登場した双子の美女・鈴鈴と蘭蘭。

さらに巨大犯罪組織ルーシファの親衛隊、
そして超絶的な格闘体術を誇る "亀獣(きじゅう)"、イ・ユウも
フェアリーガーデンに現れる。

"猟犬" が支配する惑星上で、古代金貨を巡って
クラッシャー、竜の一族、宇宙海賊、そして "超人" と
五つの勢力による戦いが展開する。


前作でいささか影の薄かったクラッシャーたちだが
1年間の "立て直し期間" を経て、準備万端の再登場だ。

今回読んでいて思ったのは、作者のストイックさ。

この手の小説の常として、登場人物の "背負った業(ごう)" とか
"戦う理由" とか、キャラ間の "愛憎" とかに描写が割かれるもの。
しかし、このシリーズはもともとその手のシーンが少ない。

 それはジュブナイルから始まったせいかも知れないし、
 作者の持ち味なのかも知れないが。

それが本書では必要最小限にまで切り詰められていて、
そのぶん、戦闘シーンにリソースが割かれている。
メカアクション主体のクラッシャーvs猟犬戦、親衛隊vs猟犬戦。
しかもクラッシャーと親衛隊では、猟犬に対して
繰り出す兵器を変えて差別化するという念の入りよう。

そして、カンフーに似た技の応酬が主体の
双子vs亀獣の格闘戦も "分厚く" 描かれ、
多彩な戦いが楽しめるSFアクション小説に徹している。

まさに「どこを切ってもスペースオペラ」な作品になっている。
難しいことを考えず、とにかく楽しい読書の時間を得たいなら
オススメの一冊になっていると思う。

後半になると、次作への伏線も張られてくるなど "引き" も怠りない。

第1巻から数えて今年で40周年になる作品だが
いまだ新作が楽しめるという希有なシリーズ。
高千穂さん、次巻も期待してます。

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