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リリエンタールの末裔 [読書・SF]

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 上田 早夕里
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/12/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★

2003年に「火星ダーク・バラード」で第4回小松左京賞を受賞して
デビューした作者の、第二短編集。

「リリエンタールの末裔」
 舞台は数百年後の未来。
 大規模な地殻変動で海水面が260m上昇し、
 人類は遺伝子操作によって、高地に居住する "陸上民" と
 海での生活に適応した "海上民" とに別れていた。
 現在までのところ、作者の代表作と言っていい
 《オーシャン・クロニクル》(と呼ばれているらしい)シリーズの一編。
 高地で育った少年・チャムは、
 手製のグライダーで空を飛ぶのが大好きだった。
 成人し、海上都市で働くことになったチャムだが
 空への憧れは断ちがたく、
 自分のハングライダーを手に入れようと決意するが
 彼の年収の10年分にも相当するような高価な機体に加えて
 遺伝子操作を受けた高地民への、都市住民による差別意識など
 さまざまな障害が彼の前に立ちはだかる・・・
 私は自分が空を飛ぼうとは全く思わないのだが
 中学生の頃はエンジン付きで、金属ワイヤで操縦する模型飛行機
 (いわゆる「Uコン」てやつだ。「ラジコン」は高価で手が届かなかった)
 にハマってた時期があったので
 "空への憧れ" ってのは何となく分かる気がする。

「マグネフィオ」
 主人公・和也は、同僚の女子社員・菜月に想いを寄せるが
 彼女は和也の同期社員である修介と結婚してしまう。
 しかし、彼らが参加した社員旅行のバスが落石事故に襲われ、
 修介は意識不明の寝たきりの状態になってしまう。
 和也自身も、脳の図形認識機能を損傷して
 人の顔の識別ができなくなってしまった。
 事故から1年後、和也は菜月のアイデアをもとに
 修介の脳内活動を磁性流体を使って
 視覚化する装置〈マグネフィオ〉の開発を始める・・・
 どんな姿になろうとも修介に尽くし続ける菜月。
 彼女の笑顔も泣き顔も "見る" ことができない和也。
 しかし彼は菜月を愛し、支え続ける。
 悲しく切なくそして苦さの残る結末まで、"3人" の物語を一気読み。
 この人の描くラブ・ストーリーをもっと読んでみたくなった。

「ナイト・ブルーの記憶」
 SFアンソロジー「NOVA5」が初出だとのこと。
 ということは既読のはずなんだがさっぱり記憶がない(;_;)。
 海洋無人探査機のオペレータをしている霧島恭吾。
 彼の仕事は、探査機に搭載されたAIのトレーナー、
 つまり熟練した人間の行動をAIに "学習" させる役割。
 しかし、あるとき彼の身に異変が起こる。
 探査機のセンサーと彼の神経が "同期" してしまい、
 海中での "感覚" がそのまま
 ダイレクトに伝わってくるようになったのだ・・・
 おお、"ファフナー" みたいだなあ(笑)。
 しかし、冗談抜きで現代のIT技術は
 この方面へ進んでるような気もする。
 霧島の受けた "衝撃" も、近い将来には
 我々自身が体験することになるのかも知れない。

「幻のクロノメーター」
 タイトルのクロノメーターとは時計のこと。
 部隊は18世紀のロンドン。
 大工だったハリソンは、時計職人として希有の才能を示し、
 王室から指名を受けて
 航海用時計マリン・クロノメーターの開発をしていた。
  ちなみにハリソンは実在の人物で、作品の最終ページには
  彼の "作品" を紹介するwebページのURLまで載ってる。
  とは言っても、この記事を書いてる最中に
  アクセスしてみたんだけど、つながらないんだよねぇ・・・
  メンテナンス中か何かかしら?
 語り手は、ハリソンのもとへ奉公に来た少女・エリー。
 彼女もまた時計に魅せられ、
 家政婦として働く傍ら、自らも時計作りを学び始める。
 文庫で約320ページの本書の中で、約140ページを占める中編。
 最初の60ページほどは、ハリソンによる時計開発が語られる。
 このままだとノンフィクションか歴史小説だよなあ・・・
 と思って読んでいくと、中盤から登場する "あるもの" のおかげで、
 しっかりSFになる(笑)。
 寡聞にして、マリン・クロノメーターというものを
 本書で初めて知ったのだけど
 外洋航海に出た当時の船が、自らの位置を確認するために
 膨大な天文データと精密な天測技術が必要だったのを
 一気に簡素化する画期的な機械だったとのこと。
 ただどの時代にも、新しいものが登場すると
 それを排斥しようとする "抵抗勢力" はいるもので、
 ハリソンの功績もなかなか認められなかったことが分かる。
 しかしそんなものに挫けることなく、
 自らの技術を信じて生きた職人たちの姿が心を揺さぶる。

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卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

  • 作者: 機本伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

主人公は、人工授精によって誕生した
天才少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

幼少時より天才ぶりを遺憾なく発揮してきたが
思うところあって、現在は "普通の女子高生" として生活している。

もう一人の主役は、沙羅華嬢が設計した量子コンピュータを使って
業務を展開しているネオ・ピグマリオン社の社員、綿貫くん。
彼の仕事は沙羅華嬢の "お守り役"。

天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズも、本作で6作め。
そして、本作を持って堂々の完結を迎える。


2030年2月、沙羅華は受験勉強のさなかにあった。
過去に飛び級で大学生になったものの、
あることがきっかけで大学を中退、
普通の女子高生に戻って生活してきた。
そして再び、受験を経て大学生になろうとしていたのだ。

推薦入試は受けず、なんと一般入試を受けるのだという。
目標は国立のT大学。ずっと彼女が追い求めてきたTOE
(Theory of Everything:超大統一理論)
を極めるため、物理学科ではなく数学科を目指すという。

 沙羅華さんならどんな難関大でも受かりそうなもんだが
 本人に言わせると国語が苦手だとか。
 たしかに「登場人物の心情」とかは彼女にとって超難問だろう(笑)。

そんなある日、綿貫くんへ大学時代の友人・佐倉から連絡が。
彼は太陽光発電事業の大手、アルテミSS社に勤務していた。

静止衛星軌道上に浮かぶ太陽光発電衛星から、
マイクロ波で地上に電力を供給する。

日本での発電施設の竣工前に、システムのチェックを
沙羅華にお願いしたい、というのが彼の申し出。
竣工式にはアルテミSS社への出資者である
ゼウレト社のシーバス・ラモン会長も立ち会うという。

ゼウレト社によるバイオ事業で産み出された天才児である沙羅華は
過去の経緯もあり、ゼウレト社とラモン会長に好感情を持っていない。

受験勉強に専念するためにいったんは申し出を断った沙羅華だが、
ラモン会長が殺害予告の脅迫メールを受け取っており、
そしてその差出人に沙羅華の遺伝子上の"兄"、ティベルノ・アスカが
関わっている可能性が出てきたことを知って
脅迫者の正体に迫るべく、
ラモン会長の "ボディガード" を引き受けることになった。

 もちろん彼女自身が腕っ節を振るうはずもない(笑)。
 警備上のアドバイザーといった役どころだ。

そして竣工式に先駆けてラモン会長が来日、
発電施設の視察に向かおうとする一行の前に "刺客" が現れた。
ラモン会長と行動を共にしていた沙羅華は、
襲撃に巻き込まれてしまうが・・・


犯人の目的は太陽光発電衛星を利用した大規模テロだった。
衛星のコントロールをテロリストに奪われ、
窮地に陥るアルテミSS社とラモン会長。

タイムリミットが迫る中、沙羅華と綿貫くんは
日本を、そして世界を救えるのか・・・?


前作から約半年後の物語。
今までも、ちょっとずつ成長してきた沙羅華嬢だが
本作ではかなり "丸く" なってきた姿を見せる。
とはいっても、ぶっきらぼうなのは相変わらずだけど(笑)。

自分の周囲にいる人間まではなんとか理解し、
(彼女なりに)気を使うことも少しできるようにはなったが
"社会" とか "世界" とかの、見ず知らずの人間にまで
思いを馳せることはまだ苦手な様子。
これが今回の、彼女が乗り越えなければならない "試練" だ。


さて、このシリーズは基本的にはコメディタッチの物語なので
本作のラストで世界が滅んだりはしません(笑)。
沙羅華嬢の大活躍と、綿貫くんのささやかな協力で(笑)、
事件は丸く収められる。

そして、完結編である今回では、ついに沙羅華嬢の
高校卒業後の "進路" が決定する。

ゆくゆくは世界的な物理学者になるであろう沙羅華。
日本でもアメリカでも、引く手あまた。
然るべき機関が研究者の "椅子" を用意して待っている。

かたや、しがないサラリーマンで
彼女の足を引っ張ってばかりいる綿貫くん。

そんな二人には、どんな未来が待っているのか。


二人が "将来" について語り合う、ラストの20ページほどが
本シリーズ最大のクライマックスだ。

ここでの彼女は、シリーズ中で最大級にカワイイ。
いやあ、成長したねえ沙羅華さん。
いつのまにこんな "いい娘" になったんだろう。

そして、ここでの綿貫くんがそれに輪をかけていいんだなあ。
彼もシリーズ中、最大級にカッコいい行動を示す。
いやあ、君はほんとに沙羅華嬢を "愛して" るんだねえ。
前作の感想で君のことを「さっぱり成長していないキャラ」
なんて書いてしまって申し訳ない。
沙羅華嬢の成長の陰で、君もしっかり "大人" になってたんだねぇ。

二人の将来がどうなるのかは読んでのお楽しみだけど
シリーズ読者からすれば納得の結末だろう。


2006年に第1作「神様のパズル」を文庫で読んで以来だから
この二人とは10年以上つきあってきた。
これでお別れとはちょっと寂しいね。

二人の物語はここで一区切りとなるのだろうけど、
他の作品でのちょい役でもいいので、二人の姿を見たいものだ。

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バチカン奇跡調査官 終末の聖母 [読書・SF]

バチカン奇跡調査官    終末の聖母 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 終末の聖母 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第8作。


バチカン銀行を巡るスキャンダルが発端となり、
ローマ法王は高齢を理由に『辞任』を発表した。

600年ぶりとなる異例な法王の "生前退位"。
直ちに枢機卿たちによる法王選挙(コンクラーヴェ)が
行われることになったが、
法王不在の間の "カメルレンゴ" (法王代行)として指名されたのは
平賀とロベルトの上司・サウロ大司教だった。


メキシコのグアダルーペ寺院は、
1531年に "聖母出現の奇跡" があったと
バチカンが正式に認めた地であった。

そしてメキシコ出身の世界的彫刻家フェルディナンド・モラレス氏が
グアダルーペ寺院へ彫刻作品を寄贈することになり、
記念式典が行われることになった。

法王代行に指名されたことでバチカンを動けなくなったサウロに代わり、
平賀とロベルトはグアダルーペ寺院で挙行される記念式典へ
サウロの代理として出席することになった。

しかし、二人が参加した式典の最中、突如として大地震が発生、
寺院の参道に沿ってメトロポリタン大聖堂まで続く
6kmにも及ぶ長大な直線状の陥没が現れる。

さらに、式典が行われていた教会では、モラレス氏製作の
十字架を象った彫刻が宙に浮かび上がり、
やがて何もない中空で静止状態となってしまう。

そしてその場にいた群衆に聞こえてきたのは
天上の音楽のような美しい歌声だった・・・


彫刻には黒い聖母像が描かれ、それを縁取る文様の中には
メキシコ出身のカサレス枢機卿の名が刻まれていた。
そしてカサレス枢機卿は次期法王の有力な候補者の一人だった。

これは、次期法王の座を巡る陰謀なのか?

平賀とロベルトは "浮遊する十字架" の謎を解き明かすべく、
調査を開始するが・・・


本書は500ページを越える厚さを誇るが
その理由は、内容が盛りだくさんなためだろう。

マヤ、アステカをはじめとするメソアメリカ文明、
そしてスペインの侵略による滅亡、
少数の白人が上位階級を占め、多数派である先住民族と
メスティーソ(先住民と白人の混血)は差別されているメキシコ社会、
そして、キリスト教の布教によって
人口の90%がカソリックでありながら、
21世紀に入って過激な新興宗教サンタ・ムエルテが
勢力を伸ばしてきていること。

メキシコの過去から現在に至る蘊蓄が延々と語られる。
このあたり、いささか冗長に感じる人もいるかもしれない。

私もそう思わないでもなかったんだけど、
あとあと重要な伏線の一部にもなってるし
作者の語り口も巧みなので、さほど退屈せずに読み進められた。


さて、このシリーズは基本的にはホラーなんだけど、
毎回のように評価に悩む。
作中で語られる超常現象がけっこう科学的に説明されたり
意外な黒幕が現れたりとミステリ寄りな作品もあるし、
完璧にホラー側に振り切った作品もある。

本書ではどうか。

終盤に至り、作中で描かれる不思議な現象の謎解きが行われるんだが
そこでは、作者が設定したある架空の○○○によって
(ほぼ)すべてが説明されるのだ。

この○○○を受け入れられるか否かで
本書の評価は変わってくるだろう。

私の評価は、「これはこれでアリ」。

「ミステリ」として見ると「え~」って感じるかもしれないが
「伝奇SF」としてなら、なかなかよくできてると思う。

怪奇現象の説明に止まらず、どんどん膨らんできて
最終的には人類の進化の歴史にまで言及されるという
壮大な話にもつながってくるし。

方向性は異なるけど梅原克文の某作品を思い出したよ。

 もっとも、梅原氏は自分の作品が「SF」って呼ばれることを
 嫌がっているらしいけどね。

 実はもう一つ、連想した作品(作者は梅原氏ではない)もあるんだけど
 これを書いちゃうとネタバレになりそうなので書きません。
 まあ、私が思いつくくらいだから
 ちょっとSFに詳しい人ならすぐわかると思う。


本書から新しくレギュラーとなった人物もいる。

ローレンの後釜となったチャンドラ・シン博士が
なかなかエキセントリックなキャラを見せる。

今回の表紙にも抜擢されてるので分かるかと思うけど
一見するとまさしく "レインボーマン"(爆)。
まさに "謎のインド人" 感が満載。


前任者に勝るとも劣らない強烈さでまだまだ謎が多そうだ。
読み終わっても、依然として正体不明なまま(笑)。
次巻以降でいろいろと明かされてくるのだろう。

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恋するタイムマシン 穗瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

恋するタイムマシン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

恋するタイムマシン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

  • 作者: 機本伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公は、人工授精によって誕生した
天才少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

幼少時より天才ぶりを遺憾なく発揮してきたが
思うところあって、現在は "普通の女子高生" として生活している。

もう一人の主役は、沙羅華嬢が設計した量子コンピュータを使って
業務を展開しているネオ・ピグマリオン社の社員、綿貫くん。
彼の仕事は沙羅華嬢の "お守り役"。

天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズも、本作で5作め。


今回、沙羅華と綿貫くんに持ち込まれた依頼は、
若手物理学者・両備幸一の進めている研究を阻止してほしいというもの。

彼の研究テーマは「ダークマター」だが、それは表向きで
実はワームホールの人工的な生成を目指していた。

研究者というものは、成果を出せないでいると
いずれその地位を失ってしまうというシビアな世界。
なかなか結果を残せないでいた両備くんは、誰も手を付けていない
人工ワームホールの研究で一発逆転を狙っていたのだ。

粒子加速器 "むげん" (設計者は沙羅華)での実験を申請していた
両備くんに沙羅華と綿貫くんは会いに行くが、
そこで驚くべきことを聞かされる。

両備くんの研究の、真の目的は「タイムマシンの建造」だったのだ。

あまりにも途方もない目標に、綿貫くんは唖然とするが、
沙羅華は両備と "時間" について議論を戦わせるうちに、
次第に彼の研究に興味を惹かれていく。
そこには、彼女が本来目指していたTOEとの関連もあった。

 ちなみにTOEとは Theory of Everything のこと。
 日本語では「万物の理論」とか「超大統一理論」と呼ばれる。
 自然界に存在する4つの力、
 すなわち電磁気力・弱い相互作用・強い相互作用・重力を
 統一的に記述する理論(統一場理論)のこと。

後半に入ると、なんと沙羅華は
両備くんとワームホールの共同研究に乗り出すことになる。
彼女の伝手で、研究の出資者まで見つけ出し、
あとは人工ワームホールの生成に成功すればOK。

しかし、本当にタイムマシンの建造は可能なのか・・・?


今回のメインキャストとなる両備くん。
彼なりに "研究への熱意" はあふれているけれど、その内実は
タイムマシンで一躍名を挙げたいという "野心" と、
今さら後には引けず、このままでは終われないという "意地"。

その両備くんに最後まで付き従っている助手の柳葉亜樹さん。
将来の展望が見えない両備くんを支えつつも、自らの行く末に悩む。
故郷の両親からは、縁談があるから早く帰ってこいとの催促が。
想いを寄せる両備くんのためにがんばってきたけれど、
そろそろ潮時かなあとも思う今日この頃・・・

そして、後半になって登場する研究出資者のティム。
かなりの高齢ながら、研究の現場までやってきて
いろいろと口を出すのだが、そのはしばしに思わせぶりな言葉が・・・

彼の正体が本作後半の大きな "謎" になるのだけど、
いやあ、これは読んでのお楽しみですねぇ。


今回のテーマはずばり「恋愛」。
表面的には、両備くんと亜樹さんの恋愛の行方が描かれるのだけど
沙羅華さんにとっては、苦手な(笑)テーマだろう。

今まで、自らの出自に苦しんだり、家族との軋轢に悩んだりと
恋愛にまで行き着く前の段階でいろいろあった。
それらを乗り越えるたびに少しずつ成長してはきたが、
まだまだ彼女に普通の恋愛は無理っぽい。

何せ、「いちばんの興味の対象はTOE」だったからねぇ。
でも初期の頃の、恋愛そのものが視野に入ってこなかった状態から
今作では、ちょっぴり「人を愛する」ってことについて
悩むようになったんだから、たいへんな進歩かも知れない。

そんな中、相変わらず沙羅華から相手にされない綿貫くん。
さっぱり成長していないキャラにも見えるんだけど
なぜか周囲の人々からは「沙羅華のお守り役」としては高評価のようで
本作では、ある人物から "望外なまでの言葉" をもらってしまうんだが
どんなことを言われたかは、これも読んでのお楽しみだね。


なんてことを書いていたら、シリーズ最新作がつい先日に刊行された。
タイトルは「卒業のカノン 穂積沙羅華の課外活動」。
なんと裏表紙の惹句に「シリーズ、ついに完結!」とある。

おお、ついにフィナーレなんですねえ。
はたして沙羅華と綿貫くんの明日はどっちだ?

これも近々読む予定。


最後に余計なことを。

前々作「究極のドグマ」、前作「彼女の狂詩曲」、そして本作は
沙羅華嬢が高校3年生の夏、それも7月から8月にかけて起こっている。
いやあ、密度の濃い夏休みを過ごしてますねえ、沙羅華さん。

余計なことその2。

本作中で某キャラが口にした台詞がツボにはまった。
「毒を喰らわば沙羅華まで」
思わず笑ってしまいました。

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彼女の狂詩曲(ラプソディ) 穗瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

彼女の狂詩曲―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-8)

彼女の狂詩曲―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-8)

  • 作者: 機本 伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★

人工授精によって(つまり "天才" の遺伝子を用いて)
誕生した少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

16歳にして大学4回生まで飛び級したものの、
思うところあって大学を中退、
現在は "普通の女子高生" として生活する日々。

彼女の大学時代の "元・同級生" にして、
沙羅華嬢設計の量子コンピュータで
よろず請負仕事をしているネオ・ピグマリオン社の社員、綿貫くん。
彼の業務は沙羅華嬢の "お守り役"。

天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズも、早いもので4作めとなった。


沙羅華の基本理論のもと、未知の新素粒子発見をめざして建造された
巨大粒子加速器 "むげん"。

しかし竣工以来、めぼしい成果を挙げられない。
このままでは「事業仕分け」の対象にされてしまう。

さらに、"むげん" にとっての強力なライバルも出現する。
国際共同エネルギー実験機構が建造した粒子加速器 "アスタートロン"。
"むげん" を遙かに超える大出力を誇り、
未知の "重ヒッグス粒子" の発見も時間の問題かと思われた。

綿貫君は仕分けを回避すべく、沙羅華の助力を得ようとする。
「現在の出力では新発見はムズカシイ」と言いながらも、
"むげん" 存続のための方法を、
自ら設計した量子コンピュータに考案させるが・・・・

出てきた答えは何と
「沙羅華をアイドルデビューさせ、世間の注目を集めて
 "むげん" への理解を深めるべく広報活動させる。」
というもの。

てっきり断られるかと思いきや、彼女は何故か引き受ける。
芸能プロダクションも巻き込んで、歌・ダンス・コスチュームも
トントン拍子に決まり、沙羅華はデビューに向けたレッスンを始める。

しかし公開イベント前日のリハーサル中、
沙羅華は突然、アイドルプロジェクトからの降板を宣言してしまう・・・


今回のテーマは「父と娘」。

沙羅華の母は、人工授精で彼女を授かったが、
その遺伝子を提供したのは素粒子物理学者の森矢慈英教授。

そして沙羅華の母が森矢教授と結婚したことにより、
森矢教授は名実ともに沙羅華の父親となった。
ちなみに沙羅華の戸籍上の本名も「森矢沙羅華」となった。

しかし生まれてから16年間、父親のいない生活を送ってきた沙羅華が
突然現れた "父親" とうまくいくはずもない。

もともとうまくいっていなかった母親との仲も、
さらにぎくしゃくとしてきて、母親はノイローゼ状態に。
そして極めつけは、森矢教授が
"アスタートロン" のスタッフとなって渡米してしまったこと。

今回の沙羅華嬢は、"むげん" の事業仕分けだけでなく
「家族の崩壊」という、さらに困難なものも
相手にしなければならないわけだ。

彼女の突然の "降板宣言" も、その背景には森矢教授の存在があった。

そんな中でも、綿貫くんはあくまで沙羅華の味方である。
誰よりも彼女のことを心配し、彼女の傍らにあって励ましたりと
涙ぐましいまでに沙羅華に尽くしてる。

だけど、ときたま「男子としての欲望」が暴走してしまって
彼女の逆鱗に触れてしまうのは、もう毎度お馴染みの光景(笑)。

しかし物語は、事業仕分けや家族の問題を越えて
巨大粒子加速器がもたらす(かも知れない) "大災厄" へと広がっていく。

その可能性に気づいたのは沙羅華のみ。
彼女はそれを回避すべく、父親のもとへ向かうが・・・


本シリーズでは、綿貫くんが苦労を重ねていく様子が綴られるんだけど
それと同時に、沙羅華嬢の成長も描かれている。

今回、「家族」の問題を乗り越えたことで、
彼女はまた一段上のステージに進んだ。

ラストシーンで綿貫くんが沙羅華嬢からもらう "メッセージ"。
そこには、いままでの彼女からは思いもよらない振る舞いが。
ある意味、本書のクライマックスはここだと思う。

作者はこのシーンが描きたくてこの物語を書いたんじゃないかなぁ・・・

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究極のドグマ 穗瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

究極のドグマ―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

究極のドグマ―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

  • 作者: 機本 伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/10/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

人工授精によって(つまり "天才" の遺伝子を用いて)
誕生した少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

幼少期には量子コンピュータの理論を発表、
9歳にして粒子加速器の基礎理論を発表と天才ぶりを遺憾なく発揮し、
16歳にして飛び級を重ねて大学4回生となった。

自分自身が提示した理論を基にして設計された
巨大粒子加速器<むげん>を駆って
「宇宙を作ることはできるのか?」
という命題に挑むことになる沙羅華。

一浪してこれも4回生の綿貫基一くんは担当教授に命じられ、
沙羅華と行動を共にすることになる・・・といえば聞こえは良いが、
実際にはエキセントリック極まる沙羅華さんの
"お守り役" を押しつけられただけ、
というところから始まるのがシリーズ第1作「神様のパズル」。

そのラストで、思うところあって大学を中退し、
普通の女の子として高校生活を送ることを決めた沙羅華。
綿貫くんのほうは、沙羅華の理論を基に開発された
量子コンピュータを駆使して事業の展開を図る企業、
ネオ・ピグマリオン社の社員となる。

ネオ・ピグマリオンは、量子コンピュータの性能向上のために
沙羅華をオブザーバーとして迎えたが、
高校生活に忙しくさっぱりやる気を見せない彼女を引っ張り出すのが
綿貫くんの業務ということになった。
やってることは学生時代を変わらないわけだね。


天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズ第3作が本書。


ネオ・ピグマリオンは、持ち込まれた事件や調査を
量子コンピュータを用いて解決することを業務とする。

綿貫くんは沙羅華に協力を依頼しようとするが、
数々の事案の中から彼女が選んだ事件は、一匹の猫探し。
しかし謝礼は1000万円という破格なものだった。

量子コンピュータを駆使して "猫" の居場所を特定して
捕獲を試みるも、なかなか姿を現さない。

調査を進めるうちに、この猫にはある "秘密" が隠されていること、
事件の背後には世界的なバイオ企業・ゼウレト社が
絡んでいることが判明する・・・


綿貫くんは凡人だけど、23歳の健康な青年でもある。
男としての人並みの "欲望" だって持っていて(笑)
17歳の美少女と行動を共にしていて心穏やかなはずがない。
実際、ことあるごとに沙羅華と "深い仲" になろうとするのだが
ことごとく撃退されて "泣き" を見る。

この天才少女はとにかく性格が悪い。
何事に付けても高飛車で傍若無人、おまけに毒舌。

綿貫くんからすれば、沙羅華との仲は
「友人以上恋人未満」だと思いたいのだろうけど
本文中の描写を見る限り、彼女の綿貫くんに対する態度は
「下僕以上助手未満」だよなあ・・・


いやあ綿貫くん、こんな性悪女なんかさっさと放り出して、
気立ての良い普通の女性を捜した方が絶対幸せになれるよ、
って思うんだけど
時たま(ほんの時たま)見せる年齢相応の幼さや、
天才ゆえの悩みや苦しみを見てしまうから、
離れられないんだろうねぇ・・・

沙羅華自身も、意識の底では
綿貫くんを頼っているような気がしないでもない(笑)。
まさに究極のツンデレなのかも。

沙羅華さんは、知能と身体と心の発育が
極端にアンバランスなのだろうけど
その "教育係" になってしまった綿貫くんは災難だね。

彼女が(綿貫くんが相手かどうかは別にして)
普通に恋愛をするには、もう少し精神的な成長を待つ必要があるかな。

もっとも、彼女がそこまで成長してしまったら、
そこでこのシリーズは終わるのかも知れないが。


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SF JACK [読書・SF]

SF JACK (角川文庫)

SF JACK (角川文庫)

  • 作者: 新井 素子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「日本SF作家クラブ50周年記念出版」として刊行された
全編書き下ろしアンソロジーの文庫化。

単行本時には瀬名秀明の作品も入っていたらしいが文庫版では削除。
瀬名氏は、単行本の刊行時に日本SF作家クラブ会長だったけど
その後会長職を辞し、同時に日本SF作家クラブも退会してしまった。

 その辺の経緯は、ネットを漁るといろいろ書かれてるけど
 所詮、噂話の域を出ないので真相は不明。

瀬名氏の作品が削除されてる理由がそれなのかは分からないが。

日本のSFは一時期の冬の時代を乗り越え、
再び活況を呈しつつあるらしいが、出版不況はSFも直撃してる。
「SFマガジン」も隔月刊になってしまったしねえ・・・


「神星伝」冲方丁
 東京創元社の年刊ベストSFアンソロジーで既読。
 遠未来の太陽系を舞台にして、さまざまなSFガジェットで
 過剰なまでに装飾されているけど、ストーリーだけを追えば
 ある日突然侵入してきた外敵に対し、主人公の少年が
 幼なじみの少女に導かれ、封印されていた巨大ロボットを覚醒させて
 世界と少女を守るべく出撃していく・・・
 描かれているのは主人公の鬱屈した思い、母との死別、
 ボーイ・ミーツ・ガール、そして自らの出生の秘密を知ったことで
 平穏な日々は終わり、少年に旅立ちの時が訪れる。
 時と場所は変わっても物語の王道展開は不変ということか。
 大河ロボットアニメの初回1時間スペシャルみたいで
 ぜひ続きを読みたくなる。冲方さん、いつか書いてください。

「黒猫ラ・モールの歴史観と意見」吉川良太郎
 ギロチンで切断され、井戸に放り込まれた生首と
 人語を解する黒猫が、滅んだ人類について語り合う話。
 うーん、よくわかりません。

「楽園(パラディスス)」上田早夕里
 憲治が愛していた女性・宏美が交通事故で死亡した。
 残された宏美のライフログをすべて
 "メモリアル・アバター" に読み込ませ、
 宏美の疑似人格を作り出して会話を続ける憲治だが・・・
 VRの進歩イコール人類の進歩ではないねぇ。
 過去に囚われたままの人間もでてきそうだ。

「チャンナン」今野敏
 沖縄空手の伝承者である "俺" が迷い込んだ奇妙な世界。
 1970年代によく見たような話だなあ。
 日本SF50年周年の記念出版で
 こういう話を堂々と書いてしまうというのも
 ある意味度胸があるのかなあ。

「別の世界は可能かもしれない」山田正紀
 これも1970年代なら「ミュータント・マウスの反乱」なのだろうけど
 2010年代に山田正紀が書くとこうなる、ってことか。
 大長編の序章みたいなのだけど、続きが読みたいような
 読みたくないような・・・(笑)。

「草食の楽園」小林泰三
 漂流している宇宙船がたどり着いたのは、"忘れられたコロニー"。
 そこは非武装無抵抗の人々(つまり "草食系" ってこと?)
 が暮らす、争いのない "楽園" だった。
 しかしそこに凶悪な "盗賊" が現れて・・・
 結局、人類は理想的には生きられない、ってことなのか。

「リアリストたち」山本弘
 食事や運動どころかセックスさえもVR世界で体験できる世界。
 人々はみな生身の体験を "忌避" して生きるようになっていた。
 しかしごく一部だが、「リアリスト」と呼ばれる
 "生身の生活" を送る者たちもいた。
 VR世界で暮らす主人公の "私" は、そんなリアリストの一人と
 "生身" で会うことになるが・・・
 これも21世紀ならではのSFか。
 内容も、今なら「えーっ」て驚くけど、
 10年後は笑えないかもしれないなぁ。

「あの懐かしい蝉の声は」新井素子
 人類のほとんどが "第六感" を持つようになった世界。
 "第六感" とは、生身のまま
 ネット上の電子データにアクセスできる能力のこと。
 (スマホがアタマの中に入ってるようなものか)
 生まれつき "第六感" を持たないため、
 "障害者" として扱われてきた主人公は、
 外科手術によってそれを手に入れるが・・・
 これも、何年か後にはチップを体内に埋め込んで
 網膜上に直接映像を投影するとかの技術革新で
 実現してしまうんじゃないかな・・・
 そのとき、世界はどのように変化して見えるのだろう。

「宇宙縫合」堀晃
 この10年間の記憶を失った "私" の前に現れた刑事。
 彼らが示した写真には、"私" の死体が写っていた・・・
 久しぶりの堀晃。ハードSFってのも読まなくなって久しい。
 1980年代の頃は、こういう作品もかなり "出回ってた" ような。

「さよならの儀式」宮部みゆき
 「神星伝」と同じく東京創元社の年刊ベストSFアンソロジーで既読。
 耐用年数を遙かに超えた家庭用ロボットと、
 すっかり情が移った使用主との涙の別れを描く感動物語・・・
 と思わせておいて、逆転の背負い投げ一本。

「陰態の家」夢枕獏
 "妖異祓い" を生業にする傀儡(くぐつ)屋・多々良陣内が
 "妖怪屋敷" に巣くうあやかしに挑む話。
 夢枕獏ってSF作家というより
 バイオレンス・ホラー・アクション作家というイメージ。
 本作もSFではなくてホラーだなあ。
 夢枕獏に文句があるわけではないし、ホラーを貶すつもりもないけど、
 仮にも「日本SF50周年記念アンソロジー」のトリが
 これというのはいかがなものかなぁ。
 SFというジャンルの間口の広さを示したかったのかも知れないけど
 他の10篇が、程度の差はあれ「いかにもSF」な作品だっただけに
 ここはあえてSF色の強いものが欲しかった気も。


「楽園(パラディスス)」「リアリストたち」「あの懐かしい蝉の声は」
と、本書にはIT技術の進歩がテーマの作品が3作収録されてる。
これも時代なのだろうけど、
揃いも揃ってどれも明るい未来でないのはなぜだろう。

技術革新が早すぎて、10年後もわからない未来に対して
みんな不安なのかなあ・・・私も不安だけどね(笑)。


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折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]

折り紙衛星の伝説 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

折り紙衛星の伝説 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2014年に発表されたSF短編から選ばれた17編と、
第6回創元SF短編賞受賞作1編を収める。
今年は、けっこう楽しめたのが多かったかなあ。

○面白く読めたもの 6編

「10万人のテリー」長谷敏司
 人類に害をなす超高度AIの攻撃から社会を守る、
 IAIA(国際人工知能機構)のエージェント・紅蛍(ホンイン)の
 活躍を描くSFアクション。
 こういう分かりやすいのが好きなんだ。

「雷鳴」星野之宣
 安定の星野之宣。恐竜の体に秘められた "謎" を描く。
 昔、同じ題名のマンガ書いてたような。内容は全然違うけど。

「折り紙衛星の伝説」理山貞二
 SFの楽しさを思い出させてくれる作品。

「スピアボーイ」草上仁
 カウ(牛)ならぬ、"スピア" という宇宙生物の群を世話する男たち。
 まんま西部劇です。

「わたしを数える」高島雄哉
 SF版「番町皿屋敷」。
 電脳化された仮想空間で、皿を数え続けるAIお菊さんの話。
 この発想はすごい。

「イージー・エスケープ」オキシタケヒコ
 "逃がし屋"・イージィが活躍するスペースオペラ。
 今風な味付けがよくできてる。


○いまひとつかなあ・・・8編

「猿が出る」下永聖高
 ある日、"僕" の目の前に猿が現れる。
 そしてそれは "僕" にしか見えないらしい。
 筒井康隆が書きそうな不条理劇だけどだんだんSFっっぽくなる。
 私はこの手の話は好きでないみたい。

「再生」堀晃
 入院した経験がある人(私もそうだが)なら、他人事に思えない話。
 病院に縁がない若い人なら楽しく読めるかも知れないけど、
 私くらいの年齢になるとねえ・・・

「ホーム列車」田丸雅智
 ショートショート。あまりにバカバカしい発想なんだけど
 それがいいんだろうな。

「薄ければ薄いほど」宮内悠介
 終末期の患者を集めたホスピスで取材する
 "わたし" が出会う患者たち。
 長年の闘病の末に父親を見送った身には
 いささか考えさせられる内容ではある。
 ただ、疑似科学に頼る治療はやっぱり許されない。

「教室」矢部嵩
 狂った教室のカオスな授業風景。
 これも初期の筒井康隆が書きそうな作品ではある。

「一蓮托生(R・×・ラ×ァ×ィ)」伴名練
 超常の力を持つ双子の女の子が暴れ回るんだけど
 "萌え" 要素はナシ。

「緊急自爆装置」三崎亜紀
 個人が自爆装置を持ち歩き、必要に応じて(?)自爆する世界。
 これも筒井康隆が書きそう。
 筒井康隆ってつくづくスゴい作家だったんだね。

「加奈の失踪」諸星大二郎
 ラストまで読むと分かるけど、脱力ものの実験作。
 これもSFなんだから、SFって間口が広いジャンルだよねえ。


○すみません、よくわかりません 3編

「φ」円城塔
 やってることはわかるんだけど、
 それがさっぱり面白く感じられない。
 やっぱこの人とは相性が悪いみたい。

「「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ ~ その政策的応用」遠藤慎一
 「恐怖の谷」っていってもホームズじゃありません。
 言いたいことはわかるんだけど、それが面白く感じられない。
 論文形式ってのは凝ってるだけど。

「環刑錮」酉島伝法
 生理的にダメ。身体が受け付けません。


第6回創元SF短編賞受賞作
「神々の歩法」宮澤伊織
 突然、超常の "力" を得て、世界に破壊と殺戮をもたらした男。
 彼を倒すため、12人の特殊部隊が潜入する。
 "燃え" も "萌え" も入ってて、
 本書の中ではいちばん分かりやすく(笑)、かつ楽しい。
 「新しいものがない」っていう選評には同意するが、
 エンターテインメントとしては充分な出来。
 大河ドラマの序章みたいで、続きが読みたくなる。


序文によると、2007年発行の第1巻「虚構機関」の頃と比べると、
短編SFの発表数が増えてきて、どうやら "冬の時代" は脱した模様。

新人もたくさんデビューしてるみたいだけど、
さすがに追いかけきれない。
そういう意味では本書は貴重だね。


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ウルトラマンF [読書・SF]

ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

  • 作者: 小林泰三
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/07/07
  • メディア: 単行本



評価:★★★★

「TSUBURA×HAYAKAWA UNIVERSE」
と銘打たれたコラボ・シリーズの第3弾。

まずは時代背景から。

ウルトラマンがゼットンとの戦いを終え、地球を去って1年。

世界各国は、ウルトラマンの不在を埋めるべく、
異星人や怪獣に対抗する戦力を拡充していた。
ウルトラ警備隊(地球防衛軍)の設立の準備も進んでいる。

つまり "『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の間の時代" に
この物語は設定されているのだ。

国連軍所属の科学者・インペイシャントは、
巨大昆虫怪獣から取り出した "血清" を用いて
人間を巨大化させる「巨人兵」の研究をしていたが、
未だ成功していなかった。

科学特捜隊は、今でも通常兵器による怪獣駆除を行っていたが、
一方でかつてウルトラマンだった男・早田の
身体の秘密を探る実験も続けていた。

さらには、異星人のもたらした超技術・メテオールを応用した
対怪獣兵器の研究までもすすめていた。

 放送当時はカタカナ表記だった "ハヤタ" だが、
 本書では早田進(はやた・しん)として登場する。
 これ、最初は作者の独自設定かと思ったんだけど
 この文章を書くためにwikiを見てたら
 後付けながら、映画『甦れ!ウルトラマン』(1996年)で
 漢字表記&フルネームが設定されていたんだね。
 他の登場人物も皆、この映画の設定に沿って表記されている。

しかし、早田に与えられる過酷な実験を看過できなくなった
富士明子隊員は、それを中止させようとして事故に遭遇、
自らの体が巨大化してしまう。

それは、かつてメフィラス星人によって
巨大化させられた姿と同じだった。
(TV放映第33話「禁じられた言葉」でのエピソード)

幸い巨大化は短時間で元に戻ったものの、
明子の身体を調べた井手は、巨大化を制御するシステムが
彼女の中にいつのまにか構築されていたことに驚愕する。

 本来、不可能である巨大化をうまく(それらしく)
 理屈づけて説明する下りはとてもよくできている。
 さすがは名作『AΩ』(アルファ・オメガ)の作者だ。

国連軍そしてインペイシャントは、
科学特捜隊に対して研究成果の引き渡しと
国連軍との共同研究・共同作戦を要求してきた。

不本意ながらもこれを受け入れる科学特捜隊。
しかしそんな彼らの前に次々と怪獣たちが来襲する。

そしてその戦いのさなか、巨大な炎に包まれる明子。
しかし彼女は、渦巻く炎の中から
白く美しい巨体をまとって現れるのだった・・・


さて、本書の主役は誰かと問われたらちょっと考えてしまう。

早田はもう、ウルトラマンではないし、
ウルトラマンと融合していた期間の記憶もない。
身分こそ隊員のままだが、実質は "研究対象" なので、
もちろん現場にも出てこれない。

明子は、いろいろな偶然が重なって
"ウルトラマンの力" を手に入れてしまうが、
どちらかというと状況に流されるまま
戦わざるを得ない羽目になっていく役回りで、
主役と言い切るにはちょいと抵抗がある。

個人的には、登場シーンおよび台詞の多さ、
ストーリー上の役回りからいうと
主役は井手隊員じゃないかなあと思う。

ウルトラマンなき世界で、ウルトラマンの力を求める人間たち。
それも純粋な防衛のためではなく、
思惑・陰謀・策略がその根底にはある。
その中で苦悩する井手の姿も読み所の一つではある。

明子との仲も、こんだけいろいろなことが起これば
恋愛関係になってもおかしくないだろう、とも思うんだが
井手にとって明子はあくまでも大事な仲間で、それ以上ではない。

そしてそれは明子の側も同じ。
早田に対してはやや思い入れがありそうだが、
それでも "仲間を超えた関係" にはならない。
このあたりは、TVシリーズの設定を踏襲しているのだろう。

村松隊長の台詞を読んでると
小林昭二氏の声で脳内再生されるのがちょっと悲しいが。

出番が少ない早田も終盤ではちゃんと登場して物語を締める。

物語が進行するに連れて、
どんどん人間から遠ざかっていく明子嬢。
もう彼女に平穏な "普通の女の子" としての日々は
帰ってこないのか?
ちゃんとお嫁にいけるのか?(笑)

読んでいると、だんだん年頃の娘を持つ父親の心境になってしまうが
ラストに至り、作者は広げた大風呂敷をきれいに畳んでみせる。
その "畳みぶり" も読みどころだ。


細かいところでは、
科学特捜隊の嵐隊員とウルトラ警備隊のフルハシ隊員には
(どちらも毒蝮三太夫が演じている)
実は意外な関係が隠されていたりと
(たぶんこのへんは作者のお遊び)
ウルトラシリーズをずっと見てきた人からすると、
うれしい小ネタがたくさんある。

ウルトラシリーズのファンの人、かつてファンだった人、
どちらにも楽しい読書の時間を約束してくれる本だ。


最後に余計なことを。

最初にタイトルを見たとき、「F」って何だろうって思った。
Flash かと思ったがそれじゃイナズマンだし(笑)  ←古いねぇ
Female かなとも思ったんだけど、
やっぱり順当に Fuji Akiko の「F」なんだろなあ。


さらに余計なこと。

下世話なことだが、明子嬢が巨大化したとき、
彼女の着ていた服はどうなったんだろう?
って疑問に思った人はいませんか。
私は思いましたよ(おいおい)。

じゃ、どうなっているのか?
気になる人は読みましょう(笑)

一つだけ言っておくと、よい子のみなさんは
そんなことを気にしてはいけないのですよ(笑)


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オービタル・クラウド 上下 [読書・SF]

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 藤井太洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/05/10
  • メディア: 文庫




オービタル・クラウド 下 (ハヤカワ文庫JA)

オービタル・クラウド 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 藤井太洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/05/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

時に2020年12月。

 順当にいけば東京オリンピックも終了している(はず)。

主人公の一人・木村和海(かずみ)はフリーランスのWeb制作者。
渋谷のシェアオフィスで、流れ星の発生を予測するWebサイト
<メテオ・ニュース>を運営している。
そしてもう一人は沼田明利(あかり)。
彼女もフリーランスのITエンジニアで、
和海とおなじシェアオフィスで働いている。

和海は、各国のロケットの追跡もしていた。
打ち上げで生じたスペースデブリもまた
流れ星の "もと" になるからだ。
ある日、彼はイランが打ち上げた
ロケットブースターの2段目<サフィール3>が
大気圏内に落下することなく、高度を上げ続けていることに気づく。

折しも、著名な起業家ロニー・スマークは、
自ら立ち上げた民間宇宙ツアーのPRイベントとして、
娘とともにISS(国際宇宙ステーション)へ向かおうとしていた。

明利の協力を得て、<サフィール3>の軌道を解析した和海は、
宇宙空間を舞台にした壮大なテロの可能性に気づく。

この "スペーステロ" の首謀者は、
かつてJAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員だった白石蝶羽(あげは)。
北朝鮮の後ろ盾で実行するこの作戦で、
彼は自らの "ある野望" を実現しようとしていた・・・

日本政府、JAXA、そしてCIA、アメリカ空軍、etc
様々な組織の様々なキャラクターが登場する。

その中にあって、
和海と明利はこのテロ計画にいち早く気づいたことで
図らずも計画阻止のキーパーソンとして活躍することになる。

本書にはジェームズ・ボンドのようなスーパーヒーローは登場しない。
科学者も軍人も諜報員も、その道のエキスパートではあるけれど
一人でこの事件を解決できるような活躍はしないし、できない。

主役の二人も、普通のIT技術者だ。
もちろん、自ら銃を持って戦ったりしないが
その代わり、彼らの本分である思考力と技術を存分に発揮して
国際的なテロ計画に立ち向かう。

しかし、蝶羽の計画はカンペキで、
クライマックスでは、テロの完遂まで目前に迫る。
絶体絶命の危機かと思われたときに、
和海が繰り出す "一手" が本書の白眉だ。

「そうか、その手があったか!」
読んでいて思わず叫びそうになったよ(叫ばなかったけどwww)

まさに "起死回生" のアイデアで、
このあたりのストーリー展開には唸らされた。

これだけでも本書は読む価値があると断言してしまおう。


今回、テログループが "悪用" した "発明" も、
使いようによっては限りない未来を開く夢のツールとなりうる。

「科学技術は、使う人の心によって幸福も不幸ももたらす」

昔から使い古され、言い尽くされてきたテーマだけど
現代科学文明の最前線における事象とテクノロジーの
オンパレードだったこの物語が、
すべてが終わったエピローグにおいて、この言葉に帰着する。

私くらいの年代にとっては、それが
ちょっとホッとするものを感じさせるのでした。


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