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 [読書・サスペンス]


槐 (光文社文庫)

槐 (光文社文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

主人公・弓原公一は水楢(みずなら)中学校の3年生。
彼が部長を務める野外活動部が夏合宿のために訪れたのは
携帯の電波も通じない人里離れた湖畔にあるキャンプ場だった。

寄せ集めでやる気のない部員たち、
怪我をして参加できない顧問に代わって引率を買って出た
教頭・脇田は規則に厳しく口うるさいので有名。

前途多難を思わせる中、突如キャンプ場を惨劇が襲う。
無法者の集団である「関帝連合」が大挙して押し寄せ、
宿泊客を虐殺し始めたのだ。

彼らの目的は、キャンプ場のどこかに隠された大金を見つけること。
公一たちも囚われの身となり、絶体絶命の危機を迎えるが
そのとき、何者かが突如「関帝連合」に反撃を開始した。

その戦闘力は驚異的で、さしもの凶悪集団も
赤子の手をひねるように易々と屠られていく。
しかも無慈悲にして容赦ない。

そんな殺戮が続く中、公一たちは外部へ連絡をとろうと
決死の脱出を試みるのだが・・・


評価の星の数を見てもらえば分かるが、
本書は現在のところ「今年読んだ本」の中で、
暫定ながら堂々の第1位である。

面白い本を薦めるときにいつも書くことだが
これから私が書く駄文を読むヒマがあったら
本屋に行くかネットでポチりましょう。

余計な予備知識がない方が楽しめます。

以下、本書の紹介を続けるけど
構成上どうしてもある程度のネタバレは避けられない。
なので、これから読むつもりになった人は以下の文章は読まずに(ry


本書は基本的にはアクション小説なのだけど
そこがメインではない。

本書の登場人物はみな "苦悩" を背負っている。
"負い目" と言ってもいい。
それは家族の問題だったり、人間関係だったりするが
みな何かしらの葛藤を抱えてこの場にいる。

例えば部長の公一には、祖母が振り込め詐欺に引っかかって大金を失い
それを苦にして自殺したという過去がある。
そのために家族が崩壊寸前まで追い込まれたことも。

同じく3年生で生徒会副会長を兼務する小椋早紀は、
部員減少に悩む公一に泣きつかれて入部した。

2年生の浅倉隆也は札付きの問題児で、
3年生で副部長の久野進太郎は彼の言動がことごとく許せない。

2年生の小宮山景子はクラスでいじめに遭っており、
同級生の新条茜に引きずられて入部はしたものの、
内心では茜に対して反撥している。

唯一の1年生の日吉裕太だけはやる気満々だが。

お世辞にもまとまりがいいとは言えないこの7人が
極限状態の中に放り込まれ、必死になって勇気を振り絞り、
そして生き延びるためにあがいていく。

一人一人は弱いけれど、力と知恵を合わせて仲間を守り、
苦難を乗り越えようとひたすらもがいてゆく。

昨日までの自分という殻を打ち破り、
一回りも二回りも大きく成長していく。

そんな姿を描くことこそが本書の眼目なのだ


この先はネタバレではないものの、けっこう重要な要素を明かすので
ここまで読んできて「読もうかな」と思った人は
以下の文章は読まずに(ry    (^^;)


自らの殻を打ち破り、乗り越える。
そしてそれは大人も例外ではない。

今回、怪我のために参加できない顧問に代わり
引率を買って出た教頭・脇田大輔。

学園ドラマなどのフィクションにおける「教頭」って、
けっこう損な役回りを振られることが多いように思う。

あるときは校長の腰巾着になってお世辞を振りまき、
逆に若手の平教員には尊大に振る舞う、中間管理職の典型とか。

またあるときは、校長の座を狙って密かに陰謀を巡らせて
生徒や平教員まで巻き込む騒ぎを引き起こしたりする極悪人だったり。

しかしこの脇田は違う。
規則にやかましくて口うるさいが、
街中で不良に絡まれても毅然と対応できず、
それを目撃された生徒たちからは莫迦にされてしまう。
一見するとダメ人間みたいだがそれが実は・・・なのだ。

脇田教頭もまた、この極限状態に放り込まれる。
そして彼はこの修羅場の中で、意外な行動を示す。
いや、意外と言っては失礼か。
彼は、徹頭徹尾、"教師" として振る舞うのだから。

私が思うに、本書における脇田は
フィクション史上 "最高の教頭先生" だ。
"最もカッコいい教頭先生" と言ってもいい。
そして、"最も泣かせる教頭先生" でもある。
実際、彼の "活躍" するシーンを読んでいると
涙があふれて止まらない。

もしあなたが本書を未読なら、ぜひこの
"史上最高の教頭先生" の活躍を見ていただきたい。
このシーンを読むためだけでも、この本を買う価値がある。

彼の活躍するシーンは、本書でも屈指の名場面といっていいだろう。


タイトルの「槐」(えんじゅ)についてまだ何も書いてない。
この記事の冒頭に "何者かが突如「関帝連合」に反撃を開始した"
と書いたのだが、この人物の名が「槐」なのだ。

この正体については、読み始めれば早々に分かることなんだけど
明かしてしまうと読書の興を削ぐことになると思うので書きません。


「関帝連合」については、
全く同情の余地のない極悪集団として描かれている。
登場する早々、キャンプ場にいる何の罪もない人たちを
次々に虐殺していくのだから。
幼い子どもの前にして、平然とその両親を殺害するなど
その冷酷非常ぶりも徹底している。

逆に言うと、この段階でもう
「こいつらは殺されても文句言えないなぁ」と
読者に納得させてしまうのだ。

巻末の解説で、「槐」が次々と悪人どもを粛正していくシーンを
往年のTVドラマ「必殺シリーズ」になぞらえているが、
私はむしろ「破れ傘刀舟悪人狩り」を連想したよ。
「てめぇら人間じゃねえ! 叩き切ってやる!!」って思ったもの(笑)。


すべてが終わったあとに置かれるのは
やや長めのエピローグ。
子どもたちの "その後" が丹念に綴られて
彼らの成長ぶりが実感でき、
満ち足りた想いで読み終えることができるだろう。


熱く燃え、感動に泣く。最高のエンターテインメントだ。
極上の読書の時間を提供してくれることは間違いない。

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東京ダンジョン [読書・サスペンス]

東京ダンジョン (PHP文芸文庫)

東京ダンジョン (PHP文芸文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

裏表紙の惹句にこうある。
「東京の地下鉄がテロリストに支配された?」
こう書かれたら、どんな物語を想像するだろう。

たとえば、地下鉄の乗客を人質にしてトンネル内に潜み、
無理難題な要求を突きつけるテロリストと、
警察陣との虚々実々の駆け引きとか。

あるいは、迷宮のような地下鉄の線路内での、
犯人グループとテロ対策の特殊部隊との壮絶な戦闘シーンとか。

どうも私は、騒ぎがひたすら大きくなる方向への妄想ばかりが
頭の中を駆けめぐって、「きっとこうなるんだろう」って
勝手にストーリーを作ってしまう傾向にあるようだ。

この作者の『迎撃せよ』とか『潜航せよ』とかも、
同じような妄想で勝手に盛り上がり、
実際の内容との差に愕然としたりするんだけども。

作者からしたら、とっても迷惑な読者かもしれない。

閑話休題。


では、本書はどんな話なのか。

主人公は地下鉄の保線作業員・的場哲也。
列車運行の合間を縫ってトンネル内を歩き、
レール等の施設を点検することを業務としている。

ある日彼は、勤務中にトンネル内で不審な人影を目撃する。
折しもネット上には、東京の地下には "地底人" がいる、
という噂が駆けめぐっていた。

哲也の弟・洋次はニートだったが、最近になって
過激な言動で有名な経済学者・鬼童征夫(きどう・まさお)の
主宰する集会に通っていた。

地下鉄新線の開業が迫ったある日、
洋次が頭に重傷を負って発見される。
意識は戻ったものの、負傷時の記憶を失っていた。

事件の真相を追って鬼童の集会に探りをいれる哲也。
やがて記憶の一部を取り戻した洋次は、
兄に「地下鉄新線を狙う者がいる」と告げる。
そして哲也の前に、公安刑事・伊達が現れる・・・


とにかく、なかなか "テロリストが地下鉄を支配" しない。
彼らが地下鉄トンネル内に仕掛けた爆弾をもって
テロを宣言し、東京の地下への立ち入りを禁ずるのは
中盤あたりまで待たなければならない。

そしてここまで読んでくれば、たいていの読者は
鬼童の集会に集まったメンバーがテロリストになり、
鬼童がそのリーダーになるって思うだろう。
その予想は半分当たり、半分外れる。

また、普通だったら、主役の哲也が事件に巻き込まれて、
成り行き上テロリストと対決する、って展開になりそうにも思うが
その予想も外れる。

詳しく書くとネタバレになるんだが、
中盤以降になると俄然、鬼童がクローズアップされる。
後半の裏主人公といっていいだろう。
前半とは違う一面も垣間見えて、一筋縄ではいかない人物になってる。


とにかく本書は、読者の(私の?)予想を外しまくる作品だった。
じゃあ、がっかりしたか、つまらなかったかと言えば
そうでもないんだな。

テロリストとの対決を描いたサスペンスは数多くあれど、
本書はそのどれとも似ていない。そういう意味では新鮮だ。

テロリストたちのとる "戦術" も、持ち出す "条件" も、
彼らの真の "目的" も、意表を突くものばかり。
やや頭でっかちではあるけれど・・・

「おお」とか「そうくるか」とか「えー、それでいいの」とか
ぶつぶつ言ってる間に最後まで読んでしまったよ。

まあ、私の好みとはちょっと外れてる気もするが。


本書では、とにかく主人公・的場哲也の人物がいい。

テロリストが仕掛けた爆弾を探すためにトンネルに入るとき、
後輩の保線員から尋ねられる。「怖くはないのか」と。
哲也は「俺だって怖い」と答える。しかしこうも言う。
「地下鉄に一番詳しいのは俺たちだ。
 他の人に押しつけることはできない」と。

地下鉄の保守という、毎日の単調な業務。
しかし、乗客の命を預かり、
社会の重要なインフラを担っているという強い矜持。
まさにプロの仕事を最後まで貫徹する。

職業に貴賤はないと言うが、
どんな仕事も必要だから存在しているのであり、
誰かがそれをやらなければならない。

個人個人がそれぞれに与えられた本分を全うすることで
社会は回っていく。
考えてみれば当たり前のことなんだが往々にして忘れがち。
そんなことを思い出させてくれる作品だ。

「なんでオレがこんなことをしなけりゃいけない?」
なぁんて思いがちな自分を、ちょっと反省してしまう。


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潜航せよ [読書・サスペンス]

潜航せよ (角川文庫)

潜航せよ (角川文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

作者自ら「日本一、運の悪い自衛官」と宣う
安濃将文一等空尉を主人公としたサスペンス・シリーズの第2作。

前作『迎撃せよ』で、新型ミサイルを搭載した
自衛隊の戦闘機がテロリストに強奪され、
日本政府を脅迫する事件に巻き込まれた安濃。

事件から3年、ほとぼりを冷ますための硫黄島での勤務が明け、
北対馬にある長崎県海栗島レーダー基地勤務を命じられた安濃は、
フェリーで対馬へ渡る。

そのころ、劉曉江(りゅう・ぎょうこう)を艦長とする
中国人民解放軍に所属する原子力潜水艦《長征七号》は
青島(チンタオ)を出航、日本海へ向かう。

《長征七号》が搭載する核弾頭ミサイルの発射管室で
謎の爆発が起こり、現場に残された破片から
何者かが爆破物を仕掛けていたことが判明する。

時を同じくして北京では、
クーデターを目論む一団が暗躍を始める。
そのメンバーの一人は、劉艦長の弟・亜州に接触しようとしていた。

安濃のかつての部下、遠野真樹一尉は福岡の基地に異動していた。
安濃が対馬に配属になったことを知った彼女は、
海栗島基地に連絡を入れるが、
電話に出た男が安濃ではなかったことに愕然とする。
何者かが安濃の名をかたっている・・・


いずことも知れない場所に拉致・監禁された安濃、
彼の行方を追う遠野一尉、
《長征七号》内部で進行する陰謀に苦慮する劉艦長、
そしてクーデター勢力に誘われる亜州。

物語はこの4つのラインで進んでいく。


基本的にはミリタリー・サスペンスは好きなんだけど
本書の評価がいまひとつなのはいくつか理由がある。

ここから先はネタバレなのでご注意を。

まず、安濃があんまり活躍してない。
主役ではあるのでもちろん出番がいちばん多いんだけど、
今回は監禁場所から逃げだすこと、追っ手を振り切ることに
かかりっきりで、ほぼそれだけで終わってしまう。
つまり肝心の事件の解決にはほとんど関わっていないのだ。
そしてヒーロー的に目立つのは、終盤の遠野一尉の大活躍(笑)。

《長征七号》内のごたごたも、結局は劉艦長の手腕で収束するし、
クーデター騒ぎにいたっては、安濃たちが全く関わらないまま解決する。

だいたいタイトルがよくないような気もしてる。

前作『迎撃せよ』だって、テロリストの操縦する戦闘機を
迎撃するシーンはなかったし。

本書だって、『潜航せよ』なんてタイトルがついたら
私みたいな「潜水艦もの」大好き人間は
爆発で手負いになった中国原潜vs海自潜水艦の
追いつ追われつの息詰まるような追撃戦が描かれるのかなって
勝手に思ってしまうじゃないか。

もっとも、エピローグまで読んでくると、
このタイトルがダブルミーニングだったことが
分かるんだけどねえ・・・

そして、同じくエピローグで、作者がこのシリーズを
どの方向に持って行こうとしていたのかが分かる。

 要するに、次作からこのシリーズは
 next stage に入ることが予告されるのだ。
 うーん、果たして安濃くんは
 和製ジ○○○・○○○ンになれるのでしょうか?

なんだか文句ばかり書いてるけど、決してつまらない訳じゃない。
安濃くんの人柄は好きだし、相変わらす沙代さんはいい嫁だし、
遠野さんの "戦士" ぶりもカッコいいし。

要するに、タイトルから想起されるストーリーと、
実際の内容の差が大きいように感じられるんだな。

 「おまえが勝手に妄想してるだけじゃん」って異論は認める。

内容に即した『脱出せよ』とか『脱走せよ』とかのタイトルだったら
また評価も変わってたかも知れない。

前作で登場していたテロリストのメンバーの一人が
今回も登場している。
ひょっとしたら彼はシリーズキャラクターになって、
今後も安濃の敵として登場し続けるのかも知れない。

劉艦長の弟・亜州も今後再登場しそうだし、
本書は今後のシリーズに登場するキャラの
"紹介編" だったりするのかも知れない。

とりあえず、next stage には期待してます。
すでに第3作『生還せよ』が刊行されているとのことなので、
文庫になったら感想を載せます。


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黒警 [読書・サスペンス]

黒警 (朝日文庫)

黒警 (朝日文庫)

  • 作者: 月村了衛
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/06/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

36年ほど前、あるTVドラマシリーズが始まった。
タイトルは『ザ・ハングマン』。

法の網の目を逃れ暗躍する悪人たちを、
「ハングマン(絞首刑執行人)」と呼ばれるグループが
悪事を世間に暴く事で社会的に抹殺する。

名作時代劇『必殺』シリーズの現代版という位置づけだったのだが
本書の終盤を読んでいて連想したのがこれだった。

 うーん、書いてて思ったが、頭の中にある引き出しの中身が古い。
 やっぱり私はオジサンなんだねぇ・・・


主人公は警視庁組織犯罪対策課の刑事・沢渡。
中国人による犯罪にうんざりしながらも、
日々淡々と、クビにならない程度に最小限の仕事をこなす。
向上心のかけらもなく、妻にも逃げられ、一人アパート暮らし。

今日の仕事は生活安全課の若手刑事・小板橋に同行しての
外国人不法就労の疑いのある店の立ち入り調査。
実は『警視庁26時』という報道番組の撮影協力だったりする。
TVスター気取りの小板橋にアゴで使われる沢渡。
すっかり引き立て役である。

犯罪組織による違法コピー商品の摘発では、
子供向けキャラクター『らくがきペンちゃん』の担当と、
全くいいところがない。

 このあたりの沢渡のダメ人間さはホンモノ。
 世間の目を欺く仮の姿などではなく、
 ホントにダメダメな刑事なのである。

『ペンちゃん』の違法グッズは、
新興の中国人組織「義水盟」が扱っているという。
「義水盟」の幹部・枕(シェン)を追う沢渡の前に
滝本組のヤクザ・波多野が現れる。
彼もまた枕を探していた。

沢渡と波多野は、かつて同じ一人の女に関わり、
彼女を死に至らしめたという "負い目" を共有する仲だった。

そんな腐れ縁の二人に、なぜか沈のほうから接触をはかってくる・・・


『ペンちゃん』がらみの一件は、意外に奥深く、
老舗の中国人組織「天老会」も絡んできて、
さらには警察組織上層部にまでその闇は及んでいた。

所詮はダメ人間の典型のような沢渡。
巨悪に対しては全く無力な存在だし、
そもそもそれをどうにかしようなんて
思いもつかないはずだった。

しかし、この後に起こるある "出来事" によって、
燻っていた彼の心に熱い炎が燃え始める。

組織を越えて、同じ志を持つ者と力を合わせ、
鮮やかに、劇的に、そして痛快に巨悪を葬り去ってみせる
沢渡の活躍が本書最大の読みどころ。
読者の期待を裏切らないラストまで彼は突っ走る。


すっかり、藤田まこと演じるところの
『必殺』シリーズの中村主水(もんど)みたいなキャラに化けた沢渡。

本書はシリーズ化されるらしいので、
彼の活躍を再び読むことができるのだろう。
これもまた楽しみだ。


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タワーリング [読書・サスペンス]

タワーリング (新潮文庫)

タワーリング (新潮文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昔、『タワーリング・インフェルノ』って映画があったよなあ・・・
なんてのが、本書のタイトルを見たときに思ったこと。
超高層ビル火災を描いたパニック映画で、
見に行きたいと思いつつ結局行けず、何年か後にTVで観た。
そんなことを思い出してしまった。

裏表紙の惹句を読んで、次に連想したのは
やはり高層ビルを舞台にしたアクション映画『ダイ・ハード』だった。
これも映画史上に残る傑作だと思ってる。
東京でリバイバル上映しているのをかみさんと一緒に見にいった。
そういえば、二人で観た最初の映画だったなぁ・・・

さて、実際に読んでみると、本書はどちらにも似ていなかった。
まあ当たり前だけど。

閑話休題。


地上50階、地下5階の《ウインドシア六本木》という
超高層ビルが本書の舞台である。

総合ディベロッパー、マーズ・コーポレーションが手がけたビルで、
マーズの本社機能をはじめ、オフィスやレジデンスも入居する
日本有数のランドマークとなっている。

マーズ企画事業部の船津は、
エレベーターから異音がするとの報告を受け、
地下2階にある防災センターへ点検・修理を指示する。
しかし、業者を装って現れた男たちはセンターを占拠、
さらに最上階にあるマーズ社長・川村の自宅に潜入、彼を人質に取る。

《ウインドシア六本木》の管理機能を掌握した犯人たちは
ビル全体を封鎖し、中にいた人々は閉じ込められてしまう。

外部からの救援が望めない状況で、
船津をはじめとするマーズ社員たちは
事態を打開するべく策を巡らすが・・・


犯人グループからは人質解放のための要求が出されるが、
この手の話で往々にそうであるように、
表向きの要求とは別に、犯人たちには真の目的があるものだ。
それと絡んで、ミステリ的な "オチ" も用意されている。
「エピローグ」でそれが判明したときには
ちょっと安易かなぁとも思ったのだけど、
今これを書きながら考えてみたら、これでいいような気もしてきた。

高層ビルを舞台にしたサスペンスとしては、
値段分は充分に楽しく読ませてもらった。


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TOKYO BLACKOUT [読書・サスペンス]

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

未だ猛暑の残る8月末のある日、午後4時。
秩父山地にそびえる高圧線の鉄塔が突如倒壊する。
現場近くには鉄塔保守要員の死体が。

さらに午後9時。
東北電力から関東へ電気を送る送電線鉄塔に
正体不明のヘリが衝突し、破壊される。

これにより東都電力は、日中で最大6000万キロワットに上る
関東地区への電力供給能力の1/6を喪失するに至る。

夜が明ければ、電力需要が一気に跳ね上がってしまう。

急遽会合を開いた東都電力と政府は、
地域ごとに送電をストップする時間帯をもうけることで
(そう、あの「計画停電」だ)乗り切ることを決定する。

それにより、決定的な危機は回避できるかに思われたが、
犯人グループの破壊工作はすでに東都電力中枢にまで浸透しており、
電力供給を喪った東京全体に、大停電が発生しようとしていた・・・


まず、この本が出版されたのが2008年だったことに驚く。
あの "3.11" による関東地区の大混乱を予期したような作品だ。

多くの人物が登場する群像劇なので、明確な主人公はいないのだが
物語はトラブルからの復旧へ向けて懸命に取り組む
千早淳一をはじめとする東都電力の社員たち、
妻との関係が悪化したうえに子供が重傷で入院したにも関わらず
犯人グループを追うことを命じられた刑事・周防を含めた警察官たち、
そして事件を引き起こした犯人グループ、
3つのストーリーが絡まり合いながら進行していく。

電力供給のプロとしての矜持をもって、
次々に起こる障害への対処に不撓不屈の精神で立ち向かう千早たち、
事件の捜査を通じて、改めて妻と向き合う覚悟を決める周防、
そして次第に明らかになる犯人グループの動機、そして目的。

「主役はいない」って書いたけど、強いてあげれば
犯行グループの主犯になる "彼" がそれにあたるだろうか。

"彼" はなぜこんな大規模な混乱を引き起こしたのか。
終盤近くでようやく "真の目的" が判明するのだが
ここは評価が分かれるかも知れない。

「そうだったのか!」って膝を打つか
「えー、そんなのあり?」っていささか呆れるか。

私は「膝を打つ」と「呆れる」が半々だったかなぁ・・・
端から見れば「そんなことでこんな大騒ぎを引き起こすなんて」
なのかも知れないが、本人からしたら
「ここまでやってこそ意味がある」のだろうし。

すべてが終わった後、"彼" は "あること" を行うのだが、
たしかに、こんなことでも起こらない限り、不可能なことだ・・・


私は作者・福田和代さんの作品に触れるのははじめて。
本書は彼女のデビュー2作目とのことだが、
2作目にしてこの堂々たる書きっぷりはたいしたもの。
多くの登場人物を縦横に動かしながら、
スケールの大きな物語を、文庫で450ページにわたって
ダレることなく最後まで読ませるのだから。


電力、ガス、水道などの生活インフラは
そこにあって当たり前、そして使えて当たり前。
そう思いがちだが、その影には
システムを支えている多くの人たちがいる。
そして、それは司法の力によって守られてもいる。

そんな「縁の下の力持ち」的な存在のおかげで
無事な毎日が成り立っていることを、
本書は改めて思い起こさせてくれる。


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笑うハーレキン [読書・サスペンス]

笑うハーレキン (中公文庫)

笑うハーレキン (中公文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★

主人公・東口は家具職人。

彼には、かつて幼い一人息子を事故で失い、妻とは離婚。
経営していた会社も倒産の憂き目に遭う、という過去があった。

現在はトラックにわずかばかりの商売道具を積み込み、
電話一本で家具の修理を引き受ける仕事を生業に、
荷台で寝泊まりしながら、川辺の空き地で
気の置けないホームレスの仲間たちと、楽しく暮らしている。

そんなある日、奈々恵と名乗る足の不自由な若い女が現れ、
東口に弟子入りを志願する。
それを境に、彼の生活に変化が生じ始める。

やがてホームレス仲間の老人が川底で遺体となって見つかり、
東口のもとには奇妙な家具修理の依頼が舞い込む・・・


伏線もそれなりに張ってあるし、終盤には、
主人公たちの巻き込まれていた状況についての
謎解きもあるんだけど、ミステリっぽさは希薄。

強いて分類すれば、
若干のユーモア風味をまぶした軽めのサスペンス、
といったところかなあ。

本書の読みどころは、そういう物語の "仕掛け" よりも、
東口や奈々恵、空き地の仲間など
心に瑕を負って、社会からこぼれ落ちそうになっている人々が
力を合わせて彼らに降りかかる苦難を乗り越え、
自らの人生の再生するきっかけをつかんでいくところにある。

東口は、最終的には彼らをまとめるリーダー的存在となり、
ラストでは彼もまた、人生をリブートすることを決意する。

読み物としては充分に面白いし
出てくるキャラもみな立っている。

私は特に奈々恵ちゃんがお気に入りだ。
序盤での風変わりな言動から "不思議ちゃん" 系かと思いきや、
徐々に彼女の抱えていた事情が明らかになってくると
感情移入の度合いがじわじわと増してくる。

ただ、この作者だとやっぱりミステリを期待してしまうんだよねえ。
こういう作品もたまにはいいけど、次は本格ものが読みたいなあ。


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ダブル・ジョーカー [読書・サスペンス]

ダブル・ジョーカー (角川文庫)

ダブル・ジョーカー (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昭和12年。帝国陸軍中佐・結城の発案で、
極秘裏に設立されたスパイ養成所・"D機関"。

かつて自身も優秀なスパイだった結城の指揮の下、
頭脳明晰な学生が集められ、様々な訓練が行われる。

スパイに必要と思われるあらゆる技術を叩き込まれた
"D機関" の "卒業生" たちと、その総帥にして
"魔王" の異名を持つ結城中佐の活躍を描く作品集、第2弾。


「ダブル・ジョーカー」
 陸軍中佐・風戸は、列強との諜報戦に対抗すべく
 参謀本部宛にスパイ養成の必要性を具申する。
 秘密裏に "D機関" を設立済みの陸軍だったが、風戸の提案を受け入れ、
 風戸に新たなスパイ養成所 "風機関" の設立を命じる。
 その目的は、軍部の思想と相容れない "D機関" を追い落とすこと。
 そして参謀本部は、両機関に同一の使命を与えた。
 元外交官・白幡を監視し、スパイの証拠をつかむこと。
 結城とスパイ戦を競うことになった風戸だが・・・

「蠅の王」
 中国大陸での最前線部隊の軍医・脇坂はソ連のスパイを務めていた。
 彼の元へ、スパイの元締め "K" から連絡が入る。
 「陸軍に設立された秘密諜報組織が、
  "魔王" の指揮の下、スパイ狩りを行っている」
 折しも、部隊を慰問団が訪れていた。
 団員に潜む "諜報員" を見つけ出そうとする脇坂だったが・・・

「仏印作戦」
 仏印(現在のベトナム)への出張を命じられた通信技師・高林。
 しかし赴任した彼が直面したのは陸軍と海軍の確執だった。
 日本へ送る暗号電文に携わりながら、ハノイの生活を満喫するが、
 1ヶ月後の夜、謎の暴漢に襲われて失神してしまう。
 彼を救ったのは、"陸軍少尉" と名乗る永瀬という青年だった・・・

「柩」
 ベルリン郊外で起こった列車事故で、日本人・真木が死亡した。
 情報部のヴォルフ大佐は、真木の所持品から
 彼が日本のスパイだったと睨む。
 かつて "魔術師" の異名を持つ伝説のスパイだった日本人が、
 母国でスパイ養成機関を設立したという情報を得たヴォルフ大佐は、
 "魔術師" が部下の死に伴う任務の失敗と混乱を収拾するために
 ドイツに現れると確信し、罠を張るが・・・
 若き日の結城中佐の活躍も明らかになる一編。

「ブラックバード」
 ロスアンゼルスの富豪の娘・メアリーは、バードウォッチングを通じて
 知り合った日本人大学生・仲根と恋に落ち、結婚した。
 子供も生まれ、結婚生活は順調だったが、ある日仲根がスパイだとの
 通報がもたらされ、彼は警察に逮捕されてしまう・・・

「眠る男」(ボーナストラック)
 前作「ジョーカー・ゲーム」に収録されているある短編の
 舞台裏が描かれている。文庫で18ページの掌編。


前作と比べると謎解き要素は減って、ミステリと言うよりは
スパイ・サスペンスの雰囲気を前面に出してきたように思う。
かといってつまらないわけではなく、
「太平洋戦争直前の時代を舞台にした日本人主役の諜報戦」
という珍しい題材を存分に楽しめる。

 他の作品で思いつくのは、佐々木譲のいくつかの長編くらいかなぁ。
 「エトロフ発緊急電」とか「ストックホルムの密使」とか。
 あと何作かあったように思うけど、如何せん記憶が・・・

いつかこのシリーズで、長編が読めたらいいなあ・・・
期待してます。


実は第3作「パラダイス・ロスト」も読み終わってるので、
そのうち載せます。


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人類資金 全7巻 [読書・サスペンス]

※長文注意!


人類資金1 (講談社文庫)

人類資金1 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金2 (講談社文庫)

人類資金2 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫




人類資金3 (講談社文庫)

人類資金3 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/09/13
  • メディア: 文庫




人類資金4 (講談社文庫)

人類資金4 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫




人類資金5 (講談社文庫)

人類資金5 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫




人類資金6 (講談社文庫)

人類資金6 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫




人類資金7 (講談社文庫)

人類資金7 (講談社文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: 文庫




評価:★★★★☆

「人類資金」という映画のために、作者がストーリーを作成し、
それを脚本と小説という2パターンで世に出した、ということらしい。

 同様のパターンで作られたのが「ローレライ」だった。
 小説版は「終戦のローレライ」。
 私はこの小説が福井作品で一番好きなんだが、
 映画に関してはいろいろ残念な想いがある。
 それをいちいち挙げるのは場違いなので控えるが。

薄めの文庫本(約200ページ)に分割したものを、
月刊ペースで短期集中的に出す、という出版形式も特殊だった。
たぶん1冊ごとの単価を下げて、
買いやすくしたかったんだろうけどね・・・

でも、6巻まできたらパタッと刊行が止まってしまい、
完結の7巻が出たのは、それから1年5ヶ月も経ってからだったよ。
それも約700ページと、6巻までと打って変わっての分厚さにビックリ。
それまでの薄さは何だったんだろう・・・

7巻の冒頭には20ページほど、1~6巻のあらすじが載っている。
これも刊行に間が空いてしまったことへのフォローでしょうか。

ちなみに写真を見てもらうと分かるんだが、
この厚みのアンバランスさ。おかしいだろうこれ。

Mfund.jpg
さて、本書は全7巻、総計で1800ページを超えるという長大な作品。
全体を構成する7つのパートのページ数を記すと以下のようになる。

序 幕(1巻:約80ページ)
第一幕(1~2巻:約280ページ)
第二幕(3~4巻:約330ページ)
第三幕(4~5巻:約220ページ)
幕 間(5~6巻:約260ページ)
第四幕(7巻:約590ページ)
終 幕(7巻:約70ページ)

なにしろ大長編なので、どの程度まで紹介したらいいのか悩む。
内容としても、従来の福井作品とはやや毛色が異なるので
読み始めてみて、やや違和感を感じる人も
いるかも知れない(私がそうだった)。

なので、序盤についてはやや丁寧に紹介した方が
親切なのかも知れない、とは思うんだけど・・・
なるべく未読の人の興を削がないように書くつもりだが
どうしても内容に深く踏み込んでしまう部分があると思う。

これから読もうという人は、以下の文章に目を通さずに
書店へ直行することを推奨する。


1945年8月15日、日本銀行の地下金庫から、
600トンの金塊が運び出され、姿を消す。
首謀者は陸軍大尉・笹倉雅実。
この金塊は、終戦後の日本の復興を影から支え、
やがて "M資金" と呼ばれるようになった。

M資金の管理のために "財団" を立ち上げ、
その初代理事長となった笹倉雅実は、戦後日本の経済界の黒幕となり、
"財団" は笹倉一族によって受け継がれてゆく。

そして69年の時が流れ、笹倉雅実の七回忌が営まれた2014年、
M資金専門の詐欺師・真舟雄一の前に、石優樹と名乗る男が現れ、
「 "財団" に関わる仕事」を依頼する。

真舟はかつて、育ての親とも言うべき恩人・津山を
"財団" がらみの事件で喪っており、
M資金の真実、そして事件の真相を求めていた。

依頼人の "M" は、ITベンチャー企業の若き社主だった。
彼の目的はなんと「M資金を盗む」こと。そしてさらに告げる。
「僕といっしょに、世界を救ってみませんか?」

いったんは返事を保留した真舟だったが、その彼の前に
防衛省情報局・M資金監視担当要員である高遠美由紀が現れる。
(要するに福井作品でお馴染みDAISのメンバーだ)
美由紀もまた、笹倉一族に連なる者だった。

美由紀は真舟を捕らえようとするが、間一髪、石に救われ。
しかし二人はDAISの執拗な追跡を受けることになる。

本書は今までの福井作品と異なり、ミリタリー要素はほとんど無いので
アクションシーンは少ないが、その分こってりと書き込まれている。
バイクを駆使したカーチェイスや、
東京の巨大な地下空間を利用した逃走劇など
迫力充分なシーンが続く、序盤のクライマックスだ。

ここまでが、1~2巻。

3巻に入ると舞台はロシアへと移る。
日本を脱出した真舟と石は、"財団" のロシア支部とも言うべき
ヘッジファンドオフィス・ベタプラスをターゲットに定める。
マネージャー・鵠沼英司に偽の情報を吹き込み、
"財団" から10兆円を奪取することを目論む。

このあたりはとてもよくできたコン・ゲーム小説になっていて
福井晴敏は派手なドンパチ以外にも、
こんな緻密な話も書けるんだなあと素直に感心した。

しかし最後の詰めの直前に "仕掛け" がバレてしまい
すべては水泡に帰すかと思われた瞬間、意外な人物が現れる・・・


さて、ここまできて「読んでみようかな」と思った人は
そろそろやめて書店へ行きましょう。

以下の文章は、かなりストーリーの根幹に触れる部分が
あるように思うので、そのつもりで。


4巻に入ると "M" の正体、さらに彼と美由紀との関係が明かされる。
彼がM資金を利用して実現しようとしたのは、
戦後の世界経済を支配する "ルール" に異を唱え、
"新しい世界" を築くこと。
そのために彼は、東南アジアにある世界最貧国の一つである
カペラ共和国に於いて、壮大な実験を始めようとしていた。

富める者がますます富み、貧困に苦しむ者が
さらに搾取され続ける世界ではなく、
人間の持つ善意を "システム化" し,
貧しい者に等しく "チャンス" と "可能性" を与える世界にする。

"M" の掲げる理想が正しいのか間違っているか、
読者の受け取り方はそれぞれだろう。

私は経済についてはド素人で、
株の売買すらやったことがない人間なのだけど、
それでも "M" の理想が万人に納得できる話でないことくらいは分かる。

でも、本書の根本にあるテーマは、
現在の世界のありように疑問を提示し、
"より良き世界" を目指して、自らの力を持って
それに立ち向かっていく、そういう理想を持った人間を "是" としよう、
というということだと思う。
(これは前作「小説・震災後」でも扱われたテーマでもある。)

物語の根幹は "M" の理想と現在の世界経済の "ルール" との相剋。
ならば、本書を楽しむには、"M" の理想を "作中是" として
(少なくとも本書を読んでいる間は)受け入れることが必要なのだろう。

彼が何故そんなふうな理想を持ち、
さらにそれを実行に移す決断に至ったかもまた、
かなりのページを割いて描かれている。

本書に限らず、福井作品が長大になりがちなのは
リアリティを担保するための書き込みが半端ない、
というところにも原因がある。
それを楽しんで読めるか、冗長に感じるかで
福井作品に対する評価もかなり決まるんじゃないかな。


さて、そんな "M" の行動を許さない者もまた存在する。

よくフィクションの世界では「世界を裏から操る影の存在」
なんてものが出てくるが、本書でもそれに相当する組織が登場する。

それが、物語後半から表舞台に出てくる「ローゼンバーグ財閥」。
世界経済を数百年の昔から影で操ってきたとされる存在で、
まさに戦後資本主義世界の "ルール" そのもの。
M資金を管理する "財団" でさえ、ローゼンバーグ財閥の支配下にある。

カペラ共和国の "実験" が始まった直後、
"ルール" への挑戦者である "M" は、
ローゼンバーグ財閥によって捕らえられてしまう。
彼の命はまさに "風前の灯火" となった・・・


ここまでが1~6巻までのおおよそのあらすじ。

「経済」という慣れないフィールドで、
ともすればややアウェイな雰囲気も感じられて
かなり慎重に、そしてちょっと窮屈そうな書きっぷりだったのが、
7巻に入ると、文章が水を得た魚のように生き生きとしてくる。
6巻までが壮大な「序章」で、実は7巻が「本編」なんじゃないか。
そんな風にさえ思えるほど、7巻はアツい展開が続く。

まさに6巻まではプロレスで言うところの "受け" に徹し、
7巻に至り、一気に反撃に転じる。

しがない中年男の詐欺師・真舟が、世界経済の帝王とも言える
ローゼンバーグ財閥を相手に、一世一代の大勝負を仕掛けるのだ。

"M" が命をかけて窮地を救ってくれた恩義もあるだろう。
彼の抱く理想に共鳴したこともあるだろう。だが何よりも、
自らの心の "ルール" に従い、"M" の救出を決意する。
そのために様々な才能を持つ "仲間" を集め、
"チーム・真舟" ともいうべき一団をまとめ上げていく。

迎え撃つは、ローゼンバーグ財閥の一族に連なる
M資金担当役員、ハロルド・マーカス。

カペラ共和国の "実験" を封殺しようと画策するハロルド。
それを逆手に、世界の注目をカペラに集めるべく動く真舟。

一発の銃弾も飛び交わないが、それに代わる
「株式」という武器を手に、二人の男の頭脳戦が幕を開ける。

寡兵ならではの機動力と、素人ゆえの "奇策" を繰り出す真舟。
圧倒的な "物量" (資金力)を背景に力で押し切ろうとするハロルド。
戦場ならぬ "市場" を舞台に、息詰まるような "戦い" が続く。

そして最終 "決戦" の舞台はニューヨーク。
起死回生の一打を狙う真舟たちに、ローゼンバーグの "清算人" が迫る。
これがまた「ターミネーター」みたいな不死身の超人。
世界の未来と "M" の奪還を賭けて、真舟、石、美由紀の三人が
ビッグ・アップルを駆け抜ける・・・


何と言っても真舟のかっこよさにシビれる。
腕はいいけど、所詮は一介の詐欺師にすぎない。
そんな彼が、巨大財閥にケンカをふっかけることを決意してからは
別人のように颯爽としてくる。
常に敵の二手三手先を読み、ピンチに陥っても決して諦めず、
次から次へと奇手をひねり出して切り抜けていく。

福井晴敏としては初めての「経済」をテーマにした小説。
上にも書いたけど、がんばってると思う。
この作品を企画してから経済の勉強を始めたとのとだが
少なくとも付け焼き刃的なおざなり感は皆無だ。

もっとも、その筋の専門家の人から見れば穴だらけなのかも知れないが
私くらいのレベルの人には必要充分な描写だと思うよ。

要所要所にしっかりアクションシーンも織り込んで
読者へのサービスも怠りない。
今までの福井作品のトレードマークとも言える
"火薬の量と爆発の回数で勝負" 的な要素を排してもなお、
手に汗握る緊張感と、読後のカタルシスは充分。
もちろん "福井節" も健在だ。

M資金の呪縛に囚われ、次々と悲劇に見舞われる笹倉一族の系譜とか、
"財団" の現理事長である笹倉暢彦・芳恵夫妻の泣かせるエピソードとか
終盤ではすっかりギャグ要員になってしまうヤクザの親分・酒田とか
まだまだ書きたいことはたくさんあるんだけど
もうかなり長く書いているのでそろそろ終わりにしようと思う。

「ガンダムUC」から数えると5年ぶり、
「小説・震災後」を入れても3年ぶりくらいの作品だけど
待たされただけのことはあったと思う。


最後にちょっとだけ余計なことを書く。

すべてが終わり、表舞台から去って行く時の真舟がもう最高だ。
読んでいて連想したのは「ルパン三世・カリオストロの城」で
ラストシーンでクラリスに別れを告げて去って行くルパン。
ここでの真舟は、ルパンに負けないくらい「カッコいい男」だ。

そう思って読んでると、登場人物が
「ルパン三世」に重なって見えてきたよ。
石は次元、美由紀は不二子、そしてクラリスは "M" (笑)。
五右衛門はさしづめ鵠沼君かなあ。

・・・ホント、余計なことだったね。


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拒絶空港 [読書・サスペンス]

拒絶空港 (新潮文庫)

拒絶空港 (新潮文庫)

  • 作者: 内田 幹樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

乗員乗客261名を乗せたボーイング747-400。
パリ発、成田行きNIA(ニッポン・インターナショナル・エア)206便。
その機体がシャルル・ド・ゴール空港を離陸した後、
滑走路で発見されたタイヤとホイールの破片。
主脚タイヤを離陸時に損傷したまま、206便は飛び立ってしまった。

成田空港の整備士たちが対策を練り始めた頃、
ド・ゴール空港が閉鎖されたとの知らせが飛び込んでくる。
何者かが206便に放射性物質を持ち込んだ形跡が発見されたのだ。

核物質を搭載したまま、破損した主脚で着陸を強行して、
爆発・炎上した場合、核物質がまき散らされ、
広範囲が放射能で汚染されてしまう。

206便の扱いをめぐって地上では侃々諤々の議論が巻き起こる。
胴体着陸では爆発の危険が避けられず、
海への着水では多くの乗員乗客の生命が失われる。
そして、核物質の飛散のおそれがある以上、
日本の空港で206便の着陸を受け入れるところはない。

その間にも、刻一刻と206便は日本に近づき、
燃料は着実に消費されていく。

一方、206便のクルーたちは、ある乗客の助けを得て
放射性物質の捜索に乗り出す。
そして機長の朝霧は、206便の着陸を受け入れてもらうために
突拍子もない手段をひねり出すのだった・・・


本書の単行本が出版されたのは2006年6月のこと。
まだ東日本大震災が起こる前だが、本書の中で触れられている
核物質による汚染は、福島第一原発で起こった事そのままである。
そういう意味では、偶然なのだろうが "予言的" な作品とも言える。


さて、作者である内田幹樹は、2006年12月に亡くなっている。
ということは、本書は遺作ということになるだろう。
wikiによると死因は前立腺がんとあるので、おそらく
病魔と闘いながらの執筆であったと思われる。

そのせいか、本書を読んでいて感じるのは "バランスの悪さ" である。
冒頭、206便のタイヤ破損が判明してから空港の閉鎖、
そして放射性物質持ち込みの判明までがおよそ文庫で100ページ弱。
その間、場面が次々と変わり、人物も入れ替わり立ち替わり現れて
読んでいていささか混乱する。
後半のための登場人物の紹介が必要なのだろうが、
総ページ数が文庫で約310ページの作品で、
"主役" となる206便内の描写に至るまでが100ページもかかるのは
かなり遅い展開だと思う。
しかし中盤から後になると、尻上がりにスピードアップしていく。

作者は元ANAのパイロットだったので、航空会社の内幕や
機内の描写などは堂に入ったもので詳細に描かれているが、
反面、出来事の発端になる放射性物質の持ち込みやその背景、
そして日本に持ち込む理由/目的にはほとんど触れられていない。


これは私の勝手な想像だけれども、
作者はもっと書き込むつもりがあったのだと思う。

内容・題材的には、文庫で500~600ページくらいあっても
おかしくないくらいのストーリーだし、
それくらい書き込んであったら、全体のバランスも良くなって
それこそ読み応え充分の傑作になったのじゃないだろうか。

ただ、惜しむらくは、作者にそれだけの時間が残されていなかった。
そういうことなのだろう。
とても残念なことだけれども。


航空サスペンスの書き手って、いるようで案外いないものだ。
作者はその経歴も相まって、リアリティあふれる作品を書ける
貴重な存在だった。

本書の終盤、206便のクルーたちが乗客の生命を救うため、
ひいては自分たちが生き延びるために必死の行動をとるが
そのあたりの描写は、流石に現場を知っている人ならでは。


もっともっとたくさんの作品を書いて欲しかった人だ。
ご冥福をお祈りします。


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