So-net無料ブログ作成
読書・その他 ブログトップ
前の10件 | -

鏡の花 [読書・その他]


鏡の花 (集英社文庫)

鏡の花 (集英社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

本書は一風変わった構成になっている。

これから内容の紹介をするのだけど、
本書はなるべく予備知識を持たずに読んだほうがいいかなと思うので
これから読もうという人は、以下の文章は読まないことを推奨する。


本書は6つの短編による連作集で、登場人物は共通しているのだが、
物語としては全く別ものなのだ。

たとえば「第一章 やさしい風の道」では、
翔子(しょうこ)と章也(しょうや)という姉弟が登場する。
この二人がバスに乗って、かつて彼らが両親と共に
暮らしていた家を訪ねていく、という話だ。
現在、その家には妻と死別した瀬下という男が住んでいるのだが
瀬下と章也の会話を読んでいるうち、読者は気づく。
翔子は、翔也が生まれる前にこの家の二階のベランダから落ちて
既に死んでいることに。
文中に出てきて、章也と会話をしている翔子は、
彼の意識の中だけに存在していることに。

そして「第二章 つめたい夏の針」でも
翔子と章也という姉弟は登場するが、こちらの翔子は
1歳半の頃、二階のベランダから "落ちそうになった" だけで
無事に成長しており健在である。

このように、登場人物は共通するものの、
彼ら彼女らが辿ってきた運命は、
ある者は微妙に、ある者は大いに異なっているのだ。

この二人以外の主な登場人物としては
翔子の友人の真絵美(まえみ)、その弟の直弥。
海沿いの林業試験場に勤める瀬下、その妻の栄恵(さかえ)、
そして一人息子の俊樹。
瀬下の同僚の木島結乃(ゆいの)、後にその夫となる飯先(いいざき)、
そして二人の間に生まれる娘・葎(りつ)。

残りの4章の物語も同様に、
どこかしら異なる運命を辿った人々が登場する。

第一章では瀬下は妻・栄恵に病気で先立たれているが
逆に瀬下の方が先に事故死している話もある。
俊樹が大学卒業直後に夭折している話もあれば
俊樹と葎が夫婦になって、子ども(瀬下や飯先にとっては孫)が
生まれている話もある。

SFでいうところのパラレルワールドにおける
"分岐した未来" あるいは "可能性の世界" に相当するのだろうが
読んでいる限り、作者にはSFを書くつもりは全くないのだろうと思う。

第一章から第五章までは、上に挙げた人物の誰かしらが
既に亡くなっているか、今まさに死の床にある。

物語中の人々はその喪失感、あるいは喪われつつある命に
絶望的な思いを抱きながら時を過ごしている。
作者が描きたかったのは、そんな "哀しみ" なのだろうと思う。

生きている者は誰でも、家族や周囲の者から愛されている。
人は、愛する者がいつまでも健やかに生き続けていて欲しいと願う。
なぜなら、代わりになる者などいないのだから。

第五章までの物語はそんな "喪失の哀しみ" が
根底に流れているので、いささか暗い雰囲気であるのは否めない。

しかし最終の第六章では、危うく悲しい分岐に入り込みそうなところを
寸前で踏ん張ってみせる人々が描かれる。
ここに至って、読者はやっと息がつけるようになるわけだ(笑)。
いろいろあったが、終わりよければ全て良し、なのかな。

とは言っても、ここに来るまでのお話が辛くて悲しいので
星半分減点してしまいました(笑)。

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:

キャロリング [読書・その他]


キャロリング (幻冬舎文庫)

キャロリング (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

タイトルの「キャロリング」とは、
クリスマス・イブにキリストの生誕を賛美歌を歌って
告げ知らせることだという。

主人公・大和俊介(やまと・しゅんすけ)が勤める
『エンジェル・メーカー』は東京・月島の集合ビルに事務所を構える、
従業員わずか5名という子供服専門の零細企業だが、
取引先である量販店が閉店になったあおりを受けて倒産することに。
廃業日は12月25日。"クリスマス倒産" に向けて
社員たちは残務整理と自らの再就職先探しに奔走することになる。

俊介は以前、同僚の子供服デザイナー・折原柊子とつきあっていた。
しかし不幸な家庭環境で育った俊介は "親" というものに
不信感を抱いており、子供を持つことに自信が持てない。
柊子との結婚にも踏み切れずに、
結果として別れることになったという苦い過去があった。

倒産したら社員も皆ばらばらになり、もう柊子と逢うこともなくなる。
俊介の中にはまだ未練があったが、言い出せるはずもない。

『エンジェル・メーカー』は副業として
小学生を預かる学童保育も行っていたが、こちらも廃業が決まり、
子供らも倒産までに他の保育所に移っていくことになった。

その中の一人、田所航平は小学6年生。
キャリアウーマンの母・圭子と別居している父・祐二との間に
離婚話が持ち上がっており、心を痛める航平は
なんとか両親を仲直りさせたいと願い、俊介と柊子に相談する。

二人は航平の願いを叶えるべく、父親の暮らす横浜へ向かうが・・・


有川浩の作品は、登場人物のキャラ立ちがはっきりしていて
とてもわかりやすく、かつ親しみやすいのが特徴かと思う。

『エンジェル・メーカー』社長の西山英代は、
夫の急逝後に会社を引き継いだ。子供のいなかった英代は
幼い頃から知る俊介を自分の子のように思っている。

柊子と共にデザイナーを務める佐々木勉は39歳。
タヌキのような体型だが明るく陽気で楽天的な人柄。
営業担当の朝倉恵那に毎度ちょっかいを出してはその逆鱗に触れている。

その朝倉は東大卒で美人で巨乳というなんだかスゴい33歳(笑)。
卒業後に入った会社のセクハラに耐えかねて退職、
『エンジェル・メーカー』に入ったという経歴。
とにかく何かあるとすぐに僻む性格。

 シリアスなシーンが続いた後に、この二人の
 漫才みたいな掛け合いが入ると心が和む。

航平の父・祐二は絵に描いたようなダメ親父。
部下と浮気して会社を辞め、相手と別れたはいいが
働き出した横浜の整骨院では、院長の冬美を相手に鼻の下を伸ばしている。

その冬美は、祖父が借金をした「赤木ファイナンス」から
悪質な取り立てを受けている。
連日のように糸山・石田というチンピラ二人が店に現れては
嫌がらせをするのだ。

しかし、ファイナンスの経営者・赤木、チンピラ二人も
ステレオタイプのヤクザもどきではなく
意外な一面を持っていることが早々に明かされる。


誰にとっても、流れる時間は同じ。
本書は、様々な人々が様々な思いで辿るクリスマスまでの日々を描く。

『エンジェル・メーカー』の社員たち、航平の両親、
整骨院の院長・冬美と常連客たち、
そして切羽詰まった赤木たちが引き起こす "大事件"。
それに巻き込まれていく俊介と柊子の運命は・・・


基本的にはコメディなのだが、その底流には
苦いものもいっぱい描かれている。

こんな両親のもとで育ったら、そりゃ人間が歪むよなあ・・・
って思わせる俊介の家庭環境。
しかしこんな家庭は現代日本では決して珍しくはないだろう。

価値観の違いを埋められず別れを選択せざるを得なかった俊介と柊子。

"使えない夫" と "できる妻" の格差とすれ違い。
そんな二人の諍いに巻き込まれる航平。

頼りない部下と愛する女を守るために、
あえて凶悪犯罪に手を染めようとする赤木。

そして、航平とその父を巡る事件に巻き込まれた俊介と柊子は、
いま一度、"夫婦とは"、"親子とは" を自らに問うことになる。
本書は二人の成長の物語でもある。

ラストシーンはクリスマス。
物語に登場した人はみな、それぞれの幸福を求めて生きている。
しかしすべてがハッピーに丸く納まるわけではない。
苦い結末を迎える者もいるが、それはその人たちにとって必要な
"次の人生へのステップ" なのだろう。

俊介と柊子が出した結論がどんなものかは、読んでいただくほかないが
文庫で460ページもの大部をものともせず、
最後までつき合ってきた人が裏切られることはないと思う。
私はここで涙腺が崩壊してしまったことを告白しておこう。

楽しく笑わせ、しんみり泣かせる。有川浩はホントに達者だ。


wikiによると、本書のストーリーは
もともと劇団『キャラメルボックス』の上演用に書かれたものらしい。
実際に舞台化され、その後2014年には8話連続のTVドラマにもなった。
ちなみに俊介は三浦貴大(百恵と友和の息子だ!)、柊子は優香。
航平は鈴木福くん。英代は中田喜子。
なんとミッキー・カーチスまで出てる(笑)。
ちょっと観て見たい気もしてきたなあ・・・

nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

百年の記憶 哀しみを刻む石 [読書・その他]


百年の記憶 哀しみを刻む石 (講談社文庫)

百年の記憶 哀しみを刻む石 (講談社文庫)

  • 作者: 三木 笙子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★

祖父の住む地に引っ越してきた主人公・久守徹。
古くから神隠しの民話が伝わる田舎で、
地元の高校に進学した彼が出会ったのは、
同級生の中で一人だけ孤高の雰囲気を漂わせる少年・野見大地。
彼に誘われて徹は廃部寸前の地学部へ入る。

周囲から「天狗」と呼ばれ、敬遠されていた大地だが
彼にはある秘密があった。
石(鉱物)と "会話" し、石に込められた "人の想い" を
読み取ることができるのだ。

そして、人が強い感情を抱いて石に触ると、その想いが石に流れ込み、
限界を超えてしまった石は、さまざまな現象を引き起こすという。
淋しい人を呼び寄せて石の中に "閉じ込めて" しまったり、
触れた人間に "保存された記憶" を引き継がせたり・・・
大地はそれを "決壊" と呼んでいた。

大地とともに過ごすうちに心を通わせ合うようになる徹だが、
かつて大地の祖父を裏切った男と、徹の父とが
石を通じた "因縁" でつながっていることが明らかになってくる・・・


田舎の男子高校生二人の日常が延々と続く展開で
序盤の舞台になる高校も男子校ときては
色気のないのにもほどがある(笑)。
とは言っても、それが星2つの理由ではありません念のタメ。

ミステリではないし、ホラーともファンタジーとも言い切れない。
まあジャンル分けなんてあくまで便宜的なもので、
面白いか面白くないかが大事なのだけど、
物語が一体どこへ向かっているのか、さらには
何を言いたい伝えたいのかが分からない
(と感じているのは私だけなのかも知れないが)
というのは、ページを繰る気力を削ぐものだ。

主役の徹は、家庭環境にも複雑な事情があり、
それに加えて頑なに秘密を守ろうとする父との軋轢、
そしてそれが解決しても、今度は父が抱えてきた
"負の遺産" をそっくり受け継ぐことになるなど
辛い状況が延々と続くことは変わらない。

それは大地も同じことで、そもそも今の時代に生きる彼らには
全く責任のないことで苦しまなければならないことに、
読んでいて感じるのは理不尽さばかり。

それに加えて終盤には、大地の祖父を巡る
過去の因縁話が挿入されるが、これも陰鬱な内容だ。
そしてそれが文庫で80ページに渡って続く。

こういう物語こそ、結末に至ってもろもろのことが解決して
(まあいちおう "解決" はするんだが)
明るい未来が拓ける "爽快感" が必要だと思うのだけど
残念ながらあまりそれが感じられないんだなぁ。

まあ、単に私の好みに合わないというだけの話なんだけど。

nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

旅猫リポート [読書・その他]


旅猫リポート (講談社文庫)

旅猫リポート (講談社文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


「Pre-Report 僕たちが旅に出る前のこと」
野良猫のナナ(雄猫である)は、車に轢かれて瀕死の重傷を負うが、
サトルという青年に助けられ、彼の飼い猫となる。
しかし5年後、サトルはある事情からナナを手放さざるを得なくなり、
"彼" の飼い主になってくれる人を捜して旅に出ることになった。
それは、サトルの人生を振り返る旅でもあった。
この物語はナナの一人称で綴られていく。

「Report-01 コースケ」
小学校時代の幼なじみ、コースケを訪れ、旧交を温めるサトル。
30年前、二人が拾った子猫のこと。
小学6年生の修学旅行の最中に、サトルの身に降りかかった不幸のこと。

「Report-02 ヨシミネ」
中学時代の同級生、ヨシミネを訪ねるサトル。
かつて、転校生としてやってきたヨシミネとともに
一緒に園芸部を復活させたサトル。
お互い家庭に事情を抱えた中で親友となる二人。
そしてサトルは修学旅行中に "脱走" を企てる。

「Report-03 スギとチカコ」
高校時代からの友人、スギとチカコは大学卒業後に結婚した。
やがてスギは脱サラし、チカコの実家近くでペンションを開業した。
学生時代、チカコはサトルが好きだったのではないか?
スギはそんな心の葛藤を抱えてサトルとつきあっていた。
ナナを連れて現れたサトルに、スギの心は穏やかではない・・・


ここまでの3つの章は、サトル本人よりも、彼が会いにいった
コースケ、ヨシミネ、スギとチカコが主役である。
サトルと再会することにより、彼らは過去の自分とも再会する。
そして自分の人生を振りかえり、新たな一歩を踏み出すことになる。
サトルはそのきっかけをもたらす役回り。

結局、誰もナナを引き取ってはくれないのだが(笑)。

「Report-3.5 最後の旅」
「Report-04 ノリコ」
この2章はサトルの物語。結局、彼はナナを連れたまま、
育ての親ともいえる叔母・ノリコの住む札幌へと向かう。

読んでいけば、サトルがナナを手放さざるを得なくなった理由が
なんとなく見当がついてくるのだが・・・

「Last-Report」
ノリコを含め、今回の旅で出会った人々が一堂に会する〆の回。
しかしなんて切ない幕切れなのだろう。


これは悲しい話だ。有川浩にしては、という前提がつくが。

以前『ストーリー・セラー』という、
これも悲しい話を読ませてもらった。
まあ作者としても、いつもいつもラブコメばかり書いていたら
たまには違う話を書きたくなるのだろうとは思う。
でも、こういう話は苦手だなあ。

有川浩の作品はたいてい★4つつくんだけど今回は3つ半。
切なさの分だけ減点だ・・・

それにしても有川さん、私生活で何かあったんすかねぇ・・・?

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:

バチカン奇跡調査官 天使と悪魔のゲーム [読書・その他]

バチカン奇跡調査官    天使と悪魔のゲーム (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 天使と悪魔のゲーム (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第7作。

今回は、番外編4作を集めた短編集になっている。


「陽だまりのある所」
 過酷な生活を送ったために精神を病み、
 自分の名前以外の記憶を失った少年・ロベルト。
 児童施設へ収容され、併設された幼年学校へ通うようになるが
 成績こそ首席であるものの、周囲の者と一切打ち解けようとせず
 問題児のレッテルを貼られてしまう。
 しかし施設の責任者・ランバルド司祭のはからいで
 名門進学校であるサン・ベルナルド寄宿舎学校へ入学する。
 そこでも相変わらず孤独に過ごすロベルトだが、
 図書委員を務める少年・ヨゼフとの出会いが、
 彼を少しずつ変えていく。
 しかし、ヨゼフにはある秘密があった・・・
 ホラーでもミステリでもないが
 切なく哀しく、そして美しい話だ。

「天使と悪魔のゲーム」
 ローレン・ディルーカは、わずか15歳にして
 ローマ大学の大学院に籍を置く天才。
 物理・化学・生物・工学の博士号を持ち、
 数々の特許によって巨万の富をも得ていた。
 しかし、遺伝子の突然変異率を飛躍的に高めて
 その個体を死に至らしめるウイルスを開発したことにより、
 警察に逮捕、そして精神鑑定を受けていた。
 鑑定医の結論は、彼をバチカンへ預け、宗教的矯正を与えること。
 その頃、平賀は奇跡調査官として最初の仕事を終えたところだった。
 ローレンと引き合わされた平賀は、
 彼の心を救うべく、あるゲームでの対戦を申し出る。
 そしてそのゲームの最中、平賀は
 自分がかつて耳にした不思議な話を始めるのだが・・・
 エキセントリックなローレンに対して
 飄々と接する平賀が、とても彼らしくていい。
 この二人の天才の掛け合いは面白いのだけど
 平賀の語る作中作はいかにもホラーな話で、
 とっても後味が悪いんで私は好きになれないんだなあ・・・

「サウロ、闇を払う手」
 平賀とロベルトの上司にして、
 伝説的悪魔祓い師(エクソシスト)としても高名なサウロ大司教。
 イタリアの小さな町に生まれ、貧しい家庭に育ったサウロは、
 町の教会の司祭・ザカリアに引き取られ、彼の養子となった。
 養父ザカリアに馴染めないものを感じつつ、
 やがてサウロは成長し、神父見習いとなる。
 そして彼はザカリアの持つもう一つの仕事、
 "悪魔祓い" の現場に初めて立ち会うことになるが・・・
 文字通り命をかけて悪魔との対決に臨む師の姿、
 そしてそれを受け継いだサウロに、ある "試練" が降りかかる。
 今でこそ英雄扱いのサウロ大司教だが、
 彼も人並みに、いろいろと煩悩にまみれた青春時代を
 送っていたんだなあ・・・というのが分かる話(笑)。
 人間は、若いうちに苦労をしなければ一人前にはなれないのだねえ。

「ファンダンゴ」
 父を知らずに育ったジョナサンは、
 幼少期から容姿端麗にして成績優秀、そしてスポーツ万能。
 それに加えて母親はかなりの資産家だったので、当然のように
 我が儘で気まぐれで世の中を舐めきった青年へと成長した。
 しかし、ジョナサンの人生のあちこちで現れて、
 彼の邪魔をする謎の人物がいた。
 ジョナサンと全く同じ顔で、名も同じ「ジョナサン」という男。
 彼はジョナサンのドッペルゲンガーなのか?
 やがて明らかになるその正体は・・・
 でも、裏表紙の惹句でネタバレしてるんだよねえ。


本作は短編集かつ外伝ということもあり、
「陽だまりのある所」以外の3篇はかなりホラー風味が濃い。
まあ、「ホラー文庫」なんだから当たり前とも言えるが。
そして、それらに登場する超常現象も投げっぱなしで、
シリーズの持ち味であるところの
(納得できるかどうかは別として)独自の科学的解釈もなし。
そのへんはちょっと不満なんだけど、まあ短編なんだから我慢(笑)。

もう一つの読みどころは、シリーズキャラクターの
ロベルト、平賀、ローレン、サウロの過去の話が描かれること。
どれもなかなか興味深いけど、やっぱり本書の中では
「サウロ大司教・若き日の大冒険」がオススメかな。

nice!(4)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

御手洗潔の追憶 [読書・その他]

御手洗潔の追憶 (新潮文庫nex)

御手洗潔の追憶 (新潮文庫nex)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/05/28
  • メディア: 文庫



評価:★★

1994年の初め、横浜を離れて北欧へと去った御手洗。
以来、早くも20有余年の月日が流れ去った。

本書では、御手洗の北欧での暮らしぶりから
残された石岡くんの様子などが綴られる。


「御手洗、その時代の幻」
 御手洗がハリウッドのホテルに滞在していると知らせを受け、
 "私"(島田荘司?) は彼にインタビューをするべく会いに行く。
 御手洗への質問は多岐にわたる。
 彼が携わっている脳細胞の研究の内容から
 犬を飼うならどんな品種が良いかまで。
 中でも「日本の教育荒廃をどう思うか」という質問では
 御手洗の口を借りて、島田荘司の "日本人論" の
 一端を垣間見ることができる。
 最後には幼い頃の父親の記憶まで語っているが、
 これが次の話につながるのだろう。

「天使の名前」
 本書は文庫で約310ページあるんだが、
 この中編は約120ページもあり、1/3を越えるボリューム。
 だけど御手洗潔本人のことではなくて、内容は彼の父親のこと。
 潔の父・御手洗直俊がまだ独身で外務省勤務の官僚だった時の話だ。
 時に昭和16年、日米の緊張が高まり開戦が秒読みかと思われた頃。
 直俊は外務大臣の側近として日米開戦回避に奔走する。
 当時の軍部の思考停止ぶりとか、列強国家の思惑とか
 開戦に至る経過は、もう既に幾多の作品で描かれてきたとおり。
 直俊の努力も虚しく、日本は太平洋戦争へと突入する。
 開戦に反対していた直俊は戦況の悪化に伴い、
 周囲から疎まれるようになっていく。
 昭和20年、神戸へ疎開していた直俊は
 思い立って福岡へ向かう列車に乗るが・・・
 "開戦秘話" としては面白いし、それなりに面白く読んだんだけど
 「御手洗潔もの」の短編集にこれが入っている意味があるのか?
 ってふと疑問を感じてしまったよ。

「石岡先生の執筆メモから。」
 『龍臥亭事件』で初登場し、その後大学生となった犬坊里美嬢が
 石岡くんの承諾を受けて、彼の執筆予定の一部を公開する、
 という趣向の短編。
 1999年に発表されたものだが、本作中で言及される "作品" のうち、
 2017年の現時点で既に書かれたものもあれば、未発表のものもある。
 将来へ向けての "予告編" というところか。

「石岡氏への手紙」
 『暗闇坂の人喰いの木』で初登場したハリウッド女優・松崎レオナから
 石岡くんへ届いた手紙を公開した、という趣向の作品。
 御手洗へ寄せる思慕の情を、レオナ自身が分析したり、
 ハリウッドの芸能界ならではの裏話とかも。

「石岡先生、ロング・ロング・インタビュー」
 文庫で約80ページと、「天使の名前」に次ぐ長さ。
 田舎から出てきて美大生となり、『異邦の騎士』事件に遭遇、
 さらに現在に至るまでのおおまかな半生も明かされる。
 いやあ石岡くんって、ホントにヘタレなんだけど
 そういうところに親近感を感じて、他人に思えないんだよなあ・・・

「シアルヴィ」
 御手洗が研究している大学のあるウプサラの街から
 約20km離れたところにある「シアルヴィ館」というカフェ。
 ここに週末になると御手洗を含めて教授たちが集まり、語らうという。
 そんなある日のシアルヴィ館の様子。

「ミタライ・カフェ」
 渡欧した御手洗の活躍を記録しているジャーナリスト、
 ハインリッヒ・フォン・レーンドルフ・シュタインオルトの手記。
 御手洗の大学生活の様子が綴られる。

「あとがきに代えて」
 "御手洗潔の「天才」性と、彼の近況について" という
 サブタイトルがつくので、これも本書の "作品" の一つなのだろう。
 ミステリにおける探偵像について、作者自らが語る。
 作者によると、御手洗は『伊根の龍神』事件(未発表)で
 一時帰国しており、さらに近い将来に再帰国して金沢へ赴くらしい。
 これには石岡くんも同行するらしく、
 実現すればなんと20年ぶりの再会だとか。
 御手洗って、この20年間一度も石岡くんに会ってなかったんだね。
 事件のたびに、電話とか電子メールで会話や情報交換はしてたけど、
 まさか会ってないとは思わなかったよ。


さて、本書の評価は冒頭にもあるとおり高くない。
だってミステリじゃないんだもの。
「あとがき」を除いて7編収録されてるけど
見事にミステリが1本もない。まあずいぶん思い切ったことだ。

御手洗潔ファンや石岡和己ファンにとっては
垂涎の書なのかも知れないけど、
私はやっぱり、御手洗と石岡くんが活躍する
ガチガチの本格ミステリが読みたいんだよなぁ・・・


nice!(4)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

18の奇妙な物語 街角の書店 [読書・その他]

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)

  • 作者: フレドリック・ブラウン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/29
  • メディア: 文庫



評価:★★

SFにもミステリにも分類不能な
"奇妙な味" と呼ばれる作品を集めたアンソロジー。
読んでみて思ったが、私の好みに合う作品は少なかったなあ。
以下に題名と作者だけ紹介。それからひと言コメント。

「肥満翼賛クラブ」ジョン・アンソニー・ウェスト
 藤子・F・不二雄の短編に似たネタがあったような。

「ディケンズを愛した男」イーヴリン・ウォー
 ホラーというか怖い話。

「お告げ」シャーリィ・ジャクスン
 コメディですかね。

「アルフレッドの方舟」ジャック・ヴァンス
 面白いやら悲しいやら。

「おもちゃ」ハーヴィー・ジェイコブズ
 ファンタジーかなあ。

「赤い心臓と青い薔薇」ミルドレッド・クリンガーマン
 よくわからないんだけどたぶんホラー。

「姉の夫」ロナルド・ダンカン
 怪談。

「遭遇」ケイト・ウィルヘルム
 たぶんホラー。アメリカのTVドラマにありそう。

「ナックルズ」カート・クラーク
 よくわからないんだけどたぶんホラー。

「試金石」テリー・カー
 よくわからないんだけどたぶんホラー。

「お隣の男の子」チャド・オリヴァー
 たぶん、間違いなくホラー。

「古屋敷」フレドリック・ブラウン
 よくわかりません。たぶん私のアタマが悪いせい。

「M街七番地の出来事」ジョン・スタインベック
 昔これと似たようなアメリカ製のTVドラマを見たような。

「ボルジアの手」ロジャー・ゼラズニイ
 このオチの話って、数年に一回くらい目にするような。

「アダムズ氏の邪悪の園」フリッツ・ライバー
 往年の特撮ドラマ「怪奇大作戦」の一編みたい。

「大瀑布」ハリー・ハリスン
 よくわからないが幻想的。

「旅の途中」ブリット・シュヴァイツァー
 これ、誰か漫画化しないかなあ。インパクトたっぷりになるよ。 

「街角の書店」ネルスン・ボンド
 これも藤子・F・不二雄の短編にありそう。
 これがいちばんSFっぽかったりして。


編者は"奇妙な味"って言うけど、
私からしたらみんなホラーみたいなもんだなぁ(笑)

とにかく、読んでる最中に気持ち悪くなるか、
読んだ後に気持ち悪さが残るかのどちらか、って作品ばかり。

うーん、こんなアンソロジーができるくらいだから
ニーズはあるんでしょうねえ。
世の中にはこういう作品の好きな人もいるということですね・・・


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ヒア・カムズ・ザ・サン [読書・その他]

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

ヒア・カムズ・ザ・サン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

本書はいささか変わった成立過程があったらしい。

 真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
 彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
 強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
 ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
 カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
 父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
 しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・

この「あらすじ」から、小説と演劇という
二つの物語をつくる試みが行われたという。
そのうち、小説版の担当をしたのが本書の著者・有川浩だ。

そして、本書にはもう一つ、
「Parallel」と副題のついた同名の小説も収められている。
これは、有川氏が演劇版を見て想を得た物語とのことで、
基本設定・登場人物を同じくしながら異なる内容を展開している。

主人公がサイコメトラー的な超能力を持つがゆえに
SF寄りな雰囲気になるかと思いきや、そこはやはり有川浩。
超常の要素は控えめに、
あくまで人間ドラマ主体のストーリーを紡いでみせた。


便宜的に「小説版」と「パラレル版」としよう。

展開としての大きな違いは2つ。

ひとつは、真也とカオルの関係。
小説版での二人は同期入社の友人関係。
(もっとも、ゆくゆくは恋仲になりそうな描写もある)
パラレル版では結婚まで秒読みに迫った恋人同士として登場する。

そしてもう一つはカオルの父の設定。
シナリオライターとしての成功を夢見て
妻子を捨ててアメリカに渡ったのは同じながら
小説版では大作映画の脚本家として華々しい凱旋を飾る。
パラレル版では・・・これは読んでのお楽しみだろう。


小説のタッチもかなり異なる。
どちらもカオルの父の秘密が明かされるのは同じながら
小説版の終盤では、真也が(超能力の助けもあるが)
カオルの父に迫り、意外な "事情" が明らかになる。
このあたりの真也くんは "名探偵" みたいである。
有川浩ってミステリもいけるんじゃね? なんて思ったよ(笑)
一方、パラレル版では、有川浩お得意の人情噺的な展開を見せる。

その名の通り、パラレルワールドのような二つの物語。
個人的にはパラレル版の方が、より有川らしくて好きだけど
小説版も捨てがたいなぁ・・・


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

県庁おもてなし課 [読書・その他]

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

高知県庁に誕生した「おもてなし課」。
主人公は入庁3年目にしてここへ配属された若手職員・掛水史貴。

観光立県を目指し、観光客を文字通り「おもてなし」して
県内の観光産業を盛り立てよう・・・
というコンセプトは立派だが、具体的に何をしたらいいのか?

まず最初に取り組んだのは地元出身の有名人に観光大使を依頼し、
割引特典付きの名刺を各所にばらまいてもらおう・・・というアイデア。

しかし、割引対象になった施設の了解を取るところからもうたいへん。
割引によって生じる損失分の補填がどうとか
縦割り行政の壁やらで、とにかく話が前に進まない。

やっとのことで企画を通し、動き出したものの
今度は観光大使を引き受けてくれた
若手人気作家・吉門喬介(よしかど・きょうすけ)から
ダメ出しの嵐を食らう。

いちいち理にかなっていて、
「おもてなし課」の "お役所体質" を痛烈に批判する
吉門の指摘の数々に、掛水は圧倒される。

しかし、掛水の方もそれだけでは終われない。
「おもてなし課」は窮余の一策として、
吉門を課のアドバイザーとして迎え入れることにする。

それに対して彼が挙げた条件は2つ。

(1)外部から若い女のスタッフを1名入れること

これは、総務部にアルバイトで来ていた
明神多紀(みょうじん・たき)という、
吉門の挙げた条件通りの逸材を発見したことで解決。

(2)かつて高知県庁内で唱えられた『パンダ誘致論』を調べること

20年前、高知県の観光産業振興のために
『パンダを高知県へ誘致する!』とぶち上げたのは、
当時の観光部職員だった清遠和政(きよとう・かずまさ)。
しかし彼の主張は県庁の "お役所体質" を打ち破れず、
閑職に回された後に退職へと至る。
現在は民宿経営の傍ら観光コンサルタントで生計を立てているという。

清遠は、いまもなお途方もないスケールでの観光立県構想を抱いていた。

吉門と清遠という2人の強力な "助っ人" を得た「おもてなし課」は、
県庁の "お役所" "ぬるま湯" 体質を打ち破り、
高知県が観光客であふれる未来を呼び寄せることができるのか・・・?

「おもてなし課」の奮闘を縦軸に、
掛水と吉門、多紀と清遠の娘・佐和の4人を巡る恋愛模様を横軸に、
涙と笑いの物語が展開する。


いやあ、有川浩はホントにスゴい。

冒頭の吉門と「おもてなし課」のエピソードは、
実際に有川浩が高知県の観光大使を
引き受けたときの実話がベースらしい。
そのへんもちゃっかり小説のネタにしてしまうんだからたいしたもの。

代表作である『図書館戦争』シリーズや『自衛隊三部作』も、
恋愛要素だけにとどまらず、大きなテーマとストーリーを持っていた。

本書も、"地方創生" という古くて新しいテーマで
堂々とエンターテインメント長編を一冊書いてしてしまうんだから。
しかも、しっかりLOVEも散りばめて。

本書に描かれる「おもてなし課」の奮闘はまだ端緒についたばかり。
実際の、そして現在の高知県の観光産業がどうなっているのかは
寡聞にして私は知らないし(巻末にちょっと載ってるけどね)、
また本書に描かれた "処方箋" が最良なのかもわからない。
(小説だからうまくいくんだろ、って反論ももちろんあるだろう)
ましてや他県でこれと同じことができるとも思えない。

でも、かつて全国一律、各自治体に1億円配ったり、
バブル時代にハコモノを大量に作っても地方は再生しなかった。

根源的には、その土地に暮らす人々が知恵を集め、アイデアを練り、
行政がそれをバックアップしていくしかないのだろうとも思う。


さて、有川浩作品の特徴として、
「カッコいいおっさんが多い」というのが挙げられる。

「三匹のおっさん」なんていうそのものズバリの作品もあるが
本書でもパンダ誘致論者・清遠和政が実にカッコいい。
肝が据わっていてハッタリもかます。でも思考は緻密で計画性も十分。
組織を外れて、一匹狼でも十分に世間を渡っていけるが
妻と娘のことでは人並みに悩む・・・とかね。

目立たないけど掛水の上司、下元課長もいい味だしてる。
地道な根回しも淡々とこなし、部下に能力を発揮させる場を用意する。

私はとうてい清遠みたいにはなれそうもないが、
できれば下元みたいなオッサンにはなりたかったなあ・・・

毎度のことだけど、ページを繰るのが実に楽しい。
そんな読書の時間を与えてくれる本作は一押しの快作だ。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

プリティが多すぎる [読書・その他]

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

プリティが多すぎる (文春文庫 お 58-2)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「俺はこんなことをやるためにこの会社(業界)に入ったんじゃねえ!」
社会人なら誰でも一度はこんな思いを持ったことがあるだろう。

大学時代の同期生の中にも、
入社後2~3年で辞めてしまった奴が複数いる。
(仕事の内容だけが原因ではないと思うが)

運良く、望み通りの職種に就けたとしても、
永久にそのままとは限らない。
特にサラリーマンなら、人事異動は避けられないからだ。

いままでの経歴・経験とはかけ離れた仕事をあてがわれることもある。
部署の異動は無いまでも、
とても自分に向いているとは思えないミッションを
振られることだって往々にしてある。
私自身、今までの仕事人生で何度かそういう場面に遭遇してきた。
だからといってイヤとは言えないのが宮仕えのつらいところだが。

 もっとも、会社の方にも
 「その社員(そして会社)の将来のために、
  いろいろな部署を経験させておく」
 という思惑があるのはわかるが。

 ちなみに、辞めてしまった同期生たちは
 その後、ちゃんと新しい仕事に就いたけどね。
 その中の一人は、驚くなかれ、いま大学教授になってる。
 彼の場合は本当に仕事と能力が見合ってなかったのかも知れんが。

そう言えば、私が最初に配属された職場にも、
同じようなことを言って去っていった人がいたなあ・・・
あの人は同業他社に行ったはず。今頃どうしてるんだろう。

閑話休題。


本書の主人公・新見佳孝くんは
総合出版社・千石社で働く26歳の若手編集者。

文芸書部門への異動を熱望していたにも関わらず、
配属先となったのは少女向けファッション雑誌『ピピン』。
読者層は中学生女子。キャッチコピーはずばり「女の子はPが好き」

私はこの手の雑誌には全く縁がないのでよくわからないが
作中の描写によれば、中学生女子が喜ぶような
フリルやリボン付きの服とか鞄とか帽子とかがメインで、
そしてそれを身にまとったカワイイ女子中学生読者モデルの写真で
全ページが埋め尽くされているような雑誌らしい。

「俺はこんな雑誌をつくるために編集者になったんじゃねえ!」
とは思うものの、いつの日か文芸書担当になって
ベストセラーを出すことを夢見つつ、
畑違いの世界に放り込まれた新見君の苦闘の日々が始まる。

右も左もわからない新見君の、勘違いやら偏見が巻き起こす失敗の連続と、
それによって少しずつ成長していく姿が描かれる
"お仕事小説" なのだけれど、さらに驚かされるのは、
登場する女子中学生モデルたち。

『ピピン』の編集部の先輩やカメラマン、スタイリストは
子供向けだからと言って一切手抜きはしない。
プロなんだから当たり前なのではあるが、
年端もいかない女の子たちもまた、
モデルとしてのプロ意識はたいしたもの。
10歳以上も年下の彼女らから、
たびたび "この業界" のことを教えられる新見君でもあった。

しかし超高倍率の選考を突破して首尾よく読者モデルの座を射止め、
同期生との人気争いに勝利しても、彼女らの地位は安泰ではないのだ。
高校生になればモデルも "卒業" になってしまう。
さらに上の世代向けの雑誌モデルを目指すもの、
アイドルや女優への転向を目指すものなど、
芸能界でのサバイバルも厳しい。
しかしそんな世界をたくましく生き抜いていく
彼女らの姿もまた読みどころ。

もっとも、彼女らの必死さもわかるのだけど、
それでもなお、中学生や高校生の時代って、
もっと他にやるべきことがあるんじゃないかなぁ・・・
なぁんて思う私は頭の固いジイサンなんだろうねえ。

ラスト近くになっても相変わらずトラブルを引き起こす新見君は
『ピピン』編集者としてはまだまだ駆け出しなんだろうけど
この経験は決して無駄にはならないはず。
(というか、そう思わなけりゃやってられんわなあ)。


余談だが、ラスト近くになって新見の先輩として
文芸担当編集者の工藤が登場する。
先日感想を挙げた『クローバー・レイン』の主役を務めた彼だ。

残念ながら『クローバー』がらみのネタは
いっさい投下されなかったんだけど
(だって、あのラストのその後が気になるじゃないか!)
解説によると、工藤と新見が競演している短編も書かれているらしい。
いつの日かそのあたりを知ることもできるのかなぁ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の10件 | - 読書・その他 ブログトップ