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命に三つの鐘が鳴る 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 [読書・ミステリ]

命に三つの鐘が鳴る: 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 (光文社文庫)

命に三つの鐘が鳴る: 埼玉中央署 新任警部補・二条実房 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/06/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

同じ作者の『天帝』シリーズに
準レギュラー出演している警察官僚・二条実房。
本書は、若き日の彼を主役としたシリーズの第1作である。

東京帝国大学法学部在学中は学生運動に身を投じていた二条だが、
卒業後はキャリア警察官として真逆の道を歩み出す。

 帝国大学とはいっても戦前の話ではない。
 本書は『天帝』シリーズなど一連の古野まほろ作品に共通する
 パラレルワールドの日本を舞台にした物語。
 太平洋戦争には負けたものの日本は未だ "帝国" であり
 陸海軍も健在。ついでに "満州国" も健在だったりするが
 1970年代には学生運動が華やかだったりと
 我々の世界とほぼ同様の歴史を刻んでいるようだ。

大学を卒業後に警察講習所に入所、
3ヶ月の厳しい訓練を終えて警部補を拝命、
埼玉県警埼玉中央署に配属され、2ヶ月の交番勤務。

そして1975年9月1日、二条は外勤見習いが終わるとともに
7ヶ月間の内勤見習いへと異動。
辞令に記された肩書きは「埼玉中央警察署特別高等課第一係長」。

 いわゆる「特高警察」だが、この世界でのそれは
 我々の世界でいうところの「公安警察」に近いようだ。

 ちなみに本書に登場する「埼玉」という "市" は
 内容から察するに「大宮」と読み替えて差し支えなさそうだ。
 関東に住んでる人にしかわからないかもしれないけど(笑)。

特高課のメンバーは部長の丹澤、課長の城川警部、
若手刑事の澤谷、紅一点の佐藤未緒巡査。
そして二条の教育係となったのは真柴係長。
その指導はまさに "鬼軍曹" とも言うべきものだった。

 二条が過ごす新米警官の日常は、一般人の想像を超える。
 このあたりは "お仕事小説" としても楽しめる。
 ただし、「○○○の "破片" を素手で集める」なんて
 強烈なシーンがあったりして度肝を抜かれるが。

そんな過激な毎日を送る二条のもとへ、
大学時代の親友・我妻雄人が現れる。
彼はかつて二条とともに学生運動に明け暮れ、
いまでは過激派組織『革命的人民戦線』の幹部となっていた。

その我妻が、「たったいま人を殺してきた」と自首してきたのだ。
現場は京浜東北線の車内。被害者は我妻の恋人にして、
かつて二条が想いを寄せていた女性・佐々木和歌子であった。

そして彼女は、我妻の属する『革人戦』と
血で血を洗う抗争を繰り広げている
『革命的学労同盟』の幹部でもあったのだ。

対立する過激派同士の内ゲバなのか?
それとも単なる男女の愛情のもつれなのか?
そして、なぜ彼は逃走せずに自首してきたのか?

しかし我妻は犯行に至る事情も動機もいっさい語ろうとはしない。

特高警察の幹部たちは過激派の情報が一気に入手できると意気込むが
真柴が上層部の反対を押し切きって、
我妻の取調官として指名したのは新米刑事の二条だった。

ただし彼に与えられた時間は10日間。
期限内に我妻を "落とせ" なかった場合は、
彼の身柄は特高の上層部に移されてしまう。

かつての親友として。
学生運動の同志として。
そして同じ一人の女を愛した男として。
そして何よりも警察官として、
事件の真相をさぐるべく二条は我妻と取調室で対決する。

もちろん二条は一人ではない。
城川、澤谷、そして佐藤たち同僚刑事は
我妻の行動を追って地道な捜査を通して彼をバックアップする。

真柴は厳しい中にも的確なアドバイスを二条に与え続ける。

やがて、彼らがたどり着いたのは、
限りなく哀しみに満ちた真実だった・・・


『天帝』シリーズに登場する二条は、斜に構えていて
極めて有能ではあるけれど癖のある中年のオッサン、って感じなんだが
本書での二条はまだまだ大学を出たばかりの22歳か23歳。
"うぶ" とまでは言わないが、世間知らずで間が抜けている。
でも人の情に接すると素直に感動してしまうような
愛されキャラだったりする。

読んでいてなんだか既視感を覚えたのだけど、ふと気づいた。
『天帝』シリーズの主役、古野まほろくんに
よく似ているような気がするんだ。

『天帝』シリーズでは、なにかとまほろくんの世話をしている二条だが
あれは「かつての自分を見ているよう」な気がしているのかも。
だから、「危なっかしくて放っておけない」んだろうな。
つまり「他人事とは思えない」んだろう(笑)。

単純な殺人に思えたこの事件も、
実は氷山の一角で、隠されている部分の "巨大さ" に驚かされる。

序盤では、新米警官・二条のドジっぷりがユーモラスで
笑いさえ誘う雰囲気だったものが
終盤に近づくに従ってどんどんシリアスになり、
やがて悲しくダークな展開へと変貌、
そして、衝撃的なラストへとなだれ込んでいく。

よく「衝撃のラスト」なんて言葉は
映画やドラマの謳い文句でよく使われるけれど
本書のラストはまさに "衝撃" そのもの。

現在の所、「今年読んだ本ベストテン」の、暫定ながら第1位です。


『天帝』シリーズでは、シリアルキラーの捜査はもちろん、
大陸ではスパイの真似事をしたり、
果ては "人外" の相手までする羽目になって
彼の本業がなんだったか時たま忘れてしまうんだけど(笑)
『天帝』シリーズ以前、その十数年前にはちゃんと警察官をしていて
順調にキャリア官僚として出世街道を驀進していたことがよく分かる。

その彼が、『天帝』シリーズでまほろたちに絡んだばかりに
 "あんなふう" になってしまったわけで(笑)。


いま、手元にはこのシリーズの第2作
『パダム・パダム 京都府警平安署 新任署長・二条実房』
がある。ちなみに本書の5年後の話らしい。

これも近々読む予定。

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