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ディアスと月の誓約 [読書・ファンタジー]

ディアスと月の誓約 (ハヤカワ文庫JA)

ディアスと月の誓約 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 乾石智子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/02/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

170年の昔、一人の魔法使いが
空から2つの月を地に墜とし、極寒の世界に光と熱をもたらした。
彼が3つめの月を引き下ろそうとした時、
ファンズの王・サルヴィが現れ、
自らの命を差し出して最後の月を守った。
(ファンズとは、この世界の北方に棲息する鹿に似た生き物。)
そして魔法使いは凍土を統べる王となった。

以来、その王国はサルヴィの角を国の守護の象徴として
王城に隣接する岩棚に供えてきた。

月日を経て角が風化してゆくと守護の力も衰え、
王国に死病が蔓延するようになってくる。
そのとき、北の大地へ遠征して新たなサルヴィの角を
持ち帰ってくることが、次代の王となる証しとなっていた。

主人公・ディアスは、ガンナー王の第三王子。
王位継承争いには全く関心がなかったが、
病弱な第一王子を押しのけて王位を狙う
異母兄にして野心家の第二王子・オブンの奸計によって
サルヴィの角を損ねてしまい、王国からの追放処分となる。

遙か南の地へと放逐されたディアスは
夢に出てきたサルヴィの導くまま、
東の果てにあるという<赤き海>を目指していく・・・


作者は東京創元社で「夜の写本師」に始まる
<オーリエラントの魔道師>シリーズを書き継いでいるが、
本書はそれとは別の世界の物語である。

<オーリエラント>シリーズと比べると短めで、
ストーリーもシンプル。
メインとなるキャラクターもディアスが16歳、
ヒロインとなるアンローサが14歳と、こちらも低め。
ライトノベル的な読み方もできるが
北の雪原を走るファンズの群れ、
<赤き海>の前に立ちはだかる "魔女"、
そして人間とサルヴィの間で行われてきた "死の連環" など
豊かなイメージの数々はやはりこの作者ならでは。

ファンタジーが好きな人なら、
楽しい読書のひとときを得られるのは間違いないだろう。

乾石智子という作家に興味はあるけど未読、という人は
この作品から始めてもいいかも知れない。


本書は物語としては完結しているのだけど
もう少しこの先を読みたいという気にさせる。

本書の冒頭にこの世界の地図があるのだけど
<月の海>とか "星の花島" とか "迷子石諸島" とか
 "三日月岬" とか、魅力的な地名がたくさんあって
しかもみんな本編未登場。何だかもったいない。

ディアスとアンローサのその後も気になるし、
いつの日かまたこの世界の物語を読みたいなあ。


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造花の蜜 [読書・ミステリ]

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈上〉 (ハルキ文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 文庫




造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

造花の蜜〈下〉 (ハルキ文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

歯科医の夫・山路将彦と離婚した香奈子は、
一人息子の圭太を連れて町工場を営む実家へ戻ってきた。

物心つく前に父親と離れた圭太は父・将彦の顔を知らなかった。
その圭太がある日「父親」を名乗る男に連れ去られそうになる。
しかし男の不審な態度から、辛うじて逃げ出すことに成功する。
将彦の関与が疑われたが、その日彼には確かなアリバイがあった。

そして1ヶ月後、今度は幼稚園から圭太が連れ去られる。
しかも実に不可思議な状況下で。
それは前代未聞の誘拐事件の幕開けであった・・・


ミステリ好きな人なら、誘拐を扱った様々な作品を読んだことと思う。
パターンもあらかた出尽くしたかと思われたジャンルだが、
この作品の犯人像は前例がなく、とびっきり独創的で、ユニーク。
まずこのことを断言しておこう。

誘拐事件のあらましをちょっと紹介しようかと思ったのだけど
これはまず予備知識無しで読んでもらった方が絶対面白いので
書くのはやめる。
とにかく意表を突く展開の連続で全く先が読めない。
犯人に翻弄される警察のように、
読者もまた作者の手のひらで転がされてしまう。
でも、それが面白いんだよねえ・・・

ミステリを読んでいるというより、魔術を見ているような気分。
上巻の "誘拐事件の部" は魔術師・連城三紀彦の独壇場だ。


下巻に入ると雰囲気は一変して、
「花葬」シリーズにも通じる濃厚な愛憎のドラマへと変貌する。
叙情ミステリ作家・連城三紀彦の登場だ。
誘拐事件に隠されたさまざまな背景が明らかになり、
読者はきっと、「あっ」と驚くことだろう。
(少なくとも私は驚いたよ!)


しかしまだ物語は終わらない。
最終章「最後で最大の事件」まで来ても、
物語の着地点が全く予想が出来ないのだ。

そしてラスト数ページに至って、読者は本当の意味での
この作品の凄さに気がつくことになる。


まさに "連城マジック" 。
読者は魔法を見せられたような気持ちで本を閉じるだろう。

考えたら連城三紀彦の長編を読んだのは始めてかも知れない。
短編の鋭い切れ味は十分に知っていたけど、長編も凄い。

作者はもう故人になっているのだけど、
旧作の再刊も続いているようなので
これからもできる限り追いかけていきたいと思う。


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玩具店の英雄 座間味くんの推理 [読書・ミステリ]

玩具店の英雄: 座間味くんの推理 (光文社文庫)

玩具店の英雄: 座間味くんの推理 (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/02/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

長編「月の扉」で登場し、ハイジャックされた機内で起こった
殺人事件を解決した青年・"座間味くん" 、
短編集「心臓と左手」に続き、三度めの登場である。

本名が "座間味" なのではなく、初登場の時にたまたま
座間味島のTシャツを着ていたことから
ハイジャック犯に "座間味くん" と呼ばれたのがきっかけ。
本名はきちんとあるのだが、作中でそれが明かされたことはない。

もちろん前作でも今作でも、作中でちゃんと
本名を名乗っているのだが、作者が記さないできているので、
読者は誰も彼の名前を知らない。

ハイジャック事件で知り合った大迫警部と親しくなった彼は、
しばしば飲み屋で酒を酌み交わす仲になる。
そのとき、大迫が話すいろんな事件(もちろん解決済み)の話を聴き、
そこから座間味くんが意外な解釈をひねり出してきて
解決済みの事件の意味が大きく変わってしまう。
座間味くんの安楽椅子探偵ぶりが楽しめるのが
前作「心臓と左手」だった。

本作では、二人の酒の席にもう一人加わる。
科学警察研究所の職員、津久井操さん。
彼女の研究テーマは
「警察は事件の発生を未然に食い止めることができるか」。
彼女の語る、主に警備が関わる事件(もちろんこれも解決済み)の
話から、前作同様、見逃しがちな小さな矛盾や疑問を
すくい上げて推理を展開していく。
そして、最後に彼が提示する "真相" に驚く二人。
そんな7編が収録されている。


「傘の花」
 郷土の画家が開いた個展を訪れた国会議員。
 しかしギャラリーを出た瞬間に暴漢に襲われて殺害される。

「最強の盾」
 日本に進出した外資系企業のビル。
 襲撃しようとしたテロリストは、通りかかったベビーカーに手をかけ、
 赤ん坊を人質にしようとしたが・・・

「襲撃の準備」
 野球部を辞めて以来、生活がすさんだ高校生。
 親身になって彼の指導をしていた警官OBから連絡が入った。
 「自暴自棄になった彼がチームメイトを襲うかも知れない」

「玩具店の英雄」
 ショッピングセンターの玩具店に現れた、包丁を持った男。
 たまたま娘を連れて店を訪れていた警官は、非番で丸腰だった。
 しかし、男を取り押さえたのは意外な人物だった・・・

「住宅街の迷惑」
 新興宗教の教祖が住宅街に建てた家には、
 巨大な仏像が造形されていた。
 対立する教団の信者が、新築祝いのパーティーに乱入して
 仏像を破壊しようとしたが・・・

「警察官の選択」
 非番の警官二人が目にしたのは、トラックが子供をはねた瞬間。
 ドライバーは心臓発作で意識を失っていたが、
 ドアが内側からロックされていて開けることが出来ない。
 まずは事故のショックで呼吸が止まっている子供の
 救命措置を優先する二人だったが、
 止まっていたはずのトラックが動き出した。
 このままでは近くの釣具店に突っ込んでしまう・・・

「警察の幸運」
 某国の大臣が高速鉄道技術視察のために来日した。
 大臣は名古屋から東京まで新幹線で移動することになったが
 新横浜駅に到着する直前、乗客を装った暴漢が
 大臣の乗った車両への侵入を図る・・・


前作「心臓と左手」では、なんとなくこれで打ち止め、
って雰囲気があったので、シリーズが続いたのは嬉しい。
「月の扉」で恋人だった女性とはその後結婚し、
今作では二人目のお子さんも授かるなど、
リアルタイムで生きているキャラになってきた。
また近い将来、座間味くんに再会したいものだ。


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西巷説百物語 [読書・ミステリ]

西巷説百物語 (角川文庫)

西巷説百物語 (角川文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

「巷説百物語」シリーズもこれで5冊目なんだね。

「西」とあるように、主な舞台は大阪を中心とした関西である。
本作で活躍する "裏の仕事" チームは、
靄船の林蔵、献残屋の柳次、祭文語りの文作、紅一点のお龍。

大阪屈指の版元にして裏の元締めである
一文字屋仁蔵のもとに持ち込まれる様々な依頼で、
彼らはターゲットの人物に対して "仕掛け" ていく。

各作品ごとに一つ(一匹?)の妖怪がモチーフとなっている。
登場する人々は、事件の中で起こる怪異な出来事や
不思議な巡り合わせをも、その妖怪の仕業と思い込むが、
林蔵たちは、その妖怪のイメージすらも取り込んで、
目的を達するための仕掛けの "一部" としているのだ。

心の奥底まで踏みいっていくような巧妙なからくりにはめられ、
胸に秘めていた記憶、感情、真実、そして時には
本人すら忘れていたような所業までもがえぐり出されていく。
林蔵たちによって明らかにされるのは、凄まじいまでの愛憎の情念だ。


「桂男(かつらおとこ)」
 一代で身代を大きくした杵之字屋剛右衛門。
 順風満帆な人生に満足していた彼だが、娘に縁談が持ちあがる。
 しかし、相手の男には良からぬ噂があった・・・
 噂の真偽が問題かと思ったのだが、意外な展開と結末が。

「遺言幽霊 水乞幽霊」
 小津屋貫兵衛の次男・貫蔵が意識を取り戻した時、
 彼は一年近い月日の記憶を失っており、自らの境遇の激変に驚く。
 勘当されたはずの自分が、それを解かれて家に戻り、
 死んだ兄に代わって小津屋の主人となっている。
 そして父・貫兵衛もまた世を去っていた。

「鍛冶が嬶(かか)」
 好き合って一緒になり、心底大事にしてきた。
 見るからに幸福そのものだった妻・八重が
 最近、人が変わったようにふさぎ込み、暗い目をするようになった。
 「ひょっとして狼の妖怪が成り代わっているのではないか」
 鍛冶師の助四郎が大文字屋に持ち込んだのは、そういう悩みだった。
 読んでいくうちにじわじわ恐くなっていく作品。

「夜楽屋(よるのがくや)」
 人形浄瑠璃の名人・二世藤本豊二郞。
 米倉巳之吉との二枚看板で、仮名手本忠臣蔵の公演が迫っていた。
 しかしその直前、塩谷判官の首が割れてしまう。
 豊二郞は「あの首がなくては演じられない」と言い張るのだが・・・

「溝出(みぞいだし)」
 ヤクザの跡目争いに敗れた寛三郎が帰ってきた故郷は、
 高致死率の流行り病に冒されていた。
 彼は生き残った人々を救い、死体を始末して病の拡がりを防いだ。
 以来10年。庄屋を上回る尊敬を人望を集める寛三郎のもとに
 寺の住職が訪れ、死者の供養を提案するが・・・
 結末がかなり意外な展開で驚く。

「豆狸」
 孤児として育った与兵衛は、酒蔵の娘・さだに見初められ、婿となった。
 やがて息子・与吉も授かり、幸せな日々を送っていた。
 しかし義兄夫婦と出かけた川遊びで運命は暗転する。
 突然の豪雨による増水に巻き込まれて船が転覆、
 義兄夫婦は溺死、さだと与吉も失い、与兵衛一人だけが生き残る・・・
 本書の中では珍しく救いのある話。読み終わってほっとする。

「野狐」
 一文字屋仁蔵のもとを訪れた女は、
 かつて妹を林蔵に殺されたと告げ、意外な依頼をする。
 いままでのシリーズでレギュラーだった山岡百介や
 御行の又市も登場する、オールスターキャストでのエンディング。


闇の仕事をチームで行うのは "必殺" シリーズのパターンだが、
本作でのチームは殺しはしない。
(殺しの依頼を受けないというわけではないが、
 本作ではそういう部分は描かれない。)
むしろ殺さずに、ターゲットが自ら過去を告白するように
仕向けるあたりは、"必殺" シリーズの現代版として製作された
"ハングマン" シリーズの展開に近いと言えるだろう。

前作「前巷説百物語」でもう完結したと思っていたので、
またこのシリーズが読めたのは素直に嬉しい。
ぜひ、続けていって欲しいなあ。


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最愛 [読書・ミステリ]



最愛 (文春文庫)

最愛 (文春文庫)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

幼い頃に両親を事故で失った千賀子と悟郎。
姉と弟はそれぞれ別の親類に引き取られることになった。
悟郎は伯父夫婦に愛されながら育ったが
千賀子は伯母の一家との折り合いが悪く、
18歳になったとき家を飛び出し、音信不通になってしまう。

そして18年。小児科医となった悟郎の元へ警察から連絡が入る。
千賀子が暴力団の組事務所に放火し、その際に頭部に銃弾を受け
意識不明の状態で病院に収容されたという。
しかもその前日、姉は婚姻届を出していた。
その相手・伊吹は、かつて殺人を犯した前科がある男だった。

意識の戻らない姉。姿を現さない夫・伊吹。
悟郎は姉が引き起こした事件の背景、
そして18年間の姉の足跡を知るべく、調査を始めるが
手がかりは姉のアパートに残された8通の年賀状だけだった。

年賀状の差出人を訪ねてまわる悟郎の前に、
伊吹の行方を執拗に追う男たちが現れる。
そして、悟郎の行く先々に姿を見せる刑事・小田切は
姉と伊吹について、何を知っているのか・・・


まず、ミステリとしてとても良く出来ていることは
挙げておかなければならない。

学生時代の友人、会社の同僚、行きつけの美容室などから来た
8通の年賀状の使い方が巧みで、
それぞれ違った向きからスポットライトを当てたように
姉の18年間の生活の断片が描き出される。

意識不明のため、病床の千賀子は一度も言葉を発しない。
作品中に描かれる彼女の言動はすべて、
彼女を知る者による、過去の記憶の中にあるものである。
悟郎は、さながらジグソーパズルのピースを集めるように
千賀子の周囲にいた人々から姉のエピソードを集めていく。
やがてその中から意外な真相が現れてくるのだが
そのあたりの流れはとても自然で、上手だなあと思う。


本書には様々な愛が描かれている。
姉弟の愛、夫婦の愛、親子の愛・・・
では "最愛" というタイトルが示すものは何か。
誰が誰に向けた愛を "最愛" と呼んでいるのか。
それが明らかになるラストが、物語のクライマックスになる。


意識不明の姉の、18年にわたる空白を探っていくという
ストーリーの流れはなかなか魅力的で、
ぐいぐい引き込まれてページがどんどんめくられる。
しかもミステリとしても良く出来ているし、
普通だったらもっと★がついてもいいのだが、
上記のような評価になってしまったのは
主にラストシーンのせい。

あの結末に感動した人も多いと思う。
でも、価値観は人それぞれ。
好みの問題だろうが、私はちょっと受け入れられないなぁ・・・。


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天空の少年探偵団 [読書・ミステリ]

天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/08/11
  • メディア: 文庫



評価:★★

東京都の西部に位置する桃霞市の5人の小学生が結成した
「少年探偵団」シリーズ第二弾。今度は長編である。


6年生の夏休み。

資産家・西大寺剛に招かれた少年探偵団一行は、
桃霞市の西の山奥にある "天空館" に招かれる。
5階建てほどの高さのある塔を持つその館に、
西大寺夫妻は探偵団と5人の友人たちを呼び寄せ、
夏の休暇を過ごそうとしていた。

しかしその夜、西大寺の友人の一人、建築家の下津井が
塔の最上部にある展望台で遺体となって発見される。

100キロ超の体重で、足が不自由なために車椅子だった被害者を、
階段もエレベーターもない塔の展望台までどうやって運んだのか。
屋敷全体は厳重にロックされ、外部から人が侵入した形跡はない。

不可能状況下の殺人事件に巻き込まれた探偵団だったが
名探偵のはずの月岡くんは、去年の事件のトラウマを引きずっていて
話すことも出来ないほどふさぎ込んでしまっていた・・・


この作品で一番ミステリ的興味を惹くのは、
人間移動のトリックだろう。
実際、かなり思い切った大仕掛けが用意されている。
しかし読んでいくと、このトリック自体が
本作のメインではないことに驚く。
移動方法が明らかになった後に、
ミステリとしてのヤマ場が設定してあるのだ。

事件全体もなかなか手の込んだつくりになっているし、
犯人の正体も、その意図も実に意外なもので
実際かなり驚かされる。

ただ、ねえ・・・

よっぽどひねくれた人ならともかく、
普通の人なら、読み始めたらやっぱり一番気になるし期待するのは
やはり被害者をどうやって移動させたか、だと思う。

私も読みながらああだこうだ考えて、一つ思いついたのがあって
これならいけるかも、なんて思ってた。
かなり荒唐無稽な部類だけど、そもそも本作品は
「少年探偵団」なのだから、ちょっとばかり無理があっても
この世界ならOKなんじゃないかなあ・・・なんて思ってた。

で、結末近くで明かされるトリックなんだが・・・
いやあ、予想の斜め上どころではない。
遙か彼方へ跳んで行ってしまったような気分である。
まあ好き嫌いはあると思うのだけど、
私は正直言ってがっかり、かなあ。

 私の予想が外れたからではなく、
 「いくらなんでもこれはないだろう」って思ったから。
 もちろん「いや、これもアリだよ」って思う人も
 いるとは思うけどね、少なくとも私的にはアウト。

ここで一気にテンションが下がってしまって
作者が一番力を入れたであろう "犯人像" の解明部分も、
ちょっと斜に構えて読んでしまった。

 おそらく作者がいちばん、して欲しくない読み方を
 してしまったのだろう・・・とは思う。
 でもまあ、作品をどう読むかは
 基本的には読者に任されてるはずだからねぇ・・・

まあ、普通なら誰も使おうとは思わないトリックを
堂々と披露してみせるその度胸はスゴイし
トリック以上に犯人の設定も凝っていて、
ものすごく力が入っているとは思うのだけど。

 このトリックを使うなら、もっと外連味たっぷりに
 不可能性を強調する展開をたくさん盛り込んでも
 面白くなったんじゃないかなぁ・・・なんて思うが
 そんなことしたらこの2倍の長さが必要になるね。


なんだかさんざん文句を言ってしまったが、
それは小説だからかも知れない。
例えばこれが「名探偵コナン」とか「ルパン三世」みたいな
映像作品で使われていて、クライマックスでそれが明かされたら
「おお、すごい!」って感動してしまうかも知れない。
ビジュアル的にはすごく面白いとは思うから。


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大きな森の小さな密室 [読書・ミステリ]

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★

この人、ホラーとSFがメインの人だと思ってたんだけど
ミステリもけっこう書いてたんだね。
親切(?)なことに、各タイトルの後ろに "どんなミステリか" が
ご丁寧にも提示してある。

「大きな森の小さな密室 (犯人あて)」
 タイトル通り、森の中にある高利貸し・蓮井の別荘に、
 金を借りた人間が集まったところで、当の蓮井が殺され、
 遺体は密室状況の中で発見される。
 この短編集を最後まで読むと分かるけど、まずは巻頭で
 とてもオーソドックスな作品を提示して、
 「私はこういうちゃんとしたミステリも書けますよ」
 ってことをまずは示した、ってことなんですね。
 なんでかって言うと、後に行くほどワケノワカラナイ
 トンデモ系ミステリになっていくから。

「氷橋 (倒叙ミステリ)」
 重役の娘を妻に持つ出版社の編集者・乙田は、
 昇進に伴い、邪魔になった愛人・里香美を殺害することを決意する。
 首尾良く犯行は成功するのだが、西條という弁護士が現れ、
 乙田につきまといながらネチネチと真相に迫ってくる・・・
 いやあ、決め手に○○○○○○○○を持ち出すとは恐れ入ったね。
 さすが理系作家。

「自らの伝言 (安楽椅子探偵)」
 コンビニ店員・早苗のもとに友人・菜穂子がやってきた。
 恋人の猛士と連絡がつかなくなったという。
 そして菜穂子が猛士の勤務先に向かったところ、
 彼は死体で発見される・・・
 コンビニ店内での二人の会話を聞いていた早苗の同僚の
 新藤礼都(しんどう・れつ)は、ズバズバと真相を暴いていく。
 いやあ、礼都さんのキャラが濃い。
 舌鋒鋭く、言いたいことを歯に衣着せず言い放つのが爽快だ。
 決め台詞は「私、馬鹿には我慢できないの!」
 いやあ、普段から言いたくてもなかなか言えない台詞だよねぇ。
 あ、いかん。
 私だって、彼女の前にいたらこう言われてしまうよなぁ。

「更新世の殺人 (バカミス)」
 発掘現場の150万年前の地層から、女の死体が発見される。
 それも、化石でも何でもなく、
 つい数時間前に死んだとしか思えないような "新鮮" な死体が(笑)。
 それに対して周囲の人間がみんな揃って、
 「150万年前に死んだ人間がこんな状態で発見されるはずがない」
 ってとこに頭を捻ってるのが "バカミス" なのかと思ってたら、
 ラストにそれを上回る "大バカ" が炸裂。
 思わず「そこかい!」って叫んでしまいそうになったよ。

「正直者の逆説 (??ミステリ)」
 冒頭に[読者へのヒント]と題して
 「作品中、犯人以外の人物は故意に嘘をつくことはない」
 って一文があるんだが、これがくせ者。
 終盤に至って全員による推理合戦があるのだが
 冒頭のこの[ヒント]が犯人指摘に一役買う。
 ただ、最後の "質問" は難しいというかややこしいというか
 バカバカしいというか・・・ついていけませんでした。
 「囚人のジレンマ」とかが苦手な人は敬遠した方がいいかも。

「遺体の代弁者 (SFミステリ)」
 脳を改造されてしまった男・田村二吉。
 なんと、頭が開閉式にされてしまい、死んだ人間の脳を
 スライスして挟むと、死者の記憶を追体験できるという
 なんともはや、ぶっ飛んでる設定。
 というわけで、殺人事件の被害者の脳を使って
 記憶を再現し、犯人を突き止めようとするのだが・・・
 「更新世-」より、こっちのほうがよっぽどバカミスだよなあ。

「路上に放置されたパン屑の研究 (日常の謎)」
 町の路上に、点々と置かれたパン屑。
 それも、数日おきに同じところに置かれる。
 誰が、何のためにまいているのか。
 二人の人間の会話形式で進むのだけど、
 たぶん、読んでるうちに皆さんオチが分かってしまうと思うよ。
 ミステリと言うよりはコントだね。

最後に余計なことを一言。

本書のタイトルってやっぱり河合奈保子が元ネタですか?


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日本SF短編50 II [読書・SF]

日本SF短篇50 II (日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー)

日本SF短篇50 II (日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー)

  • 作者: 山野浩一
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/04/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

日本SF界50年にわたる、50人による、50作。その第2巻。
私の年齢でいえば中学3年~社会人2年目にあたる。
前回と同じく、作家に関するあれこれや、
その当時の四方山話なども含めて書いていこう。


1973「メシメリ街道」(山野浩一)
 収録作を分類すれば "不条理SF" かなあ。
 でもこんなのばっかり読まされるんだったらいやだなあ。
 だってヤマなしオチなし意味なし、なんだもの。
 あ、ニューウェーブってヤオイ系の走りだったんだ(違)。

1974「名残の雪」(眉村卓)
 収録作はNHK少年ドラマシリーズ「幕末未来人」の原作だそうな。
 「燃える傾斜」は私のSF好きを決定づけた作品の一つだったけど
 眉村卓といえばやっぱり「司政官」だなあ。
 「消滅の光輪」は読んだけど「引き潮のとき」は未読。
 いつか読もうと思ってる。
 「不定期エスパー」は途中まで読んだかなあ。
 あれももういっぺん読みたいなあ。
 病床の奥様のために1日1作ショートショートを書いて、
 その数が星新一を上回るなんてスゴイ人だなあ。
 この年、TVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」放映開始。
 私の人生はある意味、ここで変わった。

1975「折紙宇宙船の伝説」(矢野徹)
 矢野徹といえばやっぱり「地球0年」と「カムイの剣」だなあ。
 前者は漫画化されたし、後者は映画化されて観に行ったなあ。
 角川文庫書き下ろしの続編もあったはずだが未完だったね。
 翻訳もたくさんしてた。
 「宇宙の戦士」も「デューン」シリーズもこの人の訳で読んだ。

1976「ゴルディアスの結び目」(小松左京)
 大御所の登場だ。収録作も読んでいるはずなんだが
 記憶が確かでない。うーん、歳のせいか?
 最初に読んだのは「日本沈没」だったかなあ。
 「エスパイ」も読んだ。映画化されて観に行ったなあ。
 主演が藤岡弘で、ヒロインの由美かおるがエロかった。
 「復活の日」も面白かった。もちろん映画も観に行った。
 うーん、角川商法に踊らされてた日々。
 「さよならジュピター」は、映画はともかく(おいおい)
 小説は素晴らしく面白かった。
 短編もいいけど、人類存亡の危機を描いた長編を書かせたら
 小松左京の右に出る人はいなかったなあ。

1977「大正三年十一月十六日」(横田順彌)
 日本の古典SFの発掘と紹介に尽力した人、だよね。
 シリアスな短編も書いてたけど、メインは "ハチャハチャSF"。
 ああ、懐かしい響きだなあ・・・
 この年、劇場版「宇宙戦艦ヤマト」公開。
 流石に徹夜待ちはしなかったが観に行ったなあ・・・

1978「ねこひきのオルオラネ」(夢枕獏)
 収録作は「奇想天外」で読んだけど、あまり印象に残らない人だった。
 それが突如「魔獣狩り」なんて始めて、
 それまでとのギャップがでかすぎて驚いたのを憶えてる。
 「キマイラ」も読んでたけど、途中で読む気が失せてそれっきり。
 この年、TVアニメ「未来少年コナン」放映開始。名作。
 さらに劇場版「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」公開。
 この作品で「ヤマト」への熱狂から醒めた(醒めさせられた?)。
 それが復活するには34年の時を待たねばならなかった・・・

1979「妖精が舞う」(神林長平)
 神林長平って、なんとなく好きになれなくて読んでない。
 たまにアンソロジーで読んだりするけどやっぱりダメ。
 収録作は「戦闘妖精・雪風」シリーズの雑誌掲載版第一作。
 OVAアニメも観たけど、主役の深井零を無名時代の
 堺雅人が演じていたことに、つい最近気がついてビックリ。
 この年、劇場版「ルパン三世 カリオストロの城」公開。超名作。
 そして劇場版「銀河鉄道999」公開。これも名作だったね。
 ラスト、鉄郎とメーテルの別れのシーンに流れるBGMがもう最高。
 あ、ファーストガンダムもこの年だったか。

1980「百光年ハネムーン」(梶尾真治)
 収録作は作者らしいロマンティックな作品。
 梶尾真治といったらやっぱり「美亜へ贈る真珠」だろうし
 「クロノス・ジョウンターの伝説」だろう。
 前者は、日本の短編SFベストテンを募れば必ず上位に入るだろうし、
 後者はマイ・ベスト・SFの五指に入る。
 ただ、長編は今ひとつ相性が合わない感じ。
 この年、劇場版「ヤマトよ永遠に」公開。ツッコミどころ満載。
 大学の同級生と一緒に大宮の映画館へ観に行った。
 今どきのシネコンではありえない立ち見だったよ。
 そして、TVアニメ「伝説巨神イデオン」放映開始。

1981「ネプチューン」(新井素子)
 作者のデビューは78年。17歳の女子高生作家誕生だったね。
 書店で著者近影を見て、「こんな可愛い子が書いてるんだぁ」
 って思ったのを憶えている。
 収録作は21歳で書いてる。SFとしても良く出来てるとは思うが
 ラブ・ストーリーとしてもかなり苦い結末の話を
 あの若さで書けるのはたいしたもの。
 栴檀は双葉より芳し、ってやつだね。
 この年、劇場版「さよなら銀河鉄道999」公開。うーん、いまいち。
 作らなかった方が良かったかなあとも思うが、
 鉄郎と再会するシーンのメーテルの神々しいまでの美しさ。
 どこかで読んだのだけど「アニメで描かれた最高に美しいメーテル」
 ってあったのもうなずける。

1982「アルザスの天使猫」(大原まり子)
 収録作はなかなかもの悲しい話。
 短編はいくつか読んだけど、本格的に読むことはなかった人。
 この人も著者近影が美人だったなあ(そこかい)。
 この頃は就職して2年目くらいで、
 いろいろと忙しかったりと余裕が無かった時機。
 読書量も激減してたので、そのせいもあるのかも知れない。
 なにしろ、当時買ってたSFマガジン(月刊)が1ヶ月で読み切れなくて、
 どんどんたまっていくんだもの。
 ついには本棚に入りきらなくなって、泣く泣く処分した記憶が。
 この年、TVアニメ「超時空要塞マクロス」放映開始。
 そして、大河スペースオペラ「銀河英雄伝説」刊行開始。
 これは夢中になって読んだ。ちなみに第1巻の初版持ってる。
 ・・・って、このブログのあちこちで書いてるよなぁ。


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パンツァークラウン フェイセズ [読書・SF]


パンツァークラウン フェイセズI (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズI (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/05/24
  • メディア: 文庫




パンツァークラウン フェイセズII (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズII (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫




パンツァークラウン フェイセズIII (ハヤカワ文庫JA)

パンツァークラウン フェイセズIII (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 吉上 亮
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

西暦2021年、東京は大震災によって壊滅した。
しかし20年後、高度に電脳化されて甦る。
その名は新東京特別商業実験地区・イーヘヴン。

全住民の行動履歴は集積・保管・分析され、
人々はUI(ユニバーサル・インターフェイス)と呼ばれる
ウェアラブル端末を装着して外界を視る。
人間を含めて、すべてのものにはICタグが付与されており、
視界に映るものすべてに付加情報が表示される。

都市の選択する未来は、全住民の行動履歴解析により最適化される。
<co-HAL>と呼ばれるそのシステムによって、
イーヘヴンは高度な自治を達成していた。

そして西暦2045年。主人公・広江乗(ひろえ・じょう)は、
3年ぶりにイーヘヴンに戻ってきた。
民間保安企業オルタナティブ・ハガナー社の
機甲実験小隊DT(Dark Tuorist)のメンバーとして。

彼の装備は<黒花>(ブラックダリア)と呼ばれる
漆黒の強化外骨格(パワードスーツ)。

乗に与えられた最初の任務は、列車事故によって
車内に取り残された二人の乗客の救出だった。

その一人、社美弥(やしろ・みや)は、3年前まで乗とともに
兄妹のように養父母の元で暮らしていた少女だった。
そしてもう一人は美弥の親友、識常末那(しきじょう・まな)。
彼女の養父はイーヘヴン創設者の一人であり、
3年前に乗が "追放処分" となった原因である
謎の爆発事故に深く関わっていた。

事故の真相を追う乗とDT小隊の前に、
イーヘヴンの壊滅を目論むテロリストが出現する。
その一人、ピーターと名乗る男は
乗の目前で純白の強化外骨格を "着装" する。
それはかつて "情報自衛隊" 士官・周藤速人とともに
行方不明になっていた<白奏>(ホワイトジャズ)だった・・・


物語は、DT小隊とテロリストたちとの壮絶な戦いをメインに、
3年前の爆発事故に秘められた真実、<黒花>と<白奏>の開発経緯、
そしてイーヘヴン創設にまつわる秘密が徐々に明かされていく。


分類すればサイバーパンクSF、だろう。

本書は文庫で全3巻になっているが、
1巻目を読んでいる時に感じたのは、
さまざまなアニメや特撮ものの影響だ。

攻殻機動隊の世界で繰り広げられるパワードスーツ同士の戦い。
いや、闇の中を黒いコスチュームに身を包んで戦う乗の姿には
ゴッサムシティの夜を走るバットマンをも彷彿とさせる。
そして、彼らの戦いは都市中に設置された、あるいは
空中を自由に舞うカメラが捉え、全住民に実況中継されるという
TIGER&BUNNYのような設定。

中盤で主人公がパワーアップした敵に敗れ、
新型(いわゆるMk.IIメカ)に乗り換えるのも
ロボットアニメならば王道展開だろう。

そして、ともに18歳のダブルヒロイン。


著者は1989年生まれというから、執筆時は23歳くらいか。
ならばそういうものの影響があって当たり前なのだ、が。
その気になれば、いくらでもライトノベル的に描けるのだろうけど
雰囲気はひたすらにダークでハードボイルドである。
作者は40代といわれても違和感がないくらい。


2巻の終盤から3巻のエピローグ前までは、一晩の出来事である。
イーヘヴン壊滅のために最後の大攻勢をかけるテロリストと
その阻止に全力を挙げるDT小隊の凄絶な戦いが
400ページにわたって繰り広げられる。


DT小隊にもテロリスト側にも、そしてイーヘヴンにも
魅力的なキャラが数多く登場する。
一人一人に詳細な背景が設定され、誰一人とっても
スピンオフの短編が成立するくらい書き込まれているのだが
いちいち紹介していると、この倍くらいの記事になってしまうので
残念ながら割愛することにしよう。


エピローグは10ページに満たないが、
凄まじいまでの戦闘描写で終始した本編を乗り越えて
生き残ったキャラたちのその後が坦々かつ穏やかに語られ、
そしてひたむきに一途だった少年と少女との
ラブ・ストーリーとして完結する。
読者もまた、面白い物語を読み終わった心地よい余韻に浸りながら
本を閉じることが出来るだろう。


最後に余計なことを一つ。

上述したように、とても面白く読ませてもらったんだが
一つ不満を言わせてもらうなら、装丁が地味すぎる。
なんせ1巻なんて、ほとんど真っ黒の表紙の上に
タイトルが記されてるだけなんだもの。
ビジュアル的に映えそうな要素はたっぷりあるのに
それを使わないのはもったいない。

黒髪ロングの正統派美少女・末那と、可愛い系の美弥、
状況に合わせて様々な形態を取れる強化外骨格<黒花>。
この3者を華麗なイラストで表紙にしたら、
それだけで売れ行きは何割か違ってくると思うんだがなあ。

まあ、あまり "萌え" を強調してしまうと
逆に敬遠してしまう人もいるから、加減が難しいだろうけど。
ちなみに本編には "萌え" 要素は希薄で、"燃え" 要素は満載。

とても面白い本なのに、装丁で損をしているように思えてねえ。


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Spiral めくるめく謎 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Spiral めくるめく謎 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Spiral めくるめく謎 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2008年に発表された短編ミステリから
日本推理作家協会が選んだベスト・アンソロジー。
文庫化に際して二分冊され、本書は後半の8編を収める。

読んでみてから気づいたが、8編中6編が既読だったよ・・・
うーん、積ん読もいい加減にしないとこういうことが起こるんだね。
今年の課題はいかに "積ん読在庫" を減らすかだなぁ・・・

「犭(ケモノ)」(道尾秀介)
 短編集「鬼の跫音」で既読。
 主人公は浪人生。刑務所の受刑囚が作成した椅子を購入したところ、
 その脚から受刑囚が記したとおぼしき文字と署名が見つかる。
 主人公はその意味を探るべく、受刑者の故郷へ向かうが・・・
 ミステリとしての出来はともかく、こういう凄惨な話は苦手だなあ。

「駆込み訴え」(石持浅海)
 短編集「攪乱者」で既読。
 政府打倒を企むテロリスト集団に所属するヒロインは
 組織からの命令で、あるコンビニでアルバイトを始めるが・・・
 事件そのものよりも、コンビニのバイトが
 体制転覆とどう結びつくかの "理屈づけ" のほうが面白かったりする。
 でもまあ、シリーズ全体を読めばともかく、本作だけを読むと
 このテロ集団は何を考えているんだろうって思われるだろうなあ。

「モドル」(乾ルカ)
 短編集「メグル」で既読。
 ヒロインの母親が、入院した父親の看病中に
 指にはめていた結婚指輪を紛失する。それがもとで
 もともと良くなかった両親の仲がさらに悪化してしまう。
 そしてヒロインが大学から紹介されたバイト先は
 父親が入院していた病院内の売店だった・・・
 短編集「メグル」はミステリ2作とホラー3作という構成。
 「モドル」は "日常の謎" 系ミステリとして良くできてた。
 でもホラー系は好きではないのでねぇ・・・

「第四象限の密室」(澤本等)
 短編集「新・本格推理08 消えた殺人者」で既読。
 これは短編ミステリを一般公募し、そのうちの
 優秀作を選んで一冊にまとめるという趣向の本。
 作者は、新人賞の入選経験はあるようだが、
 まだ本格的なプロではないはず。
 でもこのアンソロジーは、そういうところまで目配りして
 作品を選んでるんだねえ。
 内容としては、オーソドックスな密室もの、という感じ。
 密室内で起こった殺人の、唯一の "目撃者" が盲目だった、
 というのがユニークであり、かつ事件成立のポイント。

「身代金の奪い方」(柄刀一)
 「天才・龍之介がゆく!」シリーズの一編。これは既読ではない。
 所用で箱根を訪れた龍之介と従兄弟の光章は、
 女子高生の誘拐事件に巻き込まれ、
 図らずも身代金の運搬係をする羽目になる。
 携帯電話で下される犯人の意外な指示に右往左往する警察、
 そしてその内容から犯人の意外な目的を見抜く龍之介。
 ラストに至って「なるほど」と納得する犯人の正体でした。

「渋い夢 永見緋太郎の事件簿」(田中啓文)
 短編集「辛い飴」で既読。
 ジャズミュージシャン・永見緋太郎を探偵役とするシリーズの一編。
 趣味が高じて自宅にライブスペースを作ってしまった会社社長。
 そこでコンサートをすることになった氷見が属する唐沢クインテット。
 しかしそのスタジオはしばしば楽器がなくなり、コンサート直前には
 なんとグランドピアノが一台まるまる姿を消してしまった・・・
 ピアノ消失のトリックは、まあそれしかないだろなぁ。
 でも、毎度のことながら、彼らの演奏シーンの楽しそうなこと。
 このシリーズ、読むたびにジャズを聴きたくなって
 YouTubeを開いてしまう。

「しらみつぶしの時計」(法月綸太郎)
 短編集「しらみつぶしの時計」で既読。
  ある組織の研究員に応募した主人公が課されたテスト。
 デジタル・アナログ取りそろえた1440個の置き時計。
 しかもすべて1分ずつずれている。24×60=1440だからね。
 この中から、正しい "現在の時刻" を示している時計を
 見つけ出さねばならない。タイムリミットは6時間。
 正しい時計を見つけていく論理展開もスゴイが
 まず、こういうシチュエーションを考えつく発想がスゴイよね。

「ハートレス」(薬丸岳)
 これも既読ではない。
 元暴走族のリーダーだったホームレス・翔太が殺害される。
 その捜査に現れたのは、およそ刑事らしくない刑事・夏目。
 ある事情から同じホームレス仲間になった男・雅之は、
 夏目の口から、翔太がかつて傷害致死事件を
 起こしていたことを聞かされる。
 謎解き要素よりも、犯人や登場人物の心情描写がメイン。


8編中6編が再読だったけど、あまり気にならなかった。
それだけ、作品として良く出来たものが多かったということだろう。
ただまあ、時間も無限にあるわけではないので、
今後はこうならないように、アンソロジーはあまり積ん読に回さないで
早めに読むことを心がけようと思う。


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