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金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび [読書・ミステリ]

金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび (角川文庫)

金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび (角川文庫)

  • 作者: 芦辺 拓
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

私と同年代の方なら、明智小五郎と怪人二十面相の対決に
心を躍らせたことがあるだろうし、
40代以上の方なら、角川文庫での復刊をきっかけに起こった
1970年代の "横溝正史ブーム" をご存じだろう。
石坂浩二や古谷一行が演じる金田一耕助が。銀幕やTV画面で
大活躍していたものだ。

そんな日本が誇る二大名探偵の夢の共演をえがいた
パスティーシュ作品集の第二弾である。


「明智小五郎対金田一耕助ふたたび」
 約120ページの中編。
 冒頭、1945年のニューギニアで
 金田一耕助が玉音放送を聞くシーンから始まるなんて
 なんとも憎い演出じゃないか。
 言われてみればそんなことがあってもおかしくないわけで、
 こういうところがこの手の "二次創作" の醍醐味だろう。
 この2年後、復員して探偵事務所を開業した耕助が
 没落した貴族・柳条家の御曹司・月光(つきみつ)の
 訪問を受けるところから物語は始まる。
 ところがこの御曹司が殺害され、なぜか被害者は
 事切れる直前に明智小五郎のところへ電話を入れており、
 かくして二人の名探偵が事件解決を競うことになる。

「金田一耕助 meets ミスター・モト」
 約20ページの掌編。
 1935年、アメリカで遊学していた金田一耕助が、
 日本へ帰る客船の中で謎の人物から奇妙な依頼を受ける。
 寡聞にして「ミスター・モトって誰?」だったのだが
 巻末のあとがきによるとアメリカ人作家J・P・マーカンドの
 作品に登場する東洋人の名探偵とのことだ。
 これは日米の名探偵の共演、という趣向なのだろう。
 本作とは全く関係ないけど、
 金田一耕助のアメリカ滞在時代の事件といったら
 なんといっても「僧正の手毬唄」(山田正紀)が面白かったなあ。
 また誰かあんな作品を書かないかなあ・・・

「探偵、魔都に集う - 明智小五郎対金田一耕助」
 約100ページの中編。
 1941年。南方戦線で負傷した金田一耕助は上海の病院に送られる。
 療養中の耕助は、本の取り持つ縁で親しくなった大道寺少尉と共に
 夜の上海へ繰り出すが、その少尉が殺害される。
 殺人の容疑をかけられて窮地に陥った耕助を救ったのは、
 軍の防諜任務のために上海に滞在していた明智小五郎だった・・・
 「魔都・上海」って言葉、フィクションの世界では
 盛んに聞くのだけれど残念ながら私は行ったことがない。
 ミステリ好きなら生きてるうちに一度くらいは行っとくべきか?

「物語を継ぐもの」
 約20ページのショートショート。
 ミステリと言うよりはメタフィクション?
 ここに描かれてるのは、たしかにここ数年の
 フィクションの一つの潮流だよねえ。
 でもまあミステリに限らず、ライトノベルや深夜アニメなんかに
 特に顕著に現れてるような気がする。
 これがいいのか悪いのか。長く続くのかそれとも
 ここ数年の流行に過ぎず、何年か先にはまた変わっているのかは
 分からないけれどね。
 個人的には、数年後にはまた流れが変わっていると思うんだけども。
 (読んでない人には何が何だかわからないですね、スミマセン。)

「瞳の中の女異聞 - 森江春策からのオマージュ」
 金田一耕助の登場する作品中、
 唯一、明快な解決の為されていない短編「瞳の中の女」。
 この事件の真相に、作者の分身たる若き日の森江春策くんが挑む。
 最後の事件である「病院坂の首縊りの家」の解決後、
 アメリカへ旅立った金田一耕助が再び日本へ戻り、
 18歳の春策くんと対面を果たす。
 ここは作者の願望を叶えたシーンなんだろうなあ。


人口に膾炙したキャラを使って新たな物語を紡ぐのは
楽しい作業なんだろうけど、プレッシャーもあるんじゃないかなあ。
上手く出来て当たり前で、ミステリとしての出来が悪ければ
もうコテンパンにけなされることもあるかも知れない。

そんなことをすべて承知の上で、パスティーシュに挑戦してくれた
作者に素直に感謝したい。
金田一耕助の、そして明智小五郎の活躍する物語が
また読めるのだから。
なかなかネタを考えるのは大変かも知れないけれど、
このシリーズ、何年かに一冊でいいから続けて欲しいなあ。

できれば、他の作家さんたちにも、
新たな物語の語り手として参加してもらえるとなお嬉しいんだけど。


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本好きへの50の質問 その5(41~50) [読書全般]

「本好きへの50の質問」への回答、その4の続きです。
いよいよオーラスでございます。

質問の提供サイト様はここです。


41. 好きな作家・作品には有名になって欲しくない、
 面白さを独り占めしたい……そう思ったことはありますか?
 あるとしたら、それはどの作品に対してですか?

 それって「いつまでもマイナーな存在であって欲しい」
 ってことですよねえ。
 それはそれでちょっと歪んだ愛情かと(笑)。
 やっぱり好きになった作家さんには
 いつかはブレイクしてほしいですよねえ。
 人気が出れば、基本的には嬉しいです。
 (まあ、ちょっと淋しい気持ちも無くはないですけどね・・・)
 そんでもって、
 「オレには先見の明があるんだなあ」とか
 「いい作品を見分ける眼力があるんだなあ」とか
 密かに自画自賛するわけですね(爆)。
 前にも書きましたが「銀河英雄伝説」(田中芳樹)の
 徳間ノベルス版の第1巻を初版で買ったのは、
 今でも自分で自分を褒めてやりたいですねえ。
 初版ではタイトル末に「1」ってついてなかったんですから。
 (売れなければ1巻だけで終わる可能性もあったので)


42. エッセイ・随筆で気に入っている作品を教えてください。

 その手の作品は今ではほとんど読みませんねぇ。
 若い頃に北杜夫の「どくとるマンボウ」シリーズと
 遠藤周作の「狐狸庵先生」シリーズは面白くてよく読みましたが。


43. あなたが新刊をチェックするために使う手段を教えてください
 (例:新聞の広告欄、雑誌の記事等々)。

 新聞広告と出版社のWebサイトをまめにチェックしてます。
 主に文庫を買ってるので、大洋社のWebサイトの
 「文庫新刊」のページはよく見ます。
 あと、出版社がメールマガジンを発行してれば、
 それを配信してもらってます。


44. この本を読むと行ってみたくなる……
 題名と、場所の名前を教えてください。

 歳をとってきたせいか、日本の古い文化が
 気になるようになってきました。
 前の質問にも答えましたが、「QED」(高田崇史)や「カンナ」(同)を
 読んでると、出雲大社へは行ってみたくなりますね。
 「二人とも退職したら、京都とかのんびり歩いてみたいなあ」
 って、最近かみさんとよく話してます。
 そんなに先のことじゃありません。あと数年です。


45. この本を読むと食べたくなる……題名と、食品名を教えてください。

 北森鴻さんの短編に、出てくる食事やお酒が
 美味しそうなシリーズがありましたよね。
 好きな作家さんだったんですけど早世されてしまって残念です。


46. 印象に残っている形容詞や擬音、造語などはありますか
 (作品名も教えてください)。

 たくさんあるはずなんですけど、いざ聞かれると出てこないものです。
 記憶に出てくるのは、やっぱり若い頃に読んだ本ですね。
 眉村卓さんの「産業将校」とか「産業士官候補生」なんて、
 今から考えるとすごい造語だと思います。


47. この本にはこの音楽、密かに決めている組み合わせはありますか?

 うーん、特に決めてませんねえ。
 たまに音楽を流しながら読みますけど
 その時の気分でクラシックだったりジャズだったり
 たまにアニソンかけて(笑)。
 動画投稿サイトの「作業用BGM」なんかもたまに。


48. これから読もうと思っている本の題名と作家名を教えてください。

 実は私は、「積ん読」状態の本をすべてリストにしてあって
 (ちなみにExcelファイル)、とりあえず読む順番も決めてあるんです。
 必ずしも発行順ではないんですけどね。
 新刊は基本的にリストの最後に並ぶはずなんですけど、
 ものによっては割り込んできたりします。
 とは言っても、何せ「積ん読本」が100や200じゃ
 収まらないくらいあるんで、リストの最後の本に辿り着くのは
 何年先になることやら。
 いまでも、買ってから読むまで4年くらい空くのは
 ごく普通だったりします。(←そんなわけないですよねぇ)
 今でも、日々リストの末に本が追加されている状態です。
 ああ、死ぬまでに読み終わるのだろうか・・・
 閑話休題。
 えーと、今読んでるのは
 「金田一耕助vs明智小五郎 ふたたび」(芦辺拓)で、
 その次は「十三回忌」(小島正樹)で、その次は(ry


49. あなた自身に対して、本に関する質問をひとつ作り、
 答えてみてください。

 ・1ヶ月に本に使うお金は?
 ・1日のうち、何時間くらい読んでるか?
 ・1時間で、文庫なら何ページくらい読めますか?
 とか、いろいろ考えたんですけど、やっぱりこれですかね。
 「どうやって読書の時間をひねり出しますか?」
 私は現在、自動車通勤なので、
 職場への行き帰りで読むってことができません。
 そんな私の場合は細切れ時間を活用、ですかね。
 例えば炊事の合間も文庫本を広げることがあります。
 でかい鍋でお湯を沸かすとか、パスタをゆでるとか、
 その間は割とヒマなので・・・
 (共働きなので私もけっこう料理を作るんですよ。
  レパートリーは少ないですが・・・)
 まあ、一番時間が取れるのは食事後ですね。
 皿や茶碗を食器洗い機に放り込んだ後、
 居間に寝そべって読み始めます。
 でも、平日にこれをやるとたいてい途中で寝てしまうんですよね。
 起きたら日付が変わってた、なんて日常茶飯事です。
 (典型的なダメ人間だって家人からは言われてます。)


50. 本とあなたの関係を例えて言うなら、どんな感じになりますか?

 前の方の質問で「人生の伴にして友」とか答えました。
 思えば小学3年生くらいから読書にハマってますので
 かれこれ50年近い付き合いです。
 かみさんより遥かに長く一緒にいますので、もう空気みたいなモノ。
 自分の周囲に本があって当たり前な生活です。


最後の質問ですが、かみさんからしたら、
私の存在こそ空気みたいなモノかも知れません(笑)。
ちなみに私にとっては、かみさんは空気ではありません。
だって、空気はあんなに毎日大騒ぎしませんから(爆)。

これで「100の質問」も「50の質問」も答えてしまいました。
ここのところ、質問の答えを考えるのが密かな楽しみになってたので
終わってしまって非常に残念です。

何か面白そうな「質問」シリーズ、ありませんかね?


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最後の敵 [読書・SF]

最後の敵 (河出文庫)

最後の敵 (河出文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

巻末にある初出の記載によると、本作品は
1981年から、今は亡きSF専門誌「SFアドベンチャー」に連載され、
1982年に単行本化。文庫化が1985年とあるので
たぶん私が読んだのはこの文庫版だろう。
ということは、29年ぶりの再読ということになる。
道理で内容をほとんど忘れてるわけだ・・・
ちなみに第3回日本SF大賞受賞作。


遺伝子工学を専攻する大学院生・森久保与夫(もりくぼ・よぶ)。
彼は原因不明の性的不能状態に陥っていたが、
彼の悩みはそれだけではなかった。
"自分には戦うべき敵がいる" という、強迫観念にも似た思い。
心の底には、かつて自分は藻類だった、あるいは肺魚だった、という
"太古からの生物進化" をなぞるような、謎の "記憶" 。

与夫は精神分析医の鳥谷部麻子(とやべ・あさこ)の元を訪れて
治療を受けるが、二人はなぜか強く惹かれ合うものを感じる。

そして、与夫の前に現れた謎の女性、大木うるわし。
彼女の語る「カローン」とは何か。
赤いマフラーの美青年・醍醐銀(だいご・ぎん)は敵か味方か。

物語が進むにつれ、与夫の暮らす世界は不気味に変貌を遂げていく・・・


山田正紀がデビューしてから7年後の作品らしいんだけど
テーマ的には処女作「神狩り」と共通しているような気がする。
私には、本書における与夫の "敵" である「○○」は、
ほとんど「神」とイコールのような概念に思えるから。

 ていうか「○○」を「神」と入れ替えても、
 この作品は成立してしまうんじゃないかなあ・・・

この頃の山田正紀の作品のテーマを
「超絶対者への挑戦」って書いた文章を
むか~し読んだ記憶があるんだが、まさに本書は
およそ人が戦えるような相手じゃない強大な "敵" に対し、
果敢に挑み続ける人間たちを描いている。
それも、超人的なヒーローじゃなく、本書の与夫のように
不器用で自分に自信が持てないような "弱い" 人間が、
勇気を振り絞って圧倒的な強者に立ち向かっていく。
これがなかなかいいんだなあ。

山田正紀の描く冒険小説には、
"プロフェッショナルvs素人" を描いた作品がたくさんある。
例えば「火神(アグニ)を盗め」とか「謀殺の弾丸特急」とか。
常識的にはまず勝てないプロを相手に、素人ならではの発想と行動力で
プロの盲点を突いて逆転していく、ってパターン。

このあたり、山田正紀の好きな創作テーマは
SF/非SFを問わず、一貫しているんだろうと思う。

やっぱり山田正紀は面白い。改めてそう実感した。

・・・と思ったら、なんと「謀殺のチェス・ゲーム」が
ハルキ文庫から再刊されてるのを見つけてしまったぞ!

うーん、読もうかなあ・・・
でも、30年くらい前の初読の時に、ものすごく感動した
「インベーダー・サマー」(菊地秀行)を、何年か前に再読したら
ちょっとがっかりしたことがあったので
(たぶん私の感性が鈍ってしまったんだね)
「チェス-」は読むのが恐ろしくて手が出せないでいる。
「この本はめちゃくちゃ面白かったなあ・・・」って
キレイな思い出に留めておいた方が幸福なのかなぁ。

いやいや山田正紀だからきっと大丈夫?
それとも・・・?


最後にどうでもいいことを2つ。

冒頭にも書いたけど29年ぶりの再読で、
内容もほとんど憶えていなかったんだけど
なぜか最後の最後、結末まで40ページを切ったあたりの
クライマックスシーンだけは憶えていたよ。
よっぽど印象が強かったんだろうねえ・・・
ちなみに、与夫と銀が○○○で○○をするシーンです。

あとひとつは、本書に登場する大木うるわし女史。
れっきとした女性だし、顔だけ見ればけっこう美形らしいんだが
読んでいると、どうしてもマツコ・デラックスが浮かんできてしまう。
まあその堂々たる体躯と、話し方が彼女(?)にそっくりなんだよなぁ。


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最後のトリック [読書・ミステリ]

最後のトリック (河出文庫)

最後のトリック (河出文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「意外な真犯人」ってのはやっぱりミステリの醍醐味の一つだろう。
「モルグ街の殺人」もいい加減ぶっ飛んだが
やっぱりクリスティのアレとかコレとかが究極のソレだったなあ。

さて、そんな中で最後に残された「意外な真犯人」、
そして未だ誰も書いたことのないパターン。
それは「読者が犯人」っていうヤツ。

本書は作者のデビュー作「ウルチモ・トルッコ」を
大幅に加筆修正し、改題したものとのことだ。
ちなみに旧題はイタリア語で「究極のトリック」という意味らしい。

閑話休題。紹介に入ろう。


新聞連載のアイデアが浮かばずに苦しんでいたミステリ作家の「私」。
そこへ香坂誠一と名乗る人物から手紙が舞い込む。

「私は『読者が犯人』という不可能トリックのアイデアを持っている。
 ついては、これを2億円で買って欲しい。」

突然そんな提案を受けて困惑する「私」だが、
香坂からの手紙はその後も続々と届いてくる。
彼の生い立ちを語るかのような "手記" とともに。

メインのストーリーとは別に、さまざまなエピソードが挿入される。
ここではいちいち挙げないけれども
関係が無さそうに見えるこれらの諸々が、実に巧妙な伏線になっている。

中盤過ぎあたりで、「私」と香坂の間に
意外なつながりがあったことが明らかになり、ラストでは・・・


「読者」が小説の中の人物を "殺す" なんてことが可能なのか?
「読者が犯人」なんて "離れ業" が成立するのか?

まあ「大リーグボール2号」なみの "超変化球" なので、
この結末を評価するかしないかは、
人によって、あるいは好みによってけっこう分かれるだろう。

私は「良く考えついたなあ」とは思う。
発想は凄いし、それを作品化した努力は買うけど、
「好きか嫌いか」って聞かれたらちょい微妙かなあ・・・

でも、結末まで読んでも、
「裏切られた」ような気分にはならなかったので、
良くできている小説なのは間違いないだろう。
実際私は★3つをつけたし。

気になる方はぜひ読んでみてはいかがかと。


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もろこし銀侠伝 [読書・ミステリ]

もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)

もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/18
  • メディア: 文庫



評価:★★★

東京創元社主催の第3回ミステリーズ!新人賞受賞作「殺三狼」を含む、
短編3作(いずれも文庫で約50ページ)と、
中編1作(文庫で約150ページ)を収録した作品集。

タイトルの「もろこし」とはもちろん「中国」のこと。

かつて伝説の名君・「黄帝」は、自分亡き後に世が乱れることを憂い、
信頼する家臣・游に "銀牌" なるものを与えた。

 この "銀牌" とは、要するに水戸黄門の印籠みたいなモノで、
 これを持つ者は超法規的に悪を制裁することが許されるらしい。
 007における "殺人許可証" みたいなモノとも言えそうだ。

この天下御免の "勧善懲悪権" を受け継ぐ者たちが探偵役となって、
さまざまな怪事件に挑み、悪人を退治していく歴史ミステリである。

「殺三浪」
 口に入れる物は常に毒味を怠らなかった商人・李小遊が毒殺される。
 唯一毒味をしなかったのは薬のみだったので、
 薬屋・蒲半仙が捕らえられてしまう。その一人娘・蒲公英は
 半仙の店に出入りする謎の老人・雲游の助けを借りて
 父の容疑を晴らそうとするが・・・

「北斗南斗」
 科挙を受けるために旅の途中の若者・顔賢。
 寝付けずに、真夜中に外へ出たところ何者かに襲われて意識を失う。
 気がつけば、傍らには女の死体が転がっていて、
 周囲には顔賢以外の足跡はなかった・・・

「雷公撃」
 屋敷の離れで轟いた銃声に使用人たちが駆けつけると、
 そこには屋敷の主人・単震雷の死体が。
 しかも離れは内側から閂がかかり、
 誰も出入りすることは不可能だった・・・

「悪銭滅身」
 出来心から盗みを働いた魚屋の韓六郎が殺される。
 そして、生前の彼が接触したとおぼしき人々まで次々に殺されていく。
 若き遊び人・燕青が、謎の道士・抱壺とともに、連続殺人の謎に挑む。
 ちなみにこの事件の3年後、燕青は梁山泊に加わることになる。


使用されているトリックやギミックは、
現代のミステリではいささか無理がありそうだったり、
ちょっと荒唐無稽に見えそうに思う。
でも、この作品世界の中ならさほど不自然さを感じない。
まあ宋とか明とか元とかの、世界史で習ったような時代の中国なんて、
我々からしたらほとんどファンタジーの世界だからねえ。

そんなことより、"銀牌" を受け継いだ好漢(探偵)たちが、
クライマックスで繰り広げる悪人(犯人)相手の大立ち回りを
拍手しながら楽しむのが本書の正しい読み方だろう。

4作とも、時代も違えば探偵役も異なるのだけど、
読んでると一概にそうとも言えないような気もしてくる。
「殺三浪」に登場する老人・雲游と少女・蒲公英が
時を超え名を変え姿を変えて活躍しているようにも読める。
まあそのあたりは読者の想像に任せているんだろう。

このシリーズは、現在「もろこし紅游録」「もろこし桃花幻」と
続巻が2冊出ている。
いずれも手元にあるので、近々読む予定。


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赤朽葉家の伝説 [読書・ミステリ]

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/09/18
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

桜庭一樹って、かなり前に長編のSFを一作読んだことがあるんだけど
さっぱり分からなかったので、それ以後ずっと敬遠してた。

だから本作もどうしようか迷ったんだけど、
けっこう面白いって評判になったらしいし、
第60回日本推理作家協会賞の受賞作にもなった。

賞の権威ってのをあまり信じる方ではないんだけど、
(ていうか一部の賞はほとんど信じてないんだけど)
受賞作でなかったら読まなかったかも知れないので、
賞をもらうってのはやっぱり大事なんだろうと思う。

閑話休題。紹介に入ろう。

中国山脈の奥深くに隠れ住むという "辺境の人" の一族。
彼らによって、一人の女児が人里に置き去りにされた。
彼女が10歳になった1953年に物語は始まる。

ある日、たまたま道で出会った年配の女性になぜか気に入られる。
「あんた、大きくなったらうちの嫁にきなさい」
その女性こそ鳥取の旧家にして製鉄業を営む大富豪、
赤朽葉(あかくちば)家の大奥様・タツであった。

その日から10年後、タツの言葉通りに
赤朽葉家嫡男・曜司の元へ輿入れしたのが
本書の主人公、赤朽葉万葉(まんよう)である。

万葉には不思議な力があった。
幼少の頃より、ときおり未来が "視える" ことがあるのだ。
彼女はその力によって後に "赤朽葉家の千里眼奥様" と
呼ばれるようになる。

しかし、その力は必ずしも彼女を幸せにはしない。
時として "望まぬもの" まで視えてしまうのだから・・・

奇妙な巡り合わせから旧家に嫁いだ万葉と、
赤朽葉家の一族がたどる、数奇な運命が
時代の流れと共に綴られていく。

東京オリンピック、高度成長、オイルショック、バブル景気・・・

赤朽葉家の盛衰と、戦後の日本が歩んだ歴史とが
二重写しのようになって描かれ、
赤朽葉家の "企業城下町" である紅緑村は、
さながら日本の縮図のようである。

物語は万葉の長女・毛毬(けまり)、孫の瞳子(とうこ)へと続き、
作中時間でおよそ60年以上にもおよぶ、"女三代記" とも呼ぶべき
「大河ドラマ」になっている。

私は世代的には万葉と毛毬の間になる。
(毛毬は丙午・1966年生まれ)
だから本書に描かれた戦後の風俗もかなり分かる。
いままで "歴史物" とか "年代記" っていうと、
自分からかけ離れた過去の話ばかりだと思ってたんだけど
本書では "実感できる" というか
 "実際にその中を生きてきた" ものばかりで
「自分の生きてきた世界が "歴史" になりつつある」のを
実感して、なんだか複雑な気持ちになった。

 まあ、手っ取り早く言えば
 それだけ歳をとったって事なんだなぁ・・・

文庫で約450ページ(しかも活字もやや小さめに組んである)と、
決して短くはないけれど、読み始めるとけっこう引きつけられる。

何と言ってもキャラクターがいいんだろう。

一介の孤児から、運命の波に弄ばれているかのように、
あれよあれよという間に旧家の若奥様になり、4人の子の母となり、
しかし苦難や逆風にも折れることなくしなやかに生き続け、
そしていつのまにか赤朽葉家の大黒柱へと成長していく万葉。

その娘・毛毬は、資産家に産まれながらも、
暴走族 "製鉄天使(アイアン・エンジェル)" のリーダーとなり、
中国地方を走り回って "縄張り" を広げ、
やがて暴走族を引退後は、なんと漫画家へ転身し、
自らの不良時代の経験を描いて大ヒットを飛ばすという、
とんでもなく破天荒な女性として描かれている。

そして孫の瞳子は、自らの平凡さに悩みながらも、
この物語全体の "語り手" となっている。

この3人以外にも実に多彩な登場人物たちが物語を盛り上げていく。

なかでも、学生時代の万葉をいじめる悪役として登場しながら
年代を重ねるうちに、いつのまにか親友となってしまう
黒菱みどり嬢がいいなあ。後半の彼女の登場シーンはとても楽しい。

ミステリとしては、終盤に一つの謎が提起される。
万葉が最後に残した言葉の意味を、瞳子が解き明かすのだが、
この謎解きがそのまま物語の終幕につながるというつくり。

読み終わって感じたのは、
この物語の世界から離れたくないなあ・・・
もう少し、赤朽葉の人々の暮らす世界に浸っていたいなあ・・・
という思いだった。
それだけ、魅力的な作品世界だったと言うことなのだろう。

巻末の「文庫版あとがき」によると、
初稿では毛毬の暴走族時代のエピソードがたくさんあったのだが
完成稿ではごっそり削ったのだという。
でも、削った分は後に加筆し、
「製鉄天使」という別作品として刊行されたとのこと。

近いうちに、そちらも読んでみようと思う。


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本好きへの50の質問 その4(31~40) [読書全般]

「本好きへの50の質問」への回答、その3の続きです。

質問の提供サイト様はここです。


31. 季節を題材にしたもので印象的な作品を、春夏秋冬それぞれ
 あげてみてください。

 春:「絡新婦の理」(京極夏彦)
  いちおう春のイメージということで・・・
  "百鬼夜行シリーズ" って面白いんだけど、長すぎると思うんだ。
 夏:「インベーダー・サマー」(菊地秀行)
  初読の時はものすごく感動したんだけど、
  20年後くらいに再読してみたら・・・あれ?
  歳を取って感性が鈍るってこういうことなのか・・・
 秋:うーん、思いつかない・・・
 冬:「ホワイトアウト」(真保裕一)
  刊行当時、"雪山版ダイ・ハード" とか言われてたけど、
  本家を超えるアクションとサスペンスと感動でした。
  個人的には真保裕一のベスト1で、和製冒険小説でも屈指の作品。


32. 時間をテーマにした作品で、印象的だった作品を教えてください。

 タイムトラベルSFもけっこう読みましたけど、
 やっぱり大学の頃に読んだ豊田有恒の初期の時間ものかなあ。
 「モンゴルの残光」とか「退魔戦記」とか。
 特に前者は、過去の改変によって生じる、
 分岐したもう一つの歴史の内容に衝撃を受けました。


33. スポーツをテーマにした作品で、印象的だった作品を
 教えてください。作品の魅力は、どんなところですか。

 あまりスポーツをしない人間で、スポーツに関する小説も
 ほとんど読まないので答えにくい質問ですねぇ。
 えーと、記憶の底を引っかき回してみると・・・あった!
 「ウインブルドン」(ラッセル・ブラッドン)ですね。
 (私が読んだのは新潮文庫版だったかな。
  今月末(2014年10月末)に創元推理文庫で再刊されます。)
 純粋なスポーツ小説ではなく、サスペンスですね。
 友の命を守るために大奮闘をする青年が描かれます。
 その舞台はタイトル通り、ウインブルドンのセンターコート!
 思い起こせばこの小説、
 内藤陳の「読まずに死ねるか!」で知ったんだよなあ。
 内藤さんにはたくさんオモシロ本を紹介してもらいました。合掌。


34. 伝奇という言葉から浮かぶ作品を教えてください。

 もう伝奇と言えば半村良。半村良と言えば「妖星伝」でしょう。
 最終巻がなかなか出なくて読めなかったことを覚えてます。


35. 学生の姿がリアルにかかれている作品を教えてください。
 作品の魅力は、どんなところですか。

 私自身、まともな学生生活を送っていた自覚がないので
 どんな学生がリアルなのかがよくわかりません。
 好きなジャンルがミステリとSFなので、
 あまりリアルすぎるのも作品にそぐわない気がします。
 そうはいっても、青春まっただ中なのですから
 勉強でも部活でも、何でもいいので、とにかく
 一生懸命に何かに打ち込んでいる学生が出てくれば
 楽しく読めます。
 恋愛描写もキライではありませんが、
 ドロドロしたものは読みたくはないです。
 学生の分際でなんじゃあ、なんて思います。
 やっぱ私は古~い人間なんですねぇ。
 スミマセン、答えになってませんね。

36. 異世界という言葉から連想する作品を教えてください。

 ヒロイックファンタジーですね。
 まず思い浮かぶのは「グイン・サーガ」(栗本薫)。
 100巻を超えてますが私自身は20巻あたりでギブアップしました。
 栗本さんはお亡くなりになりましたが、他の作家さんが書き継いで
 続巻が出てますよね。
 退職して時間ができたら、改めて1巻から読んでみようかなぁ。
 「エルリック」とか「エレコーゼ」とかもいろいろ読みましたけど
 やっぱり「アルスラーン戦記」が面白かったなあ。
 これも、完結したら頭からもう一度読もうと思ってるんですけど
 いつになるのでしょうね・・・


37. 都会を舞台にしているもので、印象的な作品を教えてください。
 その作品の魅力は?

 あまり都会とか田舎とか意識して読んだことないので・・・
 「新宿鮫」(大沢在昌)は一時期好きで5巻目くらいまで読んだかなあ。
 そのあとはなぜかくじけましたが・・・
 "都会" を舞台にすると暴力団とかマフィアとか麻薬とか銃とか
 話がノワール系に行きやすい気がして(←偏見です)。
 "都会" とは、遊びに行くところで住むとことではないって思ってます。
 私が今住んでるところも、適度に都会で適度に田舎でいい案配です。


38. 宇宙が舞台になっているもので、印象的な作品を教えてください。

 「宇宙戦艦ヤマト」がSFにのめり込むきっかけになった私にとって、
 宇宙が舞台のSFは大好きです。
 「燃える傾斜」(眉村卓)もなかなかスケールの大きな宇宙SFでしたけど
 もう一作挙げるなら「地球の汚名」(豊田有恒)ですね。
 あの "忠臣蔵" のストーリーを、星間戦争ものに仕立て上げたSFで
 なかなか壮大なスペースオペラが堪能できます。


39. 本に登場する乗り物のなかで、実際に乗ってみたいものは
 ありますか?(あれば、乗り物の名前と作品名を教えてください)。

 小説じゃないけどマンガ「ドラえもん」のタイムマシンだなあ。
 行くなら、高校入学か大学入学の時に戻って、
 その時の自分に活を入れてやりたい。
 「遊ぶなら遊ぶ! 勉強するときは勉強する!
  中途半端なことは止めて、もっと徹底的にやれ!」って。


40. 現実には無いけれど、持ってみたい……
 そんな、フィクションならではの能力はありますか?

 それはもちろん予知能力でしょう。
 何年も先なんて言いません。たった1日、いや数時間先でもいいです。
 それさえあれば競輪競馬とか百発百中で
 左うちわで暮らせるじゃないか・・・
 ああ、なんて小さい人間なんだオレは。


ミステリとSFばかり読んできて、
自分でも「読む本のジャンルが狭いよなあ」って思うんですけど
この「100の質問」や「50の質問」に答えてると
「けっこういろんなモノ読んできたんだなあ」とも思います。
これからどうしようかなあ。
新たなジャンルに挑戦するか、好きなジャンルを極めるか・・・
それもこれも、これから出会う本によりますかねえ。


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本好きへの50の質問 その3(21~30) [読書全般]

「本好きへの50の質問」への回答、その2の続きです。

質問の提供サイト様はここです。


21. “本は人の(   )である”。
 ( )のなかに適当な単語を当てはめてください。

 「伴にして友」
  生まれてから今までの人生を、
 そしてこれからの(たぶん死ぬまでの)人生を一緒に歩んでいく。
 そういう存在なんでしょう、きっと。
 でもそのうち視力が衰えて、ろくに読めなくなりそうなのが怖い。


22. 短篇の名手だと思う作家、長篇の名手だと思う作家の
 名前と作品名をお願いします。

 どちらもたくさんいらっしゃると思いますが・・・
 とりあえず思いついたのを一人ずつ挙げます。
 ・短編:連城三紀彦
   「戻り川心中」に代表される "花葬" シリーズは絶品です。
 ・長編:福井晴敏
   「終戦のローレライ」も「オペレーション・ローズダスト」も
   大長編にもかかわらず中だるみもせず、
   クライマックスは壮烈に盛り上げて読者を魅了してくれます。


23. 女性は男性に、男性は女性に「読んで欲しくない」と思う様な本は
 ありますか? 作品の題名と理由を教えてください。

 うーん・・・特にありませんねえ。
 まあ、「女性にはこの作品の良さが伝わりにくいかなあ」
 って思う本はあったような気もするんですけど
 題名が思い出せない・・・


24. 完結しているけれど続きを読みたい、外伝を読みたい……
 そんな作品はありますか?

 もうたくさんあります。
 登場するキャラが生き生きと描写されている作品は、
 物語が終わった後も彼ら/彼女らの行く末が気になる・・・
 でも、無理して続編を作ってグダグダになるより
 「もう少し読みたいなあ」ってところでスパッと終わらせるのが
 美しいのでしょうねぇ。
 「クジラの彼」(有川浩)みたいに、長編の後日談を
 キャラ別に短編で書く、ってのは上手い方法だと思いましたね。


25. 情景描写が魅力的だと思う作家を、教えてください。

 改めて聞かれると考えてしまいますね・・・
 前の質問でも出ましたが、連城三紀彦ですかねえ。
 「六花の印」での、雪の舞う夜の描写なんてもう素晴らしいの一言。
 それがまた巧妙な伏線になってるなんてもう・・・


26. 心理描写が巧みだと思う作家を、教えてください。

 巧みというか濃厚なのは佐々木丸美ですかねえ。
 「孤児四部作」なんて、ヒロインの内面の心理描写が
 これでもかこれでもかと延々と続いて、息苦しいほど。
 でも、これが不思議と読ませるんですよね・・・
 発表した作品がみな相互に関連性を持つ
 "佐々木丸美ワールド" ともいえる同一世界内の物語になっていて、
 早世されなければ、もっともっと作品世界が広がったでしょう。
 

27. 生理的に受け付けない本は、ありますか?

 基本的にホラー全般は苦手です。特にスプラッター系はダメですね。
 あと、ノワールものもダメ。要するに後味の悪いものは苦手です。
 ベタなハッピーエンドというやつがけっこう好きなもので。
 アンハッピーなエンディングであっても、
 そこに至るまでの流れが納得できれば許容します。
 ただ、アンハッピーな作品ばかり読んでると心が荒んでくるので(笑)
 たまに出くわす程度がいいですね。


28. 本の内容・世界を舞台にした夢を見たことがありますか?
 あるとしたら、それはどんな夢でしたか。

 もともと夢というものをほとんど見ない人なんです。
 たまに見ても、「仕事が失敗した」みたいな悪夢ばかり(笑)。
 好きな本の内容が再現されるような楽しい夢を、
 一度は見てみたいものです。


29. 本に登場するキャラクターの中で、外見や性格が最も自分に
 似ているのは?

 「100の質問」にも答えましたが、
 御手洗潔の相棒の石岡和己ですね。
 wikiに書いてある内容を読むと、
 外見や特技とかは違うところもたくさんあるけど、
 性格に関してはホント他人に思えません。


30. 主人公の成長を扱った物語と言われたとき、まっさきに浮かぶ
 本の題名は?

 ジュブナイル作品は、多かれ少なかれ
 "主人公の成長” の要素を含んでいるものでしょう。
 子供の頃に読んだ本を挙げれば「十五少年漂流記」ですかねえ。
 "主人公" というよりは "主人公たち" ですけど。


質問の答えを考えていると、思考が時空を超えて
自分の生きてきた過去へと飛んでいきます。
回答をひねり出すのは大変なんですけど
記憶のなかを散策するのは、とても楽しい時間でもありますね。


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向こう側の遊園 [読書・ミステリ]

向こう側の遊園 (講談社文庫)

向こう側の遊園 (講談社文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★

ファンタジー風味の連作ミステリ短編集。

町の郊外にある廃園となった遊園地。
その園内には、四季の花の咲き乱れる秘密の動物霊園があるという。
墓守を務めるのは「森野」と名乗る青年。
この霊園に愛するペットを葬ってもらうためには、
"自分の一番大切なもの" を差し出す必要があるという・・・

様々な理由でこの霊園を訪れる人々と会話を交わし、
森野青年は、人間と動物の間に秘められていた
意外な真実を明らかにしていく。

第一章から第四章までは、ほぼ独立した短編になっている。
入院患者のパートナーとなっていたゴールデンレトリーバー(第一章)、
未確認生物である "ビッグフットの死体" を持ち込んできた夫婦(第二章)、
石笛でヤマネズミを呼び集められる老人(第四章)・・・

だが本書の白眉は、殺人現場から逃げ出した "天才インコ" を
追ってきた刑事・市川の登場する第三章だろう。

森野の口から語られる殺人事件の真相は、衝撃的ですらあるが
通常のミステリでは受け入れられないかも知れない。
しかし、現世から隔絶した幻想的雰囲気に覆われたこの霊園の中でなら、
この悲劇は充分に説得力を持つし、ある種の感動すら覚える。

そして最終章は、第三章の後日談ともいえる内容になっている。
ここでは、刑事である市川自身が抱えていた "ある事情" に決着がつき、
そして、森野自身の正体も暗示される結末を迎える。

 デビュー作「水の時計」(途中で読むのをやめた)や、
 前作「トワイライト博物館(ミュージアム)」(これは読了した)
 でも取り上げられたテーマではあるが・・・

重くなりがちな題材ではあるが、読後感は悪くない。


本書で取り上げられた動物についても、
意外な生態や、人間との関わりの歴史などがふんだんに盛り込まれ、
それがまたミステリの要素として上手く使われている。
動物を扱ったミステリとしても、とてもよく出来ていると思う。

ただ、雰囲気は暗いんだよなあ。
暗いことが悪いわけではないんだが
どうしてもページを繰る手が重くなりがちになる。

第三章だけなら★3つ半なんだが、
全体の雰囲気がどうにも "悲しすぎ" て、
★半分減らしました。ごめんなさい!


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六月の夜と昼のあわいに [読書・ファンタジー]

最初に書いておきます。
この作品は私には荷が重かったようです。


六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)

六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/09/07
  • メディア: 文庫



評価:★★

文庫で20ページ弱の短い作品を10編収録した短編集なのだが
作りはかなり変わってる、というかある意味贅沢。

まず各短編の前に、文庫本の用紙と違って
ちょっと高級な感じの紙(ちょっと厚めの上質紙?)みたいなモノが
4ページ分あり、1ページめにタイトル、
見開きの2・3ページめに絵が一枚。
これは若手女性画家の作品とのことだ。
そして4ページめには杉本秀太郎という人の
詩や短歌や俳句が掲げられている。
この人は作者である恩田陸と個人的な知り合いで、
フランス文学者かつ文筆家でもあるらしい。

要するに絵と詩歌を "お題" にもらって、
そこから作者が物語をひねり出す、
そんな趣向の作品集らしい。

というわけで、成り立ちはすごく凝っているのだが
それに見合うだけ面白いかというと正直 "微妙"・・・だなあ。

上にも書いたが各作品とも20ページ弱という短さ。
とはいってもショートショートみたいに明確なオチがある訳ではない。
分類すればファンタジー(ちょっとSFよりなものもあるが)だろうが
長い作品の一部を切り取ったような、
あるいはダイジェストのような、
あるいは長編の予告編みたいな。

 前にも、こんな感じの短編集を読んだような気が。
 思えばあれもこの作者だったよなあ。

冒頭にある絵や詩歌と、どんなふうにつながるかもよく分からないし。
(まあその辺は作家さん独自の発想なんだろうから
 素人には窺い知れない部分かも知れないのだが・・・)

というわけで、読んでいてなんとも消化不良感が半端ない。

・・・ないのだけど、実はいずれも見事に完結している作品群で、
単に私のアタマのレベルがついて行けてないだけ、
っていう可能性もたぶんにあるのだよなぁ・・・


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