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時が新しかったころ [読書・SF]

時が新しかったころ (創元SF文庫)

時が新しかったころ (創元SF文庫)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/03/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

創元SF文庫で既刊の
「時の娘 -ロマンティック時間SF傑作選-」に収録の
同題の短編を長編化したもの。

ヤングという作家さんは基本的に短編型で、長編は5作しかない。
その長編群も、「たんぽぽ娘」(河出書房新社)巻末の
伊藤典夫氏の文章によると、総じて高い評価ではないようだ。

とはいうものの、前出の短編はたいへん面白かった。
このブログでも過去に読書記録の記事を書いていて
私は「この作品だけなら★4つ」なんて書いてる。
長編版があると聞いて「たしかに短編にしておくには惜しい話」とも。

私と同じことを思った人は多かったようで、
このたびの長編版の出版となったようだ。


恐竜時代であるはずの白亜紀後期の地層から、
人間の化石が発見される。
主人公のカーペンターは、北米古生物学協会の調査員。
しかし、7405万1622年の時を遡った彼が見つけたものは、
イチョウの木の枝に並んで腰掛けている女の子と男の子だった。

姉はディードレ、弟はスキップと名乗り、
二人はこの時代の火星の王女と王子で、
誘拐犯に拉致されて地球に連れてこられたのだという。

折しも、二人を追ってプテラノドン型の飛翔機が現れ、
カーペンターは二人を連れて逃げ回ることになる・・・


短編版では、太古の火星に地球人と同種の人間がいる理由は
明確には説明されてなかったように記憶している。
この長編版では "クー" という超越的な知性体が、
火星と地球に人類を "播種" したことになっているらしい。

  私は、カーペンターの時代よりさらに未来の人類の一部が
  過去の火星に移住したんじゃないかって思ってたんだけどね。
  まあ、物語の本筋には関係ない部分ではあるが。

おおまかなストーリーは短編版と変わっていない。

カーペンターの駆る、トリケラトプス型のタイムマシン・ "サム" が
タイムボカンばりの大活躍を見せる序盤から、
7000万年と7000万キロという時空を超えた愛を成就させる
ヤングお得意の離れ業が炸裂するラストまで、堪能させてもらった。


読む前から「あまり評判が芳しくない作品だ」って
予備知識があってハードルが下がっていたせいかも知れないけど、
私はけっこう面白いと思ったし、充分に楽しんで読んだ。

独立した長編SFとして評価するなら、
物足りなさを感じる人もいるかも知れないが、
ヤングのファンからすれば、気にならないんじゃないかなあ。

ヤング独特の "ほのぼの感" みたいなものが全編にあふれていて
それを長編で味わえるのだから・・・
私は好きだよ、この雰囲気。

  短編版を読んでいたので、ラストのオチがわかっているぶん、
  ワクワク感に乏しかったのは認めるけどね。

  短編版を未読の人がどう評価するかは気になるところだ。


巻末の「訳者あとがき」によると、
「時を生きる種族 -ファンタスティック時間SF傑作選-」収録の
「真鍮の都」の長編版も刊行されるらしい。

またひとつ楽しみが増えましたね。


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演奏しない軽音部と4枚のCD [読書・ミステリ]

演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)

演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)

  • 作者: 高木 敦史
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

ヒロイン・楡未來(にれ・みらい)の境遇はなかなか複雑。
母は幼い頃に他界し、父は借金を作って蒸発した。
そしていまは祖父母のもとで暮らしている。
とは言っても本人はけっこう頑張って生きていて、
通っている高校は県下でも有数の進学校。
でも、経済的な面から大学進学は難しそうだ。

そんな彼女の身の回りに起こった4つの事件を描くミステリ連作。


「DISC1 ザイリーカ」
高校1年生の秋。未來の叔母が亡くなった。
CDショップを営んでいた彼女が未来に残したのは4枚のCD。
叔母がこのCDを残した理由を探るため、軽音部の部室を訪れた未來は、
そこで「演奏しない」「聴くのが専門」という部員・塔山雪文と出会う。

「DISC2 コンタルコス」
未來が属する文芸部の先輩にして部長の廿日市(はつかいち)妙子。
彼女の書いた小説が、文学賞の最終選考に残ったという。
しかし、その作品に盗作の疑いがあることを知った未來は、
塔山くんの助けを借りて妙子に不正を認めさせようとするが・・・

「DISC3 無限大の幻覚」
未來の親友である軽音部員・熱川真由。
彼女が部室に置いて帰ったギターが、翌朝何者かに壊される。
塔山くんが犯人捜しに乗り出すが、さらにその翌日、
無人のはずの早朝の部室から大音量のギターが鳴り響く・・・

「DISK4 ハートに火をつけて」
二学期の終わりも近い避難訓練の日、校内でぼや騒ぎが起こる。
たまたま現場に居合わせた未來に、放火の疑いがかかる。
塔山くんが解き明かしたのは、発火トリックのみならず、
20年前から続く因縁だった・・・

作品中の随所に、塔山くんの音楽についての "蘊蓄" が語られ、
それが事件の解決に結びついていく。
あいにく私はその方面の知識には疎いので、
単純に「へぇ~」としか言えないんだが・・・


4つの連作短編であるが、「DISK4」まで読むと
全体を通して、本筋とは別のもう一つの物語が浮き上がってくる。


ミステリがメインではあるものの、
未來と塔山くんとのラブコメとしても楽しく読める。

「DISK1」ではお互い初対面ということもあって、
相手の出方を探りながらの他人行儀な場面が多いが、
物語が進むにつれてすっかり打ち解けていく。

特に未來のキャラの変化が面白い。
作中でも言及されているけれども、
(たぶん境遇にも遠因があるだろうが)
最初は「クールビューティ」と周囲からは思われていた。
それが「DISC2」以降は、慌てん坊でコミカルなドジキャラに。

エピローグで披露されるバカップルぶりも、微笑ましい。

読後感も爽やか。
とても楽しく読ませていただいた。


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春の海 ひねもすのたり のたりかな? [日々の生活と雑感]

今日、所用があってかみさんと二人で茨城までドライブ。
一般道から高速に乗り、降りてからまた少し走って、
出発してから2時間ほど経ったとき。

突然目の前に海が見えてきた。

思わず、道ばたの駐車場に駐めて写真を撮ってしまった。

IMG_0074a.jpg
  初めて海を見たのは小学校3年生の遠足だったかなあ・・・
  なにせ海のないところで生まれ育ったもんで、
  バスの車窓から水平線が見えたとき、
  ものすごくビックリしたのも懐かしい思い出だ。

  何回か引っ越しはしたけれど、海の近くに住んだことはない。
  だからこの年になっても、海を見るだけでなんだか感動してしまう。


海岸近くに打ち寄せる波も、その音も、ものすごいんだけど
なにせ普段の様子を知らないので
今日の海が穏やかなのか荒れているのかとんとわからない。

与謝蕪村が詠んだような「のたり」というイメージとは
ちょっと違うような気がしてならないんだが・・・

手前にはサーファー、向こうの方には白い帆のヨットが悠々と。

天気も良くて、格好のドライブ日和だったね。
用事も終わり、事故にも遭わずに無事に帰ってきました。


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少年検閲官 [読書・ミステリ]

少年検閲官 (創元推理文庫)

少年検閲官 (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/08/21
  • メディア: 文庫



評価:★★★

舞台となるのは、海水面の上昇によって多くの陸地が沈み、
多くの人々が亡くなった、近未来とおぼしき世界。
そこでは書物の類いの所持が禁じられ、
ことごとく焚書にされる時代でもあった。

特に "犯罪" を根絶するために、
"ミステリ" は徹底的に排除・消去されており、
それ専門の "検閲官" も存在する。

両親を失った英国人少年・クリスは旅の途上、
東洋のある国の小さな町を通りかかる。

そこでは家の壁や扉に赤いペンキで十字架を印され、
森では時として首のない死体が発見される。
それらの所業を為しているのは、森の奥深くに潜み、
人々から『探偵』と呼ばれている全身黒装束の謎の人物だった。

そしてクリスの眼前でも殺人が行われ、犯人である『探偵』は、
衆人環視のもと、密室状態の現場から姿を消してしまうのだった・・・

この作者は「『クロック城』殺人事件」とか
「『アリス・ミラー城』殺人事件」とか
特殊な世界設定のもとに、大がかりな物理トリックを持ち込んだ
本格ミステリを書いてきた。

本作も、書物が禁じられ、誰も "本" というものを知らないという
極めて異様な世界設定が施されているが、もちろんこれは
「この世界だからこそ可能な」トリックだったり、
「この世界だからこそ生じる」動機だったりと、
「この世界だからこそ書ける」ミステリになっているわけだ。

本格ミステリのお約束として、
冒頭から中盤にかけて不可解な "謎" が提示され、
それが、終盤で "探偵役" によって明かされる "真相" によって
"解明" されるんだが・・・それが納得のいくものがどうかが問題。

私の評価としては、ちょっと納得しがたい部分があった。


あんまり詳しく書くとネタバレになってしまうのでムズカシイのだが
やはり問題は「この世界だからこそ可能な」(はずの)トリック。
私の感覚としては、「いくらなんでもそれはないだろう」。
『×を××と同列に扱う(感じる)人間』なんて、
ちょっと無理がありすぎる気が。

また、 "謎の怪人" が『探偵』と呼ばれているのも、
何か深い意味が裏に隠されてるのかと思ってたんだが
最後まで読んでも、よく分からなかったし。

ちなみに、中盤過ぎにホンモノの "探偵役" として登場してくるのが、
タイトルにもなっている「少年検閲官」であるエノ。

エノくん自体は嫌いじゃないんだけど、
れっきとした中央官庁の、それもけっこう強大な権限を持ってて
いい年をした大人を二人も部下として従えている "検閲官さま" が
なぜ "少年" なのか、というところも今ひとつ納得できないんだ。

"探偵" としての能力が充分あるのはわかるんだが、
だからといってねえ・・・
まあ、これはシリーズものになるようなので、
巻を追っていくうちに明らかになる部分もあるのかなあ。

なんだか文句ばかり書いてしまったが、
事件(orトリックor動機or犯人) のために、
世界をまるまるひとつ設定してしまうという、
見た目は壮大ながら、実はすこぶる効率が悪そうなことを
毎回やってのけてしまうという作者のバイタリティは尊敬に値する。

実は新作をけっこう楽しみに待ってる作家さんだったりするんだ。


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黒猫の刹那あるいは卒論指導 [読書・ミステリ]

黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の刹那あるいは卒論指導 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/11/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★

弱冠24歳の大学教授・ "黒猫" と、
その "付き人" である大学院生の女性・ "私" 。

この二人を主役とする、日常の謎系ミステリ・シリーズの
文庫オリジナル版。
全6話中4話が文庫書き下ろしという、ちょっとお得感がある本。

時間軸は、"黒猫" と "私" が出会った3年半前。
当時は二人とも大学4年生で、
5月の唐草教授のゼミでの最初の出会いの第1話から、
クリスマスも過ぎた暮れの最終話までの、
およそ半年間の出来事が描かれている。

突然ゼミをやめ、断髪式と茶会を開く女学生とか、
展覧会で、高校時代の先輩と再会した "私" が紡ぎ出した "物語" とか、
鶏の群舞する館に入り込んで姿を消した "黒猫" とか、
養護施設の祖母に会いに行った "私" が、理不尽な悪意にさらされたり、
書道家のパーティに招かれたコメディアンが投身自殺を図るとか、
安藤教授の初恋の人が死んだ理由を、深夜のバーで探ったりとか。

最初のうちこそ "黒猫" に反発を覚えながらも、
卒論に悩む "私" のためにポオの講義をしてくれたり、
二人の前に、次から次へと現れる謎への鋭い洞察力に気づいたりして、
"私" の気持ちがだんだん "黒猫" へと傾いていく様子が綴られていく。

最終話あたりでは、 "黒猫" から留学が正式に決まったことを聞かされて
けっこうショックを受けている様子もうかがわれたりする。
このへん、 "私" がとても可愛くて好感が持てる女性になっている。
そのぶん、 "黒猫" は相当な偏屈ものに描かれてるけどね。


基本的なストーリーのパターンは
「黒猫の遊歩あるいは美学講義」と同じで、
相変わらず "黒猫" の語る講釈は
私の理解力の上限を超える場合が多々あるんだけど、
「遊歩」の時にあった、ものすごい「置いてきぼり感」は、
今回は若干軽減されたように思う(あくまで「若干」だが)。

作者の語り口が上手になったのか、読んでる私が慣れてきたのか?。

どちらにしろ、読み進めるに当たっての敷居が
低くなってきたのは感じるので、
もうしばらくこの作者につきあってみようと思う。


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黒猫の遊歩あるいは美学講義 [読書・ミステリ]

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/09/05
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

早川書房主催の第1回アガサ・クリスティー賞受賞作。

  世界的な巨匠なのに日本で賞の名前に使っていいんだろうか、とか
  遺族にいくらか金払ってるのかなあ、とか
  どうでもいいことが気になったりする私だ。


弱冠24歳にして大学教授になった天才青年・ "黒猫" 。
その "付き人" を命じられた "私" (女性)もまた
24歳の大学院生(博士課程1年目)。

ちなみに "黒猫" というのはあだ名。
なぜか "黒猫" と "私" 、主役二人の名前は作中で明かされない。

この二人の周囲で起こる、ちょっと不思議な "事件" を
"黒猫" 氏が解決していく "日常の謎" 系の連作ミステリ・シリーズ。

・・・なんだけど、なかなか私にとっては難物だったんだなあ。

縮尺も方位もでたらめな地図に込められた意味とか、
川の流れに香水の匂いがしたりとか、
「頭蓋骨を探す」と独りごとを言う映画監督とか、
学会で発表するはずの女性研究者が失踪し、代わりに
かつて彼女の恩師でいまは僧職をしている男性が現れたりとか
事件や謎はなかなか魅力的で面白いんだけど、
その解決方法が独特。

物語の終盤に、 "黒猫" と "私" がディスカッションしながら
関係者(主に犯人)がとった行動の意味を解明していくのだが、
タイトルにあるとおり、"黒猫" が "私" に対して
"美学" の "講義" をしながら犯人の心理を分析し、
その意外な動機や意図が明らかにされる。

  読んでいてふっと思ったのは、この作品は
  「ガリレオ」(東野圭吾)の文系版みたいだなあってこと。

  あちらの "物理" 的な仕掛けを "心理" に置き換え、
  事件解明の "理学" or "工学" 的アプローチを
  "美学" に置き換えると「黒猫」になるような気がするんだ。

ただ私は、美学や哲学や心理学にはとんと疎いもので、
その手の専門用語が頻出する "黒猫" 氏の講釈を聞いていても、
作中の "私" みたいにツーカーで理解することができないんだよね。
なんだかうまいこと煙に巻かれたようで
分かったようで実は分かってない状態に陥ってしまう。

だから、読み終わっても今ひとつすっきりしない。
"黒猫" と "私" だけがわかっていて、
読んでる私は置いてきぼりになっている感が・・・

まあ私のアタマが悪いせいなのだろうが・・・

  このシリーズ、単行本でもう3冊刊行されている。
  (本書は第1作の文庫化。)
  文庫オリジナルの短編集も出ていて、計4冊。
  けっこう売れているんだね。
  みんな "黒猫" の蘊蓄についていけるんだなあ・・・

じゃあつまらないかと言われればそうでもない。

上述したように、提示される事件や謎は魅力的だし
主役二人のキャラクターも面白い。

学部生時代からの同級生でもある二人の関係は、
友人以上恋人未満で、事件の解明時では師弟だったりする。

研究者の卵としては、けっこう評価されて期待もされているが
こと恋愛においては不器用な "私" が可愛いし、
"黒猫" 氏も、そんな "私" を憎からず思っているらしい描写もある。
(実際に彼女を前にすると、素っ気ない態度なんだが。)

全体的な雰囲気は、アカデミックで都会的。
しかもクールなイケメンの天才学者が主人公だとか
人気が出そうな要素は多々ある。
(だからシリーズが順調に刊行されているのだろう。)

しかし私の評価は、冒頭の星の数にもあるように、
「ちょっと微妙」というところ。

実は手元には今、文庫オリジナル短編集の
「黒猫の刹那あるいは卒論指導」がある。
"黒猫" と "私" の出会った学部生時代の話だ。
これを読んでみて、シリーズを読み続けるかどうか決めようと思う。


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メグル [読書・ミステリ]

メグル (創元推理文庫)

メグル (創元推理文庫)

  • 作者: 乾 ルカ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/08/29
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

この「メグル」という本。
私は、日常の謎系の連作ミステリだと思って読み始めたんだが、
その予想は半分あたり、半分はずれた。


H大学学生部の女性職員からアルバイトを紹介された学生が、
働きに行った先でいろいろな不思議な体験をするのだが、
そのバイトを通じて、学生たちにもまた小さな "奇跡" が起こる。
( "奇跡" の中身については後述。)
本書には5人の学生による5つのバイト体験が収録されている。


冒頭の「ヒカレル」。
破格の条件のバイトを引き受けた学生・高橋くん。
しかし、彼の紹介されたバイト先は、大学から特急で3時間、
さらに車で1時間というド田舎。
そして、そこで行われる老女・スミヲさんの葬儀で、
遺体の手を握って一晩過ごす、というものだった。
このへんまではよかった。いささかブラックな味わいの
ユーモア・ミステリかなー、って思ってたんだが、
夜中にスミヲさんが甦り、棺から起きだしてきて
(かといって生き返ったわけではない。死体が動いているのである。)
高橋くんと話を始めるに至っては、
自分が読んでいるものがいったい何なんだかわからなくなって
頭の中が疑問符でいっぱいになってしまったよ。

次の「モドル」。
これはよくわかった。
ちょっと雰囲気は重いけど、立派な日常の謎系ミステリである。
よかった、やっぱり私はミステリの本を買ったんだ、って思った。


・・・というわけで(どんなわけだ)、全作読んでみた。

結論から言うと、二作目「モドル」と四作目の「タベル」は、
いわゆる日常の謎系のミステリ。
けっこうハートウォーミングな結末になっていて、けっこう好きだ。

一作目「ヒカレル」、三作目「アタエル」、五作目「メグル」はホラー。
私はもともとホラーは苦手というか嫌いなので、
どうしても評価が辛くなる。
(もっとも、途中がホラーでも、
 最後がきっちりミステリ的に決着がつく話なら大好きという、
 いささか面倒くさい人だったりするんだなあ。)
「ヒカレル」は結末はともかく、途中があまり好きになれない。
「アタエル」のオチは、予想の範囲内だったかな。
「メグル」は、 "すこし・不思議系" に近い雰囲気。

でも、ほぼ共通するのは、
バイトに向かう学生が何らかの悩みや葛藤を抱えていること。
そして、バイトを経験することによって、それが解決したり、
折り合いをつけるきっかけをつかんだりすること。
(それが小さい "奇跡" というわけだ。)

作者は、それぞれの学生のケースに応じて、
話の形式を切り替えていたんだろう。

学生たちにバイトを紹介する女性職員も、
彼女自身の事情もあって、なかなか神秘的な魅力だけどね。

ただ、これからもこの作者を読み続けるか、
と問われたらちょっと微妙。

次作を読んでみてからかなあ。


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獣の奏者 外伝 刹那 [読書・ファンタジー]

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

長編ファンタジー「獣の奏者」の番外編4編を収録している。

「綿毛」
 文庫化に当たって書き下ろされた10ページちょっとの掌編。
 赤ん坊のエリンを育てる母・ソヨンの思いを描いている。

「刹那」
 文庫で約150ページ。
 時系列で言うと「II 王獣編」と「III 探求編」の間。
 本編では、「III」でいきなり妻であり母にもなったエリンが出てくるが
 そこに至るまでの経緯が明かされる。
 王獣と闘蛇の秘密を知り、国の命運を握るエリンには、
 もはや普通の娘として生きることは叶わない。
 人並みの恋愛もできないし、
 子が生まれれば、その子もまた普通の子供としては生きられない。
 しかし、ここで描かれるエリンは、
 そんな自分の宿命に負けたくないと思う。
 「女」としての「生」を全うしたいと願う。
 すべてを覚悟した上で、
 あえて過酷な道を進もうという "激しさ" を見せる。
 そして、イアルもまたその思いに応えようとする。
 本編を読了し、ラストでのエリンの行く末を知っている人なら、
 なおさらこの作中の彼女が愛おしく感じられるだろう。

「秘め事」
 文庫で約200ページ。
 ここで綴られるのは、エリンの恩師・エサルの
 若かりし頃の "愛" と "別れ" 。
 老境に達したエサルが、過去を回想する形式で語られていくのだが
 折に触れて描写される "実らなかった恋の悲しみ" は、
 身を切られるようにつらいものがある。
  10代半ばだったエサルは、タムユアン高等学舎に入学し、
 同級生となるユアンと出会う。
 二人の仲は、研究仲間からやがて恋愛関係へと発展するが、
 ユアンには婚約者がいた。エサル自身も下級貴族の長女で、
 やがては婿を迎えて家を継がなくてはならない。
 どう転んでも結ばれる運命にない二人だが、
 エサルもまた「女」として後悔しない道を選んでいく・・・

「初めての・・・」
 文庫で約10ページ。
 なかなか乳離れをしようとしないジェシをめぐる親子三人のお話。


エリンがソヨンから授乳される「綿毛」から始まり、
エリンがジェシに授乳する「初めての・・・」で終わる。
作者が描きたかったのは "生命のつながり" か、
それとも "女" を象徴するもののひとつである "母性" の輪廻なのか。

いずれにしろ、本編中最大のミッシングリンクだった
エリンとイアルの物語も、これで補完された。
これで「獣の奏者」も "完結" なのだろう。

本編前半の「I 闘蛇編」「II 王獣編」がNHKでアニメになってるんで
(さすがに後半部は子供向けアニメにはしづらいだろう。)
見てみようかなあって思ってる今日この頃。


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無花果の実のなるころに お蔦さんの神楽坂日記 [読書・ミステリ]

無花果の実のなるころに (お蔦さんの神楽坂日記) (創元推理文庫)

無花果の実のなるころに (お蔦さんの神楽坂日記) (創元推理文庫)

  • 作者: 西條 奈加
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/09/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

主人公の滝本望(のぞむ)くんは中学生。
両親が仕事で北海道へ行ってしまい、
神楽坂に住む祖母・お蔦さんと同居することになる。

元芸者で、粋でいなせなお蔦さんはご近所衆の人気者だが、
何せ包丁を持ったことのない人生を送ってきたので、料理はからっきし。
その代わり旦那さん(望の祖父)は料理が得意だった。
それ以来、滝本家では代々、男が炊事を担当する習わし。
つまり望くんは "料理男子" 。それも玄人はだしの腕前だったりする。
作中で披露される料理やお菓子の、何と美味しそうなこと!

そんな望くんの周囲で起こる、ちょっと謎の事件を、
お蔦さんが明快に解決していく連作ミステリシリーズ。

「罪かぶりの夜」
 開巻早々、望くんは同級生の翠(みどり)ちゃんに失恋した模様。
 しかしそのショックも癒えぬ間に、幼なじみが警察に捕まってしまう。
 夜中に通行人を蹴飛ばして回る "蹴飛ばし魔" として・・・

「蝉の赤」
 その日は学園祭で、料理が得意な望くんはひっぱりだこ。
 しかしそのさなか、美術部で展示中の絵が破られてしまう。
 その絵は、コンクールで大賞を取った作品だった・・・

「無花果の実のなるころに」
 ご近所中に巧妙な "振り込め詐欺" が横行する。
 どうやって犯人は被害者宅の内情を知りえたのか。
 お蔦さんの推理が犯人グループをたぐり寄せる。
 そして望くんは、新ヒロイン・楓ちゃんに一目惚れ。

「酸っぱい遺産」
 お蔦さんが突然、6億円相当の株を相続することになる。
 贈ったのは、昔なじみだった立脇工業の社長。
 しかし、その息子が相続放棄を迫ってきた。
 亡き社長の真意をくみ取ったお蔦さんが取った行動は・・・

「果てしのない嘘」
 楓の母が負傷して入院するが、事件性を疑う警察が捜査に入る。
 そして望は、楓の両親の若かりし頃のこと、
 それが意外な形で現在につながっていることを知る。
 真実を前にして、きれい事ではない大人の世界に触れる望。
 そして、楓の笑顔を、そしてみんなの笑顔を守るために、
 ある約束を、お蔦さんと交わす。
このときの望くんがとっても健気。

「シナガワ戦争」
 ささいな勘違いから、不良グループに囚われの身となった翠。
 おり悪しく、お蔦さんは不在。
 友人たちを動員し、知略の限りを尽くして
 翠奪還のために奮戦する望が、なんだかやたらと逞しい。


一話完結形式ではあるものの、すこしずつ物語は前進していく。
全六話を通して描かれるのは、望の成長。
このまま完結してもいいつくりなのだけど、
巻末の解説によると続編があるらしい。
お蔦さんと望もいいけど、彰彦や洋平といった友人たち、
そして翠や楓もなかなか楽しいキャラである。
また再会できる日を気長に待つことにしよう。


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松谷警部と目黒の雨 [読書・ミステリ]

松谷警部と目黒の雨 (創元推理文庫)

松谷警部と目黒の雨 (創元推理文庫)

  • 作者: 平石 貴樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

目黒のマンションで殺害されたOL・小西のぞみ。

捜査の結果浮かび上がったのは、彼女の母校・武蔵学院大学の
アメリカンフットボール部OBたちだったが、
主だった容疑者にはみなアリバイが成立し、
しかも、動機らしいものも浮かんでこない。

しかし、過去5年の間にOBたちの中で自殺・他殺を含めて
3人の人間が死んでいることが判明する。

松谷警部は、そこに事件を解く鍵があると睨むのだが・・・


表題にあるように、松谷警部がいちおうの主人公。
"いちおう" と書いたのは、探偵役が彼ではないからだ。
事件の真相に到達するのは新米刑事の白石以愛(いあい)巡査。

彼女はまず、「動機は後回し」にして、
「どうすればのぞみ殺害が可能になるのか」という観点から
事件の再構成を試みる。

実際、終盤で明らかになる真相では、動機はかなり意外なもので
普通に読んでいる読者がそれに気づくことはおそらく不可能。
でも、犯人指摘に必要な手がかりは充分に開示されているので、
ミステリとしてはきわめてオードソックスで
フェアなつくりになっていると思う。

作者は東大を定年退官した名誉教授(専攻はアメリカ文学)
ということなんだが、読んでいてもお堅い雰囲気は全くない。
文章は平易で、そこはかとないユーモアもあってとても読みやすい。

松谷警部が部下からは "まったりさん" って呼ばれて慕われてたり、
捜査中に俳句をひねるという趣味があったり、
(各章の終わりには、警部が詠んだ句が載ってる。)
部下である白石巡査が推理を巡らすのをニコニコ眺めていたりと
とても "いい人" なのもポイントが高いかな。
殺人事件を扱っているんだけど、殺伐とした雰囲気にならないのも
この捜査陣のキャラクターによるものなんだろう。


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